シンポジウムーX

「輸血過誤防止の取り組み」

吉本 豊


 近年、輸血医療を取り巻く環境は、大きく変化してきている。その中で輸血業務の安全性の向上を目的として、技術面では輸血業務の標準化、管理面では血液製剤の管理を含めた輸血業務の一元化、さらに輸血業務の24時間体制の構築、そしてヒューマンエラー防止のためのコンピュータシステムの導入等について各医療機関で取り組まれてきている。しかし、それでも、ABO血液型不適合に代表される医療過誤が新聞報道されている。
 今回のシンポジウムでは、「輸血過誤防止の取組み」をテーマに、安全性の向上を目指して、輸血過誤の原因検索、輸血オーダーからベッドサイドの輸血に至るステップを検証し、それぞれの立場からの取組みを発表して頂いた。
 先ず、シンポジウムではインシデントレポートの解析結果から輸血過誤につながる可能性のある事例の報告とそれに対する対策について話して頂いた。大阪大学病院では、リスクマネージメントの一環として、イントラネットを用いたインシデントレポート報告システム々採用している。イントラネットによる報告システムは、無記名で誰でも入力できるため、インシデントを収集しやすい利点がある。エラーの原因を分析し、対策を講じるため輸血過誤を未然に防ぐことができる有効な方法である。
 次の中規模施設の取組みでは、輸血システムは導入されてないが、検査部が輸血関連業務の中核をなし、検査部による輸血業務の一元化が実施されている。院内の輸血関連の使用指針や、業務マニュアルについても検査部中心に作成された。また、輸血のオーダーから輸血終了まで細部にわたり運用マニュアルが作られ、安全性の向上を図っていた。
 次に、大学病院の取り組みを発表して頂いた。滋賀医大病院ではヒューマンエラーによる輸血過誤防止対策として、コンピューター・システムを導入し活用している。自動輸血検査装置(AutoView)の導入は効率化と手入力による人力ミスを防止し、コンピュータ・クロスマッチの実施は24時間安全な血液製剤出庫を実現した。コンピュータ・クロスマッチは輸血検査業務を省力化し、さらに日当直技師の輸血業務負担の軽減にも寄与した。
 次に、看護部門の立場から、ベッドサイドにおける輸血過誤防止の取組みを発表して頂いた。看護部では院内輸血療法マニュアル及び医療事故防止マニュアルの輸血事故防止対策の遵守、また、現場の看護師の声を看護師長会に反映させる、さらに定期的な看護手順の見直しや、新規採用者への導入教育を実施しているということであった。
 最後に血液センターの報告であった。血液センターでは、輸血用血液の安全性向上の目的として、次の8項目を実施した。
@遡及調査ガイドラインの作成
A新鮮凍結血漿の貯留保管
B感染性因子不活化技術の導入
C拡散増幅検査NATの精度向上
D医療機関での輸血感染症に関する全数調査実施
EE型肝炎ウイルスの疫学検査
F保存前白血球除去の実施
G献血受付時の本人確認
 安全な血液供給には、血液センターと医療機関の連携は不可欠である。
 輸血には、医師・看護師・検査技師など多くのスタッフが関わっている。輸血過誤などの医療事故を防止するにためには、職種を超えた連携が重要である。また、血液センターには、血液製剤の安全性向上のため更なる努力を期待する。
 最後に、輸血にはリスクを伴うもの言われているが、それを無限にゼロに近付ける努力を怠ってはならない。その鍵を握っているのは私たち臨床検査技師である!