1992年から1997年にかけて援助額は減少し続けている。1997年には483億米ドルと1996年と比べ て79億米ドルも削減されている。1992年、地球サミットにおいてG7首脳は、国民総生産(GNP)の 0.7%を海外支援に使うと確約したが、実際の平均は0.25%にしか過ぎない。経済と人口の多 さからいってG7諸国の援助の拠出が、世界の援助拠出に最も大きな影響を与える。G7の1992年 援助総額は530億米ドルだったものが1997年には370億米ドルにも削減されている。
G7のみならず、過去5年間にわたる援助の削減を行ったドナー(援助国政府・機関など)各国は 自国の赤字予算の解消がより優先されたためと正当化しようとしているが、予算が増えた場合 に援助が増えているというわけではない。援助が全体として削減の方向に向かっている理由と して、説明責任を果たすための手続きの煩雑化や、正当な疑いがない程に援助の効果が証明で きなければ、何も達成しなかったと同じという考えの浸透などが挙げられる。しかし、実際の 援助のレベルを形作るのは、援助を受ける側のニーズ出なければドナー各国の経済的余裕でも なく、政治の動きである。その顕著な例として、ドナー各国は1997年12月、韓国を苦境から脱 出させるために1週間で570億米ドルもの金額を誓約した。しかし、世界中の10億以上の人々を 貧困から抜け出させるのに必要な年間200億米ドルを調達することはできないようである。
天然痘ウイルス(Poxvirus variolae)は200 〜300nm のエンベロープを有するDNA ウイルス
で、牛痘ウイルス、ワクシニアウイルス、エクトロメリアウイルスなどとともに、オルソポッ
クスウイルスに分類される。低温、乾燥に強く、エーテル耐性であるが、アルコール、ホルマ
リン、紫外線で容易に不活化される。
臨床的には天然痘は致命率が高い(約30%)variola major と、致命率が低い(1%以下)
variola minor に分けられるが、増殖温度を除きウイルス学的性状は区別できない。
[前駆期]
[発疹期]
※ワクチンが好ましくない場合
1994年、1995年にサリン、VXガスが用いられるというテロ事件があった。このときからいつ
でもどこでも起こりうる生物化学兵器テロに対する対策がなされており、わが国の救急医療機
関においても従来の救命救急対応に加えて警察、消防、自衛隊などと共に対策を実施すること
が現実となった。
曝露経路としては気道からの吸収、皮膚・眼球曝露、経口摂取があげられる。症状としては
ムスカリン様症状、ニコチン様作用、中枢神経症状、呼吸器系症状、心血管系症状などがあ
る。(表1)
化学兵器や化学災害における救助対策の基本は、危険な原因物質から被災者、救助者、医療
機関を遠ざけることが第一とされ、これを遂行するためにゾーニングと除染が必要となる。すな
わち発生現場周辺を最危険地帯(hot zone)に設定し、その地帯からの人の自由な出入りを禁じ
る。そしてその周囲に除染地帯(warm zone)を設定し、ここで衣類を除去し、シャワー設備を使用
して多量の水と石鹸で体を洗い汚染を除去する。さらにcold zoneに移り必要な救急治療後、医
療機関に搬送する。救助者は各ゾーンで防護服を着用する。医療機関における除染としては、
病院内を非汚染領域として維持することを第一とし、医療関係者、院内患者などを汚染から守
る。そのために、病院入口前に屋外の除染エリアを設けてそこで汚染されている被災者は除染
を行う。十分な除染後に清潔な病衣を着用させて病院内へ誘導する。
2、解毒剤
a)硫酸アトロピン:主にムスカリン様作用の治療に有効で、ニコチン様作用には効果がない。投
与量は成人で軽症から中等症の場合2 mgを、重症の場合6 mgを筋注または静注で投与する。小
児の場合は0.02〜0.08 mg/kgを投与する。
b)パム注射液:重篤なニコチン様作用あるいは中枢神経作用に対してできるだけ早期に投与す
る。神経剤に曝露され、症状のある人はすべて適応となる。投与量は成人で0.5〜1.5 gを筋注も
しくは生食100 mlに溶かして点滴静注する。小児の場合は15〜25 mg/kgを筋注もしくは20〜30
分かけて点滴静注する。
サーベイランスとは、健康に関わる事項のモニターや記述に使用できるような、体系的な標
本の採取や、分析、解釈、データの公開のことである。
英国では、化学災害のデータを国家的に集約するサーベイランスのシステムが1998年春よりス
タートしている。
2.災害予防に果たす病院の役割
災害対応に果たす病院の役割:
[病院における計画]
以下の事項をあらかじめ決めておく必要がある。
[訓練]
4.危険のプロファイリング
前もって資料を確認することが基本であるが、単一の情報源は存在しない為、データ収集の
特別なメンバーを集めておくべきである。
[危険と思われるもの]
◇主要な工業施設
◇小規模な工業施設
[危機分析]
◇原子力災害における危機分析
災害時において、治療(treatment)は3Tのひとつであり、災害医療のキーポイントである。た
だし、災害では医療資源に関して物質的資源・人的資源の供給において制限を受ける。そこで
医療資源と医療需要のバランスを考慮した検査と治療を行うことが大事である。
[応急救護所における治療の留意点]
[災害時の外傷治療の原則]
外傷による内・外出血を認めれば、止血と循環血液量の維持を最優先して開始する。他には
ショックの早期是正、創部の早期消毒・十分な洗浄、適切で積極的なデブリドマンなどに留意
する。また、地震の際の挫滅症候群など、各種災害に典型的な外傷や疾病を念頭においた治療
が重要である。
[各種外傷治療の要点]
A:救急搬送(治療)群
B:準救急搬送(治療)群
C:保留群(軽症群)
D:死亡群
災害が起こるたびに多くの被災者が命を失ったり、けがをしたりする。以前までは災害のこと
ゆえ、不可避のものであると考えられていたが、現在では災害による傷害や疾病は予測できな
いものではなく、その種類によって共通性があることが分かってきている。また、災害による
健康被害は被災者に同等に起こるものではなく、生物学的環境、地理的環境、社会経済的環境
などが関与していることも明らかになっている。このように災害と健康被害の関係を明確にす
るために災害疫学が重要視されるようになってきた。災害疫学とは、災害後の外傷や感染症、
慢性疾患、精神疾患、さらには医療の供給体制や初期治療のあり方、保健衛生対策なども対象
とし、「災害が保健医療・公衆衛生に与える影響とそれに対応するシステム全般の研究」と理
解される。この疫学の発展によって、今までの迷信、慣習、試行錯誤に代わって科学的な事実
分析と根拠を与えることができ、その根拠に基づく、実際の災害医療上重要な情報が提供され
る。
災害間期に以前の災害を振り返って分析し、今後の災害対策、予防、災害医療政策などに役
立つ情報を抽出しようとするもの。災害疫学研究の基本で、最も重要である。
2) 迅速調査
災害直後に被害の規模、疾病・傷害の程度とパターンおよびニーズを迅速に調査、分析し、救援対策を考えたり、政策判断の基礎になる情報を提供したりするもの
3) サーベイランス
災害後に傷病の発生をモニターし、感染症の流行など公衆衛生上の問題を早期に発見し、対応できるような体制を整えようとするもの。災害の場合、避難者に対する長期的な健康への影響が特に重要となる。
欧米では迅速調査や評価のチームにも疫学者が参加することが多くなってきており、災害医療における疫学の重要性の認識が高まっている。しかし、我が国では「災害疫学」の知名度は低く、専門家も少ないために発展が遅れてきた。近年、災害医学に対する関心が高まり、研究も進んできている。より効率的かつ効果的な災害医療対策のために、災害医学研究に疫学的視
野と手法を導入して、我が国においても災害疫学が発展することが望まれる。
天然痘
詫間隆博 他、治療 84: 1345-1348, 2002
臨床症状
病型・診断
ワクチンの接種
サリン,VXガスなど神経ガス
(高須伸克、治療 84: 1325-1329, 2002)○神経ガスについて
○治療
○トリアージについて
○考察
ムスカリン様症状 縮瞳、視覚異常、眼痛、鼻汁、嘔吐、腹痛、失禁など ニコチン様症状 筋肉痙攣、筋硬直、筋麻痺、頻脈、血圧上昇、呼吸麻痺 中枢神経系症状 不安、興奮、判断力低下、混乱、昏睡、呼吸停止など
呼吸器系 鼻汁、気道内分泌物増加、胸部圧迫感など 心血管系 除脈、頻脈など 消化器系 腹痛、嘔吐、下痢など 代謝 多量の発汗
優先順位 タッグ色 印象 臨床所見 第1優先順位(最優先) 赤色 意識障害、会話できるが歩行不能 2系統以上の中等〜重症な
所見 痙攣発作、重篤の呼吸障害呼吸停止、心停止直後 第2優先順位(待期的) 黄色 神経剤曝露状態からの回復解毒剤投与効果のあるもの 分泌
物の減少呼吸状態の改善 第3優先順位(保留) 緑色 歩行可能、会話可能 縮瞳、鼻汁軽症〜中等症の呼吸
困難 第4優先順位(不搬送) 黒色 意識障害 長時間経過した心肺停止 第1部 予防、第2部 準備
(島崎修次・総監修、化学物質による災害管理、メヂカルレビュー社、大阪、2001、p.12-21)
化学災害:第1部 予防
第2部 準備
全てのスタッフに訓練を行うのは現実的ではないので、少なくとも1人以上の上級スタッフが
除染や文書作成の手順に慣れ親しんでおくことが必要である。
危機に対する情報を以下のようにより充実したものとする
多くの地域では原子力施設や輸送ルートはないが、病院内では日常的に放射性同位体を使用
しており、放射性物質による災害の危険は病院内に存在する。関係部署を越える災害が起こっ
た場合、直ちに救急部門に連絡し対応する。C 病院での治療
(新藤正輝、山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、pp.183-187)
・気道閉塞…気道確保、異物除去、気管内挿管、輪状甲状靭帯切開、気管切開
・緊張性気胸…胸腔穿刺、胸腔ドレナージ
・開放性気胸…被覆、閉鎖
・血胸…胸腔ドレナージ
・心タンポナーデ…心嚢穿刺、心嚢ドレナージ
この他にも心挫傷、大動脈損傷、肺挫傷、気管・気管支損傷、横隔膜破裂など様々あり、それ
ぞれ適切な治療を施さなければならない。
多くの場合、直ちに手術ができなくとも必ずしも致命的とは限らない、という事を大災害時に
は認識しておくべきである。実質臓器の出血はかなりの確率で保存的に止血する。管腔臓器損
傷では6〜12時間以内に手術を施行しなくては致命率が低下する。
閉鎖性骨折は緊急ではない。緊急性があるものとして、開放骨折、開放性脱臼、血管損傷を伴
う骨折、循環不全を伴った骨折、完全又は部分切断などがあげられる。いずれにしろ、開放創
には早期にデブリドマンと洗浄を行う。
崩壊した筋組織からミオグロビン、カリウム、乳酸などが救出とともに全身循環に放出され、
意識清明でバイタルサインも安定していた傷病者が、数時間後に死亡する場合がある。死因と
して高カリウム血症、ショックと多臓器不全があげられる。本症候群を疑えば、早く多量の補
液により循環血液量減少と代謝性アシドーシスの是正、腎不全の防止とともに、重症例では血
液透析や血液濾過透析、腹膜透析などの血液浄化法を導入することが救命率向上につながる。
気道熱傷の有無を判断し、酸素投与、必要ならば気管内挿管、人工換気を行う。重症の場合は
輸液を施し、浮腫のため四肢にコンパートメント症候群や胸部の換気障害をきたす恐れがある
場合、焼痂切開を行うが、重症熱傷の管理には多量の医療資材と人手を要するので24時間以内
の転送を考慮すべきである。第IV章 搬送トリアージ
(金田正樹、山本保博ほか監修、荘道社、東京、1999、p.65-72)(1) 搬送トリア−ジとは
(2) 分類
(3) 結語
(4) 参考
3.災害の疫学
(安田直史、山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、pp.17-23)
【災害疫学の分類】
【災害疫学の実際】