1.緒言 | ||||||
東海大学ドクターヘリ試行的事業検討委員会委員長 | ||||||
谷野 隆三郎 | ||||||
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“ドクターヘリ”とは、救命救急センターなどの救急医療機関に医療用装備をしたヘリコプターを常駐させ、要請があれば速やかに医師、看護婦等の医療スタッフが搭乗して出動、患者を収容して医療処置を行いながら救命救急センターへ搬送するものです。今回、1999年10月1日より川崎医科大学と東海大学医学部にてドクターヘリ試行的事業が行われ、2001年3月31日に終了致しました。 事業の実施にあたっては、医師会、消防機関をはじめとして関係諸機関および住民の皆様に大変なご協力をいただき、期間中に485例の実搬送を無事に行うことができましたことを、厚く御礼申し上げます。本報告書は、東海大学における今回の試行的事業の概要をまとめたものですが、なるべく幅広い意見が反映されるよう、実施の経緯や各種資料、事業に参加された方々の意見などをできるだけそのまま記載致しました。 事業の概要をご理解いただくとともに、今後の全国展開に向けてご活用いただければと祈念いたしております。 |
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目次 | ||||||
2. 実搬送開始までの準備 | ||||||
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A.ドクターヘリ運用組織の設置 | ||||||
1999年10月1日より試行的事業が開始された。同年10月12日、神奈川県衛生部の召集でドクターヘリ試行的事業説明会が開催され、関係諸機関に対して厚生省、自治省担当官より、事業主旨の説明と協力要請が行われた。また関係諸機関からなる東海大ドクターヘリ試行的事業検討委員会および連絡会が設置され、これが運用主体となった。1999年12月17日に第1回検討委員会を開催した。表2-1に2000年度の組織を示す。 | ||||||
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B.運用システム概要 | ||||||
東海大ドクターヘリの運航を開始するにあたって、現場直送ドッキング方式のドクターヘリ運航マニュアル原案を作成し、さらに各消防本部等におけるそれぞれの運航マニュアル作成を依頼した(表2-2)。 | ||||||
対象は: | ||||||
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で、出動の基準は消防機関あるいは医療機関からの出動要請があった場合。運航時間は8:30より概ね日没まで(季節によって変更)である。ヘリ機体の運航、整備は民間運航会社3社の共同事業体に委託し、機長、整備士、運航要員の3名が、運航時間内は救命救急センター内に常時待機している。また、ヘリ機体は救命救急センター裏に隣接したヘリポートに待機して、指示があれば数分以内に離陸することができるように施設整備を行った。 試行対象地域および運航方法については、当初は神奈川県県西・県央・湘南地区および静岡県御殿場市を対象にして、現場直送ドッキング方式により運用を開始することとした。上記地域外からの搬送依頼および二次医療機関からの転院搬送依頼を含めたシステム整備全般は二期的に行う予定とし、要請があれば必要に応じて緊急避難的に対応することとした。 |
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C.臨時ヘリポート(ヘリと救急車のランデブー・ヘリポート)の設置 | ||||||
各地域消防機関等に当該地域内における臨時ヘリポート(飛行場外離着陸場)の推薦を依頼した。推薦された臨時ヘリポートを運航会社が調査し、運輸省に申請した。その後、暫時申請を受け付け増やしていった結果、2001年3月31日までに設置された臨時ヘリポートは表のとおり県内外に160箇所となった(表2-3)。 | ||||||
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D.大学の施設の整備等 | ||||||
試行的事業を開始するにあたって、東海大学の臨時ヘリポートをどこに設置するのか、近隣民家への風の被害対策、ヘリポート設置によって減少する駐車場をどうするか、などの諸問題を解決する必要があった。ヘリ運航会社3社と協力して、整備を行った。 | ||||||
話し合いの結果、騒音と風が問題となるため、一旦200m程離れた病院裏の本学運動場に臨時ヘリポートを設置し、その間に救命救急センター裏に隣接したヘリポートの整備を行うこととした。東海大工学部生産機械工学科 青木教授に依頼し、大学院生とともに救命救急センター裏のヘリポートで風力試験、コンピューター・シミュレーション、実験などを繰り返し行い、防風壁を設置した。これによって近隣民家に対する風の問題はほぼ解決した。一方、騒音は解決できないため、個別訪問をして近隣住民に了解を求めた。駐車場は代替地を確保した。 | ||||||
救命救急センター裏のヘリポートは、5年前の交通科学協議会試行事業などで使用したことがあったが、再度テストを行った結果、周囲の木々の剪定と移動を行ってヘリの進入路を確保する必要があった。1999年の事業開始当初は慣熟訓練、搬送シミュレーションなどを行いながらこれら離発着場の問題を解決し、完全に事業の体制が整ったのは2000年始めであった。 | ||||||
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E.医療機器整備 | ||||||
心電図モニター、人工呼吸器、除細動器、輸液ポンプなど、ヘリ機内で使用する医療用機器を選定し、機内に装着した(表2-4)。これによって、ドクターヘリは高規格救急車とほぼ同等の機能を持つに至った。機内で用いる医療用資材、薬品の管理は看護部が担当した(後述)。 | ||||||
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F.慣熟訓練 | ||||||
実搬送に備え、医師、看護婦等の医療クルーに対して慣熟訓練を行った。1年以上にわたって毎日続くドクターヘリ事業に対応するためには、少数特定の人間だけではなく、救命救急センターの主要スタッフ全て(医師だけで約30名)に慣熟訓練を行う必要があった。使用器材、ヘリのストレッチャー、機内通話装置などの扱い方、臨時ヘリポートでの患者引継ぎの際の諸注意、簡単な航空医学等を教え、慣熟飛行を行った。1999年10月中に33回の慣熟飛行訓練を行い、その後も人員の異動などにともなって暫時追加訓練を行った(表2-5)。慣熟訓練の結果、その後年間300回を超える搬送要請にも、ほぼ問題なく即応することが可能であった。 | ||||||
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G.搬送シミュレーション | ||||||
ドクターヘリ試行的事業説明会終了後から各消防機関との搬送シミュレーション実施計画の受け付けを開始した。また、搬送シミュレーションの終了した消防本部から、正式に実搬送依頼を受け付けることとした。シミュレーション時には、市町村長・消防長等行政の責任者あるいは地域医師会の先生方にもできるだけご参加いただき、事業の説明を行うとともに、ヘリの迅速性を体験して、ドクターヘリへの理解を深めていただくよう努力した。 | ||||||
1999年10月から12月にかけて25回の搬送シミュレーションを行い、暫時実搬送を開始した。試行事業終了までに、18消防本部を対象に総計39回のシミュレーションを行った。月別のシミュレーション実施状況を表2-5に示す。シミュレーションの実施に伴って、実搬送対象地域も拡大した。 | ||||||
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表2-1:ドクターヘリの運用組織 | ||||||
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表2-2:消防機関ドクターヘリコプター運用手順(原案) | ||||||
【通信指令の判断による出動】 | ||||||
1.通信指令:覚知内容から、ドクターヘリの必要性を判断 ・意識がない ・生命にかかわる大きな事故 ・重症な熱傷 ・急性中毒 ・強い呼吸困難や胸痛等 ・その他、緊急度重症度が高いと推定される状態 2. 通信指令:救急隊へ救急出動指令 3. 通信指令:ヘリポート管理者に、ヘリポート確保について照会し要請する。 *使用不可の場合、別のヘリポート管理者に照会する。 *最終的に使用不可の場合、ドクターヘリ要請を断念する。 4.通信指令:東海大学病院救命救急センターに、ドクターヘリ出動を要請する。 *ヘリポート名(番号)を連絡する。 *救命救急センターは、天候確認の上、出動の可否を返事(30秒) *ドクターヘリ出動指令後5分を目処に離陸する。 5. 通信指令:救急隊に、ドクターヘリ出動とヘリポート確保の旨を連絡する。 6. 通信指令:消防隊に、ヘリポート警備出動指令 7. 通信指令:警察署等、関係部署に連絡する。 8. 救急隊 :現場到着後、救命救急センターに傷病者の状態を報告する。 *救命救急センター通信係は、ドクターヘリにその旨を連絡する。 9.消防隊 :開設ヘリポートの整備および警備 10.消防隊 :通信指令に、ヘリポート開設を連絡 11.消防隊 :ドクターヘリの着陸を誘導、確認 12.救急隊 :通信指令に、ヘリポート到着を連絡 13.救急隊 :救急車を安全な位置まで進入、傷病者を医師に引き継ぐ。 *プレホスピタル・レコードが記入されていれば、医師に渡す。 *消防隊は、引き継ぎ時に、傷病者の移送に協力する。 14.消防隊 :ドクターヘリ離陸後、ヘリポート関係者の協力に謝意を表し帰署する。 15.救急隊 :プレホスピタル・レコードを渡していない場合は、帰署後、記入の上、 FAXで送信する。 *後日、救命救急センターからの返書により、傷病者の診断名等を確 認する。 |
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【通信指令・救急隊の判断による出動】 | ||||||
1.通信指令:覚知内容から、ドクターヘリの必要性を判断 ・意識がない ・命にかかわる大きな事故 ・重症な熱傷 ・急性中毒 ・強い呼吸困難や胸痛等 ・緊急度重症度が高いと推定される状態 2. 通信指令:救急隊へ救急出動指令 3. 通信指令:ヘリポート管理者に、ヘリポート確保について照会する。 *使用不可の場合、別のヘリポート管理者に照会する。 *最終的に使用不可の場合、ドクターヘリ要請を断念する。 4. 通信指令:東海大学病院救命救急センターに、ドクターヘリ出動の可能性を連 絡し、出動可能の有無を聴取し、待機するように要請する。 *ヘリポート名(番号)を連絡する。 *救命救急センターは、天候確認の上、出動の可否を返事(30秒) 5. 通信指令:救急隊に、ドクターヘリ出動とヘリポート確保が可能であることを 連絡する。 6. 救急隊 :現場到着後、傷病者の状態を把握し、ドクターヘリ出動を判断する。 ・意識障害 ・ショック ・呼吸不全、呼吸困難 ・強い胸痛、背部痛 ・激しい吐下血 ・重症外傷:重大な受傷機転、強い疼痛、呼吸困難、神経症状、 バイタルサインの異常等 ・広範囲熱傷 ・急性の重症中毒 ・潜水病 ・窒息、溺水 ・過高熱、低体温 ・その他、緊急度重症度が高いと推定される状態 ・二次救急医療施設が受け入れ不能と予測される状態 7. 救急隊 :通信指令に、ドクターヘリ出動を要請する旨を連絡する。 8. 救急隊 :東海大学病院救命救急センターに、ドクターヘリ出動を要請し、傷 病者の状態を手早く連絡する。 *救命救急センターは、ドクターヘリ出動指令を発し、指令後5分を 目処に離陸する。 9. 通信指令:消防隊に、ヘリポート警備出動指令 10.通信指令:ヘリポート管理者に、ドクターヘリ出動について連絡し、ヘリポート 開設を要請する。 11.通信指令:警察署等、関係部署に連絡する。 12.消防隊 :開設ヘリポートの整備および警備 13.消防隊 :通信指令に、ヘリポート開設を連絡 14.消防隊 :ドクターヘリの着陸を誘導、確認 15.救急隊 :通信指令に、ヘリポート到着を連絡 16.救急隊 :救急車を安全な位置まで進入、傷病者を医師に引き継ぐ。 *プレホスピタル・レコードが記入されていれば、医師に渡す。 *消防隊は、引き継ぎ時に、傷病者の移送に協力する。 17.消防隊 :ドクターヘリ離陸後、ヘリポート関係者の協力に謝意を表し帰署する。 18.救急隊 :プレホスピタル・レコードを渡していない場合は、帰署後、記入の上、 FAXで送信する。 *後日、救命救急センターからの返書により、傷病者の診断名等を確 認する。 |
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【救急隊の判断による出動】 | ||||||
1.通信指令:救急通報着信 2. 通信指令:救急隊へ救急出動指令 3. 救急隊 :現場到着後、傷病者の状態を把握し、ドクターヘリ出動の必要性を判断する。 ・意識障害 ・ショック ・呼吸不全、呼吸困難 ・強い胸痛、背部痛 ・激しい吐下血 ・重症外傷:重大な受傷機転、強い疼痛、呼吸困難、神経症状、 バイタルサインの異常等 ・広範囲熱傷 ・急性の重症中毒 ・潜水病 ・窒息、溺水 ・過高熱、低体温 ・その他、緊急度重症度が高いと推定される状態 ・二次救急医療施設が受け入れ不能と予測される状態 4. 救急隊 :通信指令に、ドクターヘリ出動依頼とヘリポート確保を要請する。 5. 通信指令:ヘリポート管理者に、ヘリポート確保について照会し要請する。 *使用不可の場合、別のヘリポート管理者に照会する。 *最終的に使用不可の場合、ドクターヘリ要請を断念する。 6. 通信指令:救急隊に、ヘリポート確保につき連絡する。 7.救急隊 :東海大学病院救命救急センターに、ドクターヘリ出動を要請する。 *ヘリポート名(番号)を連絡する。 *救命救急センターは、天候確認の上、出動の可否を返事(30秒) *ドクターヘリ出動指令後5分を目処に離陸する。 8.救急隊 :通信指令に、ドクターヘリ出動の旨を連絡する。 9.通信指令:消防隊に、ヘリポート警備出動指令 10.通信指令:警察署等、関係部署に連絡する。 11.消防隊 :開設ヘリポートの整備および警備 12.消防隊 :通信指令に、ヘリポート開設を連絡 13.消防隊 :ドクターヘリの着陸を誘導、確認 14.救急隊 :通信指令に、ヘリポート到着を連絡 15.救急隊 :救急車を安全な位置まで進入、傷病者を医師に引き継ぐ。 *プレホスピタル・レコードが記入されていれば、医師に渡す。 *消防隊は、引き継ぎ時に、傷病者の移送に協力する。 16.消防隊 :ドクターヘリ離陸後、ヘリポート関係者の協力に謝意を表し帰署する。 17.救急隊 :プレホスピタル・レコードを渡していない場合は、帰署後、記入の上、 FAXで送信する。 *後日、救命救急センターからの返書により、傷病者の診断名等を確 認する。 |
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表2-3:ドクターヘリコプター飛行場外離着陸場(臨時ヘリポート)一覧表 | ||||||
詳細をご覧になる場合はこちらをクリックしてください。(その1、その2、その3 その4) | ||||||
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表2-4:ドクターヘリ搭載医療用機器 | ||||||
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表2-5:搬送シミュレーション・慣熟飛行等実施状況 | ||||||
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