安達 博成
(はじめに)
11月17日 第6会場において行われました、細胞診スライドカンファレンスについて総括し、報告します。(尚、出題者、解答者の氏名は割愛させていたださます。)
また今回抄録集に記載してありましたが、ねらいとして泌尿器領域における細胞診について、ピットフォール的な問題点を絡めて、検体採取の違いから、小型異型細胞、あるいは転移性腫瘍等、細胞像を中心に多角的に問題点を捉え、討議された内容についてもあわせて報告します。
(症例と討議内容)
症例1 解答:子宮原発由来の悪性黒色腫
稀少症例ではあるが、細胞像をしっかり捕らえることにより正解可能な症例と考えられる。
しかし原発巣を断定することは、やはり臨床歴等、明確に記載された依頼書により可能であり、症例1においてはこのような問題点も含まれていると考えられる。
症例2 解答:悪性リンパ腫
やはり稀少症例の1つであるが、細胞像からは比較的正解しやすいケースであろう。但し自然尿においては細胞変性が強く起こるため、ML等の小型異型細胞の核所見は相当困難であり、炎症細胞浸潤と鑑別しがたいケースもありうると考えられる。可能であればギムザ染色や免疫染色等の特殊染色も必要だと考えられる。
症例3 解答:子宮頚部原発の小細胞癌
やはり稀少症例の1つであり、原発は子宮、さらに膀胱への浸潤した症例であった。腫瘍細胞自体が非常に小型であり、転移による変性と付随した炎症性変化、さらに転移による尿路上皮の強い反応性変化等も伴い、非常に注意深く鏡検しなければ、反応性尿路上皮細胞に目がとらわれ、尿路細胞由来の病変と判定してしまう症例であった。(会場においても多くの議論があった点より難しい症例と考える。)
症例4 解答:Dysplasiaから急速に進行した尿路上皮癌
非常に注意を要する症例であった。最初は比較的悪性度の低い、しかも浸潤の見られない低悪性度の尿路上皮癌ケースを経過覿察、Dysplasiaを検出後、急速に進行した尿路上皮癌に変貌。一般的には長期間の時間経過をへて、このようなケースになると考えられている。しかし稀にこのようなケースもあると出題者は述べられていた。また今回のケースで注意したいのは、やはりDysplasia由来の細胞であろう。まだ完全に細胞学的、形態学的な細胞像の確立はされていないし、組織学的な判定にもばらつきがあるところで、非常に難しい問題を含んでいるが、Dysplasiaを併存する症例は、予後不良との文献もあり、できる限り拾い上げていく必要がある症例であった。
症例5 解答:カテーテルによる反応性尿路細胞(良性異型細胞)
最後の症例は検体の違い、採取法の違いによる非常に反応性異型の強い尿路細胞が出現した症例である。一般的には、カテーテル尿を鏡検する機会は少ないと考えられるが、しかし見慣れていないと、細胞量、出現形式、および個々の細胞における強い反応性変化のため、異型細胞と誤診されることも稀ではないと考える。今回の症例もおそらく誤解答された方もおられたのではないかと堆測された。
(まとめ)
今回の5症例から下記の問題点が提示されたと考えられる。
1;臨床所見、患者情報の重要性。
2;尿路系検体における自然変性の問題点。細胞像の人工的修飾。
3;転移性病変による腫瘍細胞の変性と反応性変化による良性異型細胞
4;小型異型尿路細胞、特にDysplasia由来細胞の細胞像と判定基準
5;人工的操作による尿路系特有の強い良性異型細胞(反応性尿路細胞)
これらの問題点を充分注意し、日常業務に役立たせていただければ幸いと考えます。尚、書面にて失礼ではありますが、スラカン開催にあたり、貴重な時間を割いて頂いた、出題者、解答者の各先生方、ならびに会場設営に協力頂いた各担当者、ならびに、参加頂いた各会員に厚く御礼申し上げるとともに、何かと不都合あった点を深くお詫び申し上げます。