論説3: 心肺蘇生と心血管緊急治療における科学と治療推奨の2005年国 際コンセンサス会議におけるエビデンスの評価過程(Editorial 3: The evidence evaluation process for the 2005 International Consensus Conference on cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular care science with treatment recommendations)
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-- Robert Hayden、プリマス州立大学
根拠に基づいた医療(EBM)とは「患者に対する意志決定をする場合に、入念に、系統立てて、慎重に最新最良のエビデンスを用いることである」と記載されている1。この補遺版にまとめられているエビデンスの評価過程は、蘇生に関する利用可能な全てのエビデンスの再吟味を保証するように策定されている(was designed to ensure the review of all available evidence pertaining to resuscitation)。蘇生手順の諸相は、実験プロトコルのデザインやデータ解析に対して固有の困難を引き起こし、ヒトを研究対象とした無作為化比較試験では評価されて来なかった。(しかし)ヒトを対象とした無作為化比較試 験以外の研究を除外すると、蘇生治療ガイドの役に立つ豊富な情報が除外されてしまう。この理由により、ヒト以外を対象とした研究を含んだ、よりレベルの低いエビデンスの研究も検討されている。この評価過程を開始するに当たり、国際的な専門家(ワークシート評価者)に評価すべき課題が割り当てられた。課題はILCORの各専門委員会(例えば、BLS、ACLS、小児など)や、ILCORのメンバーである蘇生協議会とその訓練組織の調査結果より選択された。各課題の評価は2005年コンセンサス会議のために開発された構造化したエビデンス評価ワークシートとして仕上げられた。ワークシート評価者の多くは、エビデンスに基づく構造化評価を実施した経験が全く無かったので、年2回のILCOR会議で教育講座が開催され、効果的なエビデンスの検索方法、ワークシートの完成方法、文献引用管理ソフトウェアの使用方法などをデモしたCD-ROMが作成された。(また)さらなる質を保証するために、2人のワークシートの専門家(Peter MorleyとArno Zaritsky)が任命された彼等は提出された全てのワークシートを再評価した。彼等により完成したとみなされるまで、繰り返しコメント、修正、質問をワークシート評価者に対して行なった。
2005年コンセンサス会議の為に完成したワークシートは、オンラインの補遺資料としてこの文書の電子版からリンクされている。ほとんどのワークシート番号は見出しの近くに上付き文字として配置され、他の参考文献引用と区別する為に文字Wで始まっている。この補遺の電子版の読者は、リンクされたワークシートの付記をクリックすれば引用されたワークシートにアクセスできる。印刷版の読者は、この号(付録1参照)の最後にある番号付けされたワークシートリストを参照することで、引用されたワー クシートの完全なタイトルと著者を特定することが可能であり、その後に会議のウェブサイト(www.c2005.org)でそのワークシートにアクセスできる。以下の討論では、空欄のワークシートが引用され、参考の為にアクセスすることが出来る。
手順1. 提議を記載し(1A)エビデンスを集めて選択する(1B)W277
全ての評価者は、割り当てられた課題を広範に検索するよう指示された。評価者は検索の再現性を担保する為に、検索方針を文書化した。検索すべき最低限の電子的データベースとして体系的レヴューとCentral Register of Controlled TrialのためのCochraneデータベース[http://www.cochrane.org/]、 MEDLINE[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/]、EMBASE(www.embase.com)、アメリカ心臓協会(AHA)により照合された参照文献マスターなどである。関連文献を最大限に特定する為に、必要に応じて学会誌、総論、書籍を手作業で検索することも推奨された。
評価者は仮説に関連した文献が選択された理由を文書化した。(また)文献を取り入れるか除外するかの明確な基準と文献の制限について文書化された。全ての関連したエビデンス(ヒトでの研究ばかりでなく動物や人体モデルでの研究からのエビデンスも)を取り入れることが推奨された。
手順2. エビデンスの質の評価 W277
この手順においては、評価者は関連する文献のエビデンスレベルを決定し(手順2A)、文献の研究デザインと方法の質を評価し(手順2B)、結論の方向性を決定し(手順2C)、評価した文献をクロス表で評価する(手順2D)ことが求められた。
2005年コンセンサスの過程(この号のPart 1参照)2で用いられたエビデンスのレベルは、2000年に用いられたもの3,4を修正したものであった。多くの場合、人間を対象とした臨床試験の結果が得られない為、結論の要旨はより低いエビデンスレベルに基づいていた。
評価者は研究のデザインと方法の質を評価し、各々の研究を次の5つのカテゴリーに割り当てた。それらは優、良、普通、可、不可のカテゴリーであった。そして、可、不可に割り当てられた文献は、その後の分析から除外された。
評価者は研究結果の方向性を、支持する、中立な、または反対するとして評価し、データを2つのマス目の一つに記載した(depicted the data in 1 of 2 grids)。マス目はエビデンスの質とレベルを表した2次元配列のものである。評価者は、支持するエビデンスのマス目と中立または反対レベルのエビデンスのマス目を完成させた。
手順3. 推奨クラスのための推奨
CPRとECCのためのAHAガイドライン20055は、総合的な推奨の強さを示す為に推奨のクラス体系を使っている。これらの推奨のクラスはILCORの2005 CPRコンセンサス文書6では使われなかった。
この手順においては、評価者はAHAのための特定の推奨される治療や他の協議会特有のガイドラインの総合的な推奨の強さに関して意見を述べる為に招聘された。この部分に含まれる記述は評価者の意見を反映しており、2005年コンセンサス会議、CPRとECCのためのAHAガイドライン2005、またはその他の蘇生協議会からのガイドラインの合意された結論と合致する場合もあれば合致しない場合もある。
手順4. 評価者の展望と利益相反の可能性 W277
全ての評価者は利益相反(conflict of interest)の公開書式に記入し、ワークシートにも 利益相反の可能性について記載した。このことによって評価過程の透明性が担保された。もっと詳細な利益相反の公開過程はこの号のもう1つの論説7に記載されている。
手順5. 科学的な要約 W277
ワークシートの評価者は科学的な要約を作成した。要約の書式においては、評価者は結果の評価とデータのエビデンスの強さと限界を含めたエビデンスの詳細な論考を提供するよう推奨された。
科学的な要約過程の最終手順は、合意された科学的声明と推奨される治療の草稿を作成することであった。声明の定型書式が包括的な情報の要約を標準化する為に提供された。科学的な声明の定型書式に記載される合意された要素としては、特別な介入、評価ツール、文献の数、エビデンスのレベル、臨床的転帰、研究された母集団、研究の設定などが含まれる。推奨される治療の定型書式の要素としては、特別な介入、評価ツール、母集団と研究の設定、推奨の強さが含まれる。 評価者により草稿されたワークシートの声明は、評価者の推奨を反映しており、2005年コンセンサス会議の結論と合致する場合もあれば合致しない場合もある。
手順6. 参考文献
ワークシートの評価者は使われた参考文献を含んだデータベースファイルを提出するように求められた。提出された参考文献は AHAにより照合された参考文献マスターに加えられた。
手順7. インターネットでの公表
完成したワークシートはさらに評価を受ける為にインターネット上に公表された。まず最初にワークシートを AHAのパスワードで保護されたイントラネット上に公表した(ワークシート評価者はアクセス可能)。完成したワークシートは、ダラスでの2005年のコンセンサス会議の前に更なる評価とフィードバックを受けられるように、2004年12月に一般の人がアクセス可 能なインターネット上に公開された(http://www.c2005.org)。
関連したテーマに関する研究(LOE7)
多くの評価者は、評価者の当初の仮説を明確に扱ってはいないが、関連した疑問に答える研究を同定した。例えば、成人のデータを小児のワークシートに外挿する、重篤な患者の血糖値の制御の結果を蘇生後の状況に外挿する、などである。ワークシート評価者は外挿を意味するエビデンスであることを明確に指定するように指示された。評価者はそのような研究を「LOE 7」と表すよう指定されるか、または、評価者はエビデンスのレベルを研究のデザインに基づくものではなく、他の目的のために集められたデータからの外挿であることを明確に示す為に、科学的声明に関する合意の草稿において具体的に関連した詳細とともに「~からの外挿である」というような言葉を含むように指定された。
2005年コンセンサスの過程のために使われた初期設定のエビデンスのレベルは、診断や予後を評価する研究の評価を目的としたものではなかった。これらの研究に対して、エビデンスのレベルを評価するその他の方法が検討された(Oxford Centre for Evidence-Based Medicine [CEBM http://www.cebm.net/]により提唱されているようなもの)。その他のエビデンスレベルを含むことを計画しているワークシート評価者は、そのレベルを明確に定義し、初期設定のエビデンスのレベルをそのままにしておくように求められた。