2003.2.13
学校法人 帝京大学
学長 冲永 佳史
殿
たばこ問題情報センター
代表 渡 辺
文 学
医学部・矢野栄二教授の行為(英・BMJ誌報道)について《申入れ》
前略 当センターは世界各国に比べ大幅に遅れている日本の喫煙規制対策の前進を図るため、内外のたばこ問題に関する情報を収集し、それを主として機関紙「禁煙ジャーナル」に掲載して、禁煙・分煙の啓発活動を続けている全国の保健・医療関係者、法律家、教育関係者、禁煙・分煙促進団体の会員、ジャーナリスト等に提供することを目的として、1985年に設立された団体です。
さて、英国の権威ある医学雑誌である「BMJ」は、2002年12月14日付け第325号の1413ページから1416ページにおいて、英国のタバコ会社・BATが受動喫煙の害を明らかにした故平山雄博士の研究成果を否定するためのプロジェクトを立ち上げたこと、このプロジェクトの中心人物が帝京大学医学部衛生学公衆衛生学教授矢野栄二氏であること、同プロジェクトが平山博士の研究を巧妙に歪曲する研究手法を駆使したことなどを、数多くの証拠を挙げて明らかにし、同プロジェクトの活動は受動喫煙の害を隠蔽するものと厳しく批判しております。英国の新聞インディペンダント紙や反タバコ団体であるASH、Tobacco
Free Kids等も、このプロジェクトについて同様の批判を展開しております。
タバコによる健康被害を防止し、救済することは、今日、世界的な、かつ、差し迫った問題として、世界保健機関(WHO)、医師や市民の団体、日本を除く世界の多くの国々の政府が懸命に努力していることはご存じのとおりであります。BMJが指摘している事実が真実であるとすれば、矢野教授の行為は、単に平山博士の名誉を失墜させるだけでなく、貴大学の名誉にかかわる問題でもあり、また、何よりも、受動喫煙の害について人びとに誤った情報を与えることにより、多数の人の生命と健康を危険にさらすという重大な結果をもたらすものであり、道義的・社会的に極めて問題のある行為と言わざるを得ません。
この問題が公共の利益に係わるものであることに鑑み、以下の質問に対して本年2月末日までにご回答いただきたく、お願い申し上げます。
なお、この申入れといただいた回答は公表させていただきますので、予め申し添えます。
記
1.BMJが指摘している矢野栄二教授の行為その他の事実がもし真実であるとすれば、貴大学として問題であるとお考えですか。
2.もし、問題であるとお考えであれば、同教授から説明を求める等の方法により、真相を解明し、適切な措置をとるお考えはありますか。
3.BMJの記事によると、矢野栄二教授は上記プロジェクトから、約20万ドルの報酬を得たとされていますが、仮にこの指摘が真実であったとすれば、貴大学の職務規律に違反しないでしょうか。
4.矢野教授がプロジェクトに加わって作成した研究論文(受動喫煙の害を否定する)は日本のたばこをめぐっての各地の裁判の証拠として提出されていますが、この論文がタバコ会社の陰謀に基づき作成されたものであって、真実性に欠けるものであるということを矢野教授が法廷で証言することによって、わが国の受動喫煙対策は大きく前進するものと考えられます。貴大学は、矢野教授に対し証言を促すお考えはありませんか。
5.受動喫煙の害を否定するためのプロジェクトは現在も継続されています。BATを始めとするタバコ産業、東京女子医科大学衛生学公衆衛生学教授香川順氏、春日斉東海大学名誉教授を含むプロジェクトの関係者と1日も早く終了させるよう提言するお考えはありませんか。
以 上
追伸 「別紙」は参考資料ですが、より詳細な参考資料を必要とする場合には、下記URLをご参照ください。
http://bmj.com/cgi/content/full/325/7377/1413
「別紙」《参考資料》
・1981年、日本の平山雄博士が受動喫煙が肺癌の原因になることを発見。平山博士は「タバコを吸わない女性が喫煙者と結婚すると、非喫煙者と結婚した場合に比べて肺癌になリやすい」と結論。受動喫煙問題はタバコ産業にとって、厄介な問題となる。なぜなら、受動喫煙の害を認めることは分煙が促進され、喫煙する権利が否定されることになるからである。
・1982年、東海大学教授だった春日斉氏は「夫がヘビースモーカーだと(非喫煙)妻は毎日10本、喫煙が野放しの職場で働く(非喫煙)OLの場合は毎日20本、それぞれいや応なしにタバコを吸わされていることになる」と平山研究を支持する発言を行っていた(1982年10月11日付『日本経済新聞』)。また「喫煙所以外は禁煙にするなど、職場の環境浄化が必要だ」とも警告していた(同日付『産経新聞』)。
・1986年、米国の公衆衛生局長官Dr.Everett Koop は「ETS(環境タバコ煙)は非
喫煙者の肺癌発生に寄与している」との報告書を提出。
・1987年、IARCはタバコ煙を明白な発癌性物質【Group1】と認定。
・1988年、英国の政府諮問委員会はETSが非喫煙者の肺癌を10〜30%増加させると結論。
・1988年、米国タバコ産業はThe Center for Indoor Air Research
(CIAR)を設置。CIARは環境タバコ煙(受動喫煙)に関する研究を支援していた。
・1991年、受動喫煙の害を隠すプロジェクトが発足。これは帝京大学の矢野栄二教授と東京女子医科
大学の香川順教授がCIARに提案したことが契機となった。両教授はプロジェクトへの参加報酬見積額として米国のタバコ産業に243,000ドルを提示。両教授がこうした高額な報酬支払い要求を行ったことは、平山論文の正当性を強く意識していたものと考えられる。
・この報酬見積額が提示されると、プロジェクトに対する米国側タバコ産業の意見統一が容易でなく、B&Wは協力を拒否。BATも費用分担をしぶった。その後、交渉の末、矢野教授らの要求金額を下回る、約20万ドルを支払うことで契約が結ばれた。だが、一部は物納、一部は分割払いという形で支払われた。プロジェクトの目的は、平山雄博士による受動喫煙の疫学研究と、EPAによる環境タバコ煙の健康評価の弱点を明らかにすることであった。
・プロジェクトの監督としてBAT社の主任研究員Proctor氏が任命されていた。
・1991年、御用学者
Lee氏もプロジェクトに参加し、米国のタバコ産業は日本たばこ産業に協力を依頼する。同年、日本たばこ産業は春日斉東海大学名誉教授を非常勤嘱託者として雇用する。
・1992年に発表された受動喫煙の害を否定する春日論文には、プロジェクトの監督であるProctor氏から私信があった(1991年)旨記されており、春日名誉教授もプロジェクトに関与していたことは明らかである。
・その後、受動喫煙の害を隠すプロジェクトを通じて、受動喫煙の害を否定する論文が複数作成され米国のタバコ産業に提出される。いずれの論文も、日本の受動喫煙研究の信用性を失墜させる内容であった。
・矢野栄二教授らによるプロジェクトは1991年に始まり、1995年に平山雄博士が病死する まで継続、その間平山論文を中傷し続けた。
・プロジェクトで作成され、タバコ産業に提出された論文には、矢野栄二教授らの名前で 書かれた論文と、Lee氏の名前で書かれたもの(文末に矢野栄二教授らの協力が明記されていもの)の2種類がある。
・プロジェクトによって1992年から1995年までの間に作成された草稿は、いずれも春日斉名誉教授が同年発表した論文と内容面で相似性が非常に高い。
・春日斉名誉教授の論文は郵便局、自治体、JRなどを被告とする分煙請求訴訟における、受動喫煙の害を否定する根拠として利用されている。
・1995年、矢野栄二教授らは「受動喫煙が肺癌の原因になるという証拠は無い」と結論付ける論文を発表。同年、平山雄博士は病死。
・平山雄博士が病死した翌年の1996年、春日斉名誉教授は「平山研究論文は信用に値しない」との論文を発表する。
・1998年、WHOは「受動喫煙は肺癌の原因である。彼らの嘘を許すな!」と発表。
・2000年、権威ある医学誌The Lancet(8 April
2000)に「タバコ産業はIARCの受動喫煙研究を中傷している」という報告が掲載された。
・2000年8月2日
、世界保健機関(WHO)の専門家委員会は「米国のフィリップ・モリスや日本たばこ産業(JT)など大手たばこ会社が豊富な資金力を利用し、WHOなどさまざまな国連機関の喫煙規制対策に対して組織的な妨害工作を行っている」とのコメントを発表。
・2000年、WHOのBulletin誌に平山博士の研究論文を賞賛する記事−「約20年前に発表された平山博士のパイオニア的な受動喫煙と肺がんの関係に関する研究は時の試練に耐えて持ちこたえている」が掲載される。
・2002年12月、タバコ産業による受動喫煙の害を隠すプロジェクトを非難する記事が、英国の医学誌BMJ誌(2002;325:1413-1416(
14 December ))、インディペンダント紙、反タバコ団体ASHや Tobacco Free
KidsのHP等に掲載。このプロジェクトには2人の日本人(矢野栄二教授、香川順教授)が関与していたことが明らかにされた。