ヨーロッパ蘇生協議会(ERC)の心肺蘇生法ガイドライン 2005

はじめに(Introduction)

目 次
導入
科学的コンセンサス
科学からガイドラインへ
人口統計
救命の連鎖
ユニバーサルアルゴリズム
CPRの質
要約
参考文献
(Introduction)
(Consensus on science)
(From science to guidelines)
(Demographics)
(The Chain of Survival)
(The universal algorithm)
(Quality of CPR)
(Summary)
AHA G2005の関連資料13  


Resuscitation (2005) 67S1, S3-S6
Jerry Nolan
(最終更新 071223) 

 心肺蘇生(CPR)と救急心血管治療(ECC)の2000年版ガイドラインが出版されてから5年が経過した1。ヨーロッパ蘇生協議会(ERC)は、自らの蘇生ガイドラインを、この文書に基づき一連の論文として 2001年に出版した2-7。蘇生科学は進歩し続けており、臨床におけるガイドラインはこれらの進展を反映させて常に更新されなければならないし、ヘルスケア・プロバイダーには最良の実践方法をアドバイスしなければならない。ガイドラインの主要な更新(約5年ごと)の間に、暫定的な助言声明はヘルスケア・プロバイダーに対し、患者転帰に著しい影響を与えうる新しい治療法に関する情報提供をすることができる8。そしてわれわれは、重要な研究成果に基づいてさらなる助言声明が発表されることを期待している。

 以下のガイドラインは、蘇生はかく成し遂げられるべしとのただ1つの方法を定義しているのではなく、蘇生をどのようにして安全かつ効果的に実施できるかという点について、広く受け入れられた見解を提示しているに過ぎない。この、新しいそして見直された治療勧告(treatment recommendations) は、現在の臨床ケアが危険だとか無効であるなどと暗示しているわけではない。

科学的コンセンサス(Consensus on science)

 国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)は1993年に設立された9。この組織の任務は、CPRに関する国際的な科学と知識を識別・検討し、推薦できる治療(treatment recommendations)についてのコンセンサスを提示することである。最新の蘇生ガイドラインを更新する作業は2003年に始まったが、その際にILCORの代表者たちは6つの作業部会、つまり、一次救命処置、二次救命処置、急性冠症候群、小児救命処置、新生児救命処置、そして教育に関する問題など多方面にまたがるトピックについて検討する総合的な作業部会を作った。それぞれの作業部会はエビデンスの評価を要するトピックを識別し、それらをレビューするよう国際的な専門家を任命した。一貫性があって綿密な検討が可能になるように、各段階における指示を示したワークシートテンプレートを作成し、専門家たちが彼らの文献のレビューを文書化したり、研究を評価したり、エビデンスのレベルを決定して推奨項目(recommendation)へと進展させる助けとした10。全体として281人の専門家が276のトピックに関し、403のワークシートを完成させた。18の国から380人が、2005年1月にダラスで開催された「心肺蘇生と緊急心血管治療のための科学と治療の推奨に関わる2005年国際コンセンサス会議(C2005)」に出席した11。ワークシートの作成者はそれらのエビデンス評価についての結果を発表し、科学的ステートメントの概要を提出した。これらのステートメントは全出席者による討論を通じて洗練 したものとなり、さらに、可能であれば治療勧告が付記された(supported by treatment recommendations)。これらの科学的ステートメントの概要と治療勧告は「心肺蘇生と緊急心血管治療のための科学と治療の推奨に関わる国際コンセンサス2005(CoSTR)」として発表されている12

科学からガイドラインへ(From science to guidelines)

 ILCORを形成する蘇生団体は合意文書の科学的知識に合致した、それぞれ個別の蘇生ガイドラインを発表するであろうが、それらは地理的、経済的、あるいは実践する場のシステムの違い、さらには医療機器や薬剤の入手可能性を考慮したものになるだろう。これらの2005年版ERC蘇生ガイドラインはCoSTR文書に由来してはいるが、ERC実行委員会のメンバーの間でのコンセンサスをも表している。ERC実行委員会は、これらの新しい勧告(recommendations)が、現在の知見や研究および経験によって支持され得る、最も効果的で簡便に学べる介入法(interventions)であると考えている。(ただし)ヨーロッパの中でさえも薬剤や器具、人材の入手可能性に差があるため、これらのガイドラインを地域や地方、国によって適応させていく必要性を避けることができない。

人口統計(Demographics)

 虚血性心疾患は、世界中で死亡原因として主要なものである13-17。突然の心停止は冠状動脈性心疾患による成人死亡の60%以上を占めている18。スコットランドとヨーロッパのその他の地域の5都市から得たデータによると、心疾患による病院外での心肺停止に対して蘇生を行う率は、1年間で人口10万人あたり49.5〜66である19,20。スコットランドでの研究は21,175件の病院外での心停止を含んでおり、病因について貴重な情報を提供している(表1.1)。病院内での心停止の発生率は、入院の基準やDNARの実施などの要因に強く影響されるため、評価するのが困難である。 イギリスの総合病院では、初期心停止(DNAR症例や救急部門での心停止を除く)の発生率は1,000件の入院に対して3.321であり、同様の除外基準を用いたときのノルウェー大学病院でのそれは1,000件の入院当たり1.5である22

表1.1 病院外の心肺停止21,175例の病因


  病因                   症例数(%)

心疾患と考えられる症例           17,451(82.4)

心疾患以外の、内因性の病因がある症例     1,814(8.6)
 肺疾患                    901(4.3)
 脳血管疾患                  457(2.2)
 がん                     190(0.9)
 消化管出血                   71(0.3)
 産科/小児科                   50(0.2)
 肺塞栓                     38(0.2)
 てんかん                    36(0.2)
 糖尿病                     30(0.1)
 腎疾患                     23(0.1)

心疾患以外の、外因性の病因がある症例     1,910(9.0)
 外傷                     657(3.1)
 窒息                     465(2.2)
 薬物過量投与                 411(1.9)
 溺水                     105(0.5)
 その他の自殺                 194(0.9)
 その他の外因によるもの             50(0.2)
 感電/稲妻                    28(0.1)


救命の連鎖(The Chain of Survival)

 突然心停止となった患者と生還とをつなぎ合わせようとする行動は、「救命の連鎖」と呼ばれる。これには以下の行動が含まれる。すなわち、緊急事態を早期に発見すること(救急隊を呼ぶこと)、早期にCPRを行うこと、早期に除細動を行うこと、そして 早期に二次救命処置(ALS)を行うこと、である。乳児と小児における救命の連鎖は、心肺停止につながる疾患の予防、早期のCPR、緊急体制を発動させること(早期に救急隊を呼ぶこと)、早期に二次救命処置(ALS) を行うこと、からなる。病院においては現在、危篤状態にある患者を早期に認識し、医療緊急時チーム(MET)を発動することの重要性が広く承認されている23。以前の蘇生ガイドラインでは、蘇生後ケアフェーズにある患者の治療についての情報はほとんどなかった(have provided relatively little information)。心停止状態から回復して昏睡状態にある患者が、心拍再開後の最初の数時間あるいは最初の数日にどう治療されるかについては、かなりの幅がある。この状態での治療法の違いは、病院内での心停止後の転帰におけるバラツキのいくらかに関与している可能性がある24。重症疾患および/または狭心症を認識することと、心停止(院内外で)を防ぐこと、そして蘇生後ケアが、これらの要素を包括することで、新しい4つの輪の「救命の連鎖」にハイライトが当てられている。連鎖の最初の輪は、心停止のリスクを認識し、早期の治療で心停止が防止できることを期待して助けを呼ぶことの重要性を示している。この新しい連鎖の中央の 2つの輪は、生命回復のための早期蘇生の根本要素としての、CPRと除細動の統合を表している。最後の輪は効果的な蘇生後ケアであり、機能維持、特に脳と心臓をターゲットとしている(図1.125,26


図1.1 ヨーロッパ蘇生協会(ERC)における救命の連鎖

(輪の外周部分)
1番目
早期認識・早期通報
心停止を予防するために
2番目
早期のCPR
時間をかせぐために
3番目
早期の除細動
心臓を再始動するために
4番目
蘇生後ケア
クォリティオブライフを
取り戻すために


ユニバーサルアルゴリズム(The universal algorithm)

 成人の一次、二次蘇生アルゴリズムそして小児の蘇生アルゴリズムは、ERCガイドラインの変更を反映して更新されている。ほとんどの状況下でも、心停止の患者に適用できるべく、アルゴリズムが簡潔であり続けるようにあらゆる努力が払われた。救助者は、もし傷病者に意識がなく無反応で、正常に呼吸していない時はCPRを開始する(時折みられるあえぎ呼吸は無視する)。30:2という単一の胸骨圧迫−換気(CV)比率を、救助者が 1人の場合の病院外の成人あるいは小児(新生児は除く)に対して適用する。さらにこれをすべての成人のCPRにも適用する。この単一の比率は指導を単純にし、スキルの保持を推進し、胸骨圧迫の回数を増やして圧迫の中断時間を減らすために採用された。ひとたび除細動器が装着され、ショックの必要な波形と確認されたら、1回のショックが行われる。その後の波形に関わらず、血流のない時間(‘no-flow’time)を最小限にするため、ショック後直ちに胸骨圧迫と換気(CV比率30:2で2分間)が再開される。二次救命処置(ALS)はALSアルゴリズムの中央にある囲み記事(ボックス)に概説されている(第4部参照)。ひとたび気管チューブやラリンジアルマスク(LMA)あるいはコンビチューブで気道が確保されたら、胸骨圧迫をしている間ずっと、1分間に10回の割合で絶え間なく換気を行う。

CPRの質(Quality of CPR)

 胸骨圧迫の中断は最小限にとどめなければならない。胸骨圧迫が中断している時は、冠血流量が大幅に減少しており、胸骨圧迫が再開されても冠血流量が前のレベルに回復するまでには数回の圧迫が必要である27。最新のエビデンスでは、病院内外の両方において、しばしば不必要な胸骨圧迫の中断が起こっているという28-31。蘇生を指導する人(インストラクター)は、胸骨圧迫の中断を最小限にすることの重要性を強調しなければならない。

要約(Summary)

 これらの新しいガイドラインは、蘇生の実践と、最終的には心停止からの転帰を改善させることを意図している。30回の圧迫対2回の換気という普遍的な比率は、胸骨圧迫の中断回数を減らし、過換気の可能性を減じ、指導の際のインストラクションを単純化し、スキルの維持も改善させるであろう。ショックを1回にする戦略は、「無流時間」(‘no-flow’time)を最小限にするであろう。救急蘇生コースの資料は、これらの新しいガイドラインを反映して今更新されつつある。


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