学術論文

当院における脈波伝播速度と総頚動脈エコーの関係について

榛原町立榛原総合病院         
中村 知世、山本 周一、福田 実恵子

《はじめに》
 当院のある榛原町の人口は現在19089人であり、65歳以上の高齢者といわれる人口が4117人で全体の21.5%を占めている(図1)。5年後には3〜4人に1人は65歳以上の高齢者となり、町は高齢化を迎えようとしている。
 近年、動脈硬化により併発する脳梗塞や心筋梗塞は単に死亡するだけでなく、治療や「寝たきり」になることにより個人的にも社会的にも負担が大きくなってきている。そこで当院では平成15年4月1日より動脈硬化外来が開設された。

《目 的》
 動脈硬化の程度を簡便に知ることの出来る脈波伝播速度(PWV)を測定している施設が増加している。今回は、『糖尿病、高脂血症、高血圧の既往がある場合の脆波伝播速度(PWV)と総頚動脈(IMT)の関係』、『高齢化を迎えようとする周辺地域の動脈硬化の実態を知る』ということについて若干数であるが検討した。

《対象と方法》
 対象は、当院の動脈硬化外来を受診し、医師の指示により脈波伝播速度(PWV)測定と総頚動脈エコー検査を受けた患者54名(男性24名、女性30名)、平均年齢は74.9歳であった。今回は基礎疾患の有無に関係なく検討した。
 方法は、PWV測定には日本コーリン社製フォルムPW/ABI(formPWV/ABI)を使用し、偶然にも左右の相関が0.88と良かったため平均値を用いた。IMT計測はGE社製LOGIQ500、7.5MHzリニアブローブを用い総頚動脈のIMTを1cm間隔で3点計測しその平均値を求めた。また、肥厚部分を認めた場合は最大肥厚部位と頭側、足側へ各1cm離れた点の計3点を計測しその平均値を求めた。左右の相関は0.79であったため左右平均値を用いた。

《結 果》
 PWVの正常域とされる〜1600cm/secをA群、軽度異常域とされる1600〜2000cm/secをB群、異常域とされる2000〜cm/secをC群とした。A群は13名で平均PWV1486±72.7cm/sec、IMT1.4±0.7mm、ABI1.2±0.04。B群は23名でPWV1779±106.3cm/sec、IMT1.1±0.3mm、ABI1.1±0.08。C群は18名でPWV2264±105.3cm/sec、IMT1.6±0.7mm、ABI1.0±0.13であった(図2)。
 続いて糖尿病、高脂血症、高血圧症とPWVの関係について検討した。
血糖値正常グループのPWV値は平均1800cm/secの軽度異常域であったが、血糖値が境界型、糖尿病型のPWV値は異常域を示した。またIMTにも肥厚が認められた(図3)。高脂血症例では、わずかにPWV高値とIMTの肥厚が認められた(図4)。高血圧症例でも正常域と軽症、中等症以上のグループの間に明瞭な差が認められた(図5)。
 以上のことから糖尿病、高脂血症、高血圧症になった場合の動脈の状態をPWV値、IMTは反映していると思われた。
 また今回対象となった54名中35名に腹部エコー時、腹部大動脈の検査も施行されていたので違いを検証した。腹部大動脈のプラークの有無でグループを分け、対象範囲は総腸骨動脈との分岐手前までとした。PWV値に明瞭な差が認められた。しかし大動脈にプラークを認めた20例の中にPWV値が軽度異常域であったのに対しIMTに肥厚を認めない例を3例認めた(図6)。

《考 察》
 動脈硬化の原因となる糖尿病、高脂血症、高血圧症のPWV値とIMTの関係について検討した。対象の多くが高齢者でありPWV値、IMTのデーターが全体的にやや高値であったが、PWV値とIMTはそれぞれの疾患の重症度をよく反映していると思われた。このことから動脈硬化の程度を知るにはPWV測定と頭動脈エコーの2法併用はスクリーニング検査として有効であると思われた。さらに動脈硬化の程度を知るには、それぞれの疾患の血管に対する特異的な影響もあると思われるが、総頚動脈だけでなく腹部大動脈さらには末梢動脈の状態を簡便に検査できるエコーなどを駆使して把握しておく必要があるとも思われた。それは高齢者の増加する当院周辺地域の脳梗塞、心血管疾患、閉塞性動脈硬化症を発症するハイリスク患者を少しでも早期に発見し、早期治療を開始することができると考えられる。また高齢者のみならず若年層にも動脈硬化について感心を持ってもらい、QOLのためにも早期に治療を開始できるよう啓発が必要であると思われた。