演題

第7回口腔医科学フロンティア開催


  1. 癌細胞におけるユビキチン分解異常によってもたらされる細胞周期調節の異常
    広島大学大学院医歯薬総合研究科口腔顎顔面病理病態学
    工藤 保誠、高田 隆

     細胞の増殖過程において、細胞周期調節因子の多くがユビキチン分解によって、量的・ 質的コントロールを受け、細胞周期の円滑な進行を制御していることが明らかになりつつ あるが、それら因子のユビキチン分解異常による細胞周期調節の異常については未だ不明 な点が多い。
     APC/C(anaphase-promoting complex/cyclosome)複合体は、細胞分裂期から G1期にかけて、Cyclin A、Cyclin B、Aurora-A、Skp2などをユビキチン分解する。これら 基質タンパクは、しばしば癌細胞で過剰発現することが報告されていることから、我々は、 これらタンパクの過剰発現にユビキチン分解異常が関わるのではないかと考えた。実際に、 我々は、基質タンパクのひとつであるAurora-Aが、51番目のセリン残基の恒常的なリン酸 化により、APC/Cによるユビキチン分解が阻害され、過剰発現することを明らかにした。ま た、APC/Cユビキチンリガーゼ複合体の活性を抑制するEmi1の制御異常により、基質タンパ クの過剰発現がひきおこされることも明らかにした。
     以上のように、癌細胞で認められる細胞周期調節の異常に、ユビキチン分解異常が関与することが明らかとなった。

    1. Kitajima S, Kudo Y, Ogawa I, Tatsuka M, Kawai H, Pagano M, Takata T. Constitutive phosphorylation of Aurora-A on Ser51 induces its protein overexpression through the inhibition of APC/CCdh1 mediated degradation in cancer. PLoS ONE 2, e944, 2007.
    2. Kudo Y, Ogawa I, Kitajima S, Kitagawa M, Kawai H, Gaffney PM, Miyauchi M, Takata T. Periostin promotes invasion and anchorage-independent growth in the metastatic process of head and neck cancer. Cancer Res 66, 6928-6935, 2006.
    3. Kudo Y, Guardavaccaro D, Santamaria PG, Koyama-Nasu R, Latres E, Bronson R, Yamasaki L, Pagano M. Role of F-box protein betaTrcp1 in mammary gland development and tumorigenesis. Mol Cell Biol 24, 8184-8194, 2004.
    4. Guardavaccaro D, Kudo Y, Boulaire J, Barchi M, Busino L, Donzelli M, Margottin F, Jackson P, Yamasaki L, Pagano M. Control of meiotic and mitotic progression by the F-box protein s-Trcp1 in vivo. Dev Cell 4, 799-812, 2003.
    5. Kudo Y, Kitajima S, Ogawa I, Sato S, Miyauchi M, Takata T. High expression of Skp2, human F-box protein, correlates with poor prognosis in oral squamous cell carcinomas. Cancer Res 61, 7044-7077, 2001.




  2. P l e x i n - S e m a p h o r i n シグナルが誘導する皮膚γδT 細胞の形態変化と創傷治癒
    徳島大学大学院口腔顎顔面補綴学分野
    渡邊 恵

     皮膚に存在するdendritic epidermal T cell(DETC)はT 細胞レセプターVγ3/Vδ1 を 発現する非常にユニークなγδT細胞で,上皮のメンテナンスと創傷治癒に関与している ことが知られている.
     DETC は通常樹状型を呈しているが,創傷部位周囲では形態を変えて丸い細胞に変化する ことが明らかとなった.これはDETC の活性化に伴う初期の変化であり,この形態変化の後 にDETC はIL-2,IFN-γ,TNF-α等のサイトカイン,KGF-1,2,MIP-1,2 を産生してケラチ ノサイトを中心とした皮膚の創傷治癒を導くと考えられている.
     我々は,創傷部位のケラチノサイト上にPlexin-B2 が発現していること,このPlexin-B2 がDETC 上に発現するCD100 のレセプターとして機能していることを初めて明らかにした.
     そこでPlexin-B2-CD100 間の結合がDETC の活性化と創傷治癒に関与していると考え,CD100 からのシグナル入力によるDETC の形態変化とCD100 欠損マウスの創傷治癒を経時的に観察 した.また,ケラチノサイト上のPlexin-B2 発現を抑制すると創傷治癒が遅延することを, in vitro において明らかとした.

    1. The neuronal plexin, PlexinB2, and semaphoring, CD100, form a receptor-ligand pair in the immune system and are required for gd T cell function in murine skin. Deborah A. Witherden, Megumi Watanabe, Stephanie E. Rieder, Wendy L. Havran Immunity , in revision, 2008
    2. Development of Autoimmune Exocrinopathy Resembling Sjogren’s Syndrome in Estrogen Deficient Mice of Healthy Background. Naozumi Ishimaru, Rieko Arakaki, Megumi Watanabe, Masaru Kobayashi, Katushi Miyazaki, Yoshio Hayashi Am. J. Pathol . Oct, 163(4) p1481-90,2003




  3. 転写因子Sox9 を基盤とした内軟骨性骨化分子メカニズムの解明
    大阪大学大学院歯学研究科生化学教室
    波多賢二

     脊椎動物の骨格形成を担う内軟骨性骨化は、未分化間葉系細胞の凝集に始まり、軟骨細 胞への分化、増殖、肥大化を経て骨組織へと置換される。この複雑な内軟骨性骨化は様々 な転写因子により緻密に制御されていると推測されるが、その分子メカニズムは未だ不明 な点が多い。軟骨細胞の分化過程においては転写因子Sox9 が必須的役割を担うことが明ら かとなっている。したがって、内軟骨性骨化の分子メカニズムの解明には、Sox9 の詳細な 転写制御機構や標的遺伝子などを明らかにすることが重要な鍵となる。
     Sox9 の転写制御機構を明らかにするために、まず我々はATDC5 細胞より完全長cDNA ラ イブラリーを作成しCol2a1 プロモーター活性を指標に網羅的スクリーニング行った。
     その結果、Sox9 と物理的に結合し転写活性を増強する因子としてp54nrb が同定された。p54nrb はスプライシング因子に特徴的な核スペックルに局在し、Col2a1 のスプライシングに深く 関与すること、また支配的欠損型p54nrb のTg マウスは内軟骨性骨化の遅延を呈することを 見出した。
     これらの結果より、p54nrb はスプライシング因子としてSox9 の転写制御に関与し、 内軟骨性骨化を制御することが示唆される(Hata et al 2008 JCI) 。
     現在、我々はSox9 の下流で機能する因子を明らかにするために、マイクロアレイ解析を 行い複数の候補遺伝子を同定し、その役割について検討を進めている。将来的には、これ らの知見を統合することにより、内軟骨性骨化を制御するSox9 分子ネットワークの全貌を 明らかにしたい。

    1. Hata, K., Nishimura, R., Muramatsu, S., Matsuda Akio., Matsubara K., Amano K., Ikeda, F., Harley V.R., Yoneda, T. (2008):Paraspeckle protein p54nrb links Sox9 mediated transcription with RNA processing during chondrogenesis. J Clin Invest 118(9):3098-108
    2. Hata, K., Ikebe, K., Wada, M., and Nokubi, T. (2007):Osteoblast response to titanium regulates transcriptional activity of Runx2 through MAPK pathway. J Biomed Mater Res A, 81, 446-452.
    3. Hata, K., Nishimura, R., Ueda, M., Ikeda, F., Matsubara, T., Ichida, F., Hisada, K., Nokubi, T., Yamaguchi, A., and Yoneda, T. (2005):A CCAAT/enhancer binding protein beta isoform, liver-enriched inhibitory protein, regulates commitment of osteoblasts and adipocytes. Mol Cell Biol, 25, 1971-1979.
    4. Hata, K., Nishimura, R., Ikeda, F., Yamashita, K., Matsubara, T., Nokubi, T., and Yoneda, T. (2003):Differential roles of Smad1 and p38 kinase in regulation of peroxisome proliferator-activating receptor gamma during bone morphogenetic protein 2-induced adipogenesis. Mol Biol Cell, 14, 545-555.




  4. 新奇タンパク質 PXK による受容体輸送の調節
    九州大学大学院歯学研究院口腔常態制御学講座口腔細胞工学
    竹内 弘

     細胞膜構成脂質の一つ、イノシトールリン脂質はイノシトール環上のリン酸基の位置や数の違い により細胞内の様々な場所で異なる細胞機能の調節に寄与している。 そのエフェクター分子の多く は各々のイノシトールリン脂質を特異的に認識する共通のタンパク質モジュールを有する。イノシ トールリン脂質結合モジュールの一つ phox 相同領域(PX ドメイン)は主にホスファチジルイノシ トール 3-リン酸(PtdIns(3)P)に結合特異性を持つことが知られている。PX ドメイン含有タンパ ク質はリン脂質結合特異性によって細胞内局在が調節されるが、その大部分を占める sorting nexin(SNX) を始め、多くがエンドソーム膜に局在して細胞内膜輸送に関与することが示されてい る。一方で、PX ドメイン含有分子は PX ドメイン以外にも種々の特徴的なタンパク質モジュールを 有し、それによって微細な異なる膜輸送調節機能を発揮する。
     今回我々はキナーゼ様領域、WASPhomology 2 (WH2)ドメインを併せ持つ PX ドメイン含有キナーゼ様蛋白質(PXK) を見出したので、同分子に関して行ったいくつかの機能的解析の結果を報告する。
     単離精製した PXK の PX ドメインは試験管内実験で PtdIns(3)P に特異的に結合し、生細胞では全 長 PXK はPX ドメインのPtdIns(3)P 結合能依存的にエンドソーム様膜に局在化した。また、PXK 分 子の WH2 ドメインは単量体アクチンと結合した。PXK を過剰発現した細胞では上皮成長因子 (EGF) 刺激依存的な受容体 (EGFR) の内在化及び分解が共に亢進していた。この PXK による EGFR 分解の 亢進はプロテアソーム阻害剤及びリソソーム阻害剤で阻害された。また内在性 PXK をノックダウン した細胞ではリガンド依存的な EGFR の内在化及び分解が遅延した。一方、アクチン結合能を欠失 した PXK の変異体も細胞内 EGFR 輸送への効果は保存されていたことから 、PXK のアクチン結合 能は EGFR などの受容体輸送との関わりにおいて必須でない事が示唆された。
     これらの結果からPXK は受容体を含む膜輸送やアクチン細胞骨格の調節などの複数の細胞機能に関与する多機能なタ ンパク質である可能性が示唆された。

    1. Harada, K., Takeuchi, H., Oike, M., Matsuda, M., Kanematsu, T., Yagisawa, H., Nakayama, KI., Maeda, K., Erneux, C. and Hirata, M. : Role of PRIP-1, a novel Ins(1,4,5)P3 binding protein, in Ins(1,4,5)P3-mediated Ca2+ signaling. J. Cell. Physiol. 202:422-433, 2005.
    2. Kanematsu, T., Jang, I.S., Yamaguchi, T., Nagahama, H., Yoshimura, K., Hidaka, K., Matsuda, M., Takeuchi, H., Misumi, Y., Nakayama, K., Yamamoto, T., Akaike, N., Hirata, M. and Nakayama, K. : Role of the PLC-related, catalytically inactive protein p130 in GABAA receptor function. EMBO J. 21:1004-1011, 2002.
    3. Yoshimura, K., Takeuchi, H., Sato, O., Hidaka, K., Doira, N., Terunuma, M., Harada, K., Ogawa, Y., Ito, Y., Kanematsu, T. and Hirata, M. : Interaction of p130 with, and consequent inhibition of , the catalytic subunit of protein phosphatase 1 alpha. J. Biol. Chem. 276:17908-17913, 2001. 4. Hermosura, M.C., Takeuchi, H., Fleig, A., Riley, A.M., Potter, B.V.L., Hirata, M. and Penner, R : InsP4 facilitates store-operated calcium influx by inhibition of InsP3 5-phosphatase. Nature 408:735-740, 2000.
    5. Takeuchi, H., Kanematsu, T., Misumi, Y., Sakane, F., Konishi, H., Kikkawa, U., Watanabe, Y., Katan, M. and Hirata, M. : Distinct specificity in the binding of inositol phosphates by pleckstrin homology domains of pleckstrin, RAC-protein kinase, diacylglycerol kinase and a new 130 kDa protein. Biochim Biophys. Acta 1359:275-285, 1997.




  5. 背骨の形と分化の情報はいつどこで働き出すのか?
    Hox と分節時計、蛍光イメージングから見たアプローチ。

    東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔病理学・グローバルCOE プログラム
    飯村 忠浩

     胚発生における脊椎動物の体の形作りは、動物全般に共通のすなわち進化的に保存され た基盤システムを内包していると考えられている。体の中軸骨格である背骨はその形づく りの代表的マーカーとして用いられてきた。こうした、脊椎動物の体の形作りは、Hox 遺 伝子群と分節時計という2 つの分子システムが共役してプログラムされている。しかも、 私たちの一連の研究から、このプログラムの初期動作は分化プログラムの開始よりはるか に早く、原腸陥入すなわち中胚葉の形成開始時期とほぼ同じであることがわかってきた(文 献1-4)。さらに、生きたまま細胞の動きや機能を観察できる「蛍光イメージング」を用 いたアプローチによりこれらの分子システムの機能が明らかにされ始めてきた。
     本研究発表では、これらの発生生物学的アプローチに加え、さらに分化した骨・硬組織における「蛍 光イメージング」の可能性についても言及して行きたい。

    1. Manipulation and electroporation of the avian segmental plate and somites in vitro. Iimura T, Pourquie O.Methods Cell Biol. 2008; 87:257-70. Review.
    2. Hox genes in time and space during vertebrate body formation.Iimura T, Pourquie O. Dev Growth Differ. 2007; 49(4):265-75. Review.
    3. Dual mode of paraxial mesoderm formation during chick gastrulation.Iimura T, Yang X, Weijer CJ, Pourquie O.Proc Natl Acad Sci U S A. 2007; 104(8):2744-9. 4. Collinear activation of Hoxb genes during gastrulation is linked to mesoderm cell ingression.Iimura T, Pourquie O. Nature. 2006; 442(7102):568-71.
    5. Onset of the segmentation clock in the chick embryo: evidence for oscillations in the somite precursors in the primitive streak. Jouve C, Iimura T, Pourquie O. Development. 2002; 129(5):1107-17.




  6. FGF とTGF-β スーパーファミリーの相互作用による
    未分化間葉系細胞の細胞増殖・分化制御機構の解明

    岩手医科大学歯学部口腔生化学講座
    石崎 明, 帖佐 直幸

     造血幹細胞と血管芽細胞は、ヘマンジオブラストと呼ばれる共通の前駆細胞から分化す ると考えられる。一方、最近、血管内皮細胞と平滑筋細胞の共通前駆細胞の存在が明らか となったが、この細胞の起源がヘマンジオブラストであるのかについては、現在も意見が 分かれるところである。
     我々は以前に、ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞は、FGF 刺激下では血管内皮細胞の性状 を維持するが、FGF 刺激を除去すると平滑筋細胞に分化することを明らかにした。また、TGF-β スーパーファミリーが、この平滑筋細胞分化を促進することを明らかとした。 粥状動脈硬化症の進行病変部では、平滑筋細胞が骨芽細胞様に石灰化する部位が見受け られる。このことは、平滑筋細胞と骨芽細胞間の超越分化の可能性を示唆する。加えて、 上述の血管内皮細胞と平滑筋細胞間の超越分化の可能性から、血管内皮細胞、平滑筋細胞、 および骨芽細胞間の3 種の細胞間での超越分化の可能性が導かれる。近年、歯根膜中に幹 細胞様細胞が存在すると報告された。しかし、この細胞が骨芽細胞様分化する一方、血管 構成細胞にも分化する能力を有するかどうかは不明である。
     今回我々は、歯根膜由来細胞の骨芽細胞あるいは血管内皮細胞様分化がFGF とTGF-β スーパーファミリーにより、 相反的に制御されていることを明らかとしたので報告する。

    1. Akira Ishisaki, Kenji Yamato, Shinichi Hashimoto, Atsuhito Nakao, Kiyoshi Tamaki, Koji Nonaka, Peter ten Dijke, Hiromu Sugino, and Tatsuji Nishihara. Differential Inhibition of Smad6 and Smad7 on bone morphogenetic protein- and activin-mediated growth arrest and apoptosis in B cells. J. Biol. Chem., 274: 13637-13642, 1999.
    2. *Hisaki Hayashi, *Akira Ishisaki, Masashi Suzuki, and Toru Imamura. BMP-2 auguments FGF-induced differentiation of PC12 cells through upregulation of FGF receptor-1 expression. * These authors contributed equally to this work. J. Cell Sci., 114: 1387-1395, 2001.
    3. Akira Ishisaki, Hisaki Hayashi, Ai-jun Li, and Toru Imamura. Human umbilical vein endothelium-derived cells retain potential to differentiate into smooth muscle-like cells. J. Biol. Chem., 278: 1303-1309, 2003.
    4. Akira Ishisaki and Hiroyuki Matsuno. Novel ideas of gene therapy for atherosclerosis: modulation of cellular signal transduction of TGF-b family. Curr. Pharm. Design 12: 877-886, 2006.
    5. Kaname Shirai, Akira Ishisaki, Tohru Kaku, Masato Tamura and Yasushi Furuichi. Multipotency of clonal cells derived from swine periodontal ligament and differential regulation by fibroblast growth factor and bone morphogenetic protein. J. Periodontal Res., in press.




  7. ユビキチン-蛋白質分解システムを介した新たなリン酸化シグナル制御機構
    東京大学大学院薬学系研究科細胞情報学教室
    松沢 厚、一條 秀憲

     これまでリン酸化シグナルの活性化は、アダプター蛋白を介した受容体でのキナーゼ複 合体形成が発端となり、その場で引き起こされるものと考えられてきた。しかし、この従 来のモデルだけでは、受容体下流に平行して幾つも存在するシグナル経路が、それぞれ異 なるタイムコースで活性化し、互いにシグナルを制御し合いながら、独立した生理作用を 誘導できるという事実をうまく説明できない。
     本研究では、B 細胞機能制御に重要なCD40 受容体に注目し、その下流でのTRAF アダプ ター分子を介した、MEKK1 やTAK1 などのMAP3 キナーゼによるシグナル活性化機構につい て解析を行った。その結果、受容体でのキナーゼ複合体形成はシグナル伝達に必要である ものの、MAP キナーゼシグナルの活性化には、シグナル複合体の受容体からの細胞質移行 が本質的に重要であることが判明した。さらにその移行には、複合体中のユビキチン結合 酵素c-IAP が必須であり、受容体と複合体とのリンカー蛋白として働くTRAF3 のc-IAP 依 存的ユビキチン化による蛋白質分解過程が重要であることを見出した。
     これは、MAP キナーゼシグナルに特有の機構であると考えられ、受容体下流に並列するNF-κB シグナルなど の他のシグナルからの時空間的分離を可能とし、細胞の生死決定など生理応答の微妙なバ ランス制御を可能とする新たなシステムであると考えられる。

    1. Matsuzawa A, Tseng PH, Vallabhapurapu S, Luo JL, Zhang W, Wang H, Vignali DA, Gallagher E, Karin M. Essential cytoplasmic translocation of a cytokine receptor-assembled signaling complex. Science, 321, 663-668 (2008).
    2. Vallabhapurapu S, Matsuzawa A, Zhang W, Tseng PH, Keats JJ, Wang H, Vignali DA, Bergsagel PL, Karin M. Nonredundant and complementary functions of TRAF2 and TRAF3 in a ubiquitination cascade that activates NIK-dependent alternative NF-kB signaling. Nat Immunol, 9, 1364-1370 (2008).
    3. Wang H, Matsuzawa A, Brown SA, Zhou J, Guy CS, Tseng PH, Forbes K, Nicholson TP, Sheppard PW, Hacker H, Karin M, Vignali DA. Analysis of nondegradative protein ubiquitylation with a monoclonal antibody specific for lysine-63-linked polyubiquitin. Proc Natl Acad Sci U S A,105, 20197-20202 (2008).
    4. Gallagher E, Enzler T, Matsuzawa A, Anzelon-Mills A, Otero D, Holzer R, Janssen E, Gao M, Karin M. Kinase MEKK1 is required for CD40-dependent activation of the kinases Jnk and p38, germinal center formation, B cell proliferation and antibody production. Nat Immunol, 8, 57-63 (2007).
    5. Matsuzawa A, Saegusa K, Noguchi T, Sadamitsu C, Nishitoh H, Nagai S, Koyasu S, Matsumoto K, Takeda K, Ichijo H. ROS-dependent activation of the TRAF6-ASK1-p38 pathway is selectively required for TLR4-mediated innate immunity. Nat Immunol, 6, 587-563 (2005).




  8. 比較ゲノム・トランスクリプトーム解析に基づくStreptococcus mutans および
    S. pyogenes ゲノム進化機能の解析

    東京大学医科学研究所感染症国際研究センター感染制御部門細菌学分野
    中川 一路

     S. pyogenes ゲノムはORF の30%がプロファージ領域で占められているが,その近縁種で あるS. mutans では,近い領域に生息しているにも関わらず,プロファージを持たない.こ のゲノム構造の違いがどのように生じたのかについて知ることが,これら種の起源や病原 性の獲得機構を知るうえで有用である.
     そこで、日本で分離されたS. mutans NN2025 株のゲノムを決定し、ファージに対する防御機構であるCRISPR を詳細に解析した. また,S.pyogenes について,タイリングアレイを用いて全ゲノムでの遺伝子発現解析を行った.
    S.mutans の比較ゲノムからCRISPR は,ファージ耐性に寄与すると考えられるスペーサーの種類・繰り返し回数も多様性に富んでおり, これはニッチによってファージに対する免疫を進化させてきたと考えられる.一方,ファージ由来のantisense RNA がS.pyogenes の CRISPR に関与する遺伝子の発現を抑制していた.
    すなわち,S. pyogenes では,最初に侵入したファージのanti-CRISPR システムにより,多数の異なる毒素遺伝子をコードするファ ージがゲノムに侵入できるようになったものと考えられる.

    1. Maruyama, F, Kobata M., Kurokawa, K., Nishida, K., Sakurai, A., Nakano, K., Nomura, R., Kawabata, S., Ooshima, T., Nakai, K., Hattori, M., Hamada, S., Nakagawa I., Insights into chromosomal shuffling and species-specific survival strategies against bacteriophage based on the comparative genome analysis of Streptococcus mutans. BMC Genomics In press.
    2. Nakano, K., Lapirattanakul, J., Nomura, R., Nemoto, H., Alaluusua, S., Gronroos, L., Vaara, M., Hamada, S., Ooshima, T., Nakagawa, I. Streptococcus mutans Exhibits Clonal Variation as Revealed by Multilocus Sequence Typing. J. Clin. Microbiol. 45: 2616-2625. (2007)
    3. Nakagawa, I., Amano, A., Mizushima, N., Yamamoto, A., Yamaguchi, H., Kamimoto, T., Nara, A., Funao J, Nakata M, Tsuda K, Hamada S, Yoshimori T. Autophagy defends cells against invading group A Streptococcus. Science. 2004 306: 1037-40. (2004)
    4. Nakagawa, I., Kurokawa, K., Yamashita, A., Nakata, M., Tomiyasu, Y., Okahashi, N., Kawabata, S., Yamazaki, K., Shiba, T., Yasunaga, T., Hayashi H., Hattori M., Hamada S. Genome Sequence of an M3 Strain of Streptococcus pyogenes Reveals a Large-Scale Genomic Rearrangement in Invasive Strains and New Insights into Phage Evolution. Genome Res. 13: 1042-1055. (2003)