近年の航空機事故は、航空機の大型化にともない、いったん事故が起きると一度におびただしい数の死傷者が発生する。救出、選別、医療、搬送、病院と一連の救急医療体制が展開されることになるが、この流れにおいて効率よく負傷者をさばき、救命率の向上に役立つ選別(トリアージ)はもっとも重要である。蒲田医師会では過去の体験(1982年羽田沖日航機事故) をふまえトリアージに的を絞って検討を行った、その要約である。
(1)トリアージの目的
トリアージとは航空機事故のような瞬時にして多数の傷病者を重症度により分類し、現場での応急処置ならびに搬送をもっとも効果的に行うための優先度の決定である。また、これは限られた人的、物的資源の中で一人でも多くの人命を救助するための手段である。
(2)トリアージの基準
バイタルサイン、創傷の部位および程度、意識障害の程度、熱傷の範囲および程度、出血の程度などについて迅速かつ的確に判断し、優先順位を決定する。極めて重篤で絶望的と思われる傷病者の扱いは、たびたび問題となるが優先度を低く評価されてもやむを得ないという意見が多い。何色のトリアージタッグ(札)を装着させるかは以下のようになっている。
有辭生命の危険性あり (即時医療) …優先度1 (赤)
緊急性 瘋多少の時間的余裕あり (遅延医療) …優先度2 (黄)
瘋無辭軽傷 (小医療) ……………………………優先度3(緑)
瘋死亡者……………………………………優先度0 (黒)
(3)一次選別
事故発生後早期に到着可能な東京消防庁の救急救命士、空港診療所医師らによって行われる。原則として、現場における救命処置のための優先度の決定である。事故直後は人員、機材が少ないので搬送のための優先度決定になる場合もある。
(4)二次選別
バイタルサインの安定化後は、トリアージ実施者により医療機関への搬送のための選別が行われ、搬送順位を決定する。一次選別による応急処置のための優先順位とは必ずしも一致しない。
(5)負傷者の安定化
優先度1、2の負傷者に対する救命処置は、近くに敷設した膨張式テント内で実施される。バイタルサイン安定化後はもっとも適切な病院に搬送する。多数の傷病者に対する限られた救護力を有効に活用するには事故現場での救命処置と搬送中に悪化させない救命処置に限定すべきであろう。
(6)おわりに
事故発生後間もない初期は、重症者の救命率にもっとも重要な時間帯である。医療従事者だけでなく、緊急計画に参加する人たち全員が、共通の認識をもつことが大切。トリアージについても検討を要すし、実際の経験が少ないだけに日ごろから研究が必要だ。