この座談会において各出席者からあげられた問題点は次のとおりである。
これらの問題点に対して今後どうしていくべきかを考えた。
まず、交通の問題に関してこれからは警察と横の連絡をとって交通の遮断、整理をおこなってもらうことが早く現場に到着するうえで大切なことである。さらに空港に対しては現場に誘導できる整理員の配置を要望していかなければならない。
次に、事故が起こった時の連絡体制に関しては、この事故で今までどうりのフローチャートでは連絡の遅れがでてしまい、けが人に対してあまり意味をもたない救急連絡網になってしまう。よって今後は各消防署、空港、警察とのホットラインを使った連絡網の整備を充実させていかなければならない。さらにはマスコミの協力も得ていくべきである。空港だけの問題ではなく災害というのはいろんなパターンで起こるもので、同一の災害はない。よってあらゆる災害というものを想定しながら、その情報のあり方はどうあるべきかということを今一度再検討する必要があると思われる。
現場を統率する人をはっきりさせることで、現場で医療行為を行う医師や救護者の役割をはっきりさせることができ、救護もスムーズに進むのではないだろうか。よってある決まりの中で最後まで指揮を一貫しておこなうものをつくらなければならない。そうすることによって正確な情報が各医療機関に伝わると考える。
今回の事故で、水の不足は救護者が負傷者を治療するのを困難にした。人工呼吸器は数多く用意されていたが、生理食塩水や消毒液などはぜんぜん数が不足していた。よって今後は、救急車には常時緊急用の水を用意し、定期的に交換していかなければならないと思われる。あるいは大きな医療搬送車を出動してもらうように要請することも必要であると考える。
今回の事故で特徴的であったのは、負傷者の中に外国人が多く含まれていたということである。航空機事故のようないろんな国の人の処置をする場合には、医療者側が患者の言葉を理解できないために治療が困難になるということもありうる。よってこのような場合には通訳をしてくれるひとを派遣してくれる体制を作ることも必要であると思われる。
最後にトリアージに関して考えた。災害時、つまり多数の傷病者が同時に発生した場合に、いかにして最大多数の救命と社会復帰を目指すかを考える。医療資材やマンパワーに制約があるなかで行う医療と、日常の医療との間には大きなギャップがある。今の日本の医療はあまり助かる可能性がない患者にも全力投球がおこなわれる。しかし実際の現場では一次か二次か三次かということは非常に困難なことが多い。現場では重症か中傷か軽症かの判断くらいしかできない。そこで今後、治療のできる応急救護所のあるところへ搬送した時に、また第二次のトリアージをする。そこである程度初療をおこない、さらに高度の治療を要する負傷者は救命センターあるいは病院へ搬送する。そこで第三次のトリアージをおこなうという方法がよいのではないかと考える。トリアージというのは、三段階行っていくなかで順次的確な診断がついてくるということで、最初からきめ細かく決めることはできないと思われる。
災害時の医療救護には、適切ですばやい判断が求められる。よって日頃から、いざという時に対しての心構えや対処法を身につけておくことが大切であると考えた。
阪神大震災を経験し、実際に救急医療に関わった医師によって、災害医療に対して次の問題点が挙げられている。まず電話回線に頼らない情報伝達方法の確立、それを利用した病院間の転送ネットワーク、ヘリでの搬送、圧挫症候群の知識、トリアージ技術の向上、そして心的外傷についての教育である。医師にとって必要となってくる「トリアージ」と「圧挫症候群」について、以下に述べる。
阪神大震災では、ほとんどの人が布団を被っていたので一見外傷がなく重症感が少ないように感じられた。しかし実際はかなり圧迫されていたので、組織はダメージを受けていて血流障害や検査値異常が存在しており、非常に危険な状態になっている場合があった。こういう時は早期発見に努め、速やかに血液浄化法ができる病院へ送らなければならない。
本年2月には運輸省航空局は航空関連条項を「地方公共団体の消防機関等の依頼または通報を受けたドクターヘリについては、一定基準に適合した離着陸場所であれば、当局への事前の申請及び許可がなくても離発着を可能」とする内容に改訂施行した。加えて昨年から検討が進められていた内閣官房内閣内政審議室の「ドクターヘリ調査検討委員会」は本年6月に「ドクターヘリ事業は、救命率の向上・後遺症の軽減に大きな成果を上げることが期待されている。運行形態として、ドクターヘリ事業を全国に導入・展開するにあたっては、地方公共団体の消防・防災ヘリに加えて、ヘリコプター運航会社を積極的に活用することにより、安全かつ効率的に全国配備を進めることとする。また、財源に関する問題、地域の特性に応じた運航体制の在り方などについて関係省庁においてさらに具体的・積極的な検討が進められ、我が国においても、人命尊重の理念に沿ったドクターヘリ事業が実施されることを強く期待する」と発表した。そして本年2月には自治省消防庁も同庁の推進する救急ヘリコプター利用促進のために、救急患者搬送の出動基準を明示した。
このように救急医療分野に関して、ヘリコプターの活用が検討・推進される中、沖縄サミットに対する救急医療対策の1つとして、民間のドクターヘリの沖縄待機配備計画が具体的に採用され、2班が編成された。
今回配備されたヘリコプター2機は、世界的にその騒音レベルが最低値を記録するなど共に最新の性能を有しており、ほぼ同等の装備が可能となっている。今回は、それぞれの救急医療専用配備に加え、特にテロ対策として搭乗医療要員のほか、機長に対しても防毒マスクが配布された。搭載対応救急医療機器としては、心電図モニター・人工呼吸器・輸液ポンプ・吸引機・除細動機・乳児医療移送器等があった。
幸い1回の出動もなく、班員にも何事もなく、沖縄サミットは終了した。
東海大学医学部附属病院救命救急センターでのドクターヘリ試行的事業では1ヶ月の出動件数が55件を記録した。先進欧米諸国での1機あたりの年間出動件数は、600件近くから1000件以上の出動実績報告がある。我が国においても、ドクターヘリは消防署の救急隊と連携した社会システムとしてその役割は着実に定着しつつある。我々ヘリコプター運輸会社は、ドクターヘリ試行的事業をはじめ、沖縄サミットへの参加を弾みとして、今後ともドクターヘリの社会システムとしての定着普及を推進していきたいと考えている。
中華航空機事故医療救護に関する座談会
愛知県医師会、名古屋空港における中華航空機事故と医師会活動 1994、28-53
阪神・淡路大震災と救急医療
鵜飼 卓、エマージェンシー・ナーシング 1995【トリアージ(傷病者識別)】
【挫滅(圧挫)症候群】
19章 死者に対する責任
小栗顕二・監訳、大事故災害の医療支援、東京、へるす出版、1998年、p.128-31
【死亡の宣告】
【死体のラベリング】
【死体の移動】
【仮死体置き場】
【死亡者の身元確認】
発災直後の避難生活における課題
地震防災対策研究会、自主防災組織のための大規模地震時の避難生活マニュアル、(株)ぎょうせい、東京、1999, pp.61-71
(1)管理関係の課題
(2)情報関係の課題
(3)救護関係の課題
(4)食糧・物資関係の課題
ドクターヘリ<沖縄サミット待機>
原 英義、救急医療ジャーナル 第8巻第6号通巻46号 21-25, 2000
〜背景〜
〜ドクターヘリ編成と機体の特徴〜
〜運航待機体制の概要〜
〜おわりに〜