平成16年度院内感染対策講習会(臨床検査技師対象)参加報告

医療法人 医仁会平井病院 田平 昭彦

 当講習会は院内感染対策事業の一環として毎年、全国より推薦された各病院で院内感染対策に携わる臨床検査技師を対象に開催されています。講習会は2日間で行われ、講議9単位とワークショップ1単位の計10単位で盛り沢山な内容でかなりのハードスケジュールでした。今回私は、奈臨技の堆薦を得てこの講習会に参加させて頂くことができましたのでその概要を報告します。

会期 平成16年10月22、23日
会場 おかやま三光荘
主催 厚生労働省 日本臨床微生物学会

【1日目】
1.感染対策と検査室(感染対策への検査室の関与)
2.感染対策のポイント
3.消毒薬の適正使用
4.感染対策への情報提供
5.アウトブレイク時の検査室の対応(ワークショップ)

【2日目】
6.感染制御
7.針刺し事故対策
8.抗菌薬の使い方
9.薬剤耐性菌対策
10.院内ウイルス感染対策

1.院内感染対策への検査室の関与

 院内感染対策に関連する検査室の業務には@院内感染発生の監視、A院内感染菌の疫学的情報の提供、B院内感染の疫学的調査、C病院職員への啓蒙、などがある。
 また病院検査室は感染症診療を充実させるために絶対必要であるが、臨床とのコミュニケーションが十分にとれていることが絶対条件である。

2.感染対策のポイント

好気性グラム陽 性 菌

S.aureus(黄色ブドウ球菌)
CNS(コアダラーゼ陰性ブドウ球菌)
Enterococcus sp(腸球菌)
〔特徴(*注目されている耐性菌)〕
MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)約3割の健常人の鼻腔、皮膚の常在菌
*MRSA(メナシリン耐埋黄色ブドウ球菌)全てのβラクタム系抗菌薬に高度耐性
MSS(メナシリン感覚性ブドウ球菌群)(鼻腔、皮膚の常在菌)
*MRS(メナシリン耐性黄色ブドウ球菌群)
*VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)

好気性グラム陰性菌
P.aeruginosa(緑膿菌)
B.cepacia/S.maltophilia(セパシア/マルトフイリア)
E.coli/K.pneumoniae (大腸菌/肺炎桿菌)
S.marcescens(セラチア)
L.pnumophilia(レジオネラ・ニューモフィーラ)
Salmonella sp/Campylobacter(サルモネラ/キヤンピロバクター)

〔特徴(*注目されている耐性菌)〕
*MDRP(多剤耐性緑膿菌)
 緑膿菌は早朝の水道水中にも多く存在し消毒薬にも耐性な株が多い、メタロβラククマーゼを有する株に注意。
 構成型遺伝子としてβラクタマーゼを有するため抗菌薬に耐性をしめす水道水中に存在し消毒薬にも抵抗する。
*ESBLs(拡張型βラククマーゼ)を有する大腸菌及び肺炎桿菌が重要、第三世代セフェムの汎用に注意。
 人工呼吸器の蛇腹や流し台周辺を汚染している場合が多い、三方活栓やルート汚染に注意。クーリングタワーの清掃とボイラー温度の低温に注意。
 病院の患者給食による食中寺、鶏卵の中を汚染しているS.enteritidisが注目されている。

〔嫌気性菌

C.difficile(クロストリジウム・デイフイシル)

〔特徴(*注目されている耐性菌)〕
抗菌剤投与後に発症する偽膜性大腸炎や出血性腸炎の原因薗として注目されている。芽胞菌が汚染の原因。

真菌
C.albicans(カンジダ・アルビカンス)
Asperugillus sp(アスペルギルス属)
C.neoformance(クリプトコッカス・ネオフォルマンス)

〔特徴(*注目されている耐性菌)〕
FCZ(フルコナゾール)の汎用によりC.krusei、C.glabrata等の耐性株が増加。
室内空気中に浮遊している胞子が原因となる。HEPAフィルターやオゾン等で除菌または殺菌する。
ハトの糞便中で菌が増殖し風によって経気道的に吸引され感染する。ベランダの清掃が重要。

〔結核
M.tuberculosis(結核菌)

〔特徴(*注目されている耐性菌)〕
先進国中で日本の結核罹患率は第1位。結核を疑う事、独立空調病室(陰圧)設置、ファイバー消毒等が重要。
*MDR−TB(多剤耐性結構菌)

寄生虫
Cryptosporidium parvam
主に本寄生虫感染のエイズ患者の下痢便が汚染源となる。塩素にも抵抗性を示す。

針刺し事故
HBV(B型肝炎ウイルス)、HCV(C型肝炎ウイルス)、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、
HTLV一1(成人T細胞白血病ウイルス)
Treponema pallidum(梅毒トレポネーマ)

3.消毒薬の適性使用について
 生体、環境および耐熱性のない器材について、消毒薬による消毒を行うが消毒薬の使用にあたっては、効力、材質におよぼす影響、及び患者や医療スタッフへの毒性を考慮する必要がある。がしかし現実には誤った使い方が行われている事が少なくない。

4.感染対策への情報提供
 微生物検査室は、院内全体の培養検査データを集約している部署であり、病院内での特定微生物の院内流行(アウトブレイク)をいち早くキャッチできる部署である。感染対策支援を視野にいれた微生物検査でまず第一になすべきことは検査結果を迅速に報告することである。中でも@伝染性の微生物を検出した場合、A血液や髄液陽性例、B担当医より結果をいそいで連絡するよう依頼された場合などは特に成績を急ぐ。

5.アウトブレイク時の検査室の対応
 今回は症例や院内感染の事例をグループに別れて討議を行い、一定の時間内に結果を出す、という非常に実践的な研修型ワークショップであった。

6.感染制御
 アウトブレイクを早期発見し、対応することは感染拡大の阻止のため最も重要な事項である。日常検査データや各種の集計データを常に解析すること(サーベランス)によって早期発見が可能であるとともに、病棟へのラウンドを付け加えることによって発見体制の強化が図れる。

7.針刺し事故対策
 針刺し事故の原因3大機材は注射針(28%)、翼状針(21%)、縫合針(11%)であり発生時の状況はリキャップ(24%)、廃棄容器まで(23%)、押されたり、ぶつかったり(20%)と計算上リキャップを禁止すると針刺し事故はすくなくとも3分の2になるはずである。

8.抗菌薬の使い方
 近年、薬剤耐性菌は病院だけでなく市中にも蔓延している、しかしながら画期的な新薬の開発が当面のぞめない現状では抗菌薬の使い方、つまり既存の抗菌薬をいかにうまく使用するかが感染症治療の重要な課題となっている。適正使用として@個々の患者における有効性と安全性の向上、A耐性菌を増加させないための配慮、B医療資源の有効活用を考慮しなければならない。

9.薬剤耐性菌対策
 抗菌薬をより効果的に使用するためにも体内動態に基づいたevidence、さらに宿主状態のレベルに応じた抗菌薬を選択することが必要である。

10.院内ウイルス感染対策
 代表的なウイルス感染症について病原体、感染経路、潜伏期間、症状、治療、予防法、二次感染対策の説明があった。

<まとめ>
 以上のように大変盛りだくさんな内容で、頭がパニックに陥りそうではありましたが、たくさんの最新の知識を得ることができました。院内感染は患者にとって多大な不利益を生むだけでなく病院にとっても過大な負担を及ぼします。検査室は院内感染対策に必要な大部分の情報を得る事のできる部署であり、その重要性はいうまでもありません。検査室はこの役割、責任を十分に自覚し業務にのぞまねばならないと思います。また院内感染対策はたった1人の医療従事者が怠ることで他の大勢の職員が取り組んでいることがすべて無駄になるという側面を持っていますので、個々の職員すべてが、院内感染を常に意識しながら業務にあたることが重要であると感じました。