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平成16年第21回奈良県医学検査学会 資料

シンポジウムこれからの臨床検査を考える3

「チーム医療への参画と職域拡大」
天理よろづ相談所病院臨床病理部
松尾収二


「これからの臨床検査を考える」,このテーマは昨今の厳しい情勢の中で,いろんな場所で討論されている。演者に頂いた発表のキーワードは「チーム医療」と「職域拡大」である。検査室の責任者として何を考え,どのように運営しているのか,あるいは何をしようとしてるのかを呈示したい。基本的なことはいずれの施設にも相通ずるものがあると考え発表したい。


これからの臨床検査室のあり方,それは検査室の形態が変わっても同じであって欲しい。
病院における検査室の設置義務はなくなったが,実際には検査室はなくならないだろう。ただし規模が縮小したり,運営形態が変わることはあるだろう。ブランチラボや大学で進められている診療支援部の流れは止められないであろう。そこで演者は訴えたい。以下に述べる臨床検査室のあり方は,誰が関与しようと同じであって欲しいと。検査センターの方も一緒に考えて頂きたい。効率を高めることは大事だが,一方で,働いていること,生きていることの証を求め,モチベーションも高めたい。殺伐とした時代を迎えないために皆が考えることである。


これからの臨床検査室のあり方,それは''当たり前のことを当たり前に"やることである。
臨床検査の目的は,良質の医療を患者さんに提供すること,健康増進やQOLに寄与することである。考えてみれば診療そのものの目的と何ら変わることはない。この当たり前のことを当たり前に考え,当たり前にやる,それが臨床検査室のあり方である。


検査室が病院にあるメリット,そればそこに"人"がいることである。一チーム医療(連携)の実践一
検査室が病院にあるメリットは,そこに患者さん,そして医師,看護師等の医療従事者がいることである。身近に情報がたくさんあり,互いに顔が見え,会話が出来ることである。すなわち,チーム医療がやりやすいということであり,より質の高い検査,きめ細やかな検査ができる。そして人のつながりは自分たちが有している,いやそれ以上の能力を引き出してくれる。


検査は''患者さんから始まり患者さんに終わる"の考え方に変える。一臨床検査室の業務拡大一
従来,検査室は"受付から報告まで''の考え方であったが,いまどきこんな考え方をする方はいないと思う。そこで''依頼する際の医師の判断から診断治療まで(brain to brain)''の考え方が出てきたが,これでも不十分である。検査は"患者さんから始まり患者さんに終わる(from patient to patient)'',''患者さんの思いから満足まで''の考え方に変えたとき,臨床検査技師がやれること,やるべきことはたくさんある。


チーム医療と業務拡大を実践するための方針

1) 検査そのものを武器とする。
迅速できめ細やかな対応をする。当たり前のことであるが,意外とこれが難しいと最近,思うようになった。独りよがりになっているかもしれない。検査は迅速でも,それが診療に迅速に反映されているかはわからない。きめ細やかと思っていても肝心なことが抜けているかもしれない。検査をトータルで評価すると気になる。そして,POCT(point of care testing)のように野放しになっている検査も多い。中央検査部の''中央''とは何かを再考し,''どこもが検査室"の考え方に変える必要性を感じている。

2) 検査室が培ったノウハウを活かす。
検査室は情報という強カな道具を持っているが,何よりも臨床検査技師は他職種にない能カ,智恵を有する。検査,精度管理・品質管理に関する技術と知恵,ものをシステマティックに,客観的に捉える技術と知恵といった多彩な能力を有する。個々人の能カは小さくてもトータルとしてこれを活かす機動力も有している。検査は''患者さんから始まり患者さんに終わる"の考えを十分実践できる能カである。
当院では,内容は不十分ではあるが,病棟採血,病棟担当技師,POCT管理,検査の適正利用(相談室,情報誌発行等),チーム活動(感染対策,栄養管理,褥創管理,糖尿病診療,乳癌診療,呼吸器リハビリなど),カンファレンス参加(CPC,感染症,アレルギー,術後など),患者さんへの検査前説明等を行っている。とりわけ看護部との連携は具体性があり重きをおいている。他にもやりたいこと,やらねぱならないことはたくさんあるが,検査室のノウハウを活かすには足元の検査をきちんとしていること,日頃からコミュニケーションがとれていることである。

3) 良き医師,良き看護師,良き識員を育て,自分も育つ。
診療のレベルを上げるためには,医師,看護師に頑張ってもらわねぱならない。彼らのレベルが上げることは診療レベルの向上につながるし,ひいては検査室のレベルもあがる。医師,とりわけ若い研修医を育てることは有益であるが,演者は最近,専門医の教育・啓発もなおざりに出来ないと感じるようになった。情報の増加,専門性の進歩によって検査がブラックボックスになっているからである。検査のこと,検査室のことが理解できる者を増やすことは,我々にとつて大きな力となる。看護師についても検体採取や運搬だけでなく,検査の意義まで理解し看護に活かせる教育をしたい。教育方法として,講義,研修,実習を行っているが,大事なことは日々の診療の中で実践することである。

4) 謙虚さと気概,そして責任を持つ。
診療の二一ズに合わせることは大切だが,二一ズはいつも正しいとは限らない。プロとしての気概を持ち一歩先んじた動きをすべきである。チーム医療においてレベルに差があるとついついやすきに流されるが,少なくとも我々は常に高いレベルをめざし維持していかねばならない。ただし謙虚でなくては相手は受け入れてくれない。検査室は一人では生きていけない。昨今,医師や看護師は検査室をクールな目で見るようになった。医療過誤に対する防御反応は検査室への責任を問うようになった。彼らが前面にたって擁護してくれる場合もあるが,一方で,検査室の者が出向いて患者さんに説明し謝る状況が出てきた。将来,前面に出ることは避けて通れないことである。しかし,良い方に解釈すればアイデンティティを示すチャンスである。


さいごに 一 Clinical laboratory から Human laboratory へ
臨床検査は,徐々に様変わりしていくであろう。臨床検査あるいは臨床検査技師の活動の場は医療施設の外にも拡がるであろう。病気の診断や治療のみでなく,健康管理やQOLにも目を向けよう。Clinical laboratory から Human laboratory へと考え方を変えた時,臨床検査技師の仕事は拡がる。

シンポジウム1、シンポジウム2もぜひ、ご覧下さい。

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