「歯科医師の医科研修」 市立札幌病院からの報告
―救急研修はいかにあるべきか―

日本救急医学会総会一般演題(2003年11月19日)
市立札幌病院救命救急センター 佐藤朝之、牧瀬 博

1枚目のスライド


Slide-01(前スライド、次スライド

 「すべからく医療者は、緊急時に適切な対応をし、しかるべき効果を上げることが期待されている」 救急医学に関わる我々は、この役割期待にどう答えてゆけばよいのであろうか。

 一昨年、当院歯科口腔外科医の救命センターでの研修に対し、医師法違反の嫌疑がかけられ、 救命センターの部長が起訴、一審で有罪判決を受ける事件がありました。

 この事件は、救急医療に関わる我々に大変関係の深い事件ですので、ご報告させていただきます。


Slide-02(前スライド次スライド

 口腔外科医は、こういう理由で、救命センターでの研修を希望しました。

(きわめてまともな考えです。)
(実際に患者さんを前にしている人間の、経験から絞り出された考え。)


Slide-03(前スライド次スライド

(歯科医にそこまでの研修は必要か)
(歯科は、医科とどこが違うのか)

 歯科口腔外科診療にあたっては、これらの部位の手術を含む治療を行っています。

 口腔は、airwayであり、消化管であるので、手術に際しては気管挿管、場合によっては気道確保目的で気管切開を行いますし、摂食が困難な場合には、当然TPNを行います。

 歯科口腔外科診療中の患者さんが,想定されていない急病を発症した場合には、 初療を行うもの、と考えますが、裁判において、厚生労働省の担当官からは、 「緊急対応は義務ではない」との見解が示されています。


Slide-04(前スライド次スライド

 歯科口腔外科の研修医は、通常の手続きに従って、院内レジデント教育委員会の承認を受け、 院長の許可を得て、正式に麻酔科、続いて、救命センターの研修を行いました。 研修内容は、レジデント教育委員会に報告されていました。


Slide-05(前スライド次スライド

 研修医のプロフィール: 3年目から7年目の、歯科口腔外科医を、 一年に一人ずつ受け入れていました。救命センターをローテーションする前に麻酔科での研修を必修としていました。

 研修の目標: 緊急時の対応,適切なコンサルテーション、全身管理を習得目標としていました。

 研修の形態: 救命センターの診療チームで、他の医師に混じって、診療を行っていました。

(いずれも、歯科口腔外科医の通常診療の場面を考慮すると、自分一人で何とかその場を乗り切らなければならない)


Slide-06(前スライド次スライド

 告発に至った経緯と、違法と判断された根拠を示します。

 まず、内部告発により、地方紙に「歯科医師、資格外診療」の記事が出ました。 これにつき、札幌市保健所が、研修を前提とした行為についての疑義照会を出し、 これに対し、厚生省から研修を前提としたという条件に言及しない形で、 「歯科に属さない疾患に関わる医行為を、業として行うことは、医師法第17条に違反する」 という通知が示されました。

 これを受けて、札幌市保健所が、(同じ市の部局である)市立病院を告発することになりました。


Slide-07(前スライド次スライド

 なぜ告発されたか、医師でなければ危険な行為(絶対的医行為という言葉か使われています) を、無資格者が行った。ということで、医師法違反とされました。絶対的医行為の定義と、その内容はお示しの通りです。

 歯科口腔外科領域でも行われて居るであろう事は想像に難くないこれらの行為が、 研修を目的に“医科の患者さん”に対して、医師の指導の下に行われると、「絶対的医行為」とされて、違法になります。

 検察の事情聴取の結果、慢性的な人不足に悩む救命センターが、現場責任者の単独の判断で、 歯科口腔外科研修医をして医師としての診療にあたらせたと見なされ、行為者の歯科口腔外科医は起訴猶予、救命センター部長(研修開始時は副部長)は、起訴ということになりました。


Slide-08(前スライド次スライド

 裁判の経過です

 検察側の主張は以下の通りです。

 免許制度を無視した、きわめて悪質な、確信犯的犯行で、常習性が顕著。 反省の状もなく、再犯性が高い。医師に対する信頼を大きく傷つけた。と断じられ、罰金6万円が求刑されました。

 これに対する判決はスライドにお示しする通りです。

 研修を前提としても、行為自体は免許制度の範囲内で行わなければならないので、 医師以外の“無資格者“による診療行為は、医師法違反であるとされました。

 ということは、現実問題として、免許を持っていない医学生は、患者にはさわれないことになります。 絶対的医行為である、気管挿管を行う救急救命士は医師法違反ということになります。 (医師法は、通達の上に立ちます)


Slide-09(前スライド次スライド

 すべからく医療者は、緊急病態に適切に対応し、良好な結果を上げることが期待されています。 緊急病態に対する訓練は、医療者として、必須のものです。緊急の事態に確実に技術を発揮するためには、普段からの訓練が欠かせません。

 ではどのように訓練をしたらよいのでしょうか。緊急病態は、各診療科で日常的に起こっているわけではありません。歯科口腔外科医が、その診療科で救急病態の患者さんを待っていたのでは、症例数が少なくて研修になりません。救急病態の対応を指導できる、しかるべき指導者が必要ということを考えても、救急病態の対応の研修は、症例があり、指導者の確保できる救命救急センターで行わざるを得ないと思います。

 教育効果を考えると、研修の形態は参加型以外考えられません見学、介助、単独の段階をステップアップし、実際に自分で手を動かすような、研修形態であるべきです。見学は、研修の 1st stepです。見学しただけで実際の診療行為が出来るわけがない。(況や、重傷緊急病態においてをや)


Slide-10(前スライド最初のスライド


付言:

〇医学、歯科医学はこのままのくくりでよいのか

本来は、医学部歯学科であるべきなのではないか

〇医療は医師だけのものか?

これまで医師が行ってきたさまざまなことのうち 一部を、特定の専門業種に分担してゆくべきなのでは

〇医療は医師だけのものか

一般の人にも、医学的知識を持ってもらってもいいのではないか 自分で何かしたいときに(緊急対応などの時に)知識も技術もない 自分の体のことなのに、人任せになってしまう。 義務教育に医学を。


高知シンポジウム:歯科医師の医科研修問題