木内貴弘1)、中山健夫2)、石川ひろの3)、奥原剛1)、中山和弘4)、杉森裕樹5)、孫大輔6)、安村誠司7)、八巻知香子8)、江口泰正9)、福田洋10)
1)東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野、2)京都大学大学院医学研究科健康情報学、3)帝京大学大学院公衆衛生学研究科、4) 聖路加国際大学大学院看護学研究科、5)大東文化大学スポーツ・健康科学部看護学科、6)鳥取大学医学部地域医療学講座、7)福島県立医科大学医学部公衆衛生学講座、8)国立がん研究センターがん対策研究所がん情報提供部、9) 産業医科大学産業保健学部、10)順天堂大学大学院医学研究科先端予防医学・健康情報学講座
ヘルスリテラシーとは、一般に、患者や市民が健康に関連する情報を探し出して、理解し、意思決定に活用して、適切な健康行動につなげる能力のことをいう。ヘルスリテラシーの高い人は、適切な健康行動をとりやすく、その結果、疾病にかかりにくく、かかっても重症化しにくいことが知られている。近年、ヘルシリテラシーが国際的に大きな注目を浴びている。ヘルスリテラシーを扱う論文が世界で急増しており、既に国際学会や英文専門雑誌(Health Literacy Research and Practice)も設立されている。日本においても、ヘルスリテラシー関連の論文や学会発表が急激に増えており、関係者の関心も高まっている。このため、著者らは、2019年に日本ヘルスリテラシー学会を設立し、2022年に日本ヘルスリテラシー学会誌(本誌)を創刊した。ヘルスリテラシーとヘルスコミュニケーションは、お互いに裏表となるような密接な関係があるため、日本ヘルスコミュニケーション学会と協議の上、同学会と学会事務局を共有し、学術集会もヘルスコミュニケーションウィークという枠組みで共同で開催することになった。日本ヘルスリテラシー学会の設立と同学会誌の創刊が、今後の日本のヘルスリテラシー研究の一層の発展の貢献していくことが期待される。このためにも国内のヘルスリテラシー研究者への参加の呼びかけが必要である。
木内貴弘
日本ヘルスリテラシー学会会長
第1回日本ヘルスリテラシー学会学術集会大会長
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野
中山和弘
聖路加国際大学大学院看護学研究科
ヘルスリテラシーとは、健康や医療の情報を「入手」「理解」「評価」「活用」して適切な意思決定ができる力である。この概念では、人が持って生まれた潜在的な力を発揮できるためのエンパワメントが強調され、情報を知らされていない、知っていても選べない、行動を変えようにも環境や条件が整っていない場合に、社会を変化させるヘルスプロモーションのための力としても注目されている。世界中でヘルスリテラシーの測定が行われ、それに困難がある人が多く、それが健康格差を生んでいるとして、人権問題としての取り組みの必要性が叫ばれている。日本においても、EUで開発された尺度による全国調査が行われ、ヘルスリテラシーに困難のある人の割合は高かった。とくに、4つの力のうち「評価」「活用」の項目で差が大きく、「理解」まではできたとしても、判断したり、意思決定するのが難しい状況がみられた。この背景には、情報の信頼性を評価する方法のみならず、意思決定において選択肢の十分さを確認し、各選択肢に必ずある長所と短所を知り、それらのうちどれが大事かの価値観を明確にして選ぶというプロセスを学ぶ機会に恵まれていないことが挙げられた。ヘルスリテラシーの低さを前提として、誰もが信頼できる情報を得て価値観に合った意思決定できる支援が受けられる=(別々に語られることが多い)シェアードディシジョンメイキングの普及が望まれる。そのため、意思決定プロセスに焦点をあてた具体的なヘルスリテラシーのスキルの明確化と、ディシジョンエイドすなわち選択肢のベネフィットとリスクをわかりやすく提供し納得して選べるよう支援するツールの開発と普及が必要である。
石川ひろの
帝京大学大学院公衆衛生学研究科
ヘルスリテラシーの定義とともに、その評価の方法や内容、領域についてもさまざまな議論があり、多くのツールが開発されてきた。臨床場面でヘルスリテラシーの不十分な患者を “スクリーニング”することを目的とした、簡便で項目数の少ない尺度が作成される一方、ヘルスリテラシーの概念全体をその理論的枠組みに基づいて“測定”することを目的とした、より包括的で、多項目から成る尺度もある。測定のアプローチも、スキルを客観的に評価するものから、そのタスクを行う困難や自信を自己評価としてとらえるものまで様々である。さらに、その測定を複雑にしているのは、ヘルスリテラシーがその個人の置かれている状況や文脈と切り離せないものであるという点である。必要とされるヘルスリテラシーの能力やスキル(=評価の対象とすべき内容)は、その人の年齢や抱えている健康問題、社会的状況、保健医療制度や環境によっても大きく影響を受ける。普遍的な概念の枠組みに基づきながら、対象者の文脈にあった評価を行っていくことが今後も必要であろう。また、そうしたヘルスリテラシーの測定は、ヘルスリテラシーに関する問題の改善に向けた取り組みにつながるものであることが期待される。
Copyright © 日本ヘルスリテラシー学会