医療制度改革をはじめ、診療報酬の改訂・包括化、DPC導入等、最近の医療情勢はますます厳しさを増し、臨床検査を取り巻く環境も大きく変化しつつあります。それに伴い臨床検査室にも従来になく様々な面での改革を求められ、検査室運営は一段と難しい局面を迎えております。この先の見えない時代に、各施設の検査室がどのように考え、実践し、難局を乗り切ろうとしているのか。また、そこに働く検査技師はどのように現実を捉え、日々職務を行っているのかを把握し、臨床検
査の将来のあり方を探る一助にするために検査総合管理部門としてアンケート調査を実施いたしました。
アンケートは平成15年5月に実施し、奈良県内医療施設の臨床検査室代表者の方にお願いしました「施設実態調査」と技師会全会員を対象とした「個人意識調査」の2つに分けて行いました。
施設実態調査につきましては、記名式といたしましたが、集計結果等の公表に際しましては、施設名等は匿名厳守で行っております。集計・解析に時間がかかってしまい結果の報告が遅くなりましたことと、紙面の都合上大まかな結果報告にとどまりましたことを、この場をお借りしお詫びいたします。なお、この集計結果の要旨は前の近畿医学検査学会(奈良)にて報告させていただきました。最後になりましたが、アンケートにご協力いただきました方々に心から深謝いたします。
【施設実態調査】
T.アンケート実施方法
1.対象施設と回答状況
アンケートの趣旨から医療施設のみに限定し、検査センター・研究所等は除外した。県内の技師会員名簿に記載されている54施設にアンケートを依頼し28施設から回答が寄せられ51.9%
の回答率となった。
2.アンケート設問内容
おおまかに以下のような内容で回答を求めた。
@施設規模等(施設種別、病床数、1日平均外来患者数、救急指定の有無、各種認証の有無)
A検査部門の運営形態
a.検査部門の構成 b.迅速検査
c.日当直業務 d.検体採取(採血・採血以外)
f.生体検査項目 g.精度管理・危機管理
h.チーム医療への参画 等
B病院(臨床・経営サイド)が検査室に求めて
いるものについて
C総合管理部門への要望について
U.アンケート集計結果
1.施設規模等
回答を得た28施設の病床数は、100〜199床と200〜299の施設が共に8施設と最も多かった。
施設の病床数は、保険点数上「外来診療料」・「再診料」は200床を基準としていることから分類すると、200床未満の施設は13施設、200床以上
の施設は15施設だった。また、施設の技師数は2人から117人と施設により大さな差がみられ、病床数が増えるにつれ技師数は増え、施設間のばらつきも大きくなる傾向だった。
救急指定病院は12施設で44%。日本医療評価機構の認証を受けているのが1施設あった。
2.検査部門の運営形態
検査室の運営形態はほとんどの施設で院内実施+外部委託で外部委託率は1%から95%と施設によって大きな差がみられた。また、ブランチやFMSと院内検査を組み合わせているのが
3施設あった。「経営サイドからブランチ・FMS化の話はありますか」という問いには、「現在はまだ無いが将来的には可能性ある」と答えた施設が11施設あり全体の4割弱にのぼった。
3.迅速検査と日当直について
迅速検査はほとんどの施設が実施しており、ルーチン検査室の緊急項目としている施設が多く、緊急検査室とルーチン検査室の併用が3施設あった。対応項目は幅広くおこなわれ、各施
設で差が大きく、腹部エコー・マーカー・薬物なども迅速項目としてあげている施設もあった。
日当直業務は18施設(64%)で実施していた。その形態は「日当直」「オンコール」「日直と夜間オンコール」の順に多かった。「現在の項目で臨床ニーズへの対応は十分だと思われます
か」という問いには、半数以上がいいえと答え、項目など当直内容の充実を検討されていた。当直をしていない施設に理由を尋ねた問いには、「臨床からの要望が無い」「職員数が不足して
いる」という回答であった。
4.採血について
外来の採血場所は中央採血が16施設、各科採血が9施設、両方が1施設、その他2施設で、病床数が増えるにつれ中央採血の割合が増えた。
また、病棟採血を技師が行っているのは1施設のみだった。病棟の技師採血を検討されている施設が1施設あった。
5.生体検査について
今後実施予定や臨床からの要望項目には、エコー検査や誘発電位などの項目が挙げられた。
生体検査項目の業務拡大の必要性を尋ねた問いには、非常に強く感じる29%、やや感じる46%、あまり感じない25%という回答だった。必要性を感じる理由としては、患者サー
ビス向上、検査技師の存在アピール、臨床からの要望、時代のニーズなどの事項があげられた。
また技師が少人数の施設では、今の人員では無理と言う意見もあった。
6.精度管理・危機管理について
外部精度管理の参加は96%の施設で参加していた。外部精度管理の内訳は、日臨技の行なうサーペイには約67%の施設で参加され、また奈臨技が行うサーペイには約78%の施設で
参加し、奈臨技のみの参加の施設も6施設(22%)あった。また、危機管理における検査過誤については、ほとんどの施設に委員会が設置され検査過誤記録がとられていた。
7.診療支緩、看護支援について
検査技師の診療・看護支援などチーム医療への参加は38%にとどまり、参加していないは54%、検討中が8%であり、主な参加内容は、糖尿病教室、ICT、POCT機器の保守などがあ
げられる。またクリニカルパスヘの参加は2施設だった。
8.病院(臨床・経営サイド)が検査室に求めているものについて
「検査室がいま病院から何を求められていると思うか」を尋ねると、コスト削減・収益向上・迅速性・質の高い検査・チーム医療等の意見があがった。
U.まとめ
施設の規模、特殊性によってそれぞれのおかれている立場は違うだろうが、経営サイドからはコスト削減・収益向上が、また臨床サイドからは検査の質の向上・迅速性・チーム医療が要望されている様である。これも最近の厳しい医療情勢を反映しているのだろうか。それぞれ各施設・検査室の運営努力が伺われた。
【会員個人意識調査】
1.対象と回答状況
施設実態調査と同時期に奈良県技師会会員全員にアンケート用紙を配布し、無記名にて回答を求めた。施設ごとにまとめて回収し、回収率は48.6%(236/486)。
2.アンケート設問内容
@個人基本情報(年齢、性別、経験年数、担当
分野、検査技師を選んだ動機)
A現在の職務の状況
B検査技師の将来の見通しについて
C検査技師の業務拡大について
D総合管理部門への意見・要望について
以上の事項について、選択および記述方式にて回答を求めた。
3.集計結果
@個人基本情報
回答者の男女比は、男性36%・女性64%。年齢は30歳代・40歳代が比較的多かった。
検査室内の立場は、絶対数の多い一般技師が圧倒的多数を占めた。
A現在の職務の状況
日常の業務量については「普通」という答えが半数であったが、「やや多い」・「かなり多い」をあわせると47%とかなりの割合を占め、忙しいと感じている職場の多いこと
が示唆された。また、「何に重点を置いて仕事をしているか?」の問いには患者サービス、迅速報告、精度管理という答えが多くあった。
「仕事についてやりがいを感じるか」を尋ねると、感じると答えたのが64%で、感じないと答えた22%よりはるかに多く、やりがいのある職種であることが改めて感じられ
た。やりがいがあると答えた方にその理由を尋ねると、異常データ等が診断に役立ち、臨床に貢献できたときなどをあげたのが最も多くあった。あるいは、毎日の職務を確実にこ
なし、正確な検査を遂行できたときの充実感にやりがいを感じていることもわかった。また、特に生理機能検査や採血などの分野では、患者さんとのかかわりの中で、やりがいを感
じているようである。
また反対に、やりがいを感じないと答えた方が22%あったのはどういう事に起因しているのだろうか。その原因を尋ねると、業務の単調さをその原因に挙げる方が多くあった。
検体検査などでは機械化が進み、そのオペレーション的な仕事が中心となってきた背景があると思われる。また、「業務が自分の性格に合わない」や「興味がわかない」などの回
答もあった。その他の意見としては、「忙しすぎる」、「検査以外の雑務が多い」、「検査内容が充実していない」などの意見があった。「やりがいのある仕事にするために、努力をして
いるか」との問いには、探究心を忘れず、知識や技術の習得を心がけ自己研鑽に励むという意見や、与えられた業務を精一杯やるという意見が多かったが、逆に、努力はしていない
、あきらめたといった意見も少なからずあった。
B検査技師の将来の見通しについて
技師の将来についての思いを尋ねてみると、将来に対して「大変不安」・「やや不安」という答えを合わせると82%にのぼり、「明るい」はなかった。かなりの方が将来に不安を感じて
いることがわかった。またその不安の原因と思われるものを尋ねると、医療情勢の悪化、検査の外注化、合理化・効率化が求められているからという意見が多く、存在価値の低さや、
技師側のプロ意識の低下などをあげる意見もあった。
その不安に村してどういった努力が必要かを尋ねると、より専門的な知識を持つなど技師のレベルアップを目指す、臨床側に必要とされる検査室作り、検査の必要性をアピール
し、技師の存在価値を高めるといった意見。また、臨床側とコミュニケーションをとり真のチーム医療・診療支援を進めるような業務拡大を考えるといった意見があった。
C検査技師の業務拡大について
業務拡大については、「積極的に進めるべき」・「将来的には必要」という意見が大部分を占め、「今のままでよい」と答えたのはわずか3%にとどまった。業務拡大といえば、
まず生体検査が思い浮かぶが、それよりも検査説明や検査情報提供など検査に付加価値をつけるような拡大分野をあげた方が多かった。
また、院内感染対策や診療支援あるいは病棟検査といった分野も多くあった。
業務拡大に対する意見を求めた設問では、「業務拡大をする前に、まず今行っている検査業務の充実をすべき」と答えたのが2割強あり、また「施設や臨床側のニーズに沿った
業務拡大でなければならない」という意見。あるいは、「業務独占など法的身分の確立」や「検査技師の存在意義を高めるよう努力すべき」という意見もあった。
まとめ
今回のアンケート調査で検査室・検査技師の将来に対して不安を抱きつつも、職務に村してやりがいを感じ、医療スタッフとして前向きに努力していこうとする姿勢がうかがえた。しかし、現在の技師を取り巻く環境に対して、諦めにも似た意見も少なからずあることは否めない。
将来のためにいま何をすべきか、熟考する時期なのかもしれない。