脳外科医 澤村豊のホームページ

様々な脳腫瘍や脳神経の病気について説明しています。

PCV化学療法,ロムスチン CCNU

  • PCV化学療法(プロカルバジン,ロムスチン,ビンクリスチン)は,日本では使用できません
  • 国際的にグリオーマに広く用いられる併用化学療法です
  • オリゴ(乏突起膠腫と退形成性乏突起膠腫)への有効性は証明されています
  • テモゾロマイドとの優劣の決着はついていません
  • 日本では,中心となる薬剤ロムスチン(CCNU)が保険診療認可されていません
  • かつては安い薬だったので日本で獣医さんが犬に使用していました U^エ^U
  • グリオーマが再発した時の,セカンドライン化学療法としても用いることができるのですが,2020年時点では,ネット通販でロムスチンを購入して,混合診療で行うしかありません
2018年1月ロムスチンの値段がいきなり10倍以上になったという情報があります,50ドルから768ドルへ,!(◎_◎;)

とても高価な薬となり,米国では2021年に保険診療での認可が取り消されました

PCV chemotherapy regimen

Procarbazine 60 mg/m² orally, days 8–21 
Lomustine 110 mg/m² orally, day 1 
Vincristine 1·4 mg/m² intravenously (maximum 2 mg), days 8 and 29 for 6–8 weeks

PAV化学療法は使わない

  • ニドランをロムスチンの代わりに使うPAV化学療法の有効性は証明されていません
  • PAV化学療法はマガイモノと言えます
基盤となる文献

PCV化学療法がIDH変異型のグレード2グリオーマに有効

Bell EH: Comprehensive Genomic Analysis in NRG Oncology/RTOG 9802: A Phase III Trial of Radiation Versus Radiation Plus Procarbazine, Lomustine (CCNU), and Vincristine in High-Risk Low-Grade Glioma. J Clin Oncol 2020
有名なRTOG 9802の追加分析です。グレードIIのグリオーマ106例です。IDH野生型が26例,IDH変異型1p/19q共欠失なし(diffuse astrocytoma)が43例,IDH変異型1p/19共欠失(oligodendroglioma)が37例です。IDH変異型1p/19q共欠失なしとIDH変異型1p/19共欠失で,放射線治療後のPCV化学療法を行なった群で,PFSとOSの有意な延長がありました。IDH野生型では化学療法の有効性はなかったとの結果です。IDH変異型のhigh-risk low-grade gliomaの患者さんはPCV化学療法を受ける価値があると結論しています。
「解説」IDH変異型1p/19q共欠失なしはdiffuse astrocytoma,IDH変異型1p/19共欠失はoligodendrogliomaと捉えることができます。だとすると,従来,化学療法が無効とされたびまん性星細胞腫に放射線後の化学療法が有効となるという,常識をかなり覆す結論で。ここで注意することは,後方視的な解析 multivariable analysesであること,無作為試験ではないこと,例数が43例と少数であることです。また対象となったものは,臨床的にhigh riskと捉えられるグレードIIのびまん性星細胞腫なのです。

グレード3グリオーマ:PCV化学療法単独と放射線治療単独の初期治療の効果は同様

Wick W, et al.: Long-term analysis of the NOA-04 randomized phase III trial of sequential radiochemotherapy of anaplastic glioma with PCV or temozolomide. Neuro Oncol 2016
グレード3のグリオーマ(主として退形成性星細胞腫,退形成性乏突起膠腫)318例が,放射線治療のみ,PCV化学療法,テモゾロマイド化学療法の3群に分類されて治療を受けました。この研究では,化学療法を単独効果をみていますので,first lineで放射線化学療法は行われていません。観察期間中央値9.5年の段階で,放射線治療単独と化学療法単独群に差はありませんでした  TTF (4.6 y vs 4.4 y), PFS (2.5 y vs 2.7 y), and OS (8 y vs 6.5 y)。テモゾロマイドとPCVの間には若干の差があって,CIMPかつcodelつまり,IDH mutationと1p/19 co-deletionのある退形成性乏突起膠腫では,PCV の有効性が高かったとされていますが少数比較です。

グレード2に対するPCV化学療法の長期成績(10年以上の経過を見た場合)

Buckner JC, et al.: Radiation plus Procarbazine, CCNU, and Vincristine in Low-Grade Glioma. N Engl J Med 2016
グレード2の乏突起膠腫,乏突起星細胞腫,星細胞腫の患者さん251人が対象です。追跡期間中央値12年で55%の患者さんが亡くなりました。10年無増悪生存割合はPCV化学療法と放射線治療を受けた患者さんで51%,放射線治療のみで21%でした。全生存割合だと60%と40%です。乏突起膠腫の患者さんの生存割合が高いと結論されています。

 乏突起膠腫へのPCV化学療法の効果

van den Bent MJ, et al.: Adjuvant procarbazine, lomustine, and vincristine chemotherapy in newly diagnosed anaplastic oligodendroglioma: long-term follow-up of EORTC brain tumor group study 26951. J Clin Oncol 31:344-350, 2013
グレード3オリゴ (AO, AOA) に対して,59.4グレイの放射線治療にPCV化学療法6コースの上乗せ効果があるかどうかをみた臨床第3相試験です。368人の患者さんが治療され,追跡機間中央値は140ヶ月でした。生存期間中央値は,放射線単独では30.6ヶ月,放射線とPCVでは42.3ヶ月で有意な差がありました。1p/19q coleletionがあった患者さん80人の生存期間中央値は,放射線単独では112ヶ月,放射線とPCVでは7年以上で有意な差がありました。IDH1変異があった例でも生存期間が長かったそうです。
解説:グレード3オリゴには化学療法を加えた方が良いことが明白となりました。1p/19q欠失があるグレード3のオリゴの生命予後は短くとも7年以上ということになり,治癒が期待される腫瘍であると言えます。一方で,その欠失が無い例での生命予後は数年以内と推定されます。とても大きな違いです。

ロムスチン CCNUの用途

  • アルキル化剤に分類されるニトロソウレア系抗がん剤です
  • 経口薬で口から飲みます
  • 再発膠芽腫に使用します
  • 初発膠芽腫ではMGMT プロモータ メチレーションのある例で,テモゾロマイドとの併用されることがあります
  • 退形成性グリオーマや乏突起膠腫には,PCV化学療法として世界で広く使用されています
  • 髄芽腫には,ビンクリスチン,シクロフォスファミド,シスプラチンと併せて標準治療で用いられる薬剤です
  • 脳腫瘍以外には用いられませんので,脳腫瘍の分野からアプローチしないと厚労省は認可しません

 

 

 

 

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