日本臨床検査自動化学会第35回大会に参加して
県立奈良病院 草尾 恵
平成15年9月18・19日の両日、パシフィコ横浜にて開催された日本臨床検査自動化学会第35回大会に参加する機会を得たので報告します。
一般演題、機器試薬セミナーでは脂質の他に、ラテックスが工夫された高感度で高値までの直線性が得られる新CRP試薬の使用経験、梅毒RPRの汎用自動分析機での測定法の使用経験と問題点、さらにPOCTの実状と問題点やシステムとしての構築、フィブリノゲン吸着繊維を用いての血清分離など様々な発表を聞いた。脂質関連では「トレーサビリティーの必要性を経験した総コレステロールの1例」という一般演題が興味深かった。当検査室でも先日、日臨技サーベイの総コレステロールの成績が良くなかったが、同様の経験をされて脂質測定用標準血清を用いて対処した経験が発表され、たいへん参考になった。更に動脈硬化の危険因子として注目されるsLDLの測定法、HDL測定法の問題点などの演題発表を聞いた。2日目のランチョンセミナーで大阪大学 山村 卓先生の「血清脂質代謝異常と動脈硬化」を聞きsLDL・HDLなどといった個々の項目としてだけではなく、アポリポ蛋白の状態で生体内を輸送されていることを念頭に入れ全体像として脂質代謝異常を考える必要を改めて感じた。
1日目のランチョンセミナー「21世紀における検査部の在り方」は京大病院においてのシステム化に伴って行われた業務改善の報告であった。生化学・免役血清・血液・緊急・一般の専門分野をシステム検査部門として統合し、前処理・機械・マニュアル測定・結果検証報告といった工程別にグループ化し省力化・省スペース化・迅速化を図ったということであった。2日目に九州大学でのシステム化に伴った省力化・迅速化の演題発表もあり、比較的恵まれた業務環境にあると思っていた大学病院でも厳しい状況になってきているのだと感じた。
サテライトセミナー「企業におけるマーケティング的アプローチからのヒント」は検体数減少、診療報酬減少、スタッフの高齢化、予算削減、機器更新延長といった問題を抱えた検査室の活性化のヒントとなる話題であった。マーケティングとはある特定の市場でbPを実現する、顧客がブランドを指定して購入する仕組みを作り実践する、というものであるらしい。いつでも・どこでも・個別に合うように、システムの構築、ノウハウ、スタッフ教育といった方法を用いて差別化を図る。提供する側にとってすることは皆平等であるが、顧客にとって自分は特別という感覚を生み出させるサービスを提供する。病院の語源はhost・hotel 宿泊所であり、接遇態度を含めホテル業界に学ぶべき点が多々あるのではないだろうか。ホテルでの顧客サービスのように、患者にとって自分のためにしてくれているという感覚がもてるサービスを実践していくことが、病院でのマーケティングのヒントとなる、といった内容であった。普段あまり考えたことのない商業ベースの考え方で興味深かった。
東京大学の北森 武彦先生の特別講演「マイクロチップと手のひらサイズの検査室」は7cm×3cmと企画化された立体的に溝が組み込まれたプレートを用い、混合・反応・抽出・分離・検出などの工程を集積して行なうことで、ごくわずかな試料で従来の100倍以上の高速で分析できる技術の話題であった。生化学分析、免役分析、細胞培養、バイオアツセイなど既に実用化されたシステムや今後の応用の可能性が具体的に聞けた。
シンポジウムではNST(栄養サポーティングチーム)の一員として医師、管理栄養士、看護師、臨床検査技師が、実際どのようにチーム医療か実践されているのか発表した。職種が絡み合っているための問題はあったが、共通の目的を意識しコミュニケーションをとりつつ、それぞれの分野で能力を発揮していく。検査技師は測定技術、システム力、機動力、柔軟性、情報収集・情報処理能力がすぐれており充分チームに貢献できるであろう、ということであった。検査室の様々な能力を活かすには検査室に閉じこもらず、外に開かれた検査室である必要があると思った。