心肺蘇生法の国際的標準化の流れ―ILCOR、JRCと日本麻酔学会―

日本麻酔学会救急医療対策委員会
 石原晋(県立広島病院救命救急センター)、田中経一(福岡大学救命救急センター)

日本救急医療情報研究会
 越智元郎(愛媛大学救急部)、畑中哲生(救急救命九州研修所)、小田 貢(医療法人真誠会)
 生垣 正(市立砺波総合病院麻酔科)、円山啓司(市立秋田総合病院中央診療部)

(日本麻酔学会 NEWSLETTER 8: (1), 17, 2000)


 心肺蘇生法は麻酔蘇生学の重要な一分野である。われわれ麻酔専門医は、我流では ない、科学的根拠に基づいた心肺蘇生法を自ら実施できるばかりでなく、それを正し く教育すべき立場にある。そのようなことから本学会の救急医療対策委員会では日本 蘇生学会と共同で心肺蘇生の指針を策定し、それを定期的に改訂する作業がおこなわ れてきた。現在その作業は中断されている。心肺蘇生法に関する国際的標準化の大き な流れがあるからである。

 bystander CPRの実施率が低いとされるわが国でも、自動車免許取得者への講習や 学校教育への心肺蘇生法の導入など、一般市民に対する教育が大規模におこなわれる ようになった。しかし教育、指導にあたる関連団体の間で指導内容が必ずしも一致し ていないことが指摘されてきた。そこで1992年、日本麻酔学会などの関連学会や自治 省消防庁、日本赤十字社などの代表が参加した日本医師会救急蘇生法教育委員会にお いて、わが国の心肺蘇生法、とくに一次救命処置の統一が図られた。ここでは、アメ リカ心臓学会(AHA)のガイドラインに準拠するという方針が採択されたが、その後 も指導法の細部において各団体の指針が少しずつ異なっていた。AHAのガイドライン が、心原性心肺停止にかたよっていること、アメリカの国内事情に拠っていることな どから全面的な準拠には問題があったのである。国際的にみてもこの事情は同様で、 AHAのガイドラインを尊重しつつも、各国において独自の指導がおこなわれてきた。

 このような中、1992年、心肺蘇生法の国際的標準化を目的として、国際蘇生法連絡 委員会(International Liaison Committee on Resuscitation、ILCOR)が組織され た。AHA、ヨーロッパ蘇生会議(ERC)をはじめ主要な各国の蘇生関連団体がこれに参 加したが、日本は参加していなかった。その後日本にも参加が呼びかけられた。これ を受けて本年、日本麻酔学会、日本救急医学会、日本蘇生学会などの関連学会、日本 赤十字社、関連省庁などが参加して日本心肺蘇生法協議会(Japan Resuscitation Co uncil、JRC)が組織され、本協議会がILCORの構成組織として名を連ねることになった。  ILCORは1997年、心肺蘇生法に関する勧告を発表しており、これをもとに各構成組 織がそれぞれの心肺蘇生法ガイドラインを策定する流れにある。AHAの1992年版ガイ ドラインは来年改訂される予定であるが、これもILCORの勧告に準拠することになっ ている。今後はわが国における心肺蘇生法の指針はILCORの勧告に準拠して、JRCの主 導で策定されることになろう。以上が、本学会救急医療対策委員会において蘇生法の 指針の改訂作業を中断している理由である。

 本学会員にあっては、今後、心肺蘇生法の実践や教育にあたり、国際的ガイドライ ンに準拠することを求められていることを認識しなければならない。

 ILCORの勧告(Advisary Statements of the International Liaison Committee on Resuscitation)はResuscitation 34:99-100,1997、およびAHAのホームページに掲載 されている。また、救急医療情報研究会(代表:越智元郎)有志がAHAの許可を得て この全文を翻訳し、同研究会のホームページ(http://ghd.uic.net/99/ilcor.html) 上に公開しているので参照されたい。


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