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演題
第2回口腔医科学フロンティア開催
- 口腔トレポネーマ由来複合糖質の化学構造および免疫回避機構について
岩田淳一、筑波隆幸、山本健二
スピロヘータはグラム陰性のらせん状形態を示す運動性に富む細菌であり、ヒトに感染して梅毒やライム病などの慢性炎症性疾患を惹起することが知られている。これらスピロヘータの病原因子として、リポタンパク質や複合糖質が挙げられる。なかでも複合糖質は、グラム陰性菌細胞壁外膜にあるリポ多糖
(LPS) と異なる構造であることが報告されているが、その詳細は未だ不明である。本研究は、歯周病原細菌として注目される口腔トレポネ−マから複合糖質を抽出・精製し、その化学構造と免疫生物学的作用について検討した。
Treponema medium ATCC 700293TをTYGVS培地で嫌気的に培養し実験に供した。複合糖質は温水−フェノール法を用いて抽出し、疎水クロマトグラフィーならびにゲル濾過により精製した。化学組成分析、核磁気共鳴および質量分析による化学構造解析から、複合糖質は、[→4]β-D-GlcpNAc3NAcA(1→4)β-D-ManpNAc3NAOrn(1→3)β-D-GlcpNAc(1→3)β-D-Fucp4NAsp(1→)を繰り返し構造とする多糖にホスファチジルグリセロール誘導体が結合したもので、LPSやリポタイコ酸(LTA)と異なる構造であった。また、T.
medium複合糖質には、マウスおよびヒト由来細胞株からのサイトカイン産生誘導はみられなかった。LPSは、LPS結合タンパク質
(LBP)やCD14を介してToll様受容体 (TLR) 4に結合し、転写因子NF-_Bの活性化によりサイトカイン産生を誘導することが知られている。T.
medium複合糖質は、LPSによるサイトカイン産生誘導やそのmRNA発現ならびにNF-_B活性化を抑制した。しかしながら、TLR4リガンドであるTaxolによる活性化の抑制はみられず、既知のLPSアンタゴニストとは異なる抑制機構によることが示唆された。また、これら抑制作用は血清無添加の培養条件下ではみられず、血清あるいはリコンビナントCD14/LBPの添加によりみられた。さらにT.
medium複合糖質は、固相化LBPおよびCD14へのLPS結合を阻害した。なお、同複合糖質とLPSの直接的な結合はみられなかった。種々の病原因子関連分子パタ−ン(PAMPs)に対する抑制作用を検討した結果、CD14/LBP依存的にLPSのみならず細菌細胞壁ペプチドグリカンによるJ774細胞からのNO産生を抑制した。しかしながら、CD14/LBP非依存性であるPoly
(I:C)やCpG DNAによる同NO産生の抑制は示さなかった。これら抑制作用の活性中心として、T.
medium複合糖質のホスファチジルグリセロールが重要であることが示唆された。
T. medium複合糖質はLPSやLTAと異なる化学構造を呈し、CD14/LBPの機能を阻害することにより、TLRリガンドを介する宿主細胞の活性化を抑制することを明らかにした。これら生体防御機構の要である自然免疫系を抑制することによる口腔トレポネーマの免疫回避機構が、慢性炎症性疾患の病態形成に関与していると考えられる。
- Porphyromonas gingivalisの自然免疫からの逃避機構について
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科歯周疾患病因再生解析学分野
吉村篤利、原宜興
(目的)
歯周ポケットから分離されるグラム陰性桿菌は、歯周炎の発症と密接に関連していると考えられているが、これらの菌がどのようにして歯周組織の免疫監視機構から逃避して増殖するかは明らかでない。我々は、代表的歯周病原性細菌Porphyromonas
gingivalis凍結乾燥菌体およびその菌体成分で、CD14およびToll-like receptor
(TLR)等のパターン認識レセプターを発現するレポーター細胞を刺激し、P. gingivalisの自然免疫系による認識からの逃避機構について解析した。
(材料および方法)
CHO/CD14細胞(遺伝学的にTLR2を欠如したChinese hamster 由来線維芽細胞CHO細胞にCD14を発現させ、NF-_Bが活性化するとCD25を発現するレポーター細胞)に、ヒトTLR4を発現させたCHO/CD14/huTLR4細胞、およびMD-2に突然変異をきたしTLR4、TLR2依存性刺激伝達経路を欠く変異株7.19細胞を使用した。まず第1に、CHO/CD14/huTLR4細胞を野生株P.
gingivalis凍結乾燥菌体および外膜から抽出したLPSで刺激し、LPS刺激伝達分子として知られるTLR4による認識について解析した。第2に、7.19細胞をP.
gingivalis ATCC33277(野生株)とgingipain欠損株KDP129 (kgp)、KDP133 (rgpA
rgpB)、KDP136 (kgp rgpA rgpB)凍結乾燥菌体および外膜からの部分精製標品で刺激し、TLR2、TLR4非依存性認識におけるgingipain
の影響を解析した。
(結果)
1)P. gingivalis野生株凍結乾燥菌体およびLPSは、CHO/CD14/huTLR4発現レポーター細胞を活性化しなかった。
2)7.19細胞はP. gingivalis 野生株凍結乾燥菌体により活性化されなかったが、gingipain欠損株凍結乾燥菌体および外膜からの部分精製標品により活性化された。
3)gingipain欠損株凍結乾燥菌体および外膜からの部分精製標品による7.19細胞の活性化は抗CD14抗体によって抑制され、また、トリプシン処理および加熱処理で活性が消失した。
(結論および考察)
P. gingivalis LPSは通常のLPS刺激伝達分子として知られるヒトTLR4を活性化せず、また、P.
gingivalisの保有する強力な蛋白分解酵素gingipainは、TLR2およびTLR4非依存性にCD14により認識される病原性因子を切断・不活化していることが示された。P.
gingivalis菌体成分のこのような特異的作用は自然免疫からの逃避に有利に働いていると考えられる。
- 耳下腺腺房細胞におけるシグナル伝達と開口放出
日本大学松戸歯学部生理学教室
杉谷博士
唾液腺においては自律神経の二重支配のもとに唾液分泌制御がなされている。交感神経興奮時には、神経伝達物質のノルアドレナリンが神経終末より分泌され、タンパク成分に富む唾液の分泌が促進される。一方、副交感神経興奮時には、アセチルコリンが神経終末より分泌され、水やイオンの分泌が促進される。
唾液腺の1つである耳下腺の腺房細胞では、糖質分解酵素のアミラーゼが合成され、分泌される。このアミラーゼの分泌は開口放出による。また、この開口放出は、腺房細胞のβアドレナリン受容体の活性化、それに引き続く細胞内cyclic
AMP(cAMP)濃度の上昇、cAMP依存性プロテインキナーゼの活性化という過程を経て引き起こされる。しかし、この開口放出の分子機構については不明な点が多く残されている。
低分子量GTP結合タンパク質の1つであるRhoは、アクチン細胞骨格系の再構成を介して、様々な細胞機能に関与することが知られている。今回、Rhoによるアミラーゼ開口放出の制御を紹介する。
ボツリヌス菌菌体外酵素C3によるADP リボシル化および抗Rho抗体を用いたイッムノブロット解析によりラット耳下腺腺房細胞のRhoタンパク質の発現を認めた。また、可透過性腺房細胞を作成し、cAMPによるアミラーゼ分泌に対するC3の効果を検討したところ、C3の存在下ではcAMP依存性のアミラーゼ分泌は抑制された。さらに、Rho活性化の下流に存在するRhoキナーゼの特異的阻害薬であるY27632存在下では可透過性 cAMPアナログ(dibutylyl
cAMP)刺激によるアミラーゼ分泌は抑制された。これらの結果より、Rhoによるシグナル伝達系が耳下腺腺房細胞におけるcyclic
AMP依存性開口放出を制御すると考えられる。
- 唾液腺形成の分子機構の解析とフィブロネクチンの必要性について
大阪大学歯学部第一口腔外科
阪井丘芳
唾液腺、肺、腎臓などの多くの臓器は、胎生期に3次元的な分岐を繰り返すことによって形成される。将来的にこれらの臓器再生医療を目指して、分岐発生機構を解明することは重要であるが、十分に解析されていないのが現状である。本研究は分岐のはじまりに生じる上皮の亀裂(cleft)に注目し、T7-SAGE (T7-based Serial Analysis of Gene Expression)法とLaser Microdissection法を用いて、マウス唾液腺形成期の分岐部における発現遺伝子のスクリーニングを行った。cleftの上皮には、細胞外マトリックスの一つであるフィブロネクチンが著しく発現していた。免疫染色とin situ hybridization法を用いた解析で、分岐の始まる時期にフィブロネクチンは一時的にcleftに発現していた。フィブロネクチンの阻害は唾液腺のcleftの形成を妨げ、高濃度のフィブロネクチンの添加はcleftの形成を誘導した。HSG細胞を用いたメカニズム解析の結果、フィブロネクチンは分岐点において、他の細胞に対する細胞接着に必要な分子カドヘリンを抑制し、細胞とマトリックスの新しい細胞関係を誘導することにより、分岐を促進することが確認された。
Reference:
1. Sakai, T., Larsen, M., and Yamada, K.M. Essential Role for Fibronectin in Branching Morphogenesis. Nature 423, 876-881,2003
2. Sakai, T., Larsen, M. and Yamada, K.M.: Microanalysis of Gene Expression in Tissues Using T7-SAGE: Serial Analysis of Gene Expression After High-fidelity T7-based RNA Amplification. Current Protocols in Cell Biology 19.3.1-19.3.30 (John Wiley & Sons, New York, 2002)
3. Bussell, K., Extracellular Matrix, A new branch, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 4, 597, 2003
4. LeBrasseur, N. Research Rounup; Fibronectin for branching. J Cell Biol. 162, 12, 2003,
5. NIDCR Press Releases, July 17, 2003 http://www.nidr.nih.gov/news/07162003.asp
- ヒト歯根膜細胞による硬組織形成におけるPlatelet derived-growth factor (PDGF)
receptorおよびInsulin-like growth factor (IGF)-I receptorの関与
東北大学大学院歯学研究科口腔生物学講座歯内歯周治療学分野
根本英二
【目的】現在、歯周組織再生療法においてさまざまなアプローチがなされているが、その再生のメカニズムが解明されていないため、未だ、決定的な再生療法は存在しない。歯周組織の再生のタ−ゲットとなる組織はセメント質および歯槽骨であるが、その再生を担う細胞は歯根膜細胞と考えられている。我々は、ヒト歯根膜細胞由来線維芽(PDL)細胞による石灰化ノジュール形成(in
vitro)をPDL細胞分化モデルとして、各成長因子受容体/成長因子の関与の可能性およびその仕組みを検討した。
【材料と方法】健康人(16-22才)第3大臼歯歯根面から歯根膜組織を剥離しOut
GrowthしたものをPDL細胞とし、3-6代のものを実験に用いた。石灰化ノジュール形成はコンフルエントPDL細胞を10%FBS
α-MEM, dexamethasone (1μM)、 ascorbic acid (50 μg/ml)およびβ-glycerophosophate
(10mM)で誘導した。PDL細胞をCell dissociation solution (non enzymatic)で回収し、フローサイトメトリー法でレセプター発現を調べた。成長因子の発現は半定量性RT-PCR法で解析した。
【結果】PDL細胞はPDGF receptor (PDGFR)-α、-βおよびIGF-I receptor (IGF-IR)を恒常的に発現していた(フローサイトメトリー法、RT-PCR法)。石灰化ノジュール形成過程において、PDGFR-αの細胞表面への発現は未石灰化対照培養に比べ低レベルに保たれていた。一方、PDGFR-_の発現は若干高く保たれていたが、石灰化ノジュール形成時には対照培養と同レベルに戻った。IGF-IRは対照群と比べて差は見られなかった。AG1295(PDGFR kinase selective blocker)あるいはAG1024(IGF-IR kinase selective blocker)存在下では、石灰化ノジュール形成がそれぞれほぼ完全に、あるいは部分的に抑制された。硬組織形成誘導/非誘導条件下における同細胞からのPDGF産生をRT-PCR法で解析したところ、両者においてPDGF-A、PDGF-C、PDGF-Dが恒常的に発現されていたが、PDGF-Bは検出されなかった。硬組織形成誘導群においてIGF-Iの発現は非誘導群と比べて低く抑えられ、逆にIGF-IIは亢進した。
【考察】PDL細胞による石灰化ノジュール形成においてPDGFRおよびIGF-IRが関与しており、PDGFsおよび IGFsがオートクライン的に作用している可能性が示唆された。また、硬組織形成誘導条件下における成長因子の発現パターンが非誘導条件下のパターンと異なっていることから、このパターンが石灰化ノジュール形成に関与しているかもしれない。しかし、硬組織形成非誘導条件下において、その発現パターンは異なるものの、PDGFs およびIGFsの産生はみられることから石灰化ノジュール形成能獲得条件には、さらに未知なる協同因子の作用が必要であることが示唆された。
- カテプシンEを介した抗腫瘍メカニズムの解析
東京医科歯科大学 分子細胞機能学分野
金田 誠、森田育男
カテプシンEは消化管上皮、免疫系組織、血球系細胞などに限局的に発現する細胞内エンドソームタンパク質分解酵素である。しかしながら、この酵素は病的状況下においては、腫瘍細胞や免疫系細胞などによって細胞外に分泌される。現在まで、この病的環境下において細胞外に分泌されたカテプシンEが、どのような作用をもっているかは不明であったが、当教室にて確立されたノックアウトマウスを用いた実験等により若干の知見が得られたので報告する。とくに今回は、腫瘍におけるカテプシンEの機能を解析するなかで見つかった分泌型カテプシンEの新たな機能である血管新生抑制因子の産生とそれを用いた癌治療の可能性を紹介する。
この血管新生は発生、分化や創傷治癒過程に必須の機構であるが、その一方で疾患の発症進展を促すことも知られている。病的血管新生は、固形腫瘍の発育増殖や浸潤・転移過程にとどまらず、糖尿病および未熟児網膜症の発症・進展過程、関節リウマチの慢性炎症時などでも観察される。現在、これらの難治性疾患に対する効果的な治療法の開発が緊急課題として検討されている中、血管新生阻害療法はこれら疾病に対して新たな方法論を提供するものと期待されている。なかでも、今回紹介する腫瘍血管新生阻害療法は、癌細胞そのものを標的とする既存の治療法と異なり、癌細胞の変異による耐性を生じにくいなどの理由から有望な治療戦略と考えられている。
今回検討対象になったエンドスタチン(endostatin)は血管新生を強力に阻害する内在性血管新生阻害因子で、基底膜コラーゲンXVIIIが腫瘍から分泌される何らかのプロテアーゼによって分解されてできるポリペプチドである。これは増殖している血管内皮細胞に選択的に作用し、休止期にある正常な血管内皮細胞には作用しない特徴をもっている。しかし、これまで、エンドスタチンの産生酵素の同定や作用機序には不明な点が多かった。今回われわれは、このエンドスタチンを産生するヒト癌細胞のプロテアーゼがカテプシンEであることを紹介し、その発現量や性状が腫瘍の悪性度にどう関係するのか、またそれらは血管新生阻害療法の開発につながるのかなどといった疑問に対して、われわれの最近の解析結果と得られた知見を紹介する。
- アクチビンAによる未分化細胞からの顎顔面軟骨誘導
古江美保1、明石靖史2、福井康人2、浅島 誠3,4、岡本哲治2
1神奈川歯科大学口腔生化学、2広島大学大学院・医歯薬学総合・先進医療開発科学講座・分子口腔医学・顎顔面外科学、
3SORST/科技振興事業団、4東京大学大学院・総合文化研究科・環境科学生命系
Activin A induces maxillofacial cartilage from undifferentiated Xenopus
ectoderm in vitro.
アクチビンAは両生類胚において強い中胚葉誘導能を示し、胞胚期予定外胚葉領域未分化胚細胞シート(アニマルキャップ)から濃度依存的に胚の腹側から背側の中胚葉組織を誘導できる。さらに、アクチビンA処理したアニマルキャップを時間をおいて別の未処理のアニマルキャップ二枚で挟み込むアニマルキャップサンドイッチ培養法により、アクチビンAの処理濃度および処理後時間に依存して、頭部から胴尾部構造が誘導される。そこで、アクチビンAと未分化予定外胚葉領域を用いて顎顔面軟骨の誘導を試みた。その結果、アニマルキャップを高濃度のアクチビンA で処理後 1時間後に未処理のアニマルキャップで挟み7日間培養を行ったところ、下顎の軟骨組織がアニマルキャップexplant内に誘導されていた。さらに効率的に軟骨組織を誘導するために、アニマルキャップの細胞を解離させ、アクチビンAで処理した後、未処理のアニマルキャップ解離細胞と合わせて再集合させ、10日間培養した後に組織学的解析を行ったところ、周囲を一層の表皮と間充織に囲まれた均一的な軟骨組織への分化が認められた。この再集合体を正常胚の下顎相当部に移植し成育させたところ、顎下部に軟骨組織が形成されていた。一方、腹側部への移植を行うと、眼、神経、軟骨など頭部を模倣するような組織が形成された。これらの誘導法は、細胞分化のみならずパターン形成をも再現し、顎顔面領域に相当する軟骨を選択的に誘導できることから、顎顔面や歯の再生医療への応用に有用なモデル系であると思われる。
- ASK1-MAPキナーゼ経路によるストレス応答の制御機構
東京大学大学院薬学系研究科細胞情報学
武田弘資、畑井多喜子、野口拓也、一條秀憲
Apoptosis Signal-regulating Kinase 1 (ASK1)はJNKならびにp38 MAPキナーゼ経路を特異的に活性化するMAPKKKである。これまでのASK1ノックアウトマウスを用いた解析から、ASK1が酸化ストレスや小胞体ストレスによるアポトーシスの誘導に必須の分子であることが明らかとなっている。一方で、ASK1のストレス応答における機能がアポトーシスの誘導だけではないことも明らかになりつつある。最近、そのようなASK1の新たな機能を示唆する活性化刺激として、カルシウムシグナルを同定した。
ASK1-p38経路は電位依存性カルシウムチャネルを介したカルシウム流入刺激によって活性化され、その活性化はカルシウム・カルモジュリン依存性キナーゼ(CaM
kinase)の阻害剤によって抑制された。線虫では、カルシウムシグナルにおいてASK1がII型CaM
kinase (CaMKII)の下流で機能することが遺伝学的に示されていたことから、ASK1の活性化を阻害したCaMK阻害剤の標的はCaMKIIであると予想された。ASK1ノックアウトマウス由来細胞を用いて検討した結果、活性化型CaMKIIによって誘導されるp38の活性化にはASK1
が必須であることが明らかとなった。さらに、ASK1ノックアウトマウスの脳組織より精製したシナプトソーム画分ならびに培養神経細胞を用いてカルシウムシグナルによるp38の活性化程度を検討した。その結果、ASK1ノックアウトマウス由来の神経細胞ならびにシナプトソームでは、カルシウムによるp38の活性化が野生型マウス由来のものと比較して著しく減弱していることから、ASK1がカルシウムによるp38の活性化に必要な制御分子であることが明らかとなった。
カルシウムシグナルによるASK1-p38経路の活性化は、その下流でどのような生理現象が調節されているかがまだ明らかではないものの、ストレス応答の多様性を理解するための重要な糸口になるものと思われる。
- polymeric immunoglobulin receptor (plgR) のcleavageに関する研究
日本大学歯学部病理学教室
浅野正岳
局所免疫機構は腸管をはじめとする体内の各所で生体の恒常性維持のために主体的に働く免疫機構であり、分泌型IgAを中心としたシステムである。腸管の粘膜固有層内に存在する形質細胞により分泌されるIgAは主に2量体であり、joining
(J)鎖と呼ばれるタンパク質を含有している。2量体IgAは腸管上皮細胞の基底側細胞膜上に表出されたpolymeric
immunoglobulin receptor (pIgR)により捕捉され、細胞内にinternalizeされた後、細胞内を輸送され腸管内腔に面する細胞膜上に再び表出される。そこでpIgRの細胞外領域が切断され、secretory
IgA (sIgA)として腸管内腔に放出されることにより腸管の恒常性維持に貢献する。従って、局所免疫機構が正常に生体防御機構として機能するためには細胞膜上でpIgRが正しく切断されることが極めて重要である。ところがpIgRの切断は細胞膜上で何らかのタンパク質分解酵素の作用により行われるとされているが、今日に至るまでその具体的な酵素は同定されていない。
本研究ではpIgRを切断するタンパク質分解酵素の同定を最終目標とする。その前段階として細胞外領域のどの部分が切断されるのかという問題に関し、ハムスター由来の線維芽細胞を用いた実験から若干の知見を得たので報告する。
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