JASBRA アルコール性肝障害診断基準 2011年版(2021年小改訂)
「アルコール(AL)性」とは,長期(通常は5年以上)にわたる過剰の飲酒が肝障害の主な原因と考えられる病態で,以下の条件を満たすものを指す.
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①過剰の飲酒とは,1日平均純エタノール60g以上の飲酒(常習飲酒家)をいう.ただし女性やALDH2活性欠損者では,1日40g程度の飲酒でもAL性肝障害を起こしうる.
- ②禁酒により,血清AST,ALTおよびγ-GTP値が明らかに改善する.
- ③肝炎ウイルスマーカー,抗ミトコンドリア抗体,抗核抗体がいずれも陰性である.
- 1.肥満者におけるAL性肝障害
肥満者では,1日平均純エタノール60gの飲酒に満たなくてもAL性肝障害を起こしうる.
- 2.肝炎ウイルスマーカー,抗ミトコンドリア抗体,抗核抗体陽性例についての取り扱い
肝炎ウイルスマーカーまたは抗ミトコンドリア抗体や抗核抗体が陽性であるが,病理組織で他の病因よりAL性の変化が明らかに強い場合,肝炎ウイルスマーカー陽性などほかの病因を付記してAL性肝障害と判断できる.
- 3.飲酒状態の客観的指標
過剰飲酒の把握は問診によるが,飲酒のバイオマーカーとして糖鎖欠損トランスフェリン/トランスフェリン比(%CDT)が陽性であれば診断はより確実になる.
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1.アルコール性脂肪肝(Alcoholic fatty liver)
肝組織病変の主体が,肝小葉の30%以上(全肝細胞の約1/3以上)にわたる脂肪化(fatty change)であり,そのほかには顕著な組織学的な変化は認められない.
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2.アルコール性肝線維症(Alcoholic hepatic fibrosis)
肝組織病変の主体が,①中心静脈周囲性の線維化(perivenular fibrosis),②肝細胞周囲性の線維化(pericellular fibrosis),③門脈域から星芒状に延びる線維化(stellate fibrosis,sprinkler fibrosis)のいずれか,ないしすべてであり,炎症細胞浸潤や肝細胞壊死は軽度にとどまる.
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3.アルコール性肝炎(Alcoholic hepatitis)
肝組織病変の主体が,肝細胞の変性・壊死であり,1)小葉中心部を主体とした肝細胞の著明な膨化(風船化,ballooning),2)種々の程度の肝細胞壊死, 3)マロリー体(アルコール硝子体),および4)多核白血球の浸潤を認める.
- a.定型的:1)-4)のすべてを認めるか,3)または4)のいずれかを欠くもの.
- b.非定型的:3)と4)の両者を欠くもの.
背景肝が脂肪肝,肝線維症あるいは肝硬変であっても,アルコール性肝炎の病理組織学的特徴を満たせば,アルコール性肝炎と診断する.
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4.アルコール性肝硬変(Alcoholic liver cirrhosis)
肝の組織病変は,定型例では小結節性,薄間質性である.肝硬変の組織・形態学的証拠は得られなくとも,飲酒状況,画像所見および血液生化学検査から臨床的にアルコール性肝硬変と診断できる.
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5.アルコール性肝癌(Alcoholic hepatocellular carcinoma)
アルコール性肝障害で,画像診断,または組織診断で肝癌の所見が得られたもので,他の病因を除外できたものをAL性肝癌と診断する.
- 1.アルコール性脂肪肝の臨床的診断と30%未満の脂肪化の取扱い
肝生検が施行されていないが,画像診断で脂肪肝に特有な所見が得られた場合には,AL性脂肪肝として臨床的に取り扱う.脂肪化が肝小葉の30%未満の場合,アルコール性脂肪化(alcoholic
steatosis)と記載し,アルコール性脂肪肝と区別する.
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2.アルコール性肝炎の臨床的診断における重症度(JAS)の取扱い
アルコール性肝炎は,飲酒量の増加を契機に発症し,AST優位の血清トランスアミナーゼの上昇や黄疸を認める.著明な肝腫大,腹痛,発熱,末梢血白血球数の増加,ALPやγ-GTPの上昇を認めることが多い.このような所見を伴う場合,臨床的アルコール性肝炎として取り扱う.一部のアルコール性肝炎では,禁酒しても肝腫大などアルコール性肝炎の症状が持続するものもあり,肝性脳症,肺炎,急性腎不全,消化管出血などの合併症を伴う場合は予後不良である.別表のAL性肝炎重症度(JAS)スコアで10点以上の症例は,重症(AL性肝炎)であり,積極的な治療介入が必要である.8-9点の症例は10点以上に移行する可能性があり,注意深い経過観察が必要である.3点以上の項目がある場合もその障害に即した早期からの治療介入が望まれる.
Japan Alcoholic Heapatitis Score (JAS)
Score |
1 |
2 |
3 |
WBC (/μl) |
<10,000 |
10,000≤ |
20,000≤ |
Cr (mg/dl) |
≤1.5 |
1.5< |
3≤ |
PT (INR) |
≤1.8 |
1.8< |
2≤ |
Total Bil. (mg/dl) |
<5 |
5≤ |
10≤ |
GI bleeding or DIC |
- |
+ |
|
Age (yo) |
<50 |
50≤ |
|
JAS:≤7:mild, 8-9:moderate, 10≤:severe
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3.アルコール性慢性肝炎(Alcoholic chronic hepatitis)
高田班診断基準(案)でいわゆる「大酒家慢性肝炎」とされた病型は,飲酒によりウイルス性慢性肝炎と類似の門脈域に小円形細胞浸潤を認める症例であり,今後の集積が望まれる.
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4.AL性肝障害の診断基準を現在満たさないアルコール性肝硬変,アルコール性肝癌の取扱いについて
アルコール性肝硬変,アルコール性肝癌では,過去にアルコール性肝障害の診断基準を満たしていた場合は,現在の飲酒量や禁酒による血清AST,ALT,γ-GTP活性の改善などアルコール性肝障害の診断基準を満たさなくてもアルコール性肝硬変,アルコール性肝癌と診断できる.
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5.非特異的変化(Non-specific lesion)
飲酒による肝機能異常を認めるが,組織学的にほぼ正常の像しか認められない症例をさす.
アルコール性肝障害診断基準見直しのためのワーキンググループ委員
高後 裕 旭川医科大学 消化器・血液腫瘍制御内科
竹井謙之 三重大学医学部 消化器内科
堤 幹宏 金沢医科大学 消化器内科学 (肝胆膵内科)
中野雅行 大船中央病院 病理科
堀江義則 国際医療福祉大学 臨床医学研究センター
所属は2011年初版発行時点
(アイウエオ順)
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