自転車で嵐山へ行く
県立奈良病院 稲垣 明
ここ近年、お腹の出ぐわいが気になりだしたこともあって、自転車をよく利用するようにしています。三室病院から、自宅に近い奈良病院への転勤を機会に、車通勤を止めて自転車通勤にしたのもその一つです。暑い夏以外は休日もよく自転車で走り回っています。おかげで、奈良県の北部の地理はかなり詳しくなりました。意外な場所に意外なものを見つけることができ、けっこう楽しく走っています。
しかし、慣れるにしたがってそれではものたりなくなってきます。木津の国道24号線の泉大橋から京都嵐山まで木津川、桂川沿いに50km以上にわたってサイクリングロ−ドが整備されているのをご存じでしょうか。自転車で走り回るようになって知りましたが、すばらしい道です。これに挑戦したくなりました。一昨年の五月の連休の一日、行けるところまで行ってみようとしましたが、国道1号線との出会いまでで挫折しました。昨年の連休は、国道1号線を過ぎた桂川の途中までで足が痛くなり断念。トライアスロンに挑戦する人は水泳の後、自転車で200km走り、その後フルマラソンを走るそうなのに。彼らは桁外れの体力だと実感しました。自分にはマラソンは絶対無理なので、せめて自転車の部分だけでも完走できるようになりたいと思っています。
今年こそはと、またまた五月の連休の一日、奈良市の自宅を小雨のなか朝7時に出発。木津川のサイクリングロ−ドに入ったのが7時半。堤防上の気持ちのいい道を快調に進み、左手に同志社大学のキャンパスを遙かに見て過ぎる頃には雨も止み、無理をせず一定のペ−スで順調に走り、時代劇の撮影によく使われる、木造で欄干の無い「流れ橋」に達した。
この橋はテレビなどで皆さん一度はみたことがあるのでは。ここは車で河原まで降りることができるため、休日はバ−ベキュ−をする家族連れで一杯になるようであるが、まだ時間が早いので人出は少ない。小休止の後、木津川、宇治川、桂川が合流し淀川となる三川合流点(競馬の好きな方はご存知)に着いたのが9時半。嵐山までの半分の行程を過ぎたあたりになる。ここは桜の季節にはきっとすばらしい景観になるはず。いよいよ桂川沿いに入ったが少しへばってきたため、新幹線の橋の下付近で大休止をとる。同じ京都の鴨川が綺麗に整備されているのに比べ、この付近の桂川は未整備なのが少し気になる。まあよその府県のことは言えないな、と思いながら走り始めるが、このあたりから嵐山までが、気が焦るわりには遠く、なかなか進まない。松尾大社付近からは、急に人出が多くなったと思ったら渡月橋が見え、11時に嵐山に到着した。
三年越しの念願がかなった瞬間。やった! と叫びたかったが周りは人だらけです。心の中でそっとつぶやく。“ほら、やればできるやんか” しかし、嵐山に着いてみると綺麗な服装をした観光客ばかり、人出も多く華やかな雰囲気で、自分がここでは完全に浮いています。一人だけのせいか、服装のせいか、なんとなくみじめな気持ちになってきたため、手早く食事を済ませ帰路につくことにしました。本当は渡月橋をカッコ良く自転車で渡りたかったのに。やはり“おやじ“のサイクリングは、一人で、人出の少ない場所が似合うと自分を慰めながら。しかし、心はささやかではあるが、念願を達成した充実感で満たされていました。
平城京跡北側の歌姫のわずかな坂を登れず、自転車を押して越え、家にたどり着いた時には日が暮れかかっていました。疲れた。“でも、来年もまた行こう”