ドクターヘリ調査検討委員会(第3回)議事要旨

 

1.日 時:平成11年12月14日(火)13:00〜15:00
 
2.場 所:通商産業省別館902号室
 
3.出席者:
(委員)小濱座長、石井委員、今井委員、大森委員、小笠原委員、小川委員、加藤委員、西川委員、針生委員
(事務局) 石井内閣審議官、関係省庁
 
4.議事次第
(1)開会
(2)議題
1)ドクターヘリ事業について(聖隷三方原病院 岡田先生)
2)ドクターヘリ試行的事業について(小濱座長)
3)ドクターヘリ導入に当たっての検討課題について
(3)閉会

5.議事内容

(1)最初に、聖隷三方原病院の岡田先生より、ドクターヘリの試行的事業についての説明があり、それに関連する質疑が行われた。

 今回の研究は、浜松救急医学研究会という学術団体が主催している。元来は浜松医科大学に、浜松市の医師会長を会長にして二次病院の先生方、消防機関が集まり、浜松地区の救急医療についての勉強会等を開催してきたものである。

 研究の目的としては、できるだけ後遺症が残らないようにするため、救急隊の行う基礎的な救急医療に加えて、医師によるアドバンス・ライフ・サポート、すなわちある程度高度な救急医療を早期に行うということで、ドクターカーを浜松市内でも運用してみたがうまくいかなかったため、ヘリコプターを使うこととなったもの。

 静岡県の行政ヘリコプターとしては警察に2機、消防防災課に1号機、2号機があり、そのうち現実に救急医療に使っているのは静岡市にある防災の2号機。静岡市から浜松まで飛ぶと約20分かかるので、現実的には救急現場の役に立たない。それで、研究会の中にエアー・レスキュー研究班をつくり、医療機関、浜松消防、静岡県医師会、浜松市医師会、オブザーバーとして静岡県、防災航空隊のスタッフ、運航会社の朝日航洋、中日本、川崎を入れて、約一年間検討してきた。そのときに、浜松市内の病院だけでなく、西部地区全体の病院に参加を呼び掛けようという形で、浜松医科大学を始め、静岡県西部地区の公立病院、主に救急を担当している18病院全部に参加していただいた。

 救急隊や各消防ともどんな目的でこのことをやるのか、具体的にはどういった行動手順で動いた方がいいかということについて個別に打合せした。

 もう一つ、田舎の消防隊なので隊員数が少なく、増員も今の財政難ではできないということで、現場にはせいぜい救急隊3名でしか動けない。そのため、水をまくなどの作業はとても無理なので、ヘリコプターの誘導は不要でただそこへ来てくださいという形でお願いした。

 私たちのシステムとしては、患者からの119番又は医療機関への通報からある地区の消防に指令が入り、その指令の判断で救急ヘリコプターを要請する。この場合あくまでもドクターが現場に来て治療を開始するということを目的としているので、2段階のポイントがある。

 1つには、消防に119番が入った時点で既にドクターを呼んだ方がいいと判断された場合はすぐ呼んでもらう。もう一つ、救急隊が現場へ行って、これはドクターの治療が必要だと判断したときにその時点で呼んでいただく。実際には119番通報が入ってドクターを呼んだ方がいいという疑いがあったら、可能性があるという通話をいただき体制を取っている。

 119番に電話が入りヘリコプターの出動要請が入ったときは、10秒から20秒ぐらいでヘリコプターの通信センターでドクターをコールしてヘリコプターのエンジンをスタートさせる。そうすると、大体3分から4分で準備できる。この時点でドクターもナースも全部乗っている。飛び立ってから3分から4分の間、通信センターがもう一度救急隊と連絡を取り患者情報を確認して、救急ヘリコプターに乗っているドクターとナースに患者情報を伝える。帰ってくる病院もまだ決まっておらず、現場で判断して最適な病院に入れるということも多い。

 それから、普通の病院間転送の場合には、受入側の病院に降りた場合、地元の救急車を使わず、救急車のある病院が自分たちの責任においてやっていただくことにしている。基本的にはこれでうまくいっている。出動してから15分から20分以後に帰ってくるので、受入病院側の方で必要なヘリポートまで救急車を出すことはできる。したがって、なるべく救急隊の世話にはならないようにという形でやっている。現実に救急隊が動くのは現場だけである。

 一番大きな役割を果たすのが通信指令センター。電話を受け、ヘリコプターを飛ばし、患者の情報を確認して、フライト・プランの提出、航空自衛隊の許可、そういったものをここで一元化して情報を管理している。この機能がないと、今回のシステムは全く動かないが、幸いなことに航空会社のディスパッチャーの方々と我々の病院内部の医療関係者の協力で最近はスムーズにいっている。

 コスト的には非常に安く済んでいる。電話が3台、あとは無線機があるが、航空会社のカンパニー無線を主に使っている。基本的には電話を最優先としており、無線は最小限だが、この無線のモニターを看護婦たちが持っていて、出動指令命令を無線でやるので、その無線を聞いてドクターヘリ・エンジンスタートというコールだけで看護婦が飛んでくる。

 もう一つ、浜松の場合は航空自衛隊がある。この航空自衛隊に教育航空団や救難航空隊やAWACSという飛行機がいる。それから、すぐそばに静浜基地という初等練習場がある。これが浜松市の上空を飛んでおり、普通にやるとまずぶつかってしまう。それで、この研究を始める6か月ぐらい前から航空自衛隊と協議して、最終的にはプライオリティー・バンド、要するにドクターヘリが最優先権をいただくようになっている。

 もう一つ、ヘリがうちのヘリポートから真っすぐ離陸すると、ちょうど浜北市の飛行域のトラフィック・パターン(場周航路)とぶつかってしまうので、離陸する直前に連絡することによって飛行場を横切って病院の中へ入っていくことも可能になっている。そういう意味で非常に自衛隊には御協力をいただいている。

 建物の向こうに病院や看護大学のある建物があり、ヘリコプターはそのそばに置かれている。ドクターやナースは病院の救急車で約2分で移動させている。そばにパイロットの待機室があり、朝から晩までトイレに行く暇もないくらい緊張してずっと入っている。無線機、ファックス、ウェザー・レーダーのコンピュータを使い、飛べない飛べるという判断を通信センターに適宜通報しているので、ある場所から連絡が来たときはすぐに通信センターの方で飛べないという判断を下せる。今まで天気が悪くて飛べなかったことはほとんどない。

 スタッフたちは非常に慣れたベテランのパイロットで、3000時間以上の飛行経験を持ったパイロットばかり。あとは整備士が1、2名だけでずっと朝から晩まで待機している。

 使用するヘリコプターは最初は中日本航空のベル206というシングル・エンジンの機体。シングル・エンジンなのでいろいろ問題があったが、約4か月間使用した。

 最近まで使っていたのが、朝日航洋のエアロスパシアル355という機体で、双発エンジンのため降りる場所が非常に広がった。ただし、これは余り大きくない。ベッドがあり、ドクターバックも布団も全部縛り付けてそのまま使えるようになっている。中には人工呼吸器などの医療機械がついており、初期治療が済んだ後、十分に患者さんを搬送することができる。欠点としてはドクターが座るポジションでなかなか飛行中の蘇生が難しいということだが、この機体はアメリカでもヨーロッパでも比較的使われている。しかも、報道で使っている機体のお古などを使用するので、導入コストが非常に安く済む。医療機材は壊れることがあるので必ず予備を用意している。このヘリコプターの場合は患者を乗せてしまうと付添いは乗れないという欠点がある。

 今、使っているMD902という機体は、これはテール・ローターがないので現地に降りても非常に楽な活動ができる。

 現場ではエンジンを停止している。エンジンを停止すると30秒で止まり、2分ぐらいで再スタートさせることができる。現地の安全性が高まるので、この機体以降は全部エンジンを止めることにしている。ドイツ、アメリカでも、ほとんど全例と言っていいほどエンジンを止めている。

 4月、最初は山の中の地域だけということで始めた。それから少しずつ地域を拡大していって、8月の終わりから全地域に拡大した。6月ぐらいから航空局の非常な努力をいただき、災害対応型の場外離着陸場が使用可能になったのでヘリポートの数が非常に増えた。また、8月からエンジンが2つになったので、全部で253か所のヘリスポットも使えるようになった。これによって、ほとんどの家庭から約1分から2分で、ガンデム・ヘリポートまで患者を移動できるようになった。

 搬送件数については4月が11件であり、最近の11月は25件、ほとんど毎日というぐらい移送している。一番多い日で1日5回のコールがあり、そのうち2回は重複したため、ドクターカーを出した。3回目は日没直前のフライトだったので、残念ながらやめた。

 ただし、飛ばなかった症例で亡くなった方が結構いるので、私たちとしては24時間やっていかないと意味がないのかもしれないと思っている。

 この8か月間で162回の要請が入っている。内訳は132回が消防機関もしくは役場消防。北の方の地区はまだ消防がないところがあるので、役場から救急出動の要請が入っている。医療機関からは30回、18.5%、要するに病院間転送はこのぐらいしかない。

 この中で現実には82.1%、133回飛んでいる。消防からの要請が78.9%、医療機関からが21.2%である。

 飛ばなかった理由の一番は現場に行ったら軽症だったというのが29例中の14例。それから、とても助からない、既に死後硬直がきてしまっている、又は交通外傷でこれは絶対助からないというのが3例、日没直前というのが4例。天候不良というのは3例しかない。これは各消防隊の方に天候条件を教えていることにもよる。それから、ドクターヘリが他へ出ていたというのが2例ある。

 また、ドクターヘリを呼ばなければいけないのに、こちらの判断ミスで救急車に切り替えてしまったというのが2例ある。他に河原に降りて飛び上がるときにビニールの買物袋がローターに当たったために飛べなかったのが1例で、合計29例飛べなかった事例があった。

 緊急性からいくと、先ほどの病院間転送のうちの3例だけが重症だが翌日とか明後日でもいいという話で、130例、97.7%がコールから10分〜15分に飛び立っている。

 離陸までの時間の平均は、11月が4分7秒だが、多少余裕があるケースもあり、場合によってはヘリの方が救急車よりも早く着くこともある。その場合は、要請しておいて5分後に来てほしいとなる。一番早い例で3分で離陸できており、これもだんだん早くなってきている。

 出動地域としては、大体半径35km圏で、平均フライト距離は16.9km。その中でこれだけの需要がある。飛んだ先で一番多いのが浜北市という町の中で、これは浜松市の東側にある町だが、ここに27回飛んでいる。それから三ケ日町、天竜市、引佐町など、山の中へ飛ぶよりは意外と人口の多い郊外の方によく飛んでいる。

 現場までの飛行時間は平均すると7分35秒。大体現場で約10分間、気管内挿管したり、点滴をしたり、そういう治療を行って、患者さんが落ち着いてから病院へ戻っていくが、病院まで8分3秒かかる。これは必ずうちの基地病院に戻ってくるわけではなく、11機関の受入病院(うち浜松市内に8病院)にまで帰ってくる。

 患者を乗せた後の搬送手段としては、ヘリコプターは98例、73.7%。残りの35例26.3%は救急車を使って病院へ搬送した。これは、近くの病院に救急車で行った方が患者を乗せ替えるより早いという場合、それから救急車の方が処置がしやすい場合、ケースによっては非常に重篤でヘリの中で治療を続けるのが不可能な場合がある。ドイツやイギリスでもすべてがヘリコプターを乗せ替えるということではない。一番適した搬送手段を使って患者を搬送するということで、一番大事なのは現場でいかにいい治療をするか。

 離発着の場所としては、一番多いのが学校のグラウンドで75件、それから公共の施設、公園、民間所有のグラウンド。当然患者が降りるのは病院の側が多くなるが、公共の施設、公園に降りている。郊外でいくと病院の中の駐車場などは使えるが、降りるときには大都市ではヘリポートのない病院は公園を使わざるを得ない。

 学校が75件あるが、初期の4月、5月には多少地元とのトラブルがあった。しかし、ドクターヘリが住民にとって非常に有用性があり、教育委員会等も各家庭に案内文を出していただいたので、ドクターヘリが降りてくることに関して全く文句は出なくなった。また、ヘリコプターが降りていくときには大体4、5分前に学校に連絡するが、そうすると運動場で遊んでいる子どもたちや授業中の子どもたちが全部校舎に避難し、校長先生がヘルメットをかぶって安全を確認してくれるというパターンが多くなっている。

 一番問題になるのは土日で、上からマイクを使って確認し、救急隊の方々と協力してその学校の校庭を使って安全確認をしている。学校のグラウンドを使った場合、防災対応型だと非常に狭く40mぐらいの広さしかない校庭に降りるので、1例だけ小石が飛んでガラスにひびが入ったことがあった。これは翌日すぐ弁償して問題は起こっていない。このように地元の教育委員会を含め学校の関係者の非常な御努力で浜松地区はスムーズに運営できている。

 年齢としては、91歳から赤ちゃんまで、救急医療の分布にほぼ相当している。最近は町の中を飛ぶことが多くなったので、逆に40歳代が増えている。

 病状として一番多いのは外傷で、転落、交通事故など32例ぐらいある。その次には脳血管障害、くも膜下出血、脳出血等の脳血管障害、意識障害、CPA(心臓も呼吸も停止した状態)。あとは、けいれんや心疾患、やけど、その他として重症のぜんそくや、肺炎や肺ガン末期で呼吸困難になっているなどの病気が含まれている。

 直接現場に降りていないのでやはり問題が起きている。現場に降りていればもう少し早くいろいろなことができたという症例もあるし、東名にも降りられないので、ドクターカーでインターで待つという形になっている。

 患者の予後については、外来で死亡したのが13例、ほとんどの場合CPAは外来で亡くなっている。入院したのが103例、そのうち生存例は92例、69.2%、それから入院後死亡したのが11例。外来治療のみというのが17例ある。これはアナフィラキシーショック、つまりハチに刺されたというような症例だから、飛行中からずっとよくなってくる。ドクターたちが一番びっくりしたのは、アナフィラキシーショックは早く治療するとこんなによくなって入院しなくて済むのかということ。もう一つは、来てしばらく様子を見ていたら治ってしまったというケース。てんかん発作などは外来治療だけで済んでしまう場合がある。

 今後問題になるのはフライング・ドクターだが、一番大事なことは現場の治療能力、これは救急専門医でないと無理。一番大事なのは診断能力。現場でどういう患者さんで何が起こっているのかを診断する能力、これは専門家でないと無理だから、救急専門医でないと難しい。航空機の理解に関しては我々の方でも大分やっているので大体理解できている。

 もう一つ、フライング・ナースの問題だが、フライング・ナースというのは非常に能力が必要。現場での治療のサポート能力、状況判断、フライト中にどういう準備をしなければいけないか、情報をいかにうまく伝えるか。患者ケアとしては患者さんの気持ち、現場での意思疎通、これもプロシーディアをいろいろ改善してマニュアルを作成している。

 あとは、最終的には彼らが出動記録の作成をしているから、そういったものを全部まとめていく。これもやはり特殊技術としてこれから果たしていかなければいけない大事な役割だと思う。

 経済的効果については、一回出動すると、あとは外来通院が非常に減る。リハビリに至らないケースが多く出ているので、そういう意味では非常に効果があるのではないか。多くの症例で後の通院が非常に短くなっていることから、傷病発生現場にドクターが行くことにより、機能が早く回復するということが今回の浜松の研究ではある程度実証できている。

 基本的には患者の容体が安定化してから飛んでいるので、ヘリ中で大した治療行為はやらない。ただし、途中で何か起こることがあるので、必ず治療できる状態にしておく。医療機械に関しては電磁波等の問題のないアメリカ空軍等で使われているものをヘリに搭載しており、なるべく日本製は乗せないことにしている。

○ヘリの離陸時にはほとんど患者情報がないということだが、現場に着いてみたら医者の専門が違ったというような話はないのか。
【岡田先生】救急専門医というのは何科でもできる。そういう意味でも、ドクターヘリには専門医でないとだめだと思う。

○今の通信センターの中には、ディスパッチャーや整備士も絶えずそこにいるのか。ディスパッチャーはどういう経験を積んできた人か。
【岡田先生】基本的には運航管理者ということで、基本的にはパイロットが全部兼ねており、2人来ている。パイロットは常に詰めている状況。

○現役のパイロットが、事故現場の気象の状況などの情報がないと飛行が不安だというような発言をしていた。日本のパイロットには管理された中で飛んで来た人がかなり多いので、その不安も当然だと思う。今回実際に飛んで来た中で、パイロット側からそういう話が出たようなことはあるか。
【岡田先生】基本的にはパイロットの判断で行けるところまで行ってもらう。戻るという指令を出したときには手前のヘリスポットの方に救急車を移動してヘリを待つようにする。

○高速道路上の事故はないのか。
【岡田先生】数多く発生しているが、現状ではヘリが高速道路に降りることはできないので、最近のケースではドクターカーが代わりに出動した。

○ドクターカーとヘリは高速道路の近くでランデブーするのか。
【岡田先生】病院が非常に近いところだったのでランデブーはしなかった。ただ、交通渋滞でドクターカーが入れなかったので、現場からはヘリが来れたらいいのだがと言われた。

○現在35km範囲内ぐらいまでをカバーしているとのことだが、これから先、この体制で更にカバーする範囲を広げるのか。
【岡田先生】基本的に35km圏ぐらいでないと救急医療は時間的に間に合わない。やるとすると基地を増やすしかない。

(2)次に小濱座長より、ドクターヘリの試行的事業についての説明があり、それに関連する質疑が行われた。

 厚生省のドクターヘリ試行的事業の実施要綱には「この事業は、救命救急センターにドクターヘリ(医師が同乗する救急専用ヘリコプターをいう。)を委託により配備し、患者の予後及びコスト分析等の観点から当該事業の評価及び検証を行うとともに、全国的な導入へ向けての検討を行うことを目的とする」とある。

 厚生省の試行的事業に基づき、私どもの方で「ドクターヘリ試行的事業実施細目について」を作成した。今回は平成11年10月から平成13年3月まで、1年半事業を行って全体の評価、検証を行うということになっている。運航時間は午前9時から午後5時までである。

 ヘリコプターは救急専用のヘリで、私どもの附属病院の敷地内にヘリコプターを置いている。

 行動範囲は将来的にはヘリコプターで15分から30分、100km圏域と考えているが、現在はとりあえず岡山県を中心に大体半径50kmから70km圏内、ヘリで15分から20分以内というところを設定している。

 機体は3機種来ることになっている。10月、11月は川崎重工のBK117EMSという救急専用ヘリを使った。12月からアグスタのA109K2EMSという機種、2月からはMD902という機種が来ることになっており、1年半の間、2か月交替でこの3機種を使って評価検証する。

 搭乗人員は、BKの場合7人で、医師が1人か2人、看護婦、付添い、患者となるが、アグスタは5人、操縦士と整備士のほかは医師、看護婦、患者ということで付添いが乗れない状況にある。

 ドクターヘリの出動条件及び出動基準については、状態が悪くてすぐ救命処置をしなければいけないというもの、切断指のように命には関係ないけれども早く処置しないと機能的な障害を生じるというものに加え、高度の集中治療を緊急に受ける必要がある重篤患者や、へき地・離島の患者等で、ヘリコプター搬送により搬送時間の短縮を図る必要が高い場合も該当となる。

 出動基準としては、原則として一般住民からの直接の要請は受けず、患者搬送元地元医療機関等の医師が診察した救急患者について、より高度な緊急の治療が必要であると判断された場合、救急患者発生現場においてドクターヘリ出動の必要性が認められた場合を原則としている。

 出動手順としては、現場からの場合と医療機関の場合の2つを想定していて、現場の場合は救急隊が消防に連絡して、消防から私どもに連絡が来る。私どもは操縦士に連絡して、飛行がOKであれば出動する。医療機関の場合は医療機関から私どもに連絡が来て、私どもが操縦士に連絡すると同時に天候状態がOKであればそれを医療機関の方に連絡して、私どもが降りる場所を決めるという設定。

 私どもの救命センターでは旧2号線の向こうにヘリポートがあり、ドクターカーをそばまで持ってきて乗せ換えてセンターに運ぶという手続をしている。医師と看護婦と直接の連絡窓口はセンターで受けることになっており、ここからドクターカーに乗ってヘリポートに行って離陸する。

 BK117EMSは後ろ側から観音開きで患者を乗せることができるようになっており、ベンチレーター、人工呼吸器や吸引等の機器、心電計や輸液ポンプ等が付属している。現在はアグスタのAの109K2が降りているということになっている。

 2月からはMD902、これはBK117とよく似てテールが高くて、後方のローターがない。非常に安全性が高いと言われている。

 現在103か所にヘリポートを設定している。半径50kmの範囲が15分圏内で、津山、新見市、落合の辺が一番適切な搬送距離と思っている。103か所の内訳は、グラウンド(運動公園)が53か所で一番多い。整備地などの公的用地が19か所、公園が14か所、河川敷が6か所、学校のグラウンドが5か所。その他、農業空港、サーキット、病院の敷地内。このほとんどが岡山県内で、県外が現在4か所ぐらい。来年度は更に隣接県の香川県、愛媛県、兵庫県、広島県にも広げる予定。

 現在、岡山県内の患者の受入医療機関としては6つくらいだが、倉敷中央病院は非公共のヘリポートを持っている。それから、赤十字病院もヘリポートを持っているが、まだ航空局から認可が下りない。ここは何としてでもヘリポートを使えるようにしたいと思っている。その他、済生会、津山中央病院、岡山大学が受入医療機関として患者さんの収容に協力していただいている。

 医療機関からの搬送の場合の図式としては、原則は直接救命センターに電話が掛かってくるということになっている。今、センターの中の医師の待機施設を使っており、電話は外線からの直通電話と院内の電話は親子電話となっており、一つを看護婦が持って歩く。一人専任の看護婦を置いており、専任の看護婦はいつもここにいる。それで、用事があるときは電話を持って出ることになっている。 現地での着陸は地元の消防から救急車と同時に消防車も出して砂地の場合は水をまいていただいており、現在のところ特にトラブルなく着陸することができている。地元の消防関係、救急隊に非常に御協力いただいている。

 搬送件数は、10月が17件、11月が12件、先ほどの岡田先生は外傷が非常に多かったが、私どものところでは内科系の急性疾患が多い。それから、岡田先生は大体8割が消防機関からの依頼だったが、私どものところは100%病院間搬送。これは、とりあえず病院間搬送からスタートして、徐々に慣れていけば現場からの直接搬送も含めてやっていくという方針によるものである。

 患者の内容はすぐに処置をしなければ命が危ないのが17例で全体の6割。命に直接関係ないものが34.5%。うち重症も2例あった。それから、すぐにではないけれども重症なのが2例、6.9%だから全体として重症度に関しては適切に運用されているのではないか。

 やはり救急専用のヘリの場合、出動は5分以内が原則と考える。岡田先生の場合は現場からの要請の場合は相当早く離陸されていると思うが、ドイツ、オーストラリアの場合、早ければ2分で離陸している。トータルとしていかに早く現場で処置、治療するかということでやっているので、この5分以内という時間は必要であろう。現在は日中が中心だが、将来的には救急車が24時間走っているのと同じように、ドクターヘリも24時間運用しないといけないのではないかと思っている。

 それから、ドクターヘリというのは片手間では非常に難しい。少なくとも医師、看護婦は専任でいるべきで、居室と同時にある程度格納庫とか備品等を備えたスペースを持つべきである。

 それから、ヘリによって障害が発生した場合の補償とか責任の所在を明確にすることが必要。

 また、将来24時間運用とするならば、全国の市町村に1か所は公設のヘリポートを配備していかなければいけない。市街地への着陸は、ドイツ、オーストリア、イギリスなど、ヨーロッパ12か国では積極的に行われている。こういうところに降りたらどうなるとか、学校に降りたら騒音問題が起こるとか言われているが、実際にやってみるとそんなに問題は生じない。救命率の向上を考えると、方向としてはいいのだと思う。

 高速道路で事故が起こっても逆側のスペースはほとんど使えるわけで、ヨーロッパなどでよく行われているが、こういう降り方をすればそんなに危険はない。ヨーロッパの場合は必ずこれに救命士と医師が乗っており現場から治療ができるということで、1970年代に2万人台の交通事故死が1993年には大体7千人前後に落ちた。これはドクターヘリだけによるものではないが、こういう積極的な現場での救命治療、処置というものが必要ではないかと思っている。

○ヘリで運んだ患者の病気の種類と普通の救急車で運ぶ場合の比率はどうか。
【小濱座長】普通の救急車は風邪引きが3分の1くらいあるが、ヘリ搬送には一切入ってこない。浜松の場合は、救急隊からの直接依頼が多い。これと病院間搬送の違いだろう。ただし、私のところで平成4年から半年やったときは外傷が3分の1あった。

○ヘリの着陸地点について、今は大体河川敷も含めて地上に降りているだろうが、東京辺りの市街地で今後地上に下りるのは難しいと思う。今後屋上を使用できる可能性はどうか。
【小濱座長】都会では、騒音がうるさいから降りる回数を減らせとか、ヘリポートをつくるなという意見が非常に強い。例えば、都立広尾は本当は離島からの指定収容病院なのだが、周囲に有名な幼稚園とか学校があるため、年間20件くらいしか降りられない。

○建物の上にヘリコプターが離発着することについては、安全上の問題よりは、むしろ環境問題が障害となっているところが多い。ただ、この場で検討されているような救急医療だと、地域住民の理解を得ることは十分可能だと思う。

○高速道路や、屋上にヘリポートを整備するのが難しいと考えた場合、スイスなどでよくやっているのはつり下ろしつり上げ方式。屋上などもポートとして使わないでそこへ下ろすという感じだと多分騒音も少しは少ないんだろうと思う。

○つり下げつり下ろしをすると低高度で一定時間空中停止するので降りた方がまだ騒音問題が少ないのではないか。

○東京の場合、やはり災害現場は東京近辺の場合は着陸しようと思ってもなかなか難しく、事前に管理者の了解を取って指定しておく。それ以外のところはレスキューと連携してレスキューが降りていく、担架でつり上げるという方式もとっている。ただ、病院に収容する際には着陸した方が安全であり、なおかつ患者にとってもいい。

○屋上ヘリポートの活用を進めるべきだが、東京都の場合、中型ヘリコプターであれば、屋上ヘリポートで下ろせるのは12か所ほどしかない。だから、防災都市計画の中でヘリスポットをどう設置していくかという問題を考えると、川の上などにはしごで昇り降りできる3階建てぐらいの施設をつくっていくべきではないか。

(3)最後にドクターヘリの検討課題について議論が行われた。

(機体を24時間、365日運用することについて)

○アメリカは原則的に全部24時間運用であり、技術的には可能だと思う。ただ、ヘリはたまには壊れるので、予備機をどこかから持ってくる体制をつくっておかないといけない。必ずしも格納庫等は要らないと思うが、アメリカの場合は大体2クルー、24時間交替でクルーを交替させており、そういう体制を考える必要がある。また、なるべく騒音の少ない機体でやらないと、夜間飛んだ場合はもっと大きな騒音が出る。

○消防の場合、例えば1機しかないところはオーバーホールで1年のうち1か月半ぐらいは飛べないと思うが、その辺はどういう解決方法があるのか。

○東京消防の場合は、幸いに機体が6機あるから常時救急の機体、または救助の機体、あとは情報機と区別して常時待機しているので365日、土日祭日でも大丈夫。

○仙台の場合は仙台市消防局と宮城県に2機あるので、お互いに補完体制にしているが、1機しかない都道府県の場合は隣りの県とお互いに補完し合っているようである。

○最終的には夜間飛行をやらなければいけないと思うが、とりあえず昼間だけでいいからやってもらいたい。昼間もやらないうちに夜と言っても、安全面やコストの問題がある。アメリカの統計などを見ると出動回数に対する事故の割合は夜の方が2倍である。

○実際に飛んでみて段階的に検証を重ねながら実施するべき。例えば、最初は浜松の場合なら250か所くらい指定したうえでやってみる。その後は、高速道路も含め不特定な場所も昼間やってみて、その次に今度特定な場所は夜間をやって、不特定な場所は昼間だけをやってというように段階を組んで実績を重ねてやった方がよい。

○各ブロックごとに消防・防災ヘリやドクターヘリに使い得る機材を人口当たり何機とある程度決めて集中運用することを考えてよい。集中運用と言っても1か所に置くということではないのだが、コントロールするセンターは1か所でやる。例えばロサンゼルス市が32機の飛行機を持って運用してきたことを前提に人口当たりの機数を出したことがあるが、それでいくと四国4県だと15機ぐらい。そういうたたき台をつくって、集中運用すればヘリの重複を避けられる。
それからコストの問題で、先ほど岡田先生の方から一回出動で60万円という話があったが、前にも言ったとおり、燃料にしても日本は非常に高い。だから、これに税制上の優遇措置が得られれば、相当コストは下がる。
それから24時間運用については、夜飛べば事故の可能性も高くなる。したがって、簡単で便利な夜間の航法装置のようなものを導入することにより、夜間の出動の能力を高める工夫ができないか。

○ドイツが最近夜間も始めているが、夜間に関しては危険が少ない病院間搬送に限っている。したがって、全国の市町村で公設のヘリポートがあれば、夜間でも安全に降りることが可能ではないか。

○ヘリコプターの機数について、先ほどから一町村単位、人数単位という話が出ているが、町村にも大小があるので、フォローする範囲はkm数、円周で決めた方がいい。
また、60年以降温暖化現象のため気象がかなり荒くなっており、都会でも集中豪雨や竜巻といったものがかなり増えると思う。それを考えると格納庫はあった方がいい。

(受益者負担について)

○ヨーロッパなどでは先に保険を掛けておいて、保険で一回限り治療も受けられる。けれども、そのまま帰ってしまうのではなく、必ず地上の病院に行って診察を受け、その費用はまた別というようなシステムになっている。日本でも受益者負担を考えた方がいい。

○実際に外国の場合は車とヘリコプターというのはほとんど同じレベルで運航されている。日本の場合は救急車は無料であり、ヘリに乗った途端に有料ということであれば具合が悪い。やはり車の延長線上にヘリがあるわけで、受益者負担の前に公的にサポートしていかないといけない。

○ドイツでは基本的には健康保険によりヘリを飛ばしているアダックに支払う。アダックは毎年毎年、一回出動する当たりの単価を健康保険会社組合との間に決める。しかし、保険組合の方は全額アダックの言うとおりには認めないので、大体9割ぐらいしか回収できない。あとは自動車クラブでもらっている会費の中から補てんしている。
病院のヘリポートや格納庫は州政府や市町村の政府機関が建ててたりして、そういう意味では一部自治体も負担している。しかし、一人ひとりの患者は直接お金を請求されることはない。

○実際ドイツやアメリカなどにおいても、ドクターヘリによって救命率や後遺症が軽くなり、費用的にはプラスであると出ている。そういった点を踏まえ、費用を公的なものでサポートすることが必要。

○消防、救急車とは別のシステムでいくのであれば、早く治療することによって費用が少なくて済むわけだから、そのヘリの費用を保険で負担しても、結果的に保険組合が負担する金額は減ると考えられる。

○関東でも東京の周辺では搬送時間も含めて治療開始時間が世界に比べて非常に遅い。現場をやっていて、助かるべき人が助かっていないのではないかと思う。

○住民が本当にヘリが必要であるという意識を持たないと答えが出ない。学校に降ろせば騒々しくなるが、ヘリコプターが降りてきて助かり、元気にまた町の中を歩いているという姿を見ていく中で、初めてドクターヘリの有用性を理解できる。そういう意味で自分の事業では意図的に学校を使っている。最初のうちは反対も出たが、今は逆に地元から来年度もやってほしいという継続意見の声が大きい。そういう中で今の段階で費用は取れない。国民が理解した中で、ではお金をどうするのという話になったときに、税金なり保険なりでと考えるべき。

○高速道路を広くいろいろなことに活用していただくというのは当然のことだが、いつでもどこでも誰でもというような体制を取るとなると、本線に降りる場合、道路の構造上、遮音壁や照明ポールなど多々あり非常に地域が限定される。ドクターヘリの機種をできるだけ小型化するとともに、ローターなどの基準を明確化しないと、本線の中でどこに降りられるかはっきりしない。
今の機種だとローターだけで小さくても11mぐらいある。東名の起点から御殿場ぐらいまでの間では、路線の幅自身が最低限3車線でなければ降りられない。3車線でも遮音壁などあるところは非常に危険なので、結果的には降りられるところは3車線プラス予備的な車線のあるようなインター周辺などに限定される。機種が限定されて、それから基準が明確化されれば、高速道路は100mごとに全部キロポストが明示されているので、例えば上からここは降りられる、ここは降りられないというようなことが明示できるのではないか。
それから、本線以外のSAとかPAの場合、SAについては緑地などがあるので降りられる余裕はあるが、駐車スペースに降りるには車を排除するなどの必要があるので、苑地を中心にして事前に施設を整備しておかなければならない。
いずれにしても、交通事故の現場なので、二次災害などが起こらないような基準づくりが必要。

○この間、訓練ということで首都高に降りたのだが、降りたところは3車線の幅15mで、ヘリのローターの幅が11mだったので、1.5mぐらいのクリアランスを持って非常にスムースに降りられた。高さとしても1.5m以内だったので、若干ブレードがはみ出ても今回の場合は大丈夫だった。

○11月29日に訓練をして、この後、運航技術上の問題点、これはスペースあるいは天候といったものについての検討を行う予定。標識や照明といった道路構造上の問題に関する検討。それから交通管理上の問題、これは常時なら相当の交通量あるいはスピードがある。もう一つはいろいろなケースでどういう順番でやっていくのが最も早く適切にできるか。そういった手順についても確認をし、いろいろなケースの組合せを考えていった。
それから、関係機関それぞれの役割分担をもう一回見直したらということで、それほど時間を掛けるつもりはないが、あと一、二回議論をして、どんな課題があるのか、どんな可能性があるのかということをまとめたいと考えている。

○高速道路上での利用については、条件が整えば高速道路を着陸地点とすることも可能であろう。SA、PAというようなところから徐々に、形式、段階を踏んで慣れていくのがベター、条件整備を先行させた方がよい。

○今回は首都高ということで構造的に非常に厳しいところであえてやった。今回の訓練結果を検討し、更にSAとかPAといった場面においても同じような訓練なりケーススタディーをやることで可能性をもう少し見極めて、もっと広げていければということが各省の基本的な方向性となっている。

○一旦救急車に乗せて現場から移す時間を短縮しようというのがドクターヘリの目的。交通事故現場、特に高速道路の事故の場合は挟まれたというケースが多いので、一番大事なのはその現場で処置することであり、そこに降りられないとドクターヘリの効果は半減する。ドクターヘリは治療をする部隊で運ぶ部隊ではないので、事故現場の近くに降りないと目的を逸脱してしまう。したがって、サービスエリアや端に寄るのは、効果としては問題が残る。
実際に民間航空会社の仕事には山の中の木材の搬出などもあり、非常に狭い場所に離発着しているから、それなりに狭い範囲の離発着というのも技術的には不可能ではない。助からなければ、国民の理解も得られなくなるので、そういった検討も行ってほしい。

○高速道路の場合などはホバリングでつり下ろしつり上げというのを真剣に検討した方がいい。ドクターが降りて、さっさと処置をしてあげた方が効率もいいし、技術的にそんなに難しいことではないと思う。

○過去にドクターヘリに医者が反対したことがあった。医者の理解を広めるためにも、また、実用的な訓練のためにも、モデル事業のようなものでもよいが、どこかの病院などにフライング・ドクターやフライング・ナースのためのコースをつくることなども有効なのではないか。

○阪神・淡路大震災以降、災害拠点病院という制度が厚生省の指導ででき、その中で相当議論をしているので、医者の意識という点に関しては心配ないと思う。

○ドクターヘリの中にはヘリを病院に常駐する方法と、医師をピックアップする方法があるが、ドクターヘリはどこまでやるか。フライト・ナース、フライト・ドクター的なものを取り入れるのか。それによって機種も決まる。例えば、ホイストをやらなければならないとすると中型ぐらいが必要。着陸、それも不特定な場所に降りるというならば、吹き下ろしの風等があるので、できる限り小さい方がいい。
夜間にやる場合は米国ではGPSを使い、災害現場のヘリポートの基地に有視界飛行で降りるとしても、天候が悪くて帰れないという場合は計器飛行で帰る。そして、ヘリポートのところにはGPSのILSをFAが場所的に許可している。
格納庫とか燃料施設は恒常的にやるのだから、安全面や機体の保護などの面からしても必要。

(ドクターヘリの意義と搬送体制について)

○今回、浜松地区では、基本的に現場の救急隊の応援という方式を取った。その理由は、ドクターヘリが現場の救急隊員からのもっと早く治療をしてほしいという要望によるものだから。ドクターヘリの最大の利点というのはいかに早くドクターがそこに行って治療を開始できるか、それで患者を落ち着かせるか。
自分たちの場合もドクターのピックアップ方式の体制はつくって、毎日いろいろな病院が持ち回りで待機を取っているが、わずか6回しか出動がなかった。それだけ現場は余裕がない、早く来てほしいということ。したがって、ドクターヘリで一番重要なことはドクターが現場へ行くことで、それから次に搬送手段として何を使うかということになる。
スイスの場合と同じように、浜松市も降りられる場所は非常に限られているから、将来はホイストを使わなければ所期の目的は達成できないと思っている。ドクターが現場に行って治療を開始するのでなければほとんど意味がない。

○ドイツでは1934年ぐらいに医者は現場に行って治療するのが基本という考え方を出した医者がいて、それがドクターヘリの手法の中に生かされたという報告があった。1950年代にもう一人、救急というのは救急車ではなく、医者が早く行く、あるいは病院そのものを持っていく、あるいはICUを持っていくというのが基本的な考え方であるとの話があった。
したがって、それを現実にするには基本的には救急車だろうとオートバイのスピード化だろうとヘリコプターだろうと、何でもいい。ヘリの場合もドイツの場合には必ず同時に救急車が走る。救急車は別に医者が乗っている救急車もあれば乗っていないのもあって、少なくとも乗っていないのは走らせる。そして、ヘリで行った医者が救急車を一緒に使いながらそこで治療をするということ。

○救急車やパトカーが来るのを待っているという説明があったが、これではせっかくヘリがあっても無駄。特に高速道路の場合はつり下ろしつり上げもしくは処置ができた人は自動車で運ぶという形がよいのではないか。その場合、交通整理や現場を見て証拠写真を撮ったりとか、そういう関係の警備の方も一緒に乗っていけば完璧にできる気がする。

○現状ではまだヘリコプターは決まった場所しか行けないが、決まっている場所にヘリが先に着いていても患者が来なければ意味がない。そういう意味で、地元の騒音等を考えて救急車と到着の時間を合わせている。ただし、将来ヘリコプターを降ろすときに地上の安全確認を行わないと事故が起こる。特に事故の横を抜けていく車が結構あり、現実に救急隊が高速道路で事故に遭っている。二次災害の防止のため、関係機関との調整を図る必要がある。

○高速道路などの事故の場合はドクターヘリばかりでなく、消防・防災ヘリや取材のヘリも行く。その場合の現場統制についても検討していただきたい。
災害発生時におけるドクターヘリ要請手順としては、災害現場からの患者輸送の場合は119番の通報と同時にドクターヘリを要請する場合と、救急車が現場到着した後、その救急隊員によってヘリを要請する場合の2通りがある。
要請手順の作成は、基準は別としても、ドクターヘリと地上との無線交信システム、つまりドクターヘリとパトカーや救急車や消防隊、または病院や消防本部や警察本部との連絡ができるような体制、これがドイツなどは直接できるようになっているわけだが、警察本部経由、消防本部経由でも消防車とパトカーとドクターヘリが何らかの方法で意思疎通ができるような方法が必要。
また、医療機関によるヘリの着陸施設の整備が必要ということで、医療機関の敷地内または屋上等にヘリの着陸場が必要であるということと、天候による出動不能があったと聞いているが、東京消防庁の場合は逆に消防本部に事前に今の時間は天候不良で飛べないと逆フィードバックをしている。そうすると、すぐ救急車で処置しなければならないという消防のクイック・リスポンスができる。
要請マニュアルも構築しておいた方がよい。
あとは離着場の使用者の管理者の許可手順ということで、特定な場所は事前の許可をもらっているからよいが、不特定の場所の管理者の使用許可をどのようにして取るのか。こういうのが私自身実際に体験して苦慮しているところ。
あとは地上支援の協力体制ということで、警察機関や消防機関、道路公団等との支援体制も構築しておく必要があるのではないかと思う。
ドクターヘリの基地の航空気象、これは先ほどの両方の基地にあると言ったが、常時レーダー移行とか、雨の区域が常時わかるようにしておくことが必要。
あとはヘリ出場不能時における相互補完システム、例えば出場中にまた災害があったときどういう補完システムを取るのか。これも人命に関わるので、非常に大事だと思う。
ドクターヘリ災害現場での通信連絡体系としては、せめてドクターヘリと地上部隊が何らかの方法で意思の疎通をできるようにしておいた方がよいと思う。
ドクターヘリによる各種運航体制ということで、このようなヘリを病院に置く方法とドクターピックアップ方式ということをやっているが、12月に小菅村でショベルカーの下敷になった人を救助するため、国立災害医療センターの医者を乗せて行った際には、多摩航空センターを離陸して災害医療センターに行くまで2分。そして、小菅村に6分ぐらいで行ってしまう。ドクターがそこで10分ぐらい治療し、災害医療センターの屋上に降ろしたという事例がある。ドクターヘリを仮に税金でやるとしても、保険制度でやるとしても、すぐに体制が日本全国に広がらないと思う。したがって、ドクターヘリに民間ヘリを使うのと、または今ある消防・防災ヘリを使ったピックアップ方式をコンビネーションした運航体制も必要ではないか。
運航時間帯については、いきなり夜間にも出動するのではなく、まずは特定な場所で昼間に行い、その次に不特定な場所に降りたり、昼夜間をやり、最終的に昼夜間をやって、夜間は特定な場所だけを指定しておき、昼間は不特定な場所も特定な場所もやるという方式を段階的に踏んだ方がいいのではないか。

○現在、各都道府県に基本的に1機消防・防災ヘリがあるが、ドクターヘリ的な運用はほとんどされていない。ただ、そういった資源があるので、救急出動にできるだけ積極的に使っていくため、消防・防災ヘリに対する要請基準的なものを消防庁で示し、各消防本部が県に明確に要請できるようなことを考えている。

○来年の2月に運輸省令の改正施行をすることを目指している。今までは、救急医療の場合、公的機関のヘリコプターだけが飛行場外での離着陸の許可を免除されていたが、民間のヘリコプターでも高速道路での事故などにおいて公的機関、即ち消防とか警察から依頼又は通報により出動する場合については場外離着陸の許可を必要としないという改正案である。今、省令改正の作業を進めており、早ければ、2月ごろ施行できる予定。

○問題点が明確になってきたので、やはり我々が海外に調査に行った場合、ターゲットを調べてそれが外国でどうなっているのかを調べた方がよい。そうすると日本はどうなっていて、対策はどうすべきなのかわかってくる。


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