下垂体の近くに発生した腫瘍に対する治療の原則は,「腫瘍摘出は安全な範囲で行い,残存腫瘍に対しては薬物治療やガンマナイフ治療を行う」であります.しかし,私は,「良性腫瘍は,すべての腫瘍を摘出することで完治する」をモットーに,低侵襲でしかも安全な摘出手術の開発に取り組み,可能な限り腫瘍を全摘出することを目指しております.世界に先駆けて開発した拡大経蝶形骨手術(拡大Hardy手術とも呼ばれます)に関して,自著「やっとわかった!拡大経蝶形骨手術」(メジカルビュー社より出版)で詳細に報告しています.ただ,これは脳神経外科の専門医用の手術書ですので,内容が難解です.
患者さんにとって脳腫瘍の手術を受けるということは,人生でおそらく初めての重大危機であります.すべての患者さんや家族の方は,一回の手術で完全に治ることを期待して,一大決心をされて,不安いっぱいの気持ちで,手術に臨んでおられると考えております.また,腫瘍をすべて摘出したい反面,手術に伴う後遺症などは,どうしても回避したいというお気持ちがあることも理解しております.われわれ医療スタッフもまた,できれば一回の手術で完治していただきたいし,後遺症はなんとしても避けたいという気持ちは,患者さんや家族の方とまったく同じです.
医療不信や医療訴訟の増加など近年の医療環境の変化により,安全な手術に重点を置き,まったくリスクのない手術しか行わない脳神経外科医が増加することが考えられます.このことは,患者さんにとって極めて不幸なことと考えています.このようなことから,「患者さんの認識と医療スタッフの認識とのギャップ」を解消するため,インフォームドコンセントに重点を置き,患者さんが医療スタッフと共通の認識のもと治療を受けていだだけるように努力しています.