一般演題まとめ

「第23回奈良医学検査学会」

一般演題座長の立場から

吉村 豊

23回奈良医学検査学会の一般演題の座長として参加致しました。私は、奈臨技要望演題の3題を担当致しましたので、発表内容について私見をまじえた感想を書かせて頂きます。

最初の演題は、脈波伝播速度PWV測定における諸問題点についての発表で、測定原法の大動脈PWVおよび四肢から簡易測定できるbaPWVとその改良法であるCAVIの3法の比較検討であった。
 結果から、簡易法のCAVIは大動脈PWVとの相関が良好であり、また血圧の影響も受け難いことからbaPWVより良い検査法ということであった。ただ、問題点として心音マイクの装着部位によりバラツキが生じることがあり、測定時の状況に応じて場所を変える必要があることであった。
 私も、CAVIにより測定した経験がありますが、患者に負担をかけることなく、簡単に動脈硬化の進行度を評価する指標として有用であると思います。

2題目の自作管理ソフトを導入して輸血管理システムを構築した報告には、感心致しました。輸血業務は、輸血検査、血液製剤の入庫・出庫・返品・在庫管理等の製剤管理や患者データ管理等多岐にわたります。市販の輸血管理ソフトは高価であり、簡単に導入できるものではありません。自分達の施設にあった、使い勝手の良いソフトを作成し、輸血管理システムを構築したことは、評価されるものだと感じました。更なる取り組みを期待します。

3題目は、糖尿病療養指導における機器管理の現状報告で、院内SMBG機器サーベイ、患者SMBG機器の指導点検を実施しているということであった。患者や看護師に機器の使用方法の説明や機器管理をすることは、臨床検査技師の糖尿病療養指導における重要な役割であると思います。

最後に、今回の発表から印象に残ったこととして、業務上の問題点を積極的に改善していること、また、管理ソフトを自前で作成されたように、自分たちが使いやすいように工夫していることです。将来に向け、検査室(検査技師)が生き残っていく上で、このような取り組みは大事なことと考えます。


一般演題

小林史孝

奈良県内の医療施設における輸血管理体制のアンケート調査から

宇陀市立病院 藤原美子

 輸血療法に関し、改正薬事法や、血液法の施行により、安全性の確保、安定供給、適正使用に関して、行政、製造元、医療機関の責務が明示され、また「血液製剤の使用指針」「輸血療法の実施に関する指針」の両指針が法的根拠を持つことになった。その中で実際に輸血を実施する医療機関には、インフォームドコンセントや、管理体制の強化等が求められ、また責任も問われる時代になってきている。発表では、奈良県の輸血実施病院の現状を調査した貴重なアンケート結果をまとめていただいた。アンケートの内容としては、輸血一元化、輸血前後の感染症の実施状況、製剤の管理、副作用報告等広い範囲にわたり、結果としては、輸血前後感染症や、副作用報告等の認識、整備が遅れているとのことであった。今後このような問題点に関し、定期的なアンケートや、勉強会等開催し、各施設の輸血安全性の向上に役立て行きたいとのことであった。

重篤な症状を呈し、診断に苦慮した高齢者における伝染性単核球症の一症例

宇陀市立病院 竹田知広

 高齢者に発症した伝染性単核球症の症例報告であった。「EBV感染は、乳幼児期に初感染を受けた場合は不顕性感染であることが多いが、思春期以降に感染した場合には、伝染性単核球症を発症することが少なくない。しかし、好発年齢は、思春期から若年青年層であり、文献的にも、高齢者に発症した例は少ない。」(発表抄録より抜粋)このような、日常あまり遭遇しない、貴重な症例についての報告であった。発表では、詳細な検査結果、組織標本のスライドなど、診断までの推移を専門分野でなくてもわかるように、わかりやすく解説いただいた。

奈良県の睡眠時無呼吸症候群(SAS)検査の現状

2005年アンケート結果報告〜

天理市立病院 千崎 香

 睡眠時無呼吸症候群は、社会的にも注目を浴びており、日常接する患者様の中でも、興味をもたられる方も多い。そのような中、特に簡易にできる睡眠検査に取り組む施設が増えてきているとのことで、その検査の実情について、貴重なアンケート結果をまとめ発表していただいた。アンケートの解析では、方法、センサーの種類、解析方法、判定基準など、各施設で様々である結果が得られ、検査結果や判定基準についても施設間差があることが示唆される結果となった。今後、標準化も視野に入れ、取り組むべき課題であることをお示しいただいた。


シンポジウムまとめ

『医療安全管理と緊急対応』(1)

森嶋 良一

米国においては既にAEDによる除細動が一般市民でも行われ、学校や公共施設、一般企業にも多く設置されています。我が国においても2004年7月より医師や救急救命士だけでなく、現場に居合わせた一般市民も講習を受けていればAEDが使用できるようになりました。我々臨床検査技師も医療従事者の一人としてAEDの習得は必須と考えられ、今回、『自動体外式除細動器(AED)使用の重要性と人工呼吸、心臓マッサージの実際』というタイトルで奈良県立医科大学附属病院(MEセンター)の萱島道徳氏に発表をしていただきました。

 内容は救急救命ガイドライン2000に基づいて一次救命処置における心肺蘇生の知識と医療職者としての最低限度の技術について、意識状態の確認(JCS・3-3-9度分類)、呼吸状態の確認、気道確保、人工呼吸、循環状態の確認、心臓マッサージ、除細動(AED使用)の流れでご説明を頂きました。AEDについては、@AEDとは?、A日本国内におけるAEDの流れ、BAED使用時の確認事項、CAED使用の実際を詳細に講義して頂きました。

 次に厚生労働省推奨講習会で使用されている「AEDの使用方法についてのビデオ」を視聴し、AEDを実際に使用している感覚でわかりやすく理解することが出来ました。

 最後に、医療従事者としてどのような場面においても正確にAEDを用いた一次救急を行うことは実際には難しいため、厚生労働省推奨講習会(講師養成のための自動体外式除細動器講習:360分、一定の頻度で対応することが想定されるもののための自動体外式除細動器講習:220分)に是非参加してほしいと述べられました。AEDの一般市民への浸透により心停止の患者の迅速な除細動により救命率は高くなることは事実であると思われます。奈良医大附属病院におきましても、先日院内の数箇所にAEDが設置されました。一般市民にも使用が普及するAEDではありますが、臨床検査技師としてAEDの仕組みをしっかりと理解する必要があります。AEDはあくまでも自動の除細動であり心室細動を止めることを目的としています。その患者にAEDが無効であった場合の対応までを考え、その時点での患者の心電図を判読できるのは必須であると私は考えます。病院内外におきましてもAED使用による一次救急における臨床検査技師の役割の範囲が広くなった以上、十分に活躍出来るよう積極的な知識と技術の習得が必要であると思われます。


『医療安全管理と緊急対応』(2)

森嶋 良一

 運動負荷試験は心筋虚血および不整脈の誘発を目的として多くの施設で実施されており、潜在性の虚血性心疾患と不整脈の診断には不可欠な検査の一つとなっています。しかしながら負荷検査である以上、事故を引き起こす危険性の高い検査であることを念頭において実施する必要があります。
 今回、『運動負荷心電図実施時のトラブル、緊急対応』というタイトルで天理よろづ相談所の日裏淑恵会員に運動負荷心電図の実施時に緊急対応を要した6つの事例について報告いて頂きました。
事例@:小学低学年児のマスター2階段試験施行時に低体重による高速度のため転倒しかけた。
事例A:成人男性のマスター2階段試験施行時に階段昇降中のふらつきによる転倒。
事例B:成人男性のストレス心筋シンチ施行による負荷後の心電図記録時に意識消失。
事例C:成人女性のマスター2階段試験施行、運動負荷開始30秒で心電図モニター上ST低下を認め(症状なし)40秒で負荷を中止した。
事例D:成人男性のトレッドミル運動負荷試験施行時にBruce2段1分でST上昇を認め負荷を中止した。
事例E:成人男性のトレッドミル運動負荷試験施行、Bruce4段1分20秒で負荷終了しRecovery2分13秒でVT出現、Recovery21分でもVT持続のため200J除細動を施行し洞調律にもどる。
 事例@・Aについてはマスター負荷試験における負荷中の転倒による事故である。これはマスター負荷のスピードが年齢・体重・性別により決定され患者の体型には無関係であり、またマスター台の高さは23cmと普段の生活における階段の高さに比べ非常に高いことから、マスター負荷実施の上では当然起こり得る事故であると思われます。。それゆえに周囲の環境整備とスタッフの適正な配置および対応にて事故は未然に防ぐことは可能であると思われます。
 事例C・D・Eについては検査実施中に心電図モニターを監視することにより早期に対応が実施された事例です。事例Bを含め、どれだけ早く患者の状態変化を認識し正しい対応が出来るかが焦点となります。
 全国的にも数少ないと思われますが天理よろづ相談所病院ではマスター負荷中に心電図モニターを装着して実施、緊急を要する異常波形の出現の際は直ちに緊急処置が出来るようにワゴン上に点滴セット・緊急常備薬、除細動器、酸素を準備されています。コスト・機器・手間などの問題点はあるものの、心電図モニターを装着することにより事故を未然に防ぐ確立が高くなることは事実です。また緊急処置が出来る環境のもとで行うことは、心筋虚血および不整脈の誘発を目的とし、患者が重篤な状態に陥る可能性がある運動負荷心電図を実施する上では当然のことであるといえます。
“まとめ”として「運動負荷試験を施行時は患者が危険と隣り合わせの状態であることを常に念頭に置き検査を行い、検査室で緊急時対応のマニュアルの作成と再認識をし、日頃からの緊急時に慌てる事無く対応出来るトレーニングが大切である」と述べられました。この発表を聞かせて頂いたことをきっかけとして、負荷心電図検査を実施されている施設では自施設での現在の状況を見つめ直し、安全管理の向上につなげて頂ければと思います。


『医療安全管理と緊急対応』(3)

北川孝道

採血は侵襲性を伴う行為であり、患者様に内出血、神経損傷、転倒などによる傷害が発生する可能性があります。採血事故の訴訟では検査技師に損害賠償が請求されるような事例もあり、採血業務の医療安全について考える必要があると思います。今回、『採血業務における安全管理の現状』というタイトルで済生会中和病院の酒井篤子会員に発表していただきました。4年前に看護部門から採血業務の援助要請を受け、現在までに至る採血業務を振り返り、採血業務の安全管理として直接患者様に対する安全管理、検体取り違いに対する安全管理についてお話いただきました。
 直接患者様に対する安全管理として、採血中に突然気分が悪くなり転倒しかかった事例を報告、対策として背もたれ付の椅子に変更した。体調の悪い患者様には前もってベッドで採血を行うなど配慮し、採血中には痛みの確認、神経損傷の有無、消毒薬などで起こる感染症やアレルギー反応にも十分注意をし、アレルギーの有無を事前に申し出ていただくための案内の設置など現状について述べられました。
 
さらに、院内には安全対策としてコードブルーが設置され、あらゆる緊急時に対応できるよう配慮されていると述べられました。検体取り違いに対する安全管理として、受付時に番号を発行、採血時に名前でお呼びし番号を照合、さらに生年月日を確認し、採血管を確認後一致していれば採血を行うことで検体取り違いはかなり減少したと述べられた。最後に、看護師、患者さまとのコミュニケーションをとることによりトラブルを未然に防ぐことができると述べられ、コミュニケーションの大切さを補足されました。

 臨床検査技師がかかわる医療事故としてはさまざまな事例が報告されていますが、その中でも採血にまつわる事例も少なくありません。そして医療事故として処理されないヒアリハット事例はその数倍もしくは数十倍になるといわれています。これらの事故を防ぐには、われわれ検査技師が専門家としての自覚を持ち、研鑽することが大切であると思います。また、チーム医療の一員としての役割を十分認識し、組織的なトラブル発生の原因究明と対策も医療安全管理には大切であると思います。


ランチョンセミナー

「採血にまつわる話題いろいろ」の司会をして

福塚 勝弘

「採血にまつわる話題いろいろ」として,1.採血手順(厚生労働省通知からみた採血手順)に関して,前川芳明氏(天理よろづ相談所病院),2.臨床検査のかかわる医療事故について,夏掘徹也氏(東京海上日動火災保険株式会社)より講演があった.

1.採血手順に関しては,平成15年10月に「真空採血管から細菌検出,不適切な採血法では逆流により感染の可能性がある.」というニュースから真空採血が見直されることになった.厚生労働省通知の採血方法のポイントとしては,a.滅菌済みの真空採血管を使用,b.単回使用採血ホルダーの使用,c.腕の角度が下向き,d.採血終了後,採血針が刺さったままの状況で駆血帯を外さない等があった.しかしながら,腕の角度が下向きは現実的には不可能であることや,単回使用採血ホルダーの使用ではゴミが増えるのでは?等,問題点や疑問点があるように思われる.平成16年7月に日本臨床検査標準協議会(JCCLS)より標準採血法ガイドラインの第1版が発行された.しかし,平成17年1月4日発厚生労働省通知を受けて現在改訂作業中である.今後はJCCLSの標準採血法ガイドライン第1版は完璧ではないため,より実際的で安全な採血方法を示したガイドラインの作成と実施が望まれる.

2.臨床検査のかかわる医療事故については,近年,患者様の医療に対する目が厳しくなり今後はよりいっそう患者様からの要求が厳しくなるものと思われ,より一層の採血技術を含め細心な注意が必要である.医療訴訟は年々増加傾向にあり,実際の事例をもとにお話して頂き,採血時の注射針で後遺症例では,3800万円の賠償を命じられ病院と検査技師の双方の責任を追及された例などがあり,今後は,医療事故責任は病院のみならず臨床検査技師にも一層追及されるものと予想される.
 人間は失敗するものであることを認識しながらもよりよい医療を安全に行うために注意を払っていく必要があることを再認識した.

今回のランチョンセミナーが各検査室の採血方法を見直しより安全に行い,また,他の業務をより良くするためのきっかけになると思われ企画としてすばらしいものであった