・外傷患者の重症度
まず重症度を背景とした患者分類行った。第1群はクラッシュ症候群372例、第2群は臓器損傷群で、頭蓋内損傷37例、脊髄損傷29例、胸腔内臓器損傷63例、腹腔・後腹膜臓器損傷48例の計177例でいずれの群も高い集中治療施行率と死亡率となっている。第3群は骨盤・脊柱骨折で634例を占め、14%で集中治療を必要としたが、死亡率は低い。第4群はその他の外傷1406例で集中治療の必要も死亡率も低い。第5群は不明としたもの113例で診療録から読み取れなかったものである。これは集中治療の記載は認められないが、高い死亡率、早期死亡が多い。
・被災地内病院と後方病院での死亡率の比較
クラッシュ症候群と臓器損傷群では、被災地内病院での死亡率が有意に高かった。また不明と分類された群の死亡のほとんどは被災地内病院症例であった。しかし、震災当日に被災地内病院でなくなった犠牲者を後方病院に搬送できたとしても果たして救えたかどうかは疑問である。そのため、収容から24時間以内の死亡例を除き、かつinjury severity scoreが16以上の症例のみを選択して被災地内病院と後方病院を比較した。この結果においても臓器損傷群は被災地内病院での死亡率が優位に高かった。したがって臓器損傷例においては、集中治療の可能な後方病院に速やかに搬送すべきだといえる。またクラッシュ症候群で死亡した大半が、循環不全、高K血症のために受傷5日以内に死亡している。クラッシュ症候群の治療には大量の輸液や血液透析をはじめとした集中治療が不可欠なので、これも速やかに設備の整った医療施設に搬送すべきだといえる。
・傷病構造別、収容患者数および死亡者数の経日的変化
震災後15日間の累積入院数を傷病ごとに被災地内・後方別および生存・死亡別に調べたところ以下のことが分かった。
クラッシュ症候群と臓器損傷群は、後方病院への転送が間に合わず死亡していることが読み取れる。骨盤・脊柱骨折とその他の外傷群では至急の転送が必要なかったことが考えられる。不明群においては震災当日に被災地内病院でほとんど死亡している。このようなことからもクラッシュ症候群と臓器損傷群においては速やかな後方病院への転送が大事だといえる。
・調査方法
外傷患者のうち現住所の把握できた1464例に対して、受傷2年後と3年後にアンケート調査を行った。調査内容は傷病衝撃度指数(The Sickness Impact Profile:SIP)を用いた。
・受傷2年後の結果
35%の患者が痛みや不快を自覚しており、身体的な機能障害より精神面の機能障害の程度のほうが強かった。また性別や入院期間、集中治療の有無などの背景因子は予後に影響を与えていなかった。年齢に関しては身体的障害が高齢者ほど高くなる傾向があったが、精神的障害は不明瞭であった。
外傷別にまとめると、神経損傷例が身体的障害、精神的障害ともに最も強く残存していた。クラッシュ症候群はすべて全体の平均値あたりでそれほど障害を残していなかった。また臓器損傷例も長期予後は比較的良好だった。
・受傷3年後の結果
身体的・精神的および全体の障害、また12のカテゴリーにおいては2年後と有意差はなかった。外傷別ではクラッシュ症候群で精神的障害のうち情動行動と計画性・反応性のカテゴリーにおいて改善されたことが分かった。四肢・脊椎骨盤骨折では睡眠・休息と余暇の過ごし方において改善された。
・身体的機能障害と精神的機能障害
外傷患者の受傷後の精神的障害に関してはpost traumatic stress disorder(PTSD)として報告されており、時間経過とともに精神的障害は癒され身体的障害が残ることが推測される。また、震災以外での外傷時に比べ、身体的障害に対して精神的障害が強いことにはアンケートより、年齢、現在なお仮住まいかどうか、近親者の死亡の有無が影響していることも分かった。
(1)四肢圧追中の変化
圧追中では虚血による障害と筋細胞膜の進展による損傷が考えられる.この2つが起こることにより、体液シフト、損傷筋細胞内容の流出(Mb、K)また、後者と、体液シフト、損傷筋細胞内容の流出によって、コンパートメント、筋浮腫が起こってくる.
(2)圧追解除後の変化
進展や虚血によって損傷を受けた筋細胞が、圧追の解除によって急速に浮腫を形成し、次第に壊死に陥っていく.すなわち虚血後再還流障害が生じる.
虚血中の変化と再還流により豊富に流入してきた酸素により、活性酸素種を産生し、細胞障害が引き起こされる.また、白血球も活性化され、活性酸素種を産生し、筋細胞膜の障害が生じる.さらに白血球と血管内皮細胞の接着も増強し、微小血管が閉塞され微小循環障害が生じ、筋細胞は再び虚血状態となる.この結果、血管透過性の亢進と白血球の浸潤が起こり、局所では強い間質性浮腫と炎症反応が生じる.
血管透過性の亢進と細胞膜の障害により再還流後、局所の浮腫とKの細胞外への流出が生じるため、低容量性ショックと高K血症を生じる.
(2)急性腎不全発症の病態
体液シフトからくる脱水による腎血流量の低下と尿細管虚血、ミオグロビン、アシドーシス、高尿酸血症や高リン血症、腎神経の緊張などの複数の要因が関与している.
(1)検査所見
血液検査においてクラッシュ症候群患者に認められる特徴的な異常所見は、代謝性アシドーシス、ヘマトクリット値の上昇(血液濃縮)、高ミオグロビン尿、CPK値の上昇、高K血症、血清Ca値の低下とリン酸の上昇などである.
また、心電図ではT波の増高が見られる.尿所見は赤褐色のミオグロビン尿、さらに、尿量が時間とともに減少する.
(1)全身管理
高K血症に加えてアシドーシスが急速に進行すると、心室性不整脈や心停止を来たすため、早急に治療を開始する必要がある.まず静脈路を確保し、炭酸ナトリウムやグルコン酸カルシウムの投与、あるいはグルコース−インスリン療法を行う.また、即効性はないが、消化管へのイオン交換樹脂の投与も有用である.これらの方法で対処できない場合や腎不全の明らかな場合は血液透析を行う.
輸液療法の目的はhypovolemiaの是正と末梢循環の回復、ならびに腎不全の予防である.クラッシュ症候群では局所および全身の浮腫の増強、他部位での出血、あるいは乳酸や傷害された細胞から放出されるメディエーターによる血管拡張、さらに救出前後における脱水などのために循環血液量は減少している.輸液開始が遅れた場合や十分な輸液が行われなかった場合には低容量性ショックに陥り、ショックに陥れば筋細胞から遊離したミオグロビンの毒性と相まって容易に腎不全となる.
(2)局所管理
局所管理では、筋組織内圧が30〜40mmHg以上あれば筋膜切開の適応となるという意見もあるが、感染の危険性が増すこと、体液管理が難しくなることなどから、重症例にしか適応しないほうがいいだろう.
最近、閉じ込められた狭い空間における救急活動に対する関心が急速に高まっている。このような事故は、起こる確立は非常に小さいにもかかわらず、いざ起こってしまった場合には、頻度に不釣り合いなほどの多数の人命が失われる。
具体的には工業用に掘られた隧道やその側孔、タンカー、列車内、下水の入口部およびその他の工業関連施設、公共の貯蔵施設や船舶、潰れてしまった建物塹壕、洞穴、地下道等。
医療チームに求められているのは、命のある患者をただ救出するだけでなく、救助チームが必要としている時間は作り出し、完璧な救出活動を行なうことである。
国立病院東京災害医療センターは、わが国初の広域災害医療中心施設である。災害時に中心的役割を果たす本施設の現状および今後の課題についてまとめた。
本施設は立川広域消防災基地内に位置しており、厚生省、国土庁、消防庁、警視庁等との連携がとりやすい。
2. ライフラインの整備
地域の救急医療システムが破綻し、医療機能も制限されている状況では、周辺地域の第一線病院として機能する。
2. 災害レベルII(当院が大災害の近隣地域にある場合)
地域の医療機能や救急医療システムが維持されている状況では、当院が災害後方病院としての機能と初期災害医療班の派遣を行う。
3. 災害レベルIII(当院が大災害の中心地から離れている場合)
初期災害医療班の派遣を行うとともに災害高度医療機関としての機能を果たす。
年間を通じて、月ごとに派遣メンバー登録表を作成し、月初めには引継ぎ物品の確認、個々の持参品を個人用ロッカーに準備しておく。派遣メンバーは該当月には国内外旅行が制限され、1〜2時間で病院に招集できる体制を取っている。
2. 患者の受け入れ
平常時390床の病床が広域災害発生時には900床で運営(平常時4人部屋を災害発生時には6人部屋として利用)。災害用ベッド(診察台、ストレッチャー、ベッドと多用途に使用可能)580台、医薬品・医療資器材7日分、食料5日分などの災害時院内用備蓄品が準備されている。
3. ボランティアの活用
登録制をとっており、ケースワーカーから連絡網に沿って連絡が流れる。
ボランティアの教育は災害ベッドの作成および収納方法、体位変換、足浴、搬送、救急蘇生法などの研修を定期的に行っている。
テーマ 何台もの呼吸器が作動しているICUが停電したときの対応
ポイント
実際の行動
MSBOS(Maximum Surgical Blood Order System)は平均輸血血液量の130%とし、輸血症例数が手術症例数の30%を越える場合に設定、T&S方式は輸血症例数が30%以下のものに設定した。
症例では。MSBOS方式は胃全摘術に、T&Sは胃切除、胆嚢摘出、腹腔鏡下胆嚢摘出、けちょう切除、低位前方切除、ileus解除、乳房切除、肺葉切除、甲状腺切除、単純子宮全摘、付属器摘出、帝王切開、VPシャント、脳動脈瘤クリッピング、開頭血腫除去、穿頭血腫除去、非駆血骨結合、人工股関節、脊椎手術に用いられた。
また、症例数の月別統計によると、MSBOS導入によって、C/T比(交差単位数/適合単位数)は著明に改善した。
system運用開始後著明に準備血液量が減少したのは腹部大動脈瘤人工血管置換術で、平均準備単位数が20単位から10単位となった。これは院内システム向上により、主治医が追加輸血が比較的容易であることを認識したことが考えられる。
愛媛県においても、いつ、南海大地震が発生するかわからない状況である。積極的に防災ヘリを活用し、普段から災害に備えた救急体性を複数のルートで確保する必要があると考える。また、自衛隊とも緊密な関係を持ち、速やかな災害支援活動が為されるこを期待する。
外傷患者の長期予後
5.クラッシュ症候群
西村明儒、吉岡敏治ほか編・集団災害医療マニュアル、へるす出版、東京、2000年、pp.85-102
【クラッシュ症候群】
【病因】
【全身状態に及ぼす作用】
【診断】
【治療】
【考察】
閉鎖空間からの救出
Sargent C、救急医療ジャーナル 第8巻第4号通巻44号 39-47, 2000
【閉鎖空間の特徴】
【医療担当者としての特殊な訓練】
【危機的状況における医療活動の方法の分析と準備】
【閉鎖空間の理解】
【現場での切断】
【患者の受傷パターン】
【2人またはそれ以上の法則】
【生存者不在】
【成功と失敗の差】
病院災害と危機管理 2.看護部門―災害時患者受け入れと医療班の派遣体制―
塚越郁代、エマージェンシー・ナーシング 2001年新春増刊 293-301, 2001
A. 施設
B.災害レベル別の対応システム
C.人的体制
D.教育
E.今後の課題
管理側の原因 1.何台もの呼吸器が作動しているICUが停電した
中川美幸、ジェンシー・ナーシング 2001年新春増刊 229-234, 2001
MSBOS, Type & Screenによる輸血システムの導入について―阪神・淡路大震災を経て―
尾林慶治ほか、日臨麻会誌 16: 667-71, 1996概 論
報告例
輸血用血液について
阪神大震災の影響
展 望