防災に活用、インターネットの可能性

文責:犬山市消防署 中村 肇

(東海望楼 1996年6月号より、関係者の許可を得て転載)


目次

  1. はじめに
  2. インターネットの歴史
  3. インターネットのしくみ
  4. インターネットを防災に利用する
  5. インターネット防災訓練
  6. 防災に生かすインターネットの可能性
  7. なぜ阪神・淡路大震災では市民のためにインタ−ネットが満足に機能しなかったのか?
  8. まとめ


1、はじめに

 「情報化時代」と言われながら、今回の阪神大震災では、皮肉にも情報の途絶が救援活動の遅延などを招いた。例えば、最新の技術を盛り込んだ「兵庫県衛星通信ネットワーク」は地震のため6時間近く停止し、また、中央省庁を結ぶ光ケーブル電話線の不通などにより、地震直後の初動体制に遅れをとった。このように大規模な災害や地震に備えて用意されてきた既存のシステムがうまく機能しないために、行政はおろか、市民までが情報の途絶で混乱し、事態がいっそう深刻化したことは否めない。

 そうした中で、注目を浴びたのは、パソコン通信やインターネットに代表されるネットワークコミニケーションである。特にインターネットに関しては神戸市が、94年10月よりWWW(画像、音声、文字を同時に扱えるシステム。以下「WWW」という。)にホームページを開設、それまでは広報主体であった情報を、地震の概要、火災消失地域の概観図、市職員が自転車で走り回り撮影した街の被災状況に差し替え発信した。

 この情報はテレビや新聞などの、どのメディアよりも早く、世界を駆け巡り、事の重大さを知らしめたことにより、インターネットの持つ即時性、情報蓄積による不特定多数の伝達など、本災害により有効性が証明された。


2、インターネットの歴史

 インタ−ネットの歴史は、1960年代末の米国防省のパケット交換ネットワーク研究プロジェクトに始まるといわれる。

 このシステムは国政デ−タなどの重要な情報が核攻撃などにより壊滅的な被害を受けた場合、最小限の被害でいかに迅速にデ−タ、システムを復旧させる事を目的にしているものである。


3、インターネットのしくみ

 現在個人の多くがインターネットを運用するために契約している商用インタ−ネットを除き、インタ−ネットで結ばれているコンピュ−タ−は世界中にあるコンピュ−タ−と対等に接続され、情報は各地に分散し、回線の中継点に相当するコンピュータを多数配置することにより、回線は幾重もの経路が確保され、その結果コンピューター間のネットワークは網の目状になる。このため任意の1個所が被害を受けても障害のある回線を迂回することにより瞬時にして復旧が可能である。言い換えれば、商用のパソコン通信のようなユーザーが底辺でピラミッド型の頂点がホストコンピューターではなく、ユーザーがホスト コンピューターと等しい関係でもあり、それぞれが自律して運用されるシステムであると言える。


4、インターネットを防災に利用する

 行政機関がインターネットを利用した場合の利点と欠点を検証する。

〜利点〜

  1. 災害の個別情報は日本中、世界中から瞬時にして最新の情報にアクセスが可能である。
  2. 活字メディア(新聞)に比べ文字による伝播スピ−ドはけた違いに速い。また、情報の更新が手軽にできるので常に最新のものを受け手の市民、関係機関(以下単に「受け手」という。)に送ることができる。
  3. 双方向メディアであることを生かし、送り手の自治体など(以下単に「送り手」という。)が発信した公共的情報に対し、受け手が個別的な問い合せや意見を発信することができる。また、そのようなやり取りの場としても機能する。
  4. 水や食料、住居などの生活情報について被災者やボランティアが直接体験情報を発信することができる。
  5. 情報が早期に入手できるためデマや情報不足による住民の不安、苛立ちを解消できる。この事は住民の精神安定にもつながる。
  6. テレビ、新聞などに比べ地元に密着した情報が時間に関係なく受け手が欲しいときに入手できる。また、個人による発信も容易である。

〜欠点〜

  1. システムを確立しても運用する側の活用能力がないと生かすことができない。
  2. 災害に強い分散型のシステムを確立するためにはデ−タを点在させなければならない。このため個人情報等プライバシ−に関わることなど窃用される恐れがある。
  3. インタ−ネットに接続し、情報を発信するためには、現在のところパソコンが不可欠である。また、接続までの操作も煩雑で活用するには熟練を要する。
  4. 情報発信が統制できないので、デマや間違った情報が発信される恐れがある。


5、インターネット防災訓練

 震災から1年たった今年の1月17日に第1回の「インターネット防災訓練」がWIDEプロジェクトという学術関係の組織が主体となりオンライン上で訓練が行われた。この目的は災害によって寸断されたインターネットをできるだけ早く復旧すること、生存情報を収集し、それを検索できる状態を提供するものであった。

(1)災害によって寸断されたインターネットを復旧する

 基本的にインターネットは専用線で結ばれている。災害時にはインターネットの回線を復旧するよりも緊急度の高い回線はたくさんあるという考えから、切断された地上のネットワークを日本サテライトシステムのJCSAT-1という衛星で通信衛星回線に置き換えて行われた。

(2)生存情報を収集し、検索できる状態で提供する

 生存情報はパソコンを使ってオンラインで登録、検索する。方法は二通り用意され、一つはWWWでもう一つは電子メールによるものである。


6、防災に生かすインターネットの可能性

 インターネットを防災で運用する上で重要なことは、システムはもちろんのこと、情報発信の多元化(市役所、公立の小中高、大学などの公的施設を緊急時の防災コミニケーションセンターとしての機能を持たせること)、情報防災ボランティアの協力、インターネット(パソコン)に習熟した職員の配置など総合的な環境を考えなければならない。その上で実現すれば、既存の防災システムより安価に、しかも住民を含め広いユーザーからの情報を蓄積し、提供できるであろう。以下それぞれのセクションにおいて具体的にどのように生かされるか考察する。

〜災害対策本部〜

  1. 各避難所からの要望の受付、回答
  2. 救援物資の在庫状況のお知らせ
  3. 生活情報のお知らせ
  4. 市民の個別要望に対する受付、回答
  5. 各関係機関へ災害・被害状況のお知らせ、情報の受付
  6. ボランティア団体の連絡、及び募集のお知らせ

〜消防本部〜

  1. 消火栓、防火水槽の利用可否状況
  2. 救急車で収容した傷病者の搬送先のお知らせ
  3. 防火についての相談の受付、回答
  4. 救急病院・一般病院の科目別利用可否状況

〜関係機関(警察、電力、NTT)〜

  1. ライフラインの復旧状況
  2. 被害状況のお知らせ

〜各避難所〜

  1. 救援物資の請求
  2. 避難人員のお知らせ

〜一般市民〜

  1. 近親者の安否状況の問合せ
  2. 一般病院の外来受付の問合わせ


7、なぜ阪神・淡路大震災では市民のためにインタ−ネットが満足に機能しなかったのか?

 ここで少し現実的なことを考えてみる。

 新聞報道では今回の地震によりインタ−ネット、イコール災害に強いメディアの図式が立てられているが本当にそうだったのだろうか?

 インターネットのWWWは災害直後から被災地の映像を新聞報道よりも早く全国、全世界に被害の大きさをセンセーショナルに伝えたが、その情報で人の命が助かったのか、また、そのことが住民の生活に役立ったか疑問である。

 震災時の神戸市のインタ−ネットについて問題点を考察してみる。

(1) 今回の震災で一躍有名になったインタ−ネットのWWWのホ−ムペ−ジを神戸市が市民サ−ビスとして本格的に開始したのが震災の前年の10月で導入から日が浅く活用能力が十分でなかった。

(2) インタ−ネットの利用目的が広報や観光情報を中心にしていたために停電や災害による不測の事態に備えてデ−タの分散配置、回線の多元化(専用線、携帯電話、PHS、衛星通信)など万全の体制でなかった。

(3)災害発生地区以外からの接続でサ−バ−(情報を置いてあるコンピュ−タ−)の通常の許容量を超えてしまいダウン寸前であった。

(4)受け手も災害により停電や回線の切断等により情報源のサ−バ−に接続できなかった。

(5)各避難所に兵庫県から日本電子機械工業会を通じて、パソコンが配置され、操作に習熟したインタ−ネットボランティアネットワ−クの学生やCSK(株)が運用したが、絶対数の不足から避難所で有効に機能した場所は少なかった。

(6)情報を蓄積しても組織的な運用(活用)ができなかった。


8、まとめ

 最近になり各地の自治体がインターネットでホ−ムペ−ジの開設を始めた。内容は市長の挨拶に始まり、市政概要、観光などの市民サ−ビスを主体に制作されている。防災で活用されているところは現在皆無で、唯一神戸市が先の地震の教訓からインタ−ネットを防災に活用する試みを進めている。

 アメリカなどの諸外国に比べ、日本のインタ−ネットの普及率はまだまだ少ない。今導入してもどこまでの成果が得られるか、また、どのような弊害がでるか、未知数である。しかし、今考えなければならないことは、大災害時に情報の途絶により助かるはずの命や財産が消失してしまうことが無いようにするためどうしなければならないかということだと思う。現在確立されている、防災無線や防災ネットワ−クのほかに、情報通信の手段のひとつとしてインタ−ネットをとらえてみてはどうだろうか。

参考文献

  1. ジュリスト 1995.6.20号、震災が示した「情報社会」の弱点
  2. 週間読売 '95 2/14 臨時増刊号 「日本版データハイウエー」でベストの危機管理
  3. アスキー1996年3月号
  4. CQham radio 3月号

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