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家庭医療学研究会会報 第41号 |
発行日 : 2001年2月1日 |
特集/第15回家庭医療学研究会記録 |
主催者からの総括 札幌医大 木村眞司 山本和利
参加者増加に伴い、今回の大会は東京四谷の主婦会館プラザエフで行った。参加人数は過去最高と思われる169人であり,学生さんも含めすべての層にわたり熱心に御参加頂いた。ワ−クショップはどのグル−プも盛り上がりを見せ、また、口頭での発表やポスタ−セッションにおいても熱心に質疑応答がなされていた。
特別講演においては国立精神神経センター精神保健研究所の三宅由子先生が「臨床研究の計画法」と題し、臨床研究の計画から実行までのイロハを大変分かりやすく解説され、好評を得た。 基調講演では、山本が各セッションの紹介を交えながら、医療における科学性・人間性について言及し、21世紀に向けてEBM (evidence- based medicine)とNBM (narrative-based medicine)に基づいて患者中心の医療を行っていくことの重要性を述べた。 それぞれの担当者が工夫を凝らしたワークショップの後に開かれた懇親会においては多くの参加者が意見交換をしながら親交を深めている様子が随所に見受けられた。 今回の大会は、今後の家庭医療学研究会の大いなる発展を予感させる盛り上がりようであった。大会運営に御協力いただいた皆様方にこの場をお借りして心より御礼申し上げたい。 ワークショップ担当者からの報告 (1) EBM診断編
札幌医大 宮田靖志
13名の参加を得てEBM診断編をワークショップ形式で実施しました。
虫垂炎をヘリカルCTで診断することを求められた家庭医が、論文にあたりその論文を批判的に吟味し、検査の有用性を検証していくという過程をシナリオに沿って展開しました。まず批判的吟味の基礎として、至適基準、2x2表、感度・特異度、陽性的中率・陰性的中率、オッズ・確率、尤度比、事前確率・事後確率、ベイズの定理の理解を深めていただき、それをもとにシナリオの問題を解決するという手順で進行し、あくまでも自己学習を促進する形式をとりました。 現実の臨床の場においてもさまざまの診断検査を毎日実施している臨床医が、その検査の特性を理解し、検査の結果をどう解釈していくか、ということを再確認していただける事を目的として企画したものでありましたが、小人数のワークショップ形式で実施したことで各参加者の先生方も積極的に討論、グループ作業に参加していただくことができたと思われ、楽しい時間を過ごしながら目的を達せられたように思います。ただ、3時間と充分な時間があると思っていましたが、実際には時間に追われてじっくりと討論できなかった面も多々あったのがやや残念に思え、これが次回への反省点であろうかと思います。 参加者の事後アンケートでは、このワークショップが日常臨床に概ね役立つ、との回答をいただき当初の目的はまずまず果たせたとの評価をいただけたものと思われ、さらに次回へ向けて活力が湧いたところでワークショップを終了致しました。 今後も家庭医療の分野でのEBMの普及を各先生方とともに実行していきたいと考えているところでありますので、どうぞ宜しくお願いいたします。 (2) EBM治療編 作手村国保診療所 名郷直樹
EBM治療編は、名郷と3名のチューター(三瀬、八森、古賀)との協力により、3グループに分かれ、小グループ学習とレクチャーの組み合わせて行った。3つの患者シナリオを例にEBMのステップ1-5のプロセスを学習した。題材は、インフルエンザに関するザナミビルの効果についての論文(Lancet 1998;352:1877-81)を取り上げた。
参加者は学生を含め初心者が多かったが、各グループでの議論は活発で、むしろ時間が足りないほどであった。EBMの実践の目的が、標準化でなく個別化にあること、目の前の患者のためであることを強調してセッションをすすめた。同じ論文を読んでも、患者シナリオによって行動はまちまちで、EBMの実践が医療の個別化である点がある程度浮き彫りに出来たと思われる。 WS後のアンケートでもおおむね良好な評価であった。 (3) EBM×NBM=患者中心の医療 日鋼記念病院 葛西龍樹
予定の20名を上回る参加者があり、熱心に意見が交換されました。特に、これから専門家庭医を目指す若い人たちの「学びたい」という熱い思いに大変励まされました。
いままで、どうしても疾患の議論だけに偏ったり、病気の心理社会的な考察だけに偏ったりしがちだったアプローチに対して、当センターの教育ネットワークの指導医グループの協力を得て、家庭医療学本来の、両者をバランスよく実践するための方法を初めて紹介しました。教育のために、患者中心の医療の基本を「疾患diseaseの理解にはEBM、そして病気illnessの理解にはNBM」という分かり易い、しかも深い実践フォーマットにしました。症例は当センターのレジデントが実際に関わっている家族で、日常よく遭遇するありふれた家族であっても、家庭医が全力で人間関係を構築し、家族・地域のコンテクストの中から問題を捉えるとどうなるかが分かっていただけたのではないでしょうか。 今後さらに現場からのフィードバックによって方法論を改良し、これからの家庭医療学研究会でまた発表していきたいと思います。最後に、参加してくれた皆様と教育ネットワークの指導医グループの皆様に感謝致します。どうもありがとうございました。 (4) 「家族ドラマ」の体験 竹中医院・名古屋大 竹中裕昭
このワークショップは参加者がわずか5名で、家族アプローチに対しては「総論賛成、各論?」という声が如実に現れた形となった。参加者も当初は「えらいところに来てしまった」というような戸惑いを持たれていたことであろう。
しかし御協力いただいた6人のスタッフが最初に行ってくれたロールプレイの熱演でワークは軌道に乗り始めた。その後は実際に臨床で家族面接を進めていく過程を追いながらワークを進めた。 面接を行う前のカンファレンスを想定した役作りでは、家族ライフサイクルや家族図を用いて「ワイドショーのノリ(?)」で各自の考えをドンドン述べてもらった。 この頃になると少人数が幸いして、参加者はすっかり打ち解けた雰囲気で、実際のロールプレイに突入することができた。 時間の都合上、2セッションしかロールプレイを行えなかったが、行っていく過程で参加者が自然にポイントを押さえながら行っていただいたことには甚だ感服した。 ワーク終了後にいただいた御感想でも、ほぼ御満足いただけたようで、胸を撫で下ろしている。参加者の御感想の結果は、今後何らかの形でフィードバックしたいと考えている。 最後にこのような機会を与えていただいた山本和利大会長、大会スタッフの皆様、並びにボランティアで事前の打ち合わせから多大な御協力をいただいたスタッフの皆様に心より感謝申し上げたい。 (5) プライマリ・ケア外来指導シミュレーション 生協浮間診療所 藤沼康樹
診療所研修指導のおもしろさを伝えることを目標に,企画しました。予想を遙かにうわまわる参加者があって,この領域への関心の高さを感じました。
内容的には,4名の研修医役の先生方(本多,阿部,西村,福島)に診療所での外来診療をプレゼンテーションしてもらい,それに対してどういう指導をするかをスモールグループで討議してもらいました。さらに,グループの中から代表を選び,研修医に指導をしてもらいました。模擬患者ならぬ模擬研修医をつかった研修指導ロールプレイといったところでしょうか。計6例のケース(すべてリアル・ケースです)についてこのようなロールプレイを行いました。合間に,私(藤沼)が研修指導法に関するミニレクチャーをおこないました。 北大の大滝先生によるとこのようなワークショップはこれまであまり見たことがないとのことです。私は1996年にワシントンで行われたSGIM(米国総合内科学会)の総会に参加しましたが,その時に見たオクラホマ大学の先生方がやっていた外来指導医養成のためのワークショップがとても印象に残っていまして,これを参考にして企画をくみました。SGIMのワークショップは研修医の書いたカルテを参加者に配り,指導医として何をコメントするかというような内容でした。 今回私たちは,カルテではなく,模擬研修医を使ったことと,指導場面のロールプレイを盛り込んだ点で多少のオリジナリティを示せたかなと思っています。配布した資料はパワーポイントのファイルで提供できますので,興味のある方は以下のアドレスまでメールをいただければと思います。yasuki-f@t3.rim.or.jp(藤沼) (6) 「家庭医診療所実習・研修指導の手引き書」作成 内山クリニック 内山富士夫
このワークショップでは、プライマリケア・家庭医療診療所での学生や研修医に見学実習・研修の場を提供することを目的とする『実習手引き書』の作成を目標に開かれた。事前に賛同者による電子メールによる意見交換を進め、それをもとに当日議論を深めた。
コーディネーターは内山が担当し、18名が参加した。 まず、内山から、挨拶を兼ね、これまでの進行状況が報告された。病院・専門医の軸に研修の場やロールモデルが限られている現状から、診療所・家庭医の軸でも研修の場を提供しようという基本的概念が示された。 引き続き、白浜雅司先生の司会により、自己紹介を兼ね、実習へ行った経験、実習を受け入れた経験、大学などから実習へ送り出した経験から意見交換した。 特に興味深いところ、見せることができるものとしては、往診(在宅医療)・夜間の対応・医師の生活・医療経済(開業できるか?お金はどのくらいかかるか)の4項目が挙げられ、手引書でも重点をおくこととなった。 続いて、日本外来小児科学会の『医学生のための小児科クリニック実習 指導のてびき』の目次項目に従って、手引き書の項目構成、及びその中身が検討された。 小児科の「てびき」の章に加え、「在宅医療」「医師の素顔に触れる」「地域の医療福祉資源との連携」の章が独立し、「乳児検診」「予防接種」の章を統合し「予防医学」の章とする案ができた。その他の項目についても家庭医ならではの視点を盛り込むこととなった。実習の受け入れ態勢の準備や、実習の評価についても言及があった。 話題は幅広く、この日の討論では手引き書を作成するまでには至らなかった。引き続き検討を進めるため、従来のメールでの議論の参加者に、この日の参加者を加え、メーリングリストを作成することが決定された。現在、引き続きの議論が進行中である。 (7) 総合診療・家庭医療と総合病院精神医学の接点 佐賀医大 佐藤 武
当ワークショップ「家庭医療・総合診療と総合病院精神医学の接点」では、はじめに総合外来における精神障害の現状や課題について約1時間で提示し、残り2時間で参加者から精神科に対する意見や要望も含めて質疑応答をおこなった。
参加者からの意見を要約すると、1)総合診療では患者の心理的要素が重要だが、誰に相談したらよいか.2)どういう場合に精神科へコンサルテーションをすべきか.3)患者が精神科受診に抵抗する場合、どのようにしてアプローチしたらよいのかわからない.4)精神科医とのコミュニケーションが難しい.気軽にコンサルテーションしにくい.5)患者・医師に中立で客観的なアドバイスが欲しい.6)コンサルテーション後のフィードバックが重要。7)常勤精神科医による定期的な診療カンファランスが教育上も有用、などが挙げられた。日常診療において精神科との接点が乏しいことが問題となっているが、家庭医と精神科医の間で接点を形成することは、家庭医のみならず精神科医自身の教育の向上が期待される。そしてこれらの共同作業を通じてより実践的な臨床研究が期待されている。 なお、当ワークショップでの討論をもとに、2001年初夏に開催される第97回日本精神神経学会において「非精神科医のための精神科研修―家庭医の意見から−(仮題)」として発表したい。 口演発表の座長からの報告 口演発表 I (診療・実践)
名古屋大 鈴木冨雄
発表1は「問題患者」とされ、ステロイド依存症となったCOPDの1症例に対して、共感的面接、自主性の尊重を基盤に治療を開始し、医師患者関係を良好に改善させ、薬物依存離脱、問題行動消失に導いた過程の発表であった。患者の立場からのアプローチにより、きちんと現状と問題点を捉えて解決に導く手法は、遠回りのようで、本質的な医師患者間の信頼関係を作り上げる。それが見事に示された例であると思われた。
発表2は数名の家庭医療学研究会会員医師に対して電子メールにて「説明しにくい身体症状」を持ったある患者のシナリオと質問表を送り、得られた回答を質的研究法によって解析し、そのような症状を持つ患者に対しての診療と医学教育のあり方を検討する手がかりにしていくという発表であった。会場からは家族的なアプローチの大切さなども提案され、今後の継続的な研究が楽しみな分野であるとの感想を抱いた。 発表3は名古屋市医師会会員を対象にしたアンケート調査にて、プライマリケア外来においてアルコール問題がどの程度認識されているかを調べたものであるが、この調査では、アルコール問題に関するプライマリケア医の認識度はきわめて低いという結論が出され、医療者を対象とした啓蒙的な活動も必要不可欠であると思われた。また会場からはアルコール問題が認識された後の次の治療的アプローチの難しさも指摘された。 発表4はマイコプラズマ肺炎の時に寒冷凝集素産生に伴い血液凝集が起き、自動血球分析装置によるヘマトクリットが低化し、結果として平均赤血球ヘモグロビン濃度が上昇することを診断に応用した発表であった。独特の視点が非常に興味深く、実際の臨床上どのように利用していくかが今後の課題となると思われるが、特異度に関しては83%と高く、診断確定にかなり有用に寄与するものと考えられた。 発表5は頭痛、全身倦怠を主訴に筑波メデイカルセンター病院総合診療科を受診した初診患者におけるうつ病の頻度を調査したものであった。結果は外国の文献的頻度よりは少なかったものの、比較的その頻度は高く、特に頭痛、全身倦怠の2つの主訴を同時に持つ患者の6割がうつ病と診断されていたのは興味深く、認識を新たにさせられた。 全体を通し、全ての演題が、プライマリケア医レベルで日常多く目にする疾患、問題点を独自の切り口で解析、検討したものであり、今後の課題の指摘も含め活発な討論が行われた。 口演発表 II (教育) 佐賀医大 小泉俊三
「(6)家庭医療における医療面接の自己評価(田中隆夫氏;日鋼記念病院・北海道家庭医療学センター)」では、PendletonのConsultation Rating Scaleを参考に作成されたスケールを用いて、レジデントが診療所外来での自らの診療を自己評価した結果が発表された。患者体験を、地域・家庭を含め、全人的に理解し、共通の理解基盤を見出すことが目標とされたが、自己評価そのものについては評価基準が設定しがたいなどの問題が指摘された。実際には自己評価に基づいて指導医とともに話し合ったことが、レジデントの動機付けに大いに役立ったようである。
「(7)卒後3〜5年目レジデントの研修医への指導スタイルと、研修満足度との関連を検討する質問紙票、開発の試み(木村琢磨氏;国立病院東京医療センター総合診療科他)」では、レジデントの研修医指導スタイルに、一緒に行動するタイプと研修医の個人行動を容認するタイプがあることが明らかにされたが、10人中8人は一緒に行動するタイプでそのほうが研修医の満足度が高いことが示された。研修医の満足度を基本とする指導医評価基準を作成することの意義は大きい。 「(8)Evidenceに基づく臨床教育(定本清美氏;東邦大学附属地域連携室他)」では、総合診療における臨床実習の試みとして、「関節痛」を例に、患者の症状に基づく多角的なアプローチが紹介された。関節痛を直ちに整形外科疾患とするのではなく、全身疾患を念頭に頻度の高い疾患を中心に診断ストラテジーを立ててゆく考え方の重要性が強調された。 「(9)2人の医学生に対する質的研究指導の経験(大西弘高氏;University of Illinois at Chicago、Dept. of Medical Education、佐賀医科大学総合診療部)」では、6年生の臨床疫学選択コース実習で質的研究課題を選んだ2名の学生に対する指導体験が紹介された。一人は頭痛を主訴に総合外来を受診した患者の受療行動を事後の電話インタビューによって解明しようとした研究、2人目は、紹介状なしに受診した患者の構造化面接を通じてセカンドオピニオンのあり方を考察した研究で、どちらも家庭医療学にとって重要なテーマであるが、学生の自主性を尊重してテーマを絞り込み、質的研究の方法論も含め、研究計画の作成を指導していった過程が紹介された。 「(10)家族カンファレンスロールプレイを用いたレジデント教育(松下明氏;川崎医科大学総合臨床医学)」では、日常診療で必要な家族面接を有用なものにするため、家族ライフサイクルと家族図を検討した上で行う家族カンファレンスをロールプレイで模擬的に実施する試みが紹介された。綿密なシナリオが作成され、討論を通じて教育効果が得られたとの発表であった。同様の試みは、「ワークショップ(4):出会いを通した「家族ドラマ」の体験(コーディネーター竹中裕昭氏)」でもその実際の風景が演じられ、臨場感を持って理解することが出来た。 口演発表 III (現状評価) 北海道大 前沢政次
このセッションは力作ぞろいだったが、何とも時間が30分以上遅れており、次のプログラムが特別講演という悪条件で、質疑ができなかったことを演者の皆様に大変申し訳なくお詫びしたい。
(11)「2年の間にどのくらいの人がかかりつけ医を新たに保有したか?選ばれたのは診療所の医師か、それとも病院の医師か?―全国無作為抽出標本データを用いた検討―」は大野母子氏に代わって松村真司氏(東大医学教育国際協力センター)が口演発表された。家庭医療の発展のためには市民の理解が必要なわけだが、高齢者やすでに慢性疾患をもつ人は診療所よりも病院にかかりつけ医をもつ傾向にあるとの結論であった。この現実は謙虚に受け止め、次世代にどう働きかけるべきかを考えなければならないだろう。統計的な処理も的確になされ他の模範となる調査である。 (12)「家庭医療学の教育施設におけるケアの継続性」山田康介氏(日鋼記念病院北海道家庭医療学センター)はアンケート調査の段階であるが、臨床研修中にハーフデイバック方式を取り入れるなど、わが国で稀有な試みをしておられ、そうした新しい研修方式による診療が患者の側にどのように受けとめられているか検討したものである。約3分の2の患者がレジデントの診療態度などに肯定的な評価をした。今後質的研究なども取り入れ、地域住民のホンネを考察されることを期待したい。 (13)「専門医による総合診療科外来に対する評価」.武田裕子氏(琉球大学医学部附属病院総合診療科・地域医療部)はスタートまもない総合診療外来に関してのアンケート調査をされた。周囲の専門診療科からよい評価を得るにはなお多くの時間を要するであろうが、他からの評価を最初から大切にする姿勢はすばらしい。ある意味で勇気のいる調査である。結果報告にあるように、専任教官が一日も早く配置され、追跡調査もされることを期待したい。 (14)「日本語版Medical Interview Satisfaction Sca1e(MISS)を用いた総合診療部と循環器内科の患者満足度の比較一中間報告一」前野貴美氏(東京大学大学院医学系研究科)はまだ日本で行われていないcommon diseases診療に対する患者側の評価に関する研究を報告した。中間報告ではあるが興味深い。日本語版MISSの信頼性は高いようであるが、診療科間の患者満足度比較はさらにきめ細かな因子の検討が必要と思われた。 (15)「家庭医が行う家族アプローチ法〜家族の機能不全と家族問題との関連〜」竹中裕昭氏(竹中医院・名古屋大学医学部附属病院総合診療部)の取り組みは、家庭医療の根幹をなすテーマである。結果的としては家族機能不全と患者が認識する家族問題との間には、必ずしも相関しないようであるが、患者自身の家族観や家族役割認識など、家族関係の中に介在する要素の検討が待たれる研究である。 研究内容も単なるアンケート調査から、妥当性が評価されている質問紙や評価尺度を用いる方法、分析手法も一層手堅くなってきたことは喜ばしい限りである。発表の中にはまだ未完成のものもあったが、今後の発展を期待したい。 ポスターセッションの座長からの報告 一般演題 I
生協浮間診療所 藤沼康樹
家庭医療学研究会らしい演題が発表されました。柳原病院の福島先生は臨床倫理の4分割表(Jonsen)を,病棟患者の多職種カンファレンスで使用し,対応の難しい患者のケアに関する意志決定に有用であったという報告をされました。カンファレンス参加者から事後的に聞き取りを行いグラウンデッドセオリーに基づく分析を行い,4分割表がどのような役割を果たしたかを提示されました。豊明栄病院の古川先生は,精神科医として患者のケアをどういう哲学に基づき実践されているか,そしてよく見られる精神症状にどう対応するかということをご自身の経験を交えて個性的に提示されました。津軽保健生協健生病院の竹内先生は,「お盆の過ごし方」を聞くことによって,患者の家族の構造や力動にアプローチしている実践を報告されました。地域の文化や習慣などを考慮することで,より有効な家族指向性医療が可能になるということがわかりました。協立総合病院の矢田先生は,医局にインターネット常時接続サービスを導入することによって,Medlineの利用者が増え,問題解決行動に一定の影響があったことを報告されました。インターネットへの敷居の高さを技術的に解消することが,EBM普及に大切であることを示されました。
一般演題 II 日鋼記念病院 葛西龍樹
ポスター5〜8の座長をさせていただきました。それぞれに力作の研究発表でした。ただ、残念だったのは、ポスター会場が狭かったために、隣のセッションの声が聞こえてしまうので、同時に行うことが困難でした。同じ時間帯にフロアーは使用されていませんでしたので、そこでスライドを使ってプレゼンテーションしてもらった方が良かったのにと思いました。また、研修プログラム紹介のポスターがほとんど顧みられず、ポスター前での演者との意見交換ができなかったことの不満が学生側からも研修プログラム側からも聞かれました。次回の会運営の教訓としていただきたと思います。
次に各発表の概要とコメントを記します。発表者の皆様、ご苦労様でした。 ポスター5「新レジデントのオリエンテーションにおける看護実習の役割」当センターのレジデント一瀬直日先生の発表。看護実習をオリエンテーションに含めて行ったことの評価です。今後の展開としては、看護実習をしたことが、実際の家庭医療の現場(地域密着型診療所)でのナースとの協働にどのように反映するかのアウトカムを評価する研究が必要です。 ポスター6「医学生のプライマリ・ケアへの興味に関する調査〜家庭医療学研究会夏期セミナーでの予備調査結果報告〜」自治医大地域医療学教室の高屋敷明由美先生の発表。医学生がどのようにプライマリ・ケアに興味を持ち、何を望んでいるかを具体的に示してくれました。これだけのニーズがあるのに家庭医療学のレジデンシーがなぜ増えないのでしょうか。真摯に考える必要があります。 ポスター7「家族カンファレンス教育に関する検討〜コーディネーターに対するアンケートより〜」竹中医院・名古屋大学総合診療部の竹中裕昭先生の発表。夏期セミナーでも好評だった家族カンファレンスを評価する研究でした。このような教育モジュールを、家族志向型ケアだけでなく、家庭医療学の他のテーマでもぜひ開発していただきたいと思います。 ポスター8「当科外来におけるFitz-Hugh-Curtis症候群の検討」聖マリアンナ医大総合診療内科の鈴木彩先生の発表。FHCの臨床上経験した特徴を示してくれました。今後症例を増やして、医療面接で得た情報、身体診察所見、検査データのそれぞれがどれだけ診断に(単独であるいは「あわせ技」で)寄与するのかの検討に発展させてほしいと思います。 参加者からの感想 第15回家庭医療学研究会における家族研究
竹中医院・名古屋大 竹中裕昭
家族アプローチは家庭医にとって重要であると言われているが、依然として関心が低いことは現在も変わっていない。しかし、今大会では今後の家庭医の家族アプローチの発展を予感させる発表が行われた。
青森健生病院の竹内一仁先生の御発表は盆というライフイベントを利用した家族アセスメントに関するものであった。家族の情報収集に際しては、いかに違和感を抱かせることなく収集するかがポイントとなる。ライフイベントの過ごし方を利用する方法は、その違和感を軽減させると共に、患者とのより深い信頼関係構築を促進できる特筆すべき方法である。今後、盆だけでなく正月にも同様の調査を行われるとのことであるが、日本古来の盆、正月というライフイベントの位置付けを明らかにし、その効用を検討することで、世界に向けて発信できる研究としていただきたいものである。 川崎医大の松下明先生の御発表はレジデントへの家族カンファレンス教育に関するものであった。彼は日本の家庭医の家族アプローチ教育にロールプレイを本格的に導入した先駆者であるが、今回の発表では、単発に終わりがちな教育を継続的なものとし、その後の臨床への影響も検討している点が特筆すべき点である。まだ数が少ないものの、今後の継続により、レジデント1人1人に応じた教育法にまで発展させていただきたいものである。 このように発表数の増加もさることながら、発表内容が今後につながる重要なものであったことは注目すべき点である。今大会は従来単発に終わりがちであった家族研究が、いよいよ系統的になされていく可能性を秘めた大会となった感がある。 <編集者から> |
家庭医療学研究会世話人会議事録
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1) | 前回議事録の追加,訂正 ・ 学生部会担当の前野哲博氏を世話人に加えることが前回議事録からもれていたので、今回訂正された。 ・ 次期世話人会の任期中に会則改訂委員会を設けて会則を改訂し、 (1) 代表世話人,編集委員長,会計監査,会報・広報担当は最高2期6年までとする (2) 世話人の定年制を設け60歳とする を定めることが再確認された。 |
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2) | 事務局報告 会員数321名(10/31/00現在) うち 新規入会者86名 * 2年間会費滞納者は退会となるという規約があるが, 自動退会になる前に平成11年度該当者11名には督促状を送付する。 一度,退会となった人が再入会を希望する場合には滞納金2年間分を支払ってから再入会してもらう事を確認した。 会誌「家庭医療」残部(10/31/00現在) |
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3) | 会計報告 下記について会計監査の武田先生から監査の上,問題なかった旨の報告があり、世話人会で承認された。 ・第8回春のワークショップ ・第12回夏のセミナー ・平成11年度決算報告 来期の夏季セミナーには準備金として20万円支給されることが承認された。 今後は事務局会計の決算報告は9月30日での実質収支で〆ることとする。 |
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4) | 人事;以下が新しい役員として世話人会で推薦された(同日の総会で承認された) | ||||||||||||||||||
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・ これまでの世話人の藤内 修二氏は辞任 ・ 新しい世話人として 田坂佳千氏,豊島元氏が加わる。 ・ 新編集委員長の選出に関して、前編集委員長から新編集委員の互選で委員長を選出する案などが出されたが、従来どおり世話人会で決定することとし、山本和利氏を選出した。 |
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5) | 事務局に関して ・ 川崎医科大学総合臨床医学教室から三重大学総合診療部へ移転する。 メーリングリスト等をまず移転し,来年3月末までに完全に移行する。 ・ 今月から事務局補助員への謝礼は事務量が増えたこともあり、2万円/月とする。 |
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6) | 会則の改定 ・ 会則記録が変更されないままになっていたので,改定事項を再確認し 正しい会則を印刷しホームページにも載せる。 「第7条 世話人会の任期は3 年とし」「第9条 会費を2 年間未納にした者は」 ・ 会則の改定は次期世話人が行う。 |
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7) | JIMへの連載 ・ 2001年1月から「かかりつけ医のための家庭医療学」の連載を開始する。 ・ 2年半で終了の予定。 ・ 連載内容について津田世話人より提示され,一部の筆者を変更して承認された。 |
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8) | 今後のスケジュール ・ 第16回総会(11/10&11/2001) 大会長 : 木戸先生 テーマ「患者の満足感を考える」 東京で行う ・ 第17回総会(2002年) 亀谷先生 ・ 第9回春のワークショップ(3/17&18/2001) 武田先生 名古屋,邦和プラザ 募集人員 : 50人 |
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・ 2001年夏のセミナー(8/3,4,5/2001) 前野先生 つくばで行う 講師の先生を含めた会員用の教育セミナーの企画を藤沼先生が協力して行う |
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9) | ワーキンググループについて ・ これまでの「外来診療教育」,「EBM」,「在宅診療」の3グループは今回の総会で成果を発表して解散する。 ・ 新しいWGは春の世話人会で具体的に決定する。案として以下の項目が挙げられた。 1) 選挙・会則についてのWG 2) WONCA2005に備えてのWG 3) メーリングリストのあり方に関するWG 4) 学生実習に関するWG 5) 家庭医療学研究会としての企画・出版のWG |
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10) | 学生部会からの報告 ・ 学生・研修医部会の代表は学生から選ぶ。 ・ 学生部会の経理は家庭医療学研究会事務局とは切り離して,学生部会で行う。 |
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11) | その他 ・ 編集委員会について 編集委員長が新編集委員を決定。 編集委員長が 査読のガイドラインをつくる。 査読は編集委員だけでなく、世話人にも依頼する。 |
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事務局からのお知らせ 会費納入のお願い 入会手続きについて 家庭医療学研究会事務局 |
編 集 後 期 今回から大滝が再び編集を担当する事になりました。至らぬ点が多いと思いますが、御指摘いただけると助かります。前回の会報で試みられた編集方針を引き継いで、研究会などの企画の担当者や参加者から原稿を集めて作ってみました。読みごたえがあるかと思いますが、難点は原稿が集まらないと発行できない事です。今後多くの皆様に会報の原稿をお願いすることになりますが、どうぞ御協力のほどよろしくお願いいたします。表紙のデザインも変えてみましたがいかがでしょうか。提案などお寄せくださればありがたいです。 |
発行所 : 家庭医療学研究会事務局 編集担当世話人 : 大滝純司 〒060-8648 札幌市北区北14条西5丁目 北大病院 総合診療部 E-mail jotaki@med.hokudai.ac.jp |
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