日本コンピュータ支援外科学会会誌 Vol.5, No.4: p.1-107 (December, 1997)

医療用ネットワーク・マルチメディア・データベースの構築と
イントラネットでの活用

大泉 太郎、大平 貴之、河瀬 斌
慶應義塾大学医学部脳神経外科

Key Word】multimedia, network, data base, neurosurgery, Intranet

要旨

 医療情報のデジタル化での保存の認可や電子カルテの研究、DICOMなどの医療情報の規格の統一化、情報圧縮技術の進歩により患者の病歴やラボデータ、画像情報をコンピュータで扱うことが多くなってきた。今後、医療施設内や施設間、そしてネットワーク同士を結ぶインターネットなどネットワークの整備に伴い、一般の医療施設でも、それらの様々な医療情報を患者別、あるいは疾患別に統合しネットワーク上で扱うようになるであろう。
 そこで、手術や検査のビデオなどの動画から音声、静止画像、文字情報まで多様な医療情報を効率よく活用するために、ネットワーク上の一般のパーソナルコンピュータでも使用可能な、データを見やすくわかりやすく提示し、操作性の良いネットワーク・マルチメディア・データベースが必要になってきた。
 そこで今回我々は、使いやすくデータがわかりやすく見やすい、医療用ネットワーク・マルチメディア・データベースを作製し、イントラネット上で活用したので報告する。


1.目的

 医療分野で扱われるデータの種類は多数あり、数々のメディアやフォーマットが存在する。患者の名前や病名・検査所見などのテキストデータ、身長・体重・年齢や血液データなどの数値データ、XPやCT、MRI、SPECT、術中写真、病理写真などの静止画像データ、血管造影やエコー、術中ビデオなどの動画データ、心音や患者の声などの音声データなどが挙げられる。これら全ての患者の医療情報は、長期的な保存を可能にし、多角的な検討が容易に行えるように、デジタル化し医療施設内のネットワークで管理される事が望ましいと思われる。
 また、患者情報のプライバシーなどを守るデータのセキュリティーを確立した上で、専門性の強い疾患について他の施設に相談したり出来るよう、複数の施設間のネットワークや、インターネットなどでもデータを扱えるようにすべきである。そして、それらネットワーク上での全てのフォーマットの医療情報が、使いやすいネットワーク・マルチメディア・データベースで使用され、十分な情報を活用した治療や研究を行っていく事が望まれる。
 これまでの医療用ネットワーク・マルチメディア・データベースへの問題点としては、データのフォーマットが統一されていない、医療機器からコンピュータへのデータの転送が難しい、高速なネットワークシステムや関連ソフトウェアが十分ではない、などの事があり、医療情報をデジタル化しネットワーク上で十分に活用できるような施設は少なかった。
 しかし、医療画像のデジタル保存の認可や電子カルテの研究など日本でも最近、医療情報のデジタル化が進められており、DICOM などの国際的な医療情報のフォーマットの確立、情報の圧縮技術の進歩、医療機器やコンピュータのLANやインターネットなどのネットワークの充実などにより、デジタル化された医療情報がネットワーク上で簡単にアクセスできるようになりつつある。  当医学部と病院では平成8年より施設内に、光ファイバーを使用した高速なネットワーク網が構築された。そして当科では、Macintoshをサーバーとしたイントラネットを構築した。
 そして、今までの我々が行ってきたマルチメディア・インフォームドコンセント【1】や、医療用マルチメディアデータベース【2】 、インターネット上での医療情報提示【3】などの経験をいかし、操作性と視覚性に優れたネットワーク・マルチメディア・データベースを作製し、それに当科の患者のデータを登録し、カンファレンスや、手術など、実際の医療の現場で活用する。

2.方法

使用機器
Hardware
 ISG 社   ALLERGRO (Workstation)
 Apple   Power Macintosh 8600
 東芝    Breeza 5100
 Radius  Video Vision Studio 2.0
 Apple   Quick Take 150
 SHARP  JX-330M

Software
 StarNine WebSTAR 2.0J
 内田洋行   Tango for FileMaker
 Claris   FileMaker Pro 3.0J
 Adobe   Photoshop 4.0J
       Premiere 4.2
       SoundEdit 16
 Apple   MoviePlayer
 Rod Kennedy  SoundMachine
 Robert Hennessy  Movieflatter
 Yooichi Tagawa  YooEdit
 Netscape Communication Co.  Netscape 3.0[ja]

 まず、医療情報のコンピュータへの取り込みを行った。
 XP、CT、MRI、MRA、脳血管造影、SPECT、脳波、病理データ、ALLEGROを使用した三次元再合成像などの画像データで可能なものは、医療機器からMacintoshにデータを転送した。それ以外のなどのデータはスキャナーでMacintoshに取り込んだ。  手術画像は一眼レフのカメラやデジタルカメラで撮影し、Macintoshに転送した。
 取り込んだ画像はPhotoshopでトリミングやサイズ変更をした上、ブラウザでの提示用に、クオリティーをできるだけ落とさないようグレイスケールの画像はGIF、カラーの画像はJPEGフォーマットのものも作製した。
 手術ビデオや脳血管造影などの動画データはVideo Vision Studioで、MacintoshのPremiere上にVTRから取り込み、編集と圧縮を行いQuick Time MovieやMPEGムービーとした。それをMacintosh以外のUnixやWindows環境でも見られるようにMovie Flatterを使い加工を行った。
 音声データはSoundEdit 16で編集、圧縮を行った。
 患者の主訴、家族歴、既往歴や神経学的所見、ラボデータなど文字データは、カンファレンス用に作成した文字データをそのまま使用した。
 以上のデータを、当科で以前より作成していた患者病歴総括データベース(病名、手術日、入院番号、入院日、病理標本番号などのデータが入力されている)に加え、脳神経外科症例データベースをFileMakerで作成した。
 サーバーのMacintoshではWebSTARによるクライアントのアクセス管理を行った。そして、クライアントから、ブラウザで簡単にデータを検索できるよう、Tango for FileMakerで、ブラウザとデータベースを結びつけるCGIアプリケーションを作成した。
 そして、サーバー側ではWebSTAR、File Maker Pro、Tango for FileMaker を起動させておき、クライアント側(マシンはMacintoshだけではなくUnixやWindowsでも可能)ではNetScapeやInternet Explorer などのブラウザで、サーバーのデータベースのURL、ID、Passwordを入力することにより、データベースにアクセスできる。

3.データベースについて

    
fig.1:登録画面-1               fig.2:登録画面-2

1) 登録画面について
 ここでは、名前、ローマ字読み、性別、入院時年齢、生年月日、入院番号、外来番号、XP番号、入院日、退院日、主治医、診断名、病理診断名、病理組織番号、手術法、手術日、主訴、既往歴、家族歴、経過、身体所見、神経学的所見、ラボデータ、画像データなどの入力ができる(fig.1,2)。
 画像データは、情報のアドレスとファイル名を登録することで、動画や静止画像の登録が可能である。

fig.3:検索画面

2) 検索画面について  クライアントのブラウザからからサーバーのデータベースのURL、ID、Passwordを入力し、アクセスすると患者名や、患者名のローマ字、入院日、退院日、入院時年齢、主治医、性別、手術法、診断名からなる検索画面になる(fig.3)。ここで、任意の項目にデータを入力し、画面右下の”検索”ボタンを押すとデータの検索を行う。
 画面左下の”クリア”ボタンを押すと、全ての入力した項目を消去できる。

fig.4:下垂体腺腫患者のデータ

3) 検索結果画面について
 例として、下垂体腺腫の患者のデータを検索してみると、その患者に関する、名前、ローマ字読み、性別、入院時年齢、生年月日、入院番号、外来番号、XP番号、入院日、退院日、主治医、診断名、病理診断名、病理組織番号、手術法、手術日、主訴、既往歴、家族歴、経過、身体所見、神経学的所見、ラボデータ、画像データなどが表示される(fig.4:患者名やローマ字の読み、生年月日、入院番号、外来番号などのデータ部分は患者のプライバシーに関わるため、削除したものを提示している)。
 画像データは、縮小されたデータであり、データをクリックすることによりリンクしているオリジナルの画像データが表示される。

      
    fig.5:術前MRI           fig.6:ホルモン負荷テストのグラフ

       
fig.7:転移性脳腫瘍患者のデータ         fig.8:内視鏡手術画像   

 ここでは、術前のMRIのデータと、ホルモンの負荷テストのグラフを見ることができる(fig.5,6)。
 次に転移性脳腫瘍の症例を見てみる(fig.7)。文字データの他に、術前のMRIと内視鏡手術の画像が提示され、内視鏡画像をクリックすると、手術の様子を動画で見ることが出来る(fig.8)。

fig.9:顕微鏡画像

       
fig.10:三次元再合成像           fig.11:病理画像

 また、神経膠腫の症例では、腫瘍摘出時の顕微鏡画像 (fig.9)、髄膜腫の症例では、術前のMRIの三次元再合成像(fig.10)、悪性リンパ腫の症例では病理画像を見ることができる(fig.11)。
 なお、データの検索画面や検索結果画面は、項目やレイアウト、バックグラウンドなどを簡単に変更する事が可能である。

4.結果

 脳神経外科症例のネットワーク・マルチメディア・データベースを作製する事によって、症例データを術前術後のカンファレンスや、手術室でのデータ提示など、実際の医療の現場で活用できた。
 患者に関するあらゆる種類のデータを容易に登録、検索、提示する事により、患者のデータを多角的に検討し、治療や研究に役立たせることが可能であった。
 また、多様な患者データをデジタルで保存することによって、貴重な1つ1つのデータを劣化することなく保存し、いつでも簡単にアクセスする事が可能になった。

5.考察

 脳神経外科症例のネットワーク・マルチメディア・データベースを作製する事によって、症例データを術前術後のカンファレンスや、手術室でのデータ提示など、実際の医療の現場で活用できた。
 患者に関するあらゆる種類のデータを容易に登録、検索、提示する事により、患者のデータを多角的に検討し、治療や研究に役立たせることが可能であった。
 また、多様な患者データをデジタルで保存することによって、貴重な1つ1つのデータを劣化することなく保存し、いつでも簡単にアクセスする事が可能になった。

6.医療分野のネットワークデータベースの現状と将来

 今まで、医療施設内および施設間での画像データを中心とした管理・通信・保存システムとして、PACS (Picture Archiving Communication System) や IS&C (Image Save and Carry) などが研究されてきたが、病院内外のネットワークが充実しておらず、あまり普及していなかった。
 しかし最近、インターネットを中心とした、ネットワーク網が急速に世界中に広まり、日本の医療機関にも大きな施設を中心に広がりつつある。
 また、最近のダウンサイジングの流れもあり、ハードウェアや周辺機器、ソフトウェアの進歩によって、動画や高品位な静止画像などの医療情報も身近なパーソナルコンピュータで扱えるようになってきた。
 そして、今までワークステーションなど専用のシステムで行われていた医療用データベースが、インターネットあるいはイントラネットに接続されたパーソナルコンピュータをサーバーとし、クライアントも同様なネットに接続されNetScapeやInternet Explorerなどのブラウザが動けばOSは問わないシステム(Unixマシンでも、WindowsでもMacintoshでも)で運用できるようになった。
 もし、そのシステムがインターネットに接続されており、サーバーからアクセス許可を受ければ世界中のインターネット上のどこからでも(アクセス制限がなければインターネット上の全てのマシンから)そのデータベースにアクセス可能であり、非常に汎用性が高い。
 実際の医療現場での上記のようなネットワークデータベースシステムとしては、島根医科大学医療情報学科を中心としてMacintoshをサーバーとし、Webstar, 4th Dimension, Net Link 4Dを使用したモデルケースを構築している【4】
 しかし、Net Link 4Dは専用に開発したCGIであり、Data baseとして使用している4th Dimensionはデータベース作製が熟練者でないと難しく、市販のTango for File MakerとFile Makerを使用した我々のシステムの方が、一般の医療従事者には扱いやすいシステムであると思われる。
 また、長崎大学歯学部放射線学科では院内でSUNワークステーションをサーバーとし、NCSA httpd1.4, 専用画像検索ソフト(C言語で作製)を使用した患者画像データベースを使用している【5】
 この場合も、ワークステーションと専用ソフトを使用しており、我々のシステムの方が汎用性が高いと思われる。
 海外ではインターネットの発祥の国であるアメリカを中心にインターネット上でのデータベースの活用が進んでおり、The Visidle Human Project 【6】のような人間の三次元完全解剖図のデータベース化もなども行われている。
 今後、大きなネットワーク上でデータベースを使用されるようになると、データベースの汎用性が高まる一方、厳重なデータのセキュリティー管理が必要になってくる。
 特に、実際の医療の現場で使用する患者データは決して外部に漏れてはいけないため、現状では物理的に外部とは接続していない専用のLANで扱われるべきであろう。
 しかし、専用のLAN構築は施設内だけでもコストもかかり、施設間のデータの共有は更に難しいため、将来的には情報の暗号化などによって、インターネットを使用した安全性の非常に高い通信システムの開発が望まれる。
 そして最近では、高速で機密性の高い医療器観戦用のネットワークを目指した「医療情報ネットワーク相互接続プロジェクト(Medical Internet Exchange、MDX)」なども始まっており、これから医療機関への普及が望まれる。
 今後は、医療教育用や研究用として、医療関係者をはじめ一般の方にも公開できるように、患者の氏名や生年月日、病名などのプライベート情報を完全に削除した医療データベースが、インターネット上で広く公開されていくであろう。
 データベースの機能について考えてみると、我々のデータベースはデータをコンピュータに入力する必要があるが、将来的には医療機器が無線や専用線でネットワークに接続され、画像データやラボデータを自動的に取り込むようなシステムも開発されてくるであろう。また、電子カルテのような機能を持つシステムの開発も進んでいくであろう。
 そのためにも、DICOMのような医療データの共通フォーマットの普及、医療機器のデジタル化とネットワーク対応などが進むことが望まれる。また、医療データは高品位な情報を多数扱い、データ量が大きくなりやいため、品質を低下させない圧縮技術の開発と普及が望まれる。そして、医療情報の電子保存や電子カルテの認可など、保険や法律などの整備も望まれる。
 そして、データベース機能にとどまらず、医療機器から自動入力されたデータを総合的に判断し、医師の診断治療の補助や自動診断を行ったり、手術支援機器と接続し、手術の補助を行ったりするシステムの開発も進んでくるであろう。
 それらをネットワークでつながれた遠隔地と行うようなTeleradiology, TeleoperationなどのTelemedicineも、専門医の少ない地域を中心に盛んになってくるであろう。

7.謝辞

 本研究は平成9年度の文部省科学研究費の援助を得て行われた。

参考文献

【1】Oizumi T, Doumoto Y, Ohira T et al : Use of Multimedial Software of Improving Informed Consent in Neurosurgical Examination . J of ICAS Vol.2, No.2 : 3-7, 1996
【2】Oizumi T, Ohira T , Toya S et al : An Example of Multimedia Database for Medical Use Featuring Excellent Operability and Visual Comprehension . J of ICAS Vol.3, No.1 : 39-45, 1996
【3】Oizumi T, Ohira T , Kawase T et al : Internet presentation of information on neurosurgical examinations . J of ICAS Vol.3, No.2 : 61-65, 1996
【4】森本耕治、笹川紀夫、山本和子ほか : インターネットによるネットワーク型画像データベースシステム. 新医療 no.2 : p.58-61,1996
【5】大喜雅文 : 医用3次元画像構築とデータベース化. BME Vol.20, No.2 : 29-35, 1996
【6】Lindberg DA, Humphreys BL : Computers in medicine. JAMA 273 : 1667-1668, 1995


The Construction of the Medical Network Multimedia-Database and the Use in Intranet

Taro Oizumi, M.D.,Takayuki Ohira, M.D.,Takeshi Kawase, M.D.
Department of Neurosurgery,Keio University School of Medicine

Abstract
We handled more amount of medical information which includes medical record,laboratory data, radiographic information is handled with a computer.
In near future,many hospitals will use such various medical information on the network.
And we need the Network Multimedia-Data Base which is more accessible from online-personal computer users and more exellent in operability and visual under- standing, in order to utilize effectively a variety of medical information, motion picture, verbal or written information, etc.
Now we report that we newly designed medical Network Multimedia Database which is more easy to handle and to understand data for users and that we utilized it on INTRANET.
Using the Database, we could effectively utilize the patient's medical data for medical treatment and study.

Key word : multimedia, network, data base, neurosurgery, Intranet


日本コンピュータ支援外科学会会誌 Vol. , No. : p. - ( , )

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