演題

第6回口腔医科学フロンティア開催

ミニレビュー


  1. 歯の発生における細胞間クロストーク
    1東北大院・歯・小児歯、2九大院・歯・小児歯、3長大院・医歯薬・予防歯
    福本 敏1、山田亜矢2、岩本 勉2、福本恵美子3

     歯の発生は、細胞同士の相互作用により誘導される。現在まで上皮 間葉組織の相互 作用に関する報告は多数あるが、上皮 上皮細胞間の相互作用による歯の形成メカニ ズムを明らかにした報告は少ない。
     我々はギャップ結合に関わるGja1が、歯の発生過程において特徴的な発現パターンを示し、 エナメル芽細胞の分化に必須であることを、その欠損マウスを用いた解析から明らかにした。 Gja1遺伝子の欠損は、エナメル上皮の極性決定を阻害し、エナメル蛋白の一つであるアメロブラスチンの発現を抑制した。
     興味深いことに、上皮細胞間のギャップ結合を介した相互作用は、増殖因子からの 細胞内シグナル伝達、特にERK1/2のリン酸化と、その核移行を直接制御していることが 分かった。この現象は、歯由来細胞のみならず、骨芽細胞においても共通に認められた。

    1. Yoshizaki K, Yamamoto S, Yamada A, Iwamoto T, Fukumoto E, Harada H, Saito M, Nakasima A, Nonaka K, Yamada Y, Fukumoto S. :Neurotrohphic factor NT-4 regulates ameloblastin expression via full-length TrkB. J Biol Chem. 2008 in press.
    2. Nakamura T, de Vega S, Fukumoto S, Jimenez L, Unda F, Yamada Y.: Transcription factor epiprofin is essential for tooth morphogenesis by regulating epithelial cell fate and tooth number. J Biol Chem. 2008 in press.
    3. Fukumoto S. Miner JH, Ida H, Fukumoto E, Yuasa K, Miyazaki H, Hoffman MP, Yamada Y. : Laminin alpha5 is required for dental epithelium growth and polarity and the development of tooth bud and shape. J Biol Chem. 2006, 281(8): 5008-16.




  2. 自己免疫疾患におけるT細胞の制御機構
    徳島大学大学院HBS研究部口腔分子病態学分野
    石丸直澄

     自己免疫疾患は自己・非自己を識別する免疫システムの破綻により自己に対する免疫応答が 惹起され、様々な臓器における炎症反応が臓器障害および機能障害をきたす難治性疾患であり、 その発症には免疫細胞、標的臓器、環境要因、遺伝要因などの多因子が複雑に関連している ことが知られているが、分子機序については不明な点が多い。
     本研究ではトレランスの保持に働くT細胞がなぜ自己反応性を獲得し、どのように自己免疫疾患の発症につながっていくのかを 解明する目的で、T細胞の活性化機構において最も重要な転写因子であるNuclear factor-kappa B (NF-kB)に注目し、 in vivoでの実験を中心にして新たなNF-kBの制御機構を明らかにした上で、その新規制御機構の不全により自己免疫疾患の 発症につながることを免疫病理学的、分子生物学的手法を用いて示した。

    1. Izawa T, Ishimaru N, Moriyama K, Kohashi M, Arakaki R, Hayashi Y: Crosstalk between RANKL and Fas signaling in dendritic cells controls immune tolerance. Blood 110:242-250, 2007.
    2. Ishimaru N, Kishimoto, Hayashi Y, Sprent J: Regulation of naive T cell function by the NF-kB2 pathway. Nature Immunol. 7:763-771, 2006.
    3. Ishimaru N, Arakaki R, Omotehara F, Yamada K, Mishima K, Saito I, Hayashi Y: Novel role of RbAp48 for tissue-specific estrogen deficiency-dependent apoptosis in the exocrine glands. Mol. Cell. Biol. 26:2924-2935, 2006.



指定演題

  1. 細胞接着分子Dscamによる特異的神経配線の決定
    日本大学歯学部生理学
    近藤真啓

     ショウジョウバエDscamは、選択的スプライシング機構により38,000種類以上の異なった受容体アイソフォームを発現しうる。 われわれは、機械感覚受容神経細胞(ms neuron)の軸索を単一神経細胞レベルで標識する実験系を確立し、遺伝学的アプローチにより、 このDscamの分子多様性が神経配線の特異性を決定するために必要であるか否かについて検討した。
     野生型ハエにおいて、ms neuronの軸索分枝の位置および長さは個体間において定型的であった。 MARCM(Mosaic Analysis with a Repressible Cell Marker)システムにより、ms neuronで特異的にDscamの発現を欠失させたところ、 軸索は正しい位置より中枢神経系内へ進入したが、その後伸長を停止し、適切な標的細胞へ向けた分枝の形成はおこらなかった。 このDscamnull ms neuronに1種類のDscam アイソフォームを発現させたところ、軸索の伸長能力は回復したが、 適切な標的へ向けた軸索投射および分枝の形成は再現できなかった。また、12種類存在する可変エキソン4の5つを異なる組み合わせで 欠失させた2系統の復帰突然変異体を作製したところ、各系統のms neuronは異なる様式で軸索投射異常を示した。
     以上の結果より、Dscamの分子多様性はms neuronの適切な神経配線のために必要であることが明らかになった。

    1. Hughes ME, Bortnick R, Tsubouchi A, Baumer P, Kondo M, Uemura T, Schmucker
      D: Homophilic Dscam interactions control complex dendrite morphogenesis. Neuron 54:417-27, 2007.
    2. Chen BE*, Kondo M*, Garnier A, Watson FL, Puettmann-Holgado R, Lamar DR, Schmucker D: The Molecular Diversity of Dscam is functionally required for neuronal wiring specificity in Drosophila. Cell 125:607-620, 2006.




  2. 電位依存性Ca2+チャネルによる効率的な神経伝達の分子機構
    大阪大学歯学部第一口腔外科
    若森 実

     神経終末のアクティブゾーンは活動電位の到達後素早く神経伝達物質を放出できるように機能的に特化した構造を持っており、 そこに集積し神経伝達物質の放出にかかわる様々なタンパク質が同定されている。Rab3-interacting molecule 1(RIM1)も 神経終末のアクティブゾーンに存在するタンパク質のひとつであり、シナプス小胞と間接的に結合し、シナプス小胞をシナプス前膜近傍に 集合させることが知られている。今回RIM1が電位依存性Ca2+チャネルのbサブユニットと結合することを見出し、 電位依存性P/Q型(Cav2.1、a1A)Ca2+チャネル活性に対するRIM1の効果をパッチクランプ法で膜電位固定下に解析した。
     RIM1はP/Q型Ca2+チャネルの不活性化のキネティクスを著しく遅延させ、定常状態の不活性化の膜電位依存性を約40 mV脱分極側にシフトさせた。 これらの電気生理学的データはシナプス終末において電位依存性Ca2+チャネルがRIM1と結合することにより、細胞外からのCa2+流入を増大させることを意味する。
     以上の結果より神経終末のアクティブゾーンにあり神経伝達物質放出にかかわるRIM1が電位依存性Ca2+チャネルと結合し、 シナプス小胞とCa2+チャネルの物理的距離を縮めるとともに、Ca2+チャネルの機能を増強し、シナプス伝達効率を調節していることが判明した。

    1. Wakamori M, Yamazaki K, Matsunodaira H, Teramoto T, Tanaka I, Niidome T, Sawada K, Nishizawa Y, Sekiguchi N, Mori E, Mori Y, Imoto K: Single tottering mutations responsible for the neuropathic phenotype of the P-type calcium channel. J Biol Chem 273:34857-34867, 1998.
    2. Wakamori M, Mikala G, Mori Y: Auxiliary subunits operate as a molecular switch in determining gating behaviour of the unitary N-type Ca2+ channel current in Xenopus oocytes. J Physiol 517:659-672, 1999.
    3. Kiyonaka S, Wakamori M, Miki T, Uriu Y, Nonaka M, Bito H, Beedle AM, Mori E, Hara Y, De Waard M, Kanagawa M, Itakura M, Takahashi M, Campbell KP, Mori Y: RIM1 confers sustained activity and neurotransmitter vesicle anchoring to presynaptic Ca2+ channels. Nat Neurosci 10:691-701, 2007.




  3. MMP3は軟骨細胞において核移行し、CCN2/CTGFの転写活性化因子として働く
    国立長寿医療センター 口腔疾患研究部
    江口傑徳

     (背景)マトリックス金属プロテアーゼ-3(MMP3)は、分泌型プロテアーゼとして骨の破壊やリモデリングを促進する因子で、 関節リウマチのマーカーでもある。最近我々は、ヒトMMP3が軟骨細胞において核移行し、結合組織成長因子(CCN2/CTGF)の 遺伝子の転写活性化因子として機能することを見出した。
     (方法・結果)CCN2/CTGFのエンハンサーへの結合因子クローニングにより MMP3 cDNAを得た。免疫化学的実験により、培養軟骨細胞と関節軟骨組織でMMP3陽性細胞核を認めた。MMP3の転写因子としての機能は、 レポーターアッセイ、ChIPアッセイ、ゲルシフトアッセイで明らかとなった。この細胞でMMP3をノックダウンすると CCN2/CTGFの発現は約30%まで減少した。MMP3阻害剤を用いた実験により、MMP3のタンパク分解活性も転写調節機構に関与することが示唆された。 MMP3の輸送機構として、細胞外からのエンドサイトーシスと核細胞質間輸送の両者を示唆するデータを得ている。 さらに、タンパク共沈と質量分析法により、クロマチン上のMMP3共役因子HP1γを同定している。
     (考察)MMP3の転写因子的機能の発見により、炎症性疾患の病態理解が進むと考える。その機構として、細胞内外MMP3の動態制御、 ターゲット遺伝子の網羅的同定が重要と思われる。

    1. Eguchi T, Kubota S, Kawata K, Mukudai Y, Uehara J, Ohgawara T, Ibaragi S, Sasaki A, Kuboki T, Takigawa M.: Novel Transcription Factor-like Function of Human MMP3 Regulating CTGF/CCN2 Gene. Mol Cell Biol. 2008 Jan 2; [Epub ahead of print]
    2. Eguchi T, Kubota S, Kawata K, Mukudai Y, Ohgawara T, Miyazono K, Nakao K, Kondo S, Takigawa M. Different transcriptional strategies for ccn2/ctgf gene induction between human chondrocytic and breast cancer cell lines. Biochimie. 2007 89:278-288




  4. 細胞老化の分子メカニズム
    財団法人癌研究会癌研究所・ウイルス腫瘍部
    高橋暁子、原 英二

     正常な細胞に発癌の危険性のあるストレス(テロメアの短小化、DNAダメージ、がん遺伝子の活性化など)が生じると、 アポトーシス(細胞死)または細胞老化(不可逆的増殖停止)が誘導され、ダメージを受けた細胞の増殖が阻止される。 今日、この2つの増殖抑制機構は重要な癌抑制機構として働いていると考えられている。このため、近年アポトーシスや細胞老化の誘導を癌治療に 応用しようという試みが盛んに検討されている。しかし、細胞老化はアポトーシスとは異なり細胞が死滅するわけではないので、 体内に残った老化細胞が再び増殖を開始する危険性について十分に検討することが必要である。これまで私達は、細胞老化の不可逆性を規定する 分子メカニズムについて詳細な解析を行ってきた。
     その結果、老化細胞では癌抑制遺伝子産物であるp16INK4aが、細胞周期の複数のポイントにおいてその進行を抑制していることを明らかにした。 つまりp16INK4aは細胞老化の不可逆性を規定する重要な役割を担っており、その破綻が発癌を誘導すると考えられる。

    1. Ohtani N, Imamura Y, Yamakoshi K, Hirota F, Nakayama R, Kubo Y, Ishimaru N, Takahashi A, Hirao A, Shimizu T, Mann DJ, Saya H, Hayashi Y, Arase S, Matsumoto M, Nakao K & Hara E: Visualizing the dynamics of p21Waf1/Cip1 cyclin-dependent kinase inhibitor expression in living mice. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104: 15034-15039, 2007
    2. Takahashi A, Ohtani N, Yamakoshi K, Iida S, Tahara H, Nakayama K, Nakayama KI, Ide T, Saya H & Hara E: Mitogenic signalling and the p16INK4a/Rb pathway co-operate to enforce irreversible cellular senescence. Nature Cell Biol., 8: 1291-1297, 2006
    3. Maehara K, Yamakoshi K, Ohtani N, Kubo Y, Takahashi A, Arase S, Jones N & Hara E: Reduction of total E2F/DP activity induces senescence-like cell cycle arrest in cancer cells lacking functional pRB and p53. J. Cell Biol., 167, 553-560, 2005




  5. 新規がん抑制遺伝子ASK2による腫瘍形成抑制機構の解析
    1東京大学大学院薬学系研究科細胞情報、2CREST
    入山 高行1,2、武田 弘資1,2、一條 秀憲1,2

     Apoptosis signal-regulating kinase 2(ASK2)は、JNKとp38 MAPKの上流に位置し、ASK1と高い相同性を有するMAPKKKである。 ASK2はASK1と複合体を形成することにより酸化ストレス応答を担う分子であることが当研究室により明らかとされたが、 その生理的機能については不明な点が多い。 ASK2の組織発現はユビキタスであるが、特に皮膚、消化管、肺などの外界に接する上皮組織において発現量が高い。
     本研究では二段階皮膚腫瘍形成モデルを用い,ASK2ノックアウト(KO)マウスにおける皮膚腫瘍の形成について検討した。
     ASK2KOマウスおよび野生型マウスの背部にイニシエーターとしてDMBAを塗布後,プロモーターとしてTPAを継続塗布して経過を比較したところ, ASK2KOマウスにおいては,野生型マウスに比べて形成された腫瘍数が顕著に増加していた。 ASK2KOマウスにおいて、DMBA処理後の皮膚表皮層におけるアポトーシス細胞数が減少しており、またASK2KOマウス由来の初代培養ケラチノサイトにおいては、 DMBA刺激によるJNK、p38 MAPKの活性化およびアポトーシスが野生型由来細胞より減弱していた。 さらに、このDMBA刺激によるASK2-JNK/p38 MAPK経路の活性化およびアポトーシスは主に細胞内での活性酸素種の発生を介していることを明らかとした。 また、環境中の代表的な変異原である紫外線の照射によるアポトーシスの誘導にもASK2は同様の機構で関与しうることを確認した。
     以上の結果よりASK2は、イニシエーション時におけるアポトーシスの誘導に関与し,皮膚腫瘍形成に対して抑制的に機能することが判明し、  その他発現解析等の結果からASK2が新たながん抑制遺伝子として機能することが示唆された。