エマージェンシー・ナーシング 11(2): 98-102, 1998
目 次
はじめに トリアージを行う主体と目的 トリアージの原則 災害発生地でのトリアージ 医療施設でのトリアージ 後方医療施設でのトリアージ 事例から学ぶ - 雲仙普賢岳火砕流災害 まとめ 引用・参考文献 |
トリアージに当たっての注意点としては、全体の傷病患者搬送治療状況を把握し、混乱を避けるためにリーダーシップをとる人物が必要であること、トリアージを行う者は治療行為などは行わず、トリアージのみに専念すること、そして人材や医療資器材などの状況、搬送状況、災害地域内或いは後方医療施設受け入れ体制によりトリアージ基準が変化することなどである。例えば、医療資源が不足したり、搬送が滞っているとき、或いは後方医療施設が重症患者で溢れている場合などは、重症患者の中でも救命の望みの少ない者を緊急搬送治療群から非搬送治療群とせざるを得ないことが起こる。
この場合、地域医療施設の受け入れ能力に関する情報が必要となる。通常、消防機関では災害時における傷病別(例えば頭部外傷や熱傷など)地域医療施設の傷病者受け入れ状況についての情報を保有しており、これを基準にして、災害地域内医療施設のみでなく、災害地域外の後方医療施設への搬送の適応について判断を行わなくてはならない。しかしながら、実際には、後方医療施設の受け入れ状況の確認のために、無線などの通信手段による災害対策本部や後方医療施設とのコミュニケーションがより重要な役割を果たす。
トリアージリーダーは、患者の数、傷病の程度、傷病の種類などから患者全体の治療のニーズを迅速に把握しなくてはならない。それに基づいて、その医療施設でどの程度の患者を、何人くらいまで診療を行うことが可能か、診療不可能な場合にどの後方医療施設に転送するのかについて迅速に判断する必要がある。その医療施設における治療限界を判断する際に、看護部、病院管理事務職員と綿密な連携をとる。看護部は実働スタッフ人員数、災害傷病者用病床数についての情報などを、病院管理事務職員は非常時の召集可能スタッフ人員数の割り出しとスタッフ召集や、医療資器材、ライフライン稼働状況の調査、そして後方医療施設や地方自治体への連絡網などについての情報管理を担当する。例えば、施設や設備の被害が軽微であり、医療資器材やスタッフの確保も十分と判断された場合は、速やかに治療を開始することが出来る。しかしながら、既にその医療施設の診療許容量を上回る患者が搬入されていたり、人材や医療資器材の不足、ライフラインが途絶している場合などは、迅速に患者を受け入れ可能な後方医療施設に搬送する準備をしなければならないし、災害現場のトリアージリーダーへ受け入れ状況を連絡しなければならない。更に、後方病院への患者搬送時に看護婦・士が同乗する場合、搬送中も患者の様態に注意し、バイタルサインが変化したときには車内で対応可能かどうかを判断し、対応不可能な場合は最寄りの医療機関で救命処置(気管内挿管、緊張性気胸に対するドレナージなど)を考慮する必要がある。また、搬送中に中等症患者の様態が悪化し、最優先治療の必要な重症群のカテゴリーとなることもあり、継続してバイタルのチェックを行うことが重要である。
島原温泉病院では普賢岳の火山活動の活発化に伴い、1990年より雲仙噴火活動対策、防災体制下の救護要項、普賢岳噴火に伴う緊急医療救護対策要綱など、緊急時対策整備を行っていた。こうした事前準備が災害発生時のトリアージと後方病院の選択、そして後方病院転送が迅速かつ的確に行われた背景にあったことを忘れてはならない。
引用・参考文献
1) 山本光宏、藤井徹:普賢岳火砕流による多数熱傷患者への対応とその問題点。熱傷 19:10-17、1993
2) 鵜飼卓、高橋有二、青野允:事例から学ぶ災害医療-「進化する災害」に対処するために-。南江堂、65-71、1995
はじめに
トリアージを行う主体と目的
トリアージの原則
災害発生地でのトリアージ
医療施設でのトリアージ
後方医療施設でのトリアージ
事例から学ぶ - 雲仙普賢岳火砕流災害
まとめ
医 師 すべての段階においてトリアージのリーダーとなる。各チーム員からの情報に基づいて的確なトリアージを行う。 看護婦(士) おもに病院内救急外来、一般病棟において治療・搬送に直結するトリアージを担う。また、院内スタッフ実働状況、傷病者用空きベットの確保や入院患者情報収集の責任を負う。
救急隊員 災害現場、医療救護所でのトリアージを受け持つ。とくに、地域での平常時医療能力に関する情報を持っており、搬送医療機関の選定と通信に重要な役割を担う。また、搬送中に傷病者の様態が急変した場合、最寄りの医療機関への緊急搬送をアレンジする。
病院管理事務職員 召集可能スタッフ人員数の割り出しと非常時のスタッフ召集や、医療資器材、ライフライン稼働状況の調査、そして後方医療施設や地方自治体への連絡網などについての情報管理を行う。