放射線防護衣アンケート報告
はじめに

 放射線防護衣は,診断用放射線を扱う今日の職場において,無くてはならない器具の一つですが,放射線を防護するための器具として日本で認知され運用され始めたのは,ほんの30年ほど前からです.以来,放射線防護衣の移り変わりには目を見張るものがあり,堅く重く着心地の悪い物から,鉛の代わりに柔らかな素材を防護材に採用し,重量低減をはじめとするユーザーの着用感の高さや疲労度軽減も実現した放射線防護具に変化しています.こういった防護衣の開発,使用状況に対して,ユーザーサイドの感想や要望がどのようになっているかを把握するために,アンケート調査を行いました.

アンケートの目的

 各施設における防護衣の使用状況の把握をするために,今回のアンケートを行いました.アンケートを依頼した病院は,200床以上の規模としました.以下にアンケートしたそれぞれの項目に関する結果と考察を述べます.

アンケート結果


防護衣の保有枚数の使用頻度

fig1 保有枚数は,病院の病床数と相関しており,50枚以上と答えられている施設が大半でした.回答していただいた施設の中で最も少ない保有数でも20枚を超える結果でした.併せて質問項目としたそれら防護衣の使用頻度は,ほぼ毎日使用されているという結果を得ました.

防護衣の種類(形状と鉛当量)

fig2 防護衣の種類に関するアンケートは,防護衣の形状と鉛当量に分けて行いました.まず防護衣の形状に関する結果は,エプロン型が6割強,コート型4割弱となりました.次に防護衣に使われている鉛当量に関する結果は,0.25mmPbの場合が7割強,0.35mmPbの場合が3割弱となりました.この2つのアンケート結果から,使用(保有)頻度の高い防護衣は,エプロン型で鉛当量0.25mmPbの防護衣という事が分かります.この結果は,防護衣を使用する場所を特定していないため,次アンケート項目からは,使用場所を特定した結果を列挙しますが,防護衣使用に関する総体的な傾向は,簡便な着脱と軽い物が好まれているようです.

一般撮影室が保有する防護衣

fig3 一般撮影室において保有されていた防護衣の種類は,7割強がエプロン型という結果を得ました.一般撮影室において扱う線量や線質と被ばく線量を考慮された結果だと思われます.一般撮影室に求められる防護衣は,遮蔽率の向上よりも迅速な着用を求める場所である事が伺えます.

CT室が保有する防護衣

fig3  CT室において保有されていた防護衣は,エプロン型形状の保有率は9割弱,鉛当量0.35mmPbの保有率は3割という結果を得ました.これらからCT室における防護衣は一般撮影室よりも被ばく線量低減を求めると同様に緊急な着脱に対応できる事を求められていると考えられます.

アンギオ室が保有する防護衣

fig3  アンギオ室において保有されていた防護衣は,0.25mPbエプロン型,0.35mmPbエプロン型,0.25mmPbコート型の3種類で3等分した結果となりました.コート型防護衣の保有率,防護衣の保有数が病院部門内で最も高い結果を表しました.アンギオなど透視を用いる部門は,被ばく線量の軽減に対する意識の高い事が伺えます.

OPE室が保有する防護衣

fig3 OPE室において保有されていた防護衣は,7割近くがエプロン型の防護衣でした.7割中のほとんどの防護衣は0.25mmPbのエプロン型でした.このことから,OPE室では遮蔽率よりも簡便な着脱や快適性を求められていると考えられます.アンギオ室と同様に透視や撮影を頻回に用いる部門ですが,現場の考え方の違いが防護衣の保有数や種類に現れていると考えられる結果でした.

その他の部署における防護衣

fig3 その他の部署における防護衣の使用は,エプロン型よりもコート型の形状の保有比率が高かった.しかし鉛当量0.35mmPb,コート型形状防護衣の保有率が1割以上を占めていることから,部署に合わせた被ばく管理,あるいは注意を払っているのではないかと推測します.

防護衣のメンテナンス
クリーニング

fig3 防護衣をクリーニングする方法のアンケート結果は,水拭き,洗剤,アルコールの順で,防護衣メーカーが推奨するクリーニング方法に沿って運用されている事が判明しました.

防護衣の遮蔽材を確認する頻度

fig3 回答していただいた病院すべてにおいて,購入後は最低1回の確認を行われていることが判明しました.

防護衣に関する困った点

fig3防護衣に関して,ユーザーサイドで困っている点を列挙しました.「臭い(汗)」,「汚れ」,「重量」の順に回答を得ました.各防護衣メーカーを見回してみましても、臭いや汚れに対しては表面材の変更や抗菌加工,無鉛タイプの遮蔽材の採用など,様々な進化を見て取れますが,更なる改良を促したいところです.


アンケートまとめ
  1. 一般撮影部門では軽くて着脱容易なエプロン型防護衣の使用率が高かった.
  2. 長時間の被ばくを強いられる部門においては,コート型防護衣の比率が高く,鉛当量が多くなる傾向が見られた.
  3. 防護衣のクリーニングは何らかの方法で必ず行われていた.
  4. 遮蔽材の確認は,定期的ではないものの行われていた.
  5. 防護衣の運用に関して求められることは,防護衣の形状種類や鉛当量の増減ではなく,防護衣の臭いや重量,汚れのなどのアメニティな部分であった.
最後に

 今回の報告は,全循研の活動において必要性を認めた放射線防護衣のアンケート結果を編集したものです.この途中経過においては専門的な知識を得るためにメーカーである保科製作所にご助言を頂きました.大きなシェアを持たれているメーカーの方向性を知るためと,現場のニーズを伝えるために協力を求めた次第です.ご協力を頂きましたことに感謝を申し上げます.