はじめに
東京大学医学部健康総合科学科精神衛生・看護学講座(教室)は、平成9年4月より大学院中心の組織になったため、名称は東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻健康科学講座精神保健学分野および看護学講座精神看護学分野となりました。しかし学部教育は従来の学部講座の担当を引き継いでいるので、学部学生の方には、従来の精神衛生・看護学教室の名称を使うことが多いかと思います。
大学の機構にはこのような複雑な変化がありました。しかし当教室の使命は一貫しています。それを一口で言えば、今後ますます重要な課題となっていくことが明らかな精神健康に関する学問の教育・研究を、幅広い視野と国際性をもって推進することです。
学部教育
講義は、精神疾病論(必修2単位)、精神保健学(必修2単位)、人間心理学(必修2単位)、行動測定評価論(選択2単位)・精神看護学(看護学コース必修 2単位)を担当しています。実習は精神保健学実習(必修1単位)および精神看護学実習(看護学コース必修3単位)を担当しています。
卒業論文は、指導教官と相談しテーマを決定し研究を進めます。当教室では、広く精神保健および心理的な問題を積極的に取り上げ、多数の卒論生の論文指導を行ってきました。最近では、卒論生から修士課程に進学する人が多いので、その場合には卒業論文の内容を専門学術雑誌に発表することを目標に指導しています。
大学院教育
当教室の大学院教育の目的は、国際的な視野をもって活躍できる精神保健学領域(臨床心理学および社会福祉学を含めて)および精神看護学領域の臨床研究者の養成です。この目的に沿って当教室では、公衆衛生大学院および健康科学・看護学専攻の精神保健学分野/精神看護学分野の修士および博士課程の教育を行っています。修士課程の講義は特論といいますが、本教室教員による講義として、修士学生には精神保健学特論Ⅰ、Ⅱ(Ⅰは夏学期開講、Ⅱは冬学期開講で各2単位)および精神看護学特論Ⅰ、Ⅱ(各2単位)が開講されます。
例えば精神保健学特論Ⅰでは、精神保健疫学の基礎および精神保健対策の科学的根拠を知り、地域における対策の進め方について事例(ケーススタディ)を通じて学び、精神看護学特論Ⅱでは、精神保健・精神看護学の疫学研究の進め方について理解し、その基本的な技術を習得するために、研究の枠組み、論文の読み方、研究デザインとデータの収集、論文の書き方について講義と演習を行っています。
また、公衆衛生大学院、健康科学看護学専攻で開講されている数多くの講義を適宜受講することで、さらに幅広い専門的な知見を得ることが可能です。他大学から東大大学院に進学された方は、学部の講義を受講することも可能です。
教室ゼミは、修士課程、博士課程院生が研究発表あるいは研究の進捗状況を報告し、教員による指導、院生同志の意見交換による切磋琢磨の場として活用しています。また、客員研究員、教員、研究生、その他(外部講師など)による研究発表も行い、院生の教育に貢献しています。また同じく水曜日には、心理療法ゼミなども開催されています。さらに個別の研究グループによる研究会が適宜、開かれています。
院生の実習は、学生の関心領域に応じて、企業健康相談室・外部EAP・精神科病院/クリニック/作業所・サポート校・発達障害専門機関などに参加し、臨床経験を積みます。博士課程の学生では、本人の希望によって、専門家として患者さんの相談や診療活動の一部に参加することもあります。
研究は、修士課程(2年)の学生にとっては、修士論文を作成することです。そのテーマは指導教員と相談して決定し、具体的には上記の臨床フィールドなどでデータを得てまとめます。また指導教員などとの共同研究の一部としてまとめる場合もあります。修士論文は、必ずその領域の学術雑誌に論文として発表することを指導しています。博士課程(3年間)の学生は、博士論文を作成することが最大の課題です。大部分の博士学生は修士課程から進学するので、修士論文としてまとめた研究をさらに発展させる、あるいはそれと関連のある研究を行います。学問の国際化の流れを受けて、当教室では基本的に修士論文・博士論文ともに英文で作成し、英文の学術雑誌に論文発表するように指導しています。
院生の進路は、個人の関心によって異なりますが、研究者として大学教員や研究機関で活動する人が大多数です。
研究活動
川上教授は公衆衛生学の出身で、産業精神保健、精神保健疫学の専門家です。とくに職業性ストレスに関する研究,地域住民の精神保健疫学研究を中心とし,幅広い研究活動を行っています。これらの領域に関心の高い大学院生の研究指導と学部学生の精神保健学教育などを担当しています。
島津明人准教授は、臨床心理学が専門で、従業員のストレス対処行動やストレスマネジメントの効果評価、また仕事と個人とのポジティブな関わり(work engagement)の研究をしています。
宮本講師は、保健学科出身の精神看護学の専門家です。精神障害者の看護および地域支援に関わる課題などについて幅広い研究活動を行っており、これらの領域に関心の高い大学院生の研究指導と学部学生の精神看護学教育などを担当しています。
森助教は、保健学科出身で、臨床心理学の専門家です。ブリーフサイコセラピーでは、わが国の指導的な立場にあり、当教室では院生を対象に心理療法のセミナーを行っています。またスクールカウンセラーに関する研究も行っています。
その他の教室活動
教室での生活は学問だけではありません。学生と研究生の生活を豊かにするあるいはストレス解消の機会として、毎学期の終わりには、全教室員で打ち上げを本郷近辺で行い、深夜まで騒いでいます。また定例化された催しとしては、年に1回(初夏)の教室旅行、同窓会、4月始めの歓送迎会(入学予定者と教室卒業者が対象)、および修士論文および卒業論文打ち上げ、などの交流の機会があります。その他に、教室内の各研究グループや適宜人が集まったときなどに、同じような楽しい機会があります。
おわりに
精神保健学および精神看護学は、いずれも幅広い学問領域であり、それぞれに関連することに関心のある人は、おおらかに受け入れることがモットーです。精神健康に関わる仕事をする優れた専門家となる人は、能力の高さはもちろんのこととして、柔軟さとおおらかさも必要です。そのようなことは、生まれながらに決まるものではなく、そのような雰囲気のある環境で育っていくものです。
今後、人の精神健康に関する問題は、ますます重要なテーマとなっていきます。多くの皆さんが、積極的に私たちの教室に参加されることを期待しています。
