平成23年6月12日

環境大臣 松本龍殿

動物愛護管理法の見直しに関する意見書
--実験動物福祉分野における獣医師の役割について--


日本実験動物医学会・日本獣医学会実験動物分科会
会長 笠井憲雪


 日本実験動物医学会は、動物実験や実験動物に携わりあるいは関心を持つ獣医師を中心に組織された学術団体であります。本会はこの度の「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、動物愛護管理法)の見直しに際し、主要課題となっている「6実験動物の福祉」の内の特に「3Rの推進(代替法、使用数の削減、苦痛の軽減の実効性確保の検討)」のためには、同法の実験動物関連条項及び「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年4月28日環境省告示第88号)」(以下、実験動物基準)に、法及び基準の趣旨の実行を担保する資格者、特に獣医師と実験動物技術者について言及すべきである、と考えています。

本会は次の5点について見直を求めます。
(1)動物愛護管理法見直しの検討において、動物愛護及び健康保全、さらに人と動物の共通感染症の防止において獣医師の役割を明確にする事。
(2)動物愛護管理法に基づく実験動物基準において、実験等の実施上の配慮、特に苦痛の軽減に拘る麻酔や鎮痛等の施行における獣医師の役割を明確にする事。
(3)動物愛護管理法に基づく実験動物基準において、実験動物の健康及び安全の保持に関する項目に、獣医師の役割を記載する事。
(4)動物愛護管理法に基づく実験動物基準において、実験動物由来感染症の人(実験実施者等)へ危害を防止する上で、獣医師の役割を明確にする事。
(5)動物愛護管理法に基づく実験動物基準において、実験動物技術者の役割について明確にする事。

 以上の事により、今回見直しの主要課題となっている動物実験の「3Rの推進(代替法、使用数の削減、苦痛の軽減の実効性確保の検討)」の役割を担う専門家が明確になり、より具体的な3Rの進展が図られ、社会の人々の動物実験への理解も深まるものと確信しております。
 実験動物福祉の観点からの獣医師及び実験動物技術者の有資格者に対する専門性の有用性を認識していただき、我が国の動物愛護管理法に基づく各規則の見直しを求める次第であります。

意見書に関する資料
1.現行の動物愛護管理法の問題点

 我が国の動物愛護管理法は平成17年に改正され、その際に動物実験に関する条項である第41条にいわゆる3Rの概念が取り入れられ、この点に関してはようやく国際的な水準に達したといえます。
 しかしながら、「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、動物愛護管理法)はもとより、この法に基づいて定められている4つの「動物の飼養及び保管に関しよるべき基準」のうち、「産業動物の飼養及び保管に関する基準(昭和62年10月9日総理府告示第22号)」および我々が特に関係する「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年4月28日環境省告示第88号)」(以下、実験動物基準)において、獣医師に関する記載が全くなく、家庭動物等の飼養及び保管に関する基準(平成19年11月12日環境省告示第104号))および展示動物の飼養及び保管に関する基準(平成16年4月30日環境省告示第33号)には明確に獣医師の役割が記載されているのとは対照的であります。特に実験動物基準は4年ほど前に改正されたにも拘らす、その趣旨の実現に最も重要な資格者である獣医師及び実験動物技術者の役割について全く言及しておりません。
 さらにはこの改正を受けて制定された文部科学省、厚生労働省および農林水産省の「動物実験に関する基本指針」においても、一切、これらの事が書かれておりません。極端な言い方をしますと、「我が国の政府は、獣医師はこれら実験動物および動物実験には一切係らなくともよいと考えている」と言っても過言ではありません。このように特に獣医師の専門性及び役割が曖昧なままにおかれている現状は、特に3RのRefinement(苦痛の軽減)の推進、動物の福祉及び健康保全、人の安全確保の観点から考えた時、極めて不十分であると言わざるを得ません。

2.実験動物と獣医師及び実験動物技術者をめぐる国際的な状況
(1)国際医学団体協議会(CIOMS)の国際原則について
 国際的・学際的総意を結集した国際医学団体協議会(CIOMS)によって1985年に「医学生物学領域の動物実験に関する国際原則」が制定され、文字通り「動物実験に関する国際原則」として、多くの国、市民、研究者、技術者により支持されて来ました。これが現在改正のための話し合いがなされており、その最終案が出され、世界各国地域で議論されています。この案では、獣医師の役割は非常に重要に考えられています。まず、獣医療は飼養管理等とともに実験動物の健康と福祉、ケアおよび使用を行なう上で重要である事(V、VI)、そして獣医師等を含めた訓練と経験を積んだ監督の下で行なわれるべき事(VI)、痛みを除去ないし軽減するために獣医師と相談する事(VII)と明確に述べられています。
(2)OIE(世界動物保健機構:国際獣疫事務局)の実験動物福祉条項について
 OIE(世界動物保健機構:国際獣疫事務局)が先頃決定した陸生動物コードに実験動物福祉条項が追加され(2010年5月)、そこでは動物を使用した研究において獣医師及び動物ケアの技術者(実験動物技術者)や科学者とチームを組んで最適な実験動物福祉を保障するべきとあります。また、動物実験委員会には研究に使用する動物を取り扱うに当たり必要な専門性を備えている獣医師1名が最低限必要であると規定しています。
http://www.oie.int/index.php?id=169&L=0&htmfile=chapitre_1.7.8.htm
OIEのこの規定は国際標準として各国政府が法的規定を策定することを勧告していることから、我が国もその対応が求められているので農水省とも相談の上、我が国の動物愛護法および関連基準等に実験動物専門の獣医師の関与につき明記することが求められていることとなります。OIEはWTO(国際貿易機関)と連携していることから、経産省とも相談の上、我が国輸出入などに不利を被らぬよう対応するべきです。
(3)米国の動物実験指針(第8版)について
 ごく最近改訂された米国の動物実験指針(第8版)では実験動物医学専門医等が動物実験委員会に必要であると規程しています。とくに実験動物専門獣医師については、米国の実験動物福祉の中核的役割を担っており、動物実験にかかる法律、政府方針通知などに明記されています。このため実験動物福祉のバイブルともされるILARの指針には
http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=12910
獣医学的ケアに全5章の1章を充てており、その権限と責任等について明確な規定が記載されています。米国の公的研究費はこのILARの基準の遵守が条件となって支給されており、その確認はAAALAC International(国際実験動物愛護評価認証協会)の認証
http://www.aaalac.org/
によるとされていますが、この団体でも担当獣医師の権限と責任は極めて重要であるとしています。                             

3.日本実験動物医学会及び同会認定実験動物専門医について(紹介)
 本学会は日本獣医学会の実験動物分科会として活動している学術団体であり、会員は約200名で、その大半が獣医師です。そして、会員は我が国における動物実験及び実験動物に携わる獣医師あるいは実験動物医学に関心を寄せる人々であり、学会活動を通じて我が国における医学、生命科学等、関連学問領域の発展に寄与するとともに、適正な実験動物の飼養保管および福祉、さらには適正な動物実験の実施について、普及、啓発活動を推進しています。また本学会は1998年に実験動物医学専門医制度を設立し、試験と資格審査を通して獣医師の中から実験動物の福祉や健康管理を専門とする専門医を認定しており、これまでに85名の認定医を輩出しています。この専門医の所属する日本実験動物医学専門医協会(JCLAM)は国際的にも米国、EU及び韓国の専門医協会との連携を図り、精力的な交流と情報交換を図っています。
ホームページ:http://plaza.umin.ac.jp/JALAM/
以 上

pdf動物愛護管理法改正へ向けての日本実験動物医学会の意見書(2011.6.12)