シンポジウム−T

健康づくりの一翼を担う臨床検査 一総括とまとめ一

 喜多村 昭子


 臨床検査が健康づくりにどう関われるか二つの面から取組んだ。一つは「食生活」や「生活習慣」からくる「肥満」、それに対する「臨床検査」から疾患予備群と予防法を見出せないかを試みた。
 もう一つは検査を担う臨床検査技師自身の健康管理についてその意識度を評価し有機溶剤暴露状況や業務室内感染対策の現状と今後の取組みについて模索した。
 肥満に注目し肥満との因果関係が大きいといわれる睡眠時無呼吸症候群(SAS)や脳血管疾患・心疾患にスポットをあてた。鈴木嵩浩医師(天理市立病院内科)には主に肥満が関連するSAS発生のメカニズム及びSAS患者の検出とSAS患者における心疾患・脳血管疾患予備群の検出等臨床検査の有用性について解説していただいた。高田厚照技師(関西医大病院)は検査に入院を要するPSG(polysomnography:PSG)検査と自宅で実施の携帯型PSG検査の有効性と問題点を述べ、技師の力量により受診者の負担を軽減し、しかも信頼度の高い検査結果が得られることが報告された。
 渡邊豊技師((財)和歌山健康センター)は所属するセンターにおける検査システムを紹介され、これによる成果が報告された。即ち、一次健康診断で脳血管疾患・心疾患の予備群である内蔵型肥満、高血圧、高脂血症、耐糖能障害(「死の四重奏」)を検出し、臨床検査が疾患発生をくい止めることに貢献でき、更に二次健診において心エコー図検査や頚動脈エコー検査による精査で適切な治療や受診者の意識改善指導等の資料提供ができるというものである。
 次に技師自身の健康管理について、森川政夫技師(大阪医大病院)は有機溶剤の使用に絡む関連法規と室内環境勧告値を照会され、作業環境管理、作業管理、健康管理の重要性と、病理検査室の現状が報告された。有機溶剤の危険性は最近検査の現場での認識も高まり、種々改善も見られるがまだまだ不十分な現状である。そこで幾つかの改善策を提示しながら何より先ず技師自身の意識改革の必要性を強調された。
 業務室内感染について、茂籠邦彦技師(滋賀医大病院)は感染源に対する対策と感染経路遮断対策及びワクチンと就業制限について適正な対処法を述べられ、これらの実践には「エビデンスに基づいた的確なマニュアル」の作成とその正しい運用が必須であると解かれた。また何より技師自身の「感染症に罹患しない」という意識と行動の実践が大切であることを強調された。
 以上のことから臨床検査は通常の健康診断を通して検査項目や検査結果の組合せによって疾患予備群の検出が可能であり、発症の予防のための生活指導や受診者の意識改善等健康づくりに貢献できる方向性が見えてさた。今後この分野で活踵される技師が多く輩出されることが期待される。
 また、技師自身の健康管理について設備等の改善も必須であるが、何より重要であるのは現場で働く技師自身の「有機溶剤の暴露は受けない」「感染症には罹患しない」という強い意志をもってマスクの着用、手袋の着用、手洗いといった行動を実践することであることが認識でさた。ハツとする思いで聴いた会場の技師も多かったのではなかろうか。特に検査室の管理責任者は技師自身の作業環境管理、作業管理、健康管理を注視し検査室の質の向上に資することを期待する。