第8回愛媛救友会(松山大会)


(1)自由演題

   座 長 北条市消防本部  山岡英助          
   助言者 愛媛県立新居浜病院麻酔科部長  高石 和   


演題1「山岳における単独救急活動」

  演者 東温消防消防本部 佐伯敏則  

 東温消防の佐伯です。よろしくお願いします。

 事例発表の前にわが、東温消防本部を紹介させていただきます。位置的には愛媛県のほぼ中央で道後平野の東部に位置します。温泉郡の重信町、川内町を管轄としており、1本部1署で構成され昭和53年4月に発足しました。消防職員は現在44名で救急隊は専任で、そのうち4名が、救急救命士です。

 今から発表しますのは、当消防本部においては長時間かかった4年前の救急単独活動であります。参考までに当時の救急救命士は1人でした。高規格救急自動車の運用開始は平成9年4月1日なのでありませんでした。もちろん、当時の救急車には自動車電話、携帯電話もありませんでした。

○概 要

 救急隊のみで傷病者を収容するのが不能の場合にたとえば交通事故、特殊事故として井戸への転落、生き埋め、急病患者のマンションからの搬送時には、救急隊と救助隊が同時出動を消防署ではするようになっているが、今回の事例においては、119番通報時点で、山仕事中の事故であり、現場は車両を停車すぐのところで、傷病者は1人である内容のため救急隊1隊のみの出動と判断する。しかし、現場付近に到着すると現場の状況が通報内容とくい違っていたこと、さらに現場付近は無線の不感地帯であったことが、傷病者収容に時間を要した事例である。

○時間経過

    9時50分 ─┬─ 事故発生           11時01分 ───┬─ 観察・処置・事情聴取 
                 │                      (1時間11分後) │
  10時17分 ─┼─ 覚知               11時12分 ───┼─ 搬送開始  
  (27分後)   │                       (1時間22分後)│
  10時25分 ─┼─ 無線不感地帯入り   11時47分 ───┼─ 車内収容
  (35分後)   │                       (1時間57分後)│
  10時32分 ─┼─ 車両停車位置       11時55分 ───┼─ 無線連絡可能        
  (42分後)   │                       (2時間05分後)│
  11時00分 ─┴─ 現場到着           12時07分 ───┼─ 病院到着
  (1時間10分後)                      (2時間17分後)│
                                         14時13分 ───┴─ 死亡確認
                                          (4時間23分後)
 事前情報として10時17分に119番通報あり、内容は「山仕事中のケガで年齢は60才ぐらいで男性が頭から血を流して倒れとる。意識はない。」との通報内容。

○現場到着後に判明した諸事情

 現場は、国道11号線の横河原橋より県道寺尾重信線を北へ約10キロ更に町道、林道を2〜3キロ行き徒歩で30分の所重信町大字山之内美之谷(みのだに)である。通報は、仕事仲間が現場を下山して民家で電話を借り通報する。頭部外傷に加え、胸部外傷・呼吸困難あり。さらに無線の不感地帯である。

○現場活動

 救急車停車付近で通報者と会い事情聴取を開始する。通報者は、現場の斜面で仕事をしていた為、詳細は不明であった。必要資器材は救急車の予備タンカ、携帯用酸素ボンベ、救急バック等を3名で分担し、徒歩で現場へ向かう。

−事情聴取−

 現場到着時、傷病者は仰臥位であり、仕事仲間による頭部への止血手当が実施されていた。事故発生直後の目撃者がいなく、現場の人の話では伐採した木が頭部に当たったか、もしくは木材搬送中の材木が頭部に直撃したのであろうと思われる。

−観察結果−

    意識レベル:JCS300                              
    呼      吸:自発呼吸浅く16回/分
    脈      拍:橈骨動脈80回/分
    血      圧:170/105mmHg
    外      傷:耳・鼻出血
    顔      貌:無表情
    瞳      孔:左右5mm
    対 光 反射:にぶい
    呼  吸  音:左肺湿性ラ音
    失      禁:確認無し
    既  往  歴:不明
−現場処置−

 頭蓋底骨折の恐れがあり呼吸管理、感染予防のため経口エアウェイを挿入する。頭部・頸部固定をネックカラー,砂のう,三角巾で実施して救急車からもって来た予備タンカへ動揺に気をつけて、傷病者を移動し全身固定を行う。携帯ボンベにて酸素流量3lで開始する。同僚の人たちと協力を得ながら8名で搬送を開始する。

 移動中のバイタルを定期的に観察するが変化なしである。車内収容後、心電図モニター装着、酸素飽和度測定90%で酸素流量6lに変更し、フェイスマスクで投与する。血圧測定を実施し、道路状況が悪いので傷病者に負担をかけないように注意をしながら現場出発する。無線の感度がよい所へきた時点11時55分消防本部へ連絡、頭部及び胸部の負傷、多発外傷と判断し、三次救急医療機関への搬送依頼をする。

  搬送病院:  ・・病院
    意識レベル:300変化なし  医師への引き継ぎを実施
    診      断: 脳挫傷、頭蓋骨骨折等
    転      帰: 死亡(病院収容後約2時間後)

  レントゲン所見
    頭蓋内単純撮影:頭蓋骨骨折(右側頭骨)
    頭部CT:右前頭葉〜側頭葉にかけて皮質下出血
              左硬膜下出血・外傷性クモ膜下出血
まとめ・反省点

  1. 通報内容から救急隊のみの出動で可能と思われたが、実在の現場では救助隊の出動が必要であった。救助隊の出動がどちらか不明のときでも同時出動させる。現在の出動では同時出動している。

  2. 現場は無線の不感地帯でもあり、応援要請が不可能であった。今回の出動中、無線の不感時間は10時25分に交信不能になって11時55分までの1時間7分間であった。携帯電話,無線等の不感地帯へ出動の際には119番通報の慎重な聴取が必要であり、すでにこの地点は、電波の状態が悪いことが調査済みなので、中継のための移動局を出動させる対策が必要である。

  3. 搬送上の注意点として傷病者の呼吸管理で、本例では呼吸困難があり、下山搬送中も補助呼吸が必要であった。山岳での救急活動には特定行為用の資機材などを携帯してゆく必要がある。

  4. 今後は、重症患者などの地上搬送の困難な場合、遠距離搬送・山岳・海上などからの搬送には、愛媛県防災ヘリ(平成8年10月より運用開始・えひめ21)の活用を積極的に要請すべきである。

 以上で発表を終わります。


質 疑

(奥元 上浮穴消防)

 上浮穴消防でも長時間、長距離救急搬送は多い。救急隊だけで対応出来ないとき、どの時点でどれだけ早く救助隊等の応援要請をするかを反省点にあげられる。

(助言者)

 山岳におけるこのような事例で問題になるのは、情報収集とそれ以降の連絡だと思います。連絡について、中継基地を出して連絡する方法があるが、簡単に出せるものですか。

(発表者)

 この事例を教訓に現在では、無線不感地帯での現場活動は中継車を出しています。

(助言者)

 無線不感地帯の多い和歌山県とか奈良県では、携帯衛星電話を使っていると聞きます。携帯衛星電話だと中継車を出すことも無いし、空が見えるところでは会話ができ、電送速度も差は無いと発表されている。県内で携帯衛星電話の運用はありますか。

(発表者)

 上浮穴消防さんが衛星回線を使用されています。

(西山 顧問)

 このような事例の時に搬送間が大変だと思う。まとめ反省で上げていましたが、防災ヘリを上手く利用できたら早く病院収容できて良いのではないか。これから防災ヘリを活用しようと意見が出ているが、ヘリ活用する時の問題ができていくのか知りたい。

(発表者)

 救急搬送、消火活動等に活用していかなければ成らないと思っています。


演題2「愛媛県消防防災航空隊を経験して」

演者 伊豫消防本部 楠本員三  

 伊予消防署の楠本でございます。本日は、よろしくお願いたします。わたくしは、愛媛県消防防災航空隊の第1期生といたしまて、防災ヘリ「えひめ21」に搭乗し、各種災害に出動してきました。これからお話いたしますのは、私がヘリに搭乗して救急搬送した事例でございます。

 この事例は、過去に救友会に於きましても、南宇和消防さんから発表があったものと同じ事例ですが、南宇和消防さんの救急隊からヘリに収容し、東温消防さんの救急隊に引き継ぐまでの、機内での様子について、お話をさせていただきます。患者さんは、当時70歳男性、腹部大動脈瘤の方で、県立南宇和病院から愛媛大学医学部まで搬送いたしました。当時の松山空港の気象は、晴れ・北西の風・風速5mでした。また、現地の気象は、晴れ・視界は良好とのことでした。出発時の機材としましては、簡易座席・ストレッチャー・毛布・プロパックモニタ・デマンド・膿盆等を用意しました。

 平成9年7月18日午前9時10分に、パイロット1名・整備士1名・航空隊員3名の計5名編成で、松山空港を離陸、飛行ルートは、引継場所であります僧都川河川敷臨時ヘリポートまでダイレクトで飛行しました。到着しましたのが9時45分で、到着までの所要時間が、35分でございます。僧都川の臨時ヘリポートまでは、直線距離で飛行しました関係上、山の上を飛行するわけですから、気流は悪く、到着までヘリは少し揺れておりました。

 防災ヘリと現地消防本部との連絡方法は、県内共通波を使用しました。着陸後、ヘリの後部からストレッチャーを出し、ヘリの前側から約20m離れたところで、航空隊のストレッチャーに乗せ変え、ヘリに収容しました。患者さんは、点滴をしており、容態は安定、引継も順調に行われました。患者さんと患者さんの奥さん、南宇和病院の池上先生の3名を乗せまして、9時55分僧都川の臨時ヘリポートを離陸しました。気圧低下による、動脈瘤の破裂がないよう飛行高度及び上昇率に注意し、機内温度にも気をくばりました。飛行高度はおよそ250m、時速約220kmで海岸線をダイレクトに北進、西宇和郡保内町西約5km海上、上空まで飛行いたしました。ごぜ峠上空にさしかかった頃、気流が悪くなりヘリが揺れ始めましたので、飛行高度をあげたいと、先生に申しましたところ、気圧がどれくらい下がるかとの質問があり、パイロットに現在の気圧を確認してもらい、地上の約98パーセントになると回答したところ、高度を上げてかまわないとの返事をもらいましたので、パイロットに上昇を指示し、飛行高度をあげました。

 山越えをすると、気流が悪くなり、ヘリは揺れます。気流は山に沿って流れますので、山の風上では上昇流が発生し、風下では下降流が発生します。当然上昇流ではヘリが持ち上げられ、下降流では押し下げられます。固定翼機では、気流の影響をもろに受けますが、ヘリの場合は、自分のブレードで揚力を作りますので、固定翼機ほどは影響を受けません。しかし、上昇流・下降流をパイロットが感じますと、ピッチレバーを操作しまして、揺れを最小限にしますが、上・下気流を感じてから操作しますので、気流の悪い状態が続くと、ヘリは上下しながら飛行します。また、えひめ21はBK117と言う機種ですが、この機種の特徴として、メインロータからテールロータまでの距離が短い分だけ、ロールが加わった揺れ方をします。つまり、直進安定性に欠けていると言うことです。メインロータ先端からテールロータ先端までの、クリアランスは、20cmぐらいしかありません。逆に申しますと、狭い場所でも、離着陸が出来ると言うことになります。

 飛行ルートですが、佐田岬半島を北進すればいいのですが、正面に伊方原子力発電所がありまして、航空法で原発から半径5km以内上空は、飛行禁止区域になっております。どうしてもごぜ峠を越えるような飛行ルートになります。峠を越え瀬戸内海に入りますと、進路を東にとり、気流が安定しましたので国道378号線を右下に見ながら飛行し、高度はおよそ200mまで、降下しまして、時速約220kmで順調に飛行しました。付き添いの奥さんが、先の揺れで乗り物酔いとなり、はきそうなジェスチャーをしておりましたので、市販の酔い止め薬を服用してもらいました。

 伊予市森上空から松山空港の管制区域に入りますので、それを避けて、高速道路上空を飛行し、東温消防さんと県内共通波で、到着予定を連絡、午前10時35分に重信川河川敷臨時ヘリポートに到着しました。東温消防さんの救急車に引き継ぎ、愛媛大学医学部まで搬送してもらいました。所要時間は、40分でした。

 今回の飛行で、特に注意したのは、気圧低下による患者さんへの影響です。気圧というのは、その場所・場所で違ってきます。低気圧・高気圧の接近等によって時事刻々と変化します。

 航空関係では航空機の性能を比較するため、国際標準大気を用いております。これは、地表の気温を摂氏15度、気圧を1013ヘクトパスカルとして、仮想的に大気を作り、これによりますと、地表から500mで気圧が954ヘクトパスカルで地表の94%、気温が摂氏11.75度、1000mで気圧が898ヘクトパスカルで地表の88%、気温が摂氏8.5度と、気温・気圧とも下がってきますが、これは仮想的に作り出した大気ですから、そのまま当てはまるのではありません。このような大気状態は、地球上には、存在いたしません。防災ヘリでの急患搬送では、1000mの高度で飛行することはありません。上昇しても700mぐらいまですから、飛行時の気圧に関しては、地表の1から2%です。下がったとしても3%までと、考えていただければよいと思います。急患搬送の場合は、気圧低下を考慮し、海岸線を、高度150m程度で、飛行するようにしております。

 また、空気中の酸素濃度ですが、これは空気の密度に関係しておりまして、正常な人の場合いのSPO2は、1000mで96%程度下がります。酸素投与の処置を継続しながら空輸する場合は、SPO2の数値を見ながら酸素投与量を上げる必要があると思われます。このデータは、東京消防庁が、実際にヘリを飛ばして、取ったデータであります。

<高度変化に伴う酸素分圧と酸素飽和度の推移>

                                          
│ 高 度    │ 大気中Po2     │ 肺胞気Po2     │ 動脈血Pao2    │ 酸素飽和度    │
│   (m)│    (mmHg)  │    (mmHg)  │     (mmHg)│ Spo2   (%)│
│     0 │       159   │       107   │         98   │      97.8  │
│   600 │       148   │         96   │         86   │      97.3  │
│  1,200│       137   │         84   │         80   │      96.3  │
│  1,800│       125   │         71   │         64   │      64.3  │
│  2,400│       116   │         59   │         55   │      90.0  │
 飛行中の揺れですが、救急車のような加速・ブレーキングによる揺れ、カーブによる揺れや、路面の凹凸による大きな振動などはありません。ヘリが揺れると言っても、気流にもよりますが救急車よりは、快適だと思われます。しかし、騒音がありますので、聴診器の使用は無理と思われます。機内での通常の会話は、困難ですから、ヘッドセットを付けてもらえれば問題ないと思います。固有の微震動は継続的にありますが、患者さんに影響を与えるほどのものではありません。以上とおり環境的要因は十分排除できますが、メンタルな部分で患者さんに負担を掛けることが予想されます。

 航空隊保有の救急資機材ですが、救命士またはドクターが搭乗して処置が出来る機材は揃えております。心電図伝送装置はありません。また、飛行中の携帯電話の使用ですが、実際に使用しましたところ、計器類に異常はありませんでした。ただ、機内騒音のため、イヤホンと携帯電話専用のマイクを使用しまして、無線が届かない場合は、携帯電話で連絡を取っております。

 今回の搬送事例についてのドクターの所見をお願いしたいと思いまして、南宇和病院に連絡を取ったところ、大阪大学医学部に転勤されており、コメントをお伺いする事は、出来ませんでした。 代わりに、自治省消防庁が平成8年に岐阜県の防災ヘリを使用して、救急搬送の試験事業しております。そのときの同乗医師の所見について紹介させていただきます。

 昭和病院救急部の山口先生の所見でありますが、患者さんは、62歳男性、切迫心筋梗塞にて入院。既往歴は、心筋梗塞にて愛知医科大学で心臓カテーテル治療歴があり・合併症は糖尿病・慢性膵炎、昭和病院から愛知医科大学付属病院まで転院搬送したものです。飛行時間は15分、陸路での搬送では、帰宅ラッシュ時間帯で所要時間の予測は困難。ヘリコプターの利点は、患者さんをスペシャリストチームの管理下におくまでの時間短縮にあり、また、振動の少なさは、救急車の比ではなくフライト中の機内安定性は期待できる。欠点として、愛知医科大学には、常設のヘリポートがあるが、昭和病院から引き継ぎのヘリポートまで救急車で15分要した。時短短縮のためにも公的建築物には、常設のヘリポートが必要である。刻々と変化する病態について、機内と受け入れ病院間で直接交信不可のため、対応が十分でない。また、資機材は、除細動と輸液ポンプぐらいは組み込んでほしい。なお、愛媛県は、保有してあります。また、白川病院長の野尻先生の所見も、同じようなものでございました。以上、防災ヘリを使用しての救急搬送についての、医師の所見ですが、簡単にまとめますと、第1に、搬送時間の短縮。第2に、救急車より揺れが少ない。第3に、中核病院には、常設のヘリポートが必要。以上3点に要約されると思われます。

 では、それぞれについて、説明させていただきます。搬送時間の短縮ですが、空を飛ぶわけですから、信号も渋滞もありませんし、新幹線なみの速度で飛行しますので、時間短縮に関しましては、十分にできます。しかしながら、ヘリは、有視界飛行が航空法で規定されておりますので、視程と申しまして、見通しの距離が1.5kmを切りますと、例え、松山空港を離陸しましても、現地の気象状態が悪ければ、途中で引き返すこともあり得ます。つまり、天候に左右されますので、すべてにおいて、出動出来るとは、限りません。しかしながら、防災ヘリによる搬送を思いつくことが重要かと思われます。出動の可否は、航空隊で判断いたしますので、それから、陸路の搬送に変更しても、遅くは、ないと思われます。

 第2点ですが、救急車ほどの揺れは、ありません。ただし、気流の悪い状態では、揺れますが、救急車ほどの揺れではありません。

 第3点ですが、これは、時間短縮とも関係しますが、病院からヘリポートまで救急車で、15分、ヘリで10分、ヘリポートから病院まで救急車で15分かかるとすれば、時間的ロスが、30分、30分ありますと、100kmは、飛行できますので、ヘリでの搬送は、あまり意味をなさないことと、なります。従いまして、高度医療機関と地方の中核病院とには、病院と附属した常設のヘリポートが、必要であると思われます。

 また、ヘリと受け入れ病院との通信方法については、航空法の特例措置が必要になります。これだけ全国に消防・防災ヘリが普及しますと、近い将来、改善され、欧米なみに、なるかと思われます。ちなみに、今回の試験事業に使用しましたヘリと愛媛県のヘリとは、同じ機種です。

 救急資機材を保有しておりますので、救命士・ドクターが同乗し、処置を継続しながら搬送できるように、揃えております。電源も、ヘリは、28Vですが、変換器がありまして、100Vで安定した電源供給が出来ます。先にも、言いましたように、救急資機材の中で、空気を利用して処置するもは、気圧との関係で、気圧低下による体積の増加等が考えられます。これは、東京消防庁が実際にヘリを飛ばして、ダミーと生体とで実験して、そのようなデータがでております。

 法的には、平成10年3月25日付けで、消防法施行令の一部改正があり、消防庁から各都道府県知事に対しまして、回転翼航空機による救急業務の推進を図りなさいと言う趣旨と、運用基準の作成等について、通達が出されております。その中で、救急隊員の内、1名は、救命士であることが望ましいとされております。徳島県では、救命士の資格を持った方が派遣されております。

 現在、全国に、消防へり・防災ヘリがおよそ70機ほど配備されております。このように、全国に配備されているにも関わらず、ヘリポートの問題・ヘリと病院間の連絡手段問題等が、解決されていないのが実状でございます。

 今後、順次、解決されていくと思われます。愛媛県といたしましては、平成12度から、東・中・南予の救急救命センターに常設のヘリポートを順次、設置していくと、愛媛県議会で答弁されております。

 それから、臓器移植における、防災ヘリの使用についてですが、要請があった場合、防災ヘリでの臓器搬送や、臓器摘出チームの搬送もいたします。高知県でありました、臓器移植では、心臓を大阪の循環器センターまで、搬送しましたのは、高知県の防災ヘリですし、信州大学の臓器摘出チームを名古屋空港まで、搬送しましたのは、長野県の防災ヘリです。

 ところで、2年間発足当時から防災航空隊に、派遣されておりましたが、訓練場の確保から始まり、資機材の選定・購入、訓練における各種申請書類作成など、軌道に乗せるまでは、航空隊一同、大変でありました。ヘリの運航につきましては、民間の航空会社に委託しておりますが、航空局への訓練書類申請は、すべて航空隊が作成し、交通消防課長名で申請しております。

 第1期生だけですが、1ヶ月ほど岐阜県のパイロット養成学校に入りまして、航空法規・航空工学・航空気象・航空整備・航空流体学などについて勉強しました。消防法を習うのなら、任期を終わっても役に立ちますが、航空法規を習っても、消防では、関係ありません。訓練でもおなじです。リペリング降下がうまくできる、ヘリの誘導が上手とか、ホイスト操作や山火事消火完璧に出来たとしても、所属の消防本部に帰れば、なんの役にもたちません。消防学校の派遣教官でしたら、消防の知識を蓄えて、帰属しましても、十分に知識を、広めることが出来ますし、救命士におきましても、国家試験は、大変ですが、そのまま救急活動に生かされることと思います。しかしながら、航空隊は、消防とは、まったく関係のない、業種ですから、2年間のブランクの方が大きかったように思います。ですが、貴重な経験は、させていただきました。

 特に、安全に関すことは、大変勉強になりました。地上の消防活動や救助活動は、どうしても、勢いでしてしまうことが、おおにしてあります。なかには、冷静さを失う方が多く見受けられます。しかし、航空救助は、自分が冷静さを失うと、命を落としてしまいます。地上の救助活動では、自分がミスをしても、けがぐらいで、済みますが、空での救助活動は、自分がちょっとしたミスをしますと、完全に命を落としてしまします。実際に島根県防災航空隊で、訓練中、15mの高さから墜落し、副隊長が亡くなられております。これは、別のところですが、ホイストケーブルが首に巻き付き、ホバリングしていたヘリが、急に高度が上がったため、重傷を負ったという事例もあります。一番多いのが、リペリング降下訓練をしていて、着地に失敗し、捻挫をしたというのが、あります。さいわい、愛媛県では、そのような事例は、起こっておりません。リペリング降下ですが、機外にでて、降下準備をすれば、命綱はありません。自分の右手だけで、自分の命を支えて、おります。頭のすぐ上には、11mのロータが1分間に365回転しており、3tの重量を持ち上げておりますので、吹き下ろしの風もかなりのもの

 ヘリでいろいろな活動をしてきましたが、遺書でも書いとったら、良かったなというのは、いくつかあります。これは、石鎚山での、冬山の山岳救助ですが、西条消防から救助要請があり、出動いたしました。当初の情報では、石鎚山の1の鎖附近と聞いて、出動しましたが、それらしき要救助者が、見あたらず、登山道沿いに、2の鎖附近までいきますと、登山道から、およそ100m程度滑落している要救助者を、発見しました。わたしが、降下準備をして、着地地点をみますと、70度くらいの救斜面で、こんなところに、降ろされても、わたし自信が、また、滑落しそうなところでした。この場合、要救助者の近くに降下しますと、ヘリの風圧で、要救助者を危険にしますし、それより、上に降下しますと、わたしが降下したことにより、なだれを起こしてしまいますので、ホイストで、降ろされたところは、要救助者の下がわ、手前、20mぐらいだったと思います。降りてみると、腰のあたりまで、雪があり、そこから、はつくばって、要救助者のところまで、やっとの思いでたどりつき、まず、骨折しておりましたので、応急処置を行い、もう1名が、減圧式担架を搬送してきましたので、二人で収容し、そ

 また、瀬戸内海は、山火事が多いところです。大三島で山火事が発生し、午前10時ころ出動、日没まで消火活動をし、帰宅が夜の9時、翌朝5時半出勤の6時出動で、11時頃まで消火し、鎮圧宣言がでましたので、帰投し、海水で消火しましたので、ヘリを洗っておりましたところ、今度は、広島県で山火事が発生、即出動、日没まで消火活動し、広島西空港で給油して、松山空港にかえり、帰宅したのが9時ごろ、翌朝、5時半出勤の6時出動し、12時ころ、鎮火宣言がでましたので、帰る準備をしていましたところ、今度は、香川県で山火事発生、一度、松山空港に帰り、再出動、現場に着くと、すでに200ヘクタール燃えており、これは、消えるのかなと思うぐらい、燃えておりました。このときの防災ヘリは、愛媛・香川・高知・神戸・和歌山の5機で、消火活動、5機が順番に、給水し、消火するわけですから、一つ間違えれば、空中衝突もあり得ますし、とにかく、ほかのヘリの位置を確認しながらの消火活動ですから、大変、気を使いました。何せ、火勢が強く、消火中に、ヘリのすぐ横で、大きな火柱があがり、もう少しで、ヘリが燃えてしまうかと思ったくらいです。これも、日没まで消火し、

 実質、1年半の運行経験でしたが、貴重な経験も、させていただきましたが、命を削る思いも、数多くさせていただきました。このような、極限的な体験をすると、少々のことには、驚きもしません。腹が据わったというか、どんな状況下でも、常に冷静さを失わない。そんな 度胸がついたと思います。また、いろいろな方と知り合いになることが、出来ましたので、自分自身の見識が広がったと、思っております。「井の中のかわず、大海を知らず」では、これからの消防行政は、発展しないと思います。積極的に外にでて、見識を広めることが、大切であると思います。その点につきましては、所属の消防長には、感謝しております。

 最後になりましたが、防災ヘリは、多目的ヘリです。救急搬送・救助活動・山火事消火・物資搬送等あらゆる災害事象に対応できる資機材・設備を備えており、航空隊員も十分な訓練を行い、技術を持っております。従って、消防サイドで言う第2出動体制の考え方を持っていただき、防災ヘリを有効に活用していただきたいと思って、やみません。

 以上で終わります。ご清聴、ありがとうございました。


演題3「乳幼児口対鼻人工呼吸法」

演者 東温消防消防本部  束村公則  

 東温消防の束村です。乳幼児口対鼻人工呼吸法のアンケートについて発表します。

 この発表は東温消防、愛媛大学医学部・越智先生、秋田総合病院・円山先生との共同です。

 乳幼児人工呼吸法の指導は、口と鼻を同時に含み胸部が軽く膨らみ、胃が膨満しない量を3秒に1回の割合で吹き込む事を基本に指導しています。しかし、現在使っている訓練人形では、次の様な問題が生じています。一つに、乳児に対しては、口鼻を実施者の口で覆って口対口鼻人工呼吸法を指導しているが、実際には、母親が我が子にこの方法ができるのは10%未満である。一つに、乳児は、鼻からの呼吸が主である。にもかかわらず、乳児の訓練人形は、鼻からの吹き込みができない。一つに、口対鼻人工呼吸法を訓練できる人形が必要である。以上の事を、96年日本救急医学会で発表されています。

 これらのことから、まず訓練人形の開発が必要となり、鼻から人工呼吸が可能にするため、円山先生がレサシベビーの改造を始めました。写真が気道部分と肺を取り出した物です。上側の気道が、従来の一本であった気道です。それをほぼ中間あたりで分岐をして、口気道・鼻気道と分けました。さらに、鼻気道部分をふたたび分岐し、左右の鼻腔へつなぎます。 チューブが折れ曲がり、気道閉塞を起こさないようにチューブの長を調節しセットします。フェイスマスクの鼻孔は、3ミリのポンチで穴をあけチューブを通します。これにより鼻のみ・口のみ・口鼻両方の3種類で、呼気吹き込みが出来ます。

 この改造した訓練人形を使って、100名の方にどの人工呼吸法が容易か実技アンゲート調査をしました。人工呼吸法は、あご先挙上気道確保の口対鼻と口対口鼻、下顎挙上気道確保の口対鼻です。

 アンケート調査に協力していただいた100名の内訳は、保育所保母・幼稚園教諭が50名、既婚者が30名、消防職員が20名です。この中には、普通救命または上級救命講習修了者が、消防職員20名を除いた、80名の内63名(79%)が含まれています。

 アンケート内容と結果は、次の通りです。

●あご先挙上法で、どちらが試技しやすいか?、の問いに対し口対鼻が83名、口対口鼻が17名で圧倒的に口対鼻が試技し易いと答えた。口対口鼻17名は、相当量のCPR訓練を受けているベテラン保母、消防職員でした。また試技者の感想として

●あご先挙上法で、吹き込み量の調節が容易でしたか?、の問いに対し口対鼻で95名、口対口鼻で75名が換気量の調節がし易いと答えた。回答に困った人が数人いましたが、私が見た主観で数えました。試技者の感想として

●胸の上がり下がりが分かりましたか?、の問いに対しあご先挙上法で、口対鼻、口対口鼻、共に30名が確認でき、大半の70名が確認不足であった。

●最後のアンケート調査で、図2のように頭部から下顎挙上し、口対鼻人工呼吸法を実技してもらった結果は、全員が胸の上がりを確認できたと答え。また全員が試技し易いの回答であった。

結語

 鼻腔からの呼気吹き込みが可能な、改造型の乳児用訓練人形を用いて、人工呼吸訓練を行った市民など100名において、アンケート調査を行い、口対鼻及び口対口鼻の人工呼吸法の容易さ、問題点などを比較した。結果として、口対鼻人工呼吸法の方が容易と感じる人が多く、一回換気量の調節、胸部の上がりの視認も容易であった。

 以上で発表を終わります。


全体質疑

(助言者)

 消防防災航空隊の発表について、ヘリを積極的に運用しないといけないと良く分かった。この場合2点ほど問題がある。一つは、ヘリの運用を依頼する場合にどういうふうな依頼方法をするのか。これについては、以前の会の時に消防機関の長の方から直接航空隊に連絡すると聞いている。これに関して東北四県でヘリ運用についてアンケート調査すると、運用依頼方法を消防隊員は殆ど知っているが、医師の場合は4分の3が知らない。これからは、どの様に依頼すれば良いのか周知徹底していくのが一つの問題である。それとヘリポートの問題である、一般にはヘリコプターの長さの1.2倍の空き地が有ればどこでも降りられるが、いろいろ制約がありそうはいかない。先ほどの話で、ある程度の医療機関は近くにヘリポートを確保しなれればならない、話があった。県内の病院では対応されていない。これからの検討課題である。

 乳幼児口対鼻人工呼吸ですが、最近の救急学会で話題になっている。実際口対鼻人工呼吸は、成人でもこの方法をとるともテキストに書いてある。決して新しくないが乳幼児にも使うのは面白い、私も良い方法だと思うので広めて、近いうちにテキストにスタンダードとして掲載されると聞きました。しかし、口対鼻人工呼吸で一つだけ問題があります。それは、鼻が詰まっている事が多いですので、よく検討され実際にやってみれば分かる。

以上で自由演題終了 ______________________________________________________________________ 4、総括講演     演題 「水難事故における救急医療」            愛媛県立救命救急センター 副センター長  渡辺 敏光    司会 愛媛県立中央病院  立川 妃都美  今日は、溺水の話を事件例を交えてお話します。四つ足動物は、泳ぐ練習をしなくても上手に泳ぐ事ができる。南氷洋で泳いでいる哺乳動物のアザラシは、1時間程度水中に潜り泳ぐことができ、オキアミを食べに行きます。 [水泳の特性と危険性]  人間が水の中に入りますと訓練されていないと溺れ、水の危険性が大きく分けて三つある。一つは、水の中に入ると支持点が無くなってしまう.また重力と浮力の作用点が異なり、重心は筋肉の多い下半身にあって、浮力の中心は肺のある上半身にある。二つ目は、呼吸のしかたが異なること、普通水泳では吸気は口、呼気は鼻で行う。動物は犬かき泳ぎをするので問題が少ないが、人ではクロール泳ぎ等では呼吸が非常に難しい。三つ目は、水の刺激で特に20度を切るような寒冷刺激によって心臓とか血管の反応、特に不整脈とか除脈など重傷の不整脈が起こることがある。また筋肉が吊ったり筋力が弱くなったりします。 [白熊]  北極の白熊が泳いでいますが、人間もこれから犬かき競技をオリンピックに入れ、飛び込む時は四つ足でドボンすると人間も溺れにくいと思う。人間が立って歩くようになってバランスが動物と違って重心が変わってきて泳げないとか溺れやすくなったのでしょうか?。 [用語と定義]  よく使われているのが溺水(near-drowning)・溺死(drowning)です。溺水は、水中に沈んだことによって窒息して生命が危険にさらされた状態。溺死は、それが原因で死亡したことを言う。Modellの分類(1981)によると、一般には水以外の液体での窒息は溺水に含めない。肺に水が入ったかどうかを溺水・溺死の診断時に記載することが望ましい。大きく分けると、水が肺に吸引されてない溺水と水が肺に吸引した溺水、水が肺に吸引されてない溺死と水が肺に吸引した溺死の大きく四つに分けられます。secondary drowningは病院に搬入された時、全身状態とか意識状態が比較的良いが、何日か経って肺炎とか合併症を起こし死に至る溺水のことである.この場合は、合併症を具体的に記載したら良いと思う。実際には、大きくこの溺水と溺死の二つに分けて最近よく使われている。 [溺水者が起こす反応]  溺れ始めると意識的に呼吸を止め、1分か2分間水面に頭を保とうとする。それから水中であえぎ呼吸と嚥下運動が起こり、口腔、咽頭、胃に水が入り、声門が痙攣し、これにより水の気管内流入が防止される。これによって、低酸素血症で死に至るのが乾性溺水(dry drowning)です。もう一つが意識が無くなってきて終末期のあえぎ呼吸が起こり、水が肺内に吸引され死に至る.これが湿性溺水(wet drowning)です。教科書では、乾性溺水が十数パーセントと言われるが、当救命センターで治療していると乾性溺水がもっと多いような印象を受ける。 [溺水(目撃者の表現)]  水面に浮かんでいたが突然動かなくなった。水中で泳いでいたのが止まった。水中で遊んでいたが、死んだふりをしたように見えた。プールに飛び込んだが、浮き上がってこなかった。静かに沈んでいった。もがいて溺れた。がある。プールに飛び込んだ場合は、頸椎損傷か心室細動も考えられる。もがいて溺れる場合だけでなく静かに沈む、原因は窒息、心臓が原因などさまざまである。 [症例]  1  2  3  4  5  6  7 │年令(歳) │  1 │  1 │  1 │  1 │  3 │  6 │  7 │ │発生月(月) │ 12 │ 10 │ 6 │ 1 │ 8 │ 9 │ 7 │ │発生時の │ 風呂 │ 風呂 │ 用水路│ 風呂 │ 用水路│ プール│ 川 │ │状況 │ (浮) │ (浮) │ (沈) │ (浮) │ (浮) │ (沈) │ (沈) │ │沈水時間(分)│ 10 │ 30 │ 10 │ │ │ 10 │ │ │発見から心拍│ │ │ │ │ │ │ │ │再開まで(分)│ 60 │ 30 │ 40 │ │ 60 │ 30 │ 40 │ │直腸温 │ 34.9 │ 33.8 │ 32.7 │ │ 38.8 │ 36.2 │ 36.4 │ │肺水腫 │ なし │ なし │ あり │ なし │ なし │ なし │ なし │ │高体温 │ あり │ あり │ あり │ なし │ あり │ あり │ あり │  最近、救命センターで経験した溺水7症例です。年少の症例(1歳の4人)は風呂が多い、用水路の症例は土管の中であった。年令が大きくなるとプール、川で溺れる。風呂で溺れた症例はと浮かんでいるものが多い。学童期の症例では沈んでいた症例が多く、溺れ方が違うのではないだろうか。(乾性溺水と湿性溺水の違いか?) [溺水の原因(1)]  乾性溺水と湿性溺水。浸漬症候群:低体温の冷水中で浸漬直後に顔に水が当たると迷走神経を介して除脈や心室細動が誘発される。平衡失調:耳管に水が入ったり、錐体内出血を起こしたりして平衡感覚を失う。その他に飲酒、薬の服用、筋肉痙攣などの原因がある。 [潜水反射]  顔面が水につかった時に起こる反射。高度の除脈、呼吸数の減少、末梢血管から心臓や脳への血流が増えるシフトが起こる。このシフトによって溺れても助かる率が高いといわれる。しかし最近は、人とか動物ではシフトが起こらないのではないかと言われている。 [浸水性低体温時の死因]  一番多いのが表面冷却による核体温(中枢体温)が低下して死亡する。体温34度で贍妄が起きる、32度で意識消失、水泳不能。28度で心室細動。22度で心停止をおこす。次に水中で反射的に冷水を飲み込む、その反射で心臓が止まる。それとショックによる心室細動がある。 [溺水の原因(2)]  溺水の原因の続きで器具を使って潜水の時に起こる原因です。ブラックアウトは水面下で低酸素血症から意識障害に至ること。息こらえ潜水、浮上にともなう減圧。潜水前の過呼吸により炭酸ガスが低く長時間潜り浮上した時に急に意識が無くなる。肺の過膨張。30m位潜ると窒素酔いし麻酔状態になる。 [溺水の病態生理]  淡水溺水と海水溺水の違いは、1940年台から1960年の始めに動物実験で分かっている。肺の中に淡水或いは海水が大量に入ったときに次のような変化が起き少量では起きない。淡水溺水では、水は浸透圧が低いため肺胞から血液に入っていき、循環血液量の増加・血液希釈・低Na血症・高K血症(溶血)心室細動を起こす。海水溺水は、逆に肺胞から水分が肺胞へ出ていき循環血液量の減少・血液濃縮・高Na血症・肺水腫を起こして状態が悪くなる。しかし溺れた時に大量の水を飲むことは非常に少なく、このような病態は少ないことが臨床的にわかってきた。1960年台からは臨床的な主病態は呼吸障害が注目され、低酸素血症、呼吸性アシドーシス、代謝性アシドーシス、肺水腫、肺炎等の諸症状が重要視されている。また救急体制の整備等により溺水患者にたいする蘇生率が向上し、低酸素性脳症の治療が問題になってきている。 [溺水33症例]  1986年4月から1994年3月までの救命センターに搬送された溺水33症例です。 来院時に心拍動あり=15例(男8例、女7例) 来院時に心拍動なし=18例(男9例、女9例) [溺水患者の年齢と発生場所] [溺水33症例の予後] │  年齢 │  場 所 │ 合計│ │ 溺  水 │来院時心拍動│来院時心拍動│ │ (歳) │ 浴槽  川、池  海│(人)│ │ │あり 15例│なし 18例│ │ 0〜5 │ 11   6  1│ 18│ │外来死亡 │ 0 │ 10 │ │ 6〜12│ 1  0 1│ 2│ │集中治療室で死亡│ 1 │ 5 │ │13〜60│ 1 1 4│ 6│ │神経障害を │ │ │ │60〜 │ 6 0 1│ 7│ │    残して回復│ 0 │ 3 │ │ 合計(人)│ 19   7  7│ 33│ │完全回復 │ 14 │ 0 │  年齢場所では、学童前が浴槽・川池で溺れ、60歳以上の人が長時間の風呂で溺れる。 来院時に心拍動があった時は、1例を除き回復している。来院時に心拍動が無い場合は、外来もしくは集中治療室で死亡している。来院時に心拍動があり集中治療室で死亡したのは、用語と定義で話したsecondary drowningで肺炎を起こして亡くなった。発見時に心拍動があると助かるが、救急隊員が現場に行った時に心拍動が無い場合は、なかなか助からないのが現状です。 [溺水(肺水腫)] │ │ │ │ │ 沈水時間│ │  溺水の肺水腫であった9症例です。搬 │ │ 年齢 │ 性│ 場所│ (分) │  転帰 │ 送の時にも問題になると思うが、一番多 │ 1│ 1 │ 男│ 風呂│ 20 │ 植物状態│ いのが肺水腫の患者です。この患者は、 │ 2│ 5 │ 男│ 池 │ 30 │ 植物状態│ 心臓を止めない事が大切である。 │ 3│ 5 │ 男│ 川 │ 20 │ 死 │ 1〜4例が淡水の溺水で、5〜9が海で │ 4│ 10 │ 男│ プール│ 3 │ 死 │ す。浸透圧の高い海では肺水腫が起こり │ 5│ 8 │ 男│ 海 │ 2 │ 回復 │ やすい。 │ 6│ 22 │ 男│ 海 │ │ 回復 │ │ 7│ 33 │ 男│ 海 │ │ 回復 │ │ 8│ 55 │ 女│ 海 │ │ 回復 │ │ 9│ 81 │ 男│ 海 │ 1 │ 回復 │ [症例]  状況は、55歳女性、4月15日午前1時頃、誤って海に転落し、約30分後に救助された。転落時、意識消失・誤嚥などはなかった。来院時は、意識清明、四肢蒼白、血圧80mmHg。現症は、全肺野に湿性ラ音で肺水腫である。胸部レンシゲンで白っぽい部分が肺水腫です。 [症例]  secondaryの患者、1歳女児。午前9時頃、浴槽に浮いているのを発見された。家族によって直ちに救急蘇生が行われ、本院救命センターに搬送された。来院時は、意識混濁、自発呼吸あり。現症は、血圧104mmHg、脈拍数169回/分でまずまずだったが、肺炎を起こして死亡した。時たま溺水したとき肺に吸引した水が汚く難治性の肺炎を起こし、死亡する場合がある。救急隊も人工呼吸中は誤嚥させないように注意することが大切である。 [生存を規定する因子]  一番が水没時間で、常温で15分沈んでいるとほぼ駄目であろう。二番が水温で、20度以下の冷たい水で救出されると助かる可能がある。次に年齢では、子供の方が助かる可能が高い。 [冷水溺水]  冷たい水で溺れ長時間沈んでいたが、中枢神経に後遺症がなくて助かった症例です。冷たい水中で溺れて助かった報告があるが、助かる確率が高いとは言えない. これは、日本の症例と外国の症例です。 │ │ 1 │ 2 │ 3 │ 4 │ 5 │ 6 │ 7 │ 8 │ │年齢(歳) │ 3 │ 5 │ 5 │ 5 │ 23 │ 27 │ 7 │ 2 │ │発生(月) │ 3 │ 7 │ 1 │ 2 │ │ │ │ 6 │ │発生時の │ 川 │ 川 │ 川 │ 川 │ 淡水 │ 淡水 │ 淡水 │ 淡水 │ │  状況 │  (沈)│ (沈) │ (沈) │ (沈) │ (沈) │ (沈) │ (浮) │ (沈) │ │沈水時間(分)│ 17│ 60 │ 30 │ 40 │ 25 │ 6 │ 15 │ 66 │ │発見から心拍│ 28│ 50 │ 130│ 65 │ 25 │ 7 │ 150│ 180│ │再開まで(分)│ │ │ │ │ │ │ │ │ │直腸温(℃) │ 28.7│ 25.4 │ │ 24.0 │ 28.8 │ 33.4 │ 27 │ 22.4 │ │肺水腫 │ あり│ あり │ │ あり │ あり │ あり │ あり │ あり │ │神経学的回復│言語障害│言語障害│ │ 正常 │ほぼ正常│ほぼ正常│言語障害│ほぼ正常│  ほとんどが沈んでいる。直腸温は、低く22から28度である、6番の33度は沈水時間が短い。また殆ど肺水腫を起こしている。 冷たい水に飛び込んだ直後に心室細動とか心静止が起こり、その後体温が段々下がって発見された場合、体温が25度まで下がっていてもなかなか助からない。一方、何かにつかまったりして心拍動がある状態で徐々に体温が下がり(例えば30度)、その後心臓が止まり、しかも早期に発見されれば助かる可能がある。冬期の溺水は助かりやすいと言うが、愛媛県近辺では助かりにくいのが現状です。 [予後を決定する因子]  先に話した、年齢・性別、体温・水温、沈水時間の他に、バイスタンダーと救急隊が行う溺水現場での蘇生処置、と病院での脳志向型集中治療が予後を決定する因子と考えられる。 [溺水(DOA)18例の発生場所]  愛媛大学病院に救急部が無い時代ですが重信からとか、赤十字病院があるのに北条から来る。溺水等で40分位心臓が止まっていても蘇生法を行うことによって心臓は動くが、脳がやられてしまう。搬送途上でどこかの病院で蘇生する事が非常に大切である。もう一つの方法としてドクターカーを導入する等して搬送方法が蘇生率、予後を向上させるのではないか。 [事故現場での観察]  救急隊員がまずしなければならない現場処置は、観察の意識レベル、呼吸状態・呼吸音の聴取は必ず行う。肺・気管に少しの水が入った場合でも血液中の低酸素血症が起きる。また誤嚥等で気管支の攣縮によっても起きる。パルスオキシメーターで酸素飽和度が下がっていれば、酸素投与をする。低体温時の心電図を確認する。体温が32度位になると不整脈が出たり心室細動ななったり危険な状態になりやすい.頸随損傷にも気を付ける。 [溺水現場での救急処置]  意識障害がある場合、気道確保をして酸素吸入をする.これは肺水腫の場合に特に大切です。呼吸困難の認められる場合には補助呼吸をする。それから保温、濡れた服を脱がし毛布等で保温する。心停止の場合は、心肺蘇生は出来る限り早く水上から病院まで行う。蘇生の開始にあたっては、水を吐かせないで、口腔内異物はきれいに掻き出す。 [冷水溺水に対する処置]  体温が下がると脈拍数が減ってくるので、心停止確認時は長めに行う。心マッサージは著しい除脈であっても、脈拍を触知できるときには心マッサージは行わない。電気的除細動は、体温が下がっていると効果が悪いので、3回までとする。輸液は、生理食塩水が望ましい。熱の喪失を阻止する。(アフタードロップ)乾いた布等で包むことが大切てす。 最後に、社会復帰率を上げていくためには、バイスタンダーの教育、搬送システムの改善、行政的な改善が必要でないかと思う。   以上です。 質疑 (今治消防 阿部)  私の溺れかけた体験ですが、当時20歳であまり泳げない時、足が届かない海で右足が攣ったが、その時自分自身冷静で、ゴムボートに乗って近くに居た子供に、手招きし声を出す余裕があった。そしてボートに捕まり足爪先が届くところでボートから手を離すと、左足が攣って両足が使えない状態でまた溺れかけ、手だけで泳ぎ落ち着いた。バタバタした事が無かった体験です。 (渡辺先生)  水泳はなかない上手いこといかない、私もあまり泳げないが潜水をしようとすると尻が浮き、泳ごうとすると途中で溺れだす。今の体験は貴重なもので一寸したことで起きる。また先ほどの着衣泳ぎは、絶対に教えて置くべきだと思う。 以上で総括講演「水難事故における救急医療」終了 閉会挨拶  第8回愛媛救友会(松山大会)実行委員長 伊豫消防 生駒隆  長時間にわたり熱心にご指導下さいました顧問の先生方はじめ、発表者の皆さん有り難うございました。今回は、水のシーズンを迎えるにあたり「水難事故の救急救助」のテーマで開催しましたが、先ほど県警の神谷さんからもお話がありましたように、昨年県下で38件の水難事故が発生し、27名の方が犠牲になっています。水の事故は、ひとつ間違えば直ちに生命に関わるような窒息の原因となり溺死することにもなりかねません。遊泳中は勿論のこと日常生活の中でも、多発しているということであり、先ほど日赤の谷松さんが発表された「着衣泳」や事故発生時の対応など、これから巾広く住民に指導していかなければならないと痛感しています。最後になりましたが、竹村会長はじめ運営委員、中予地区の会員の皆さま方には、大会を開催するにあたりご支援ご協力を頂き厚くお礼申し上げます。今後とも愛媛救友会に対して会員の皆様方の暖かいご指導ご協力を頂きますよう祈念しまして本大会を終了します。本日は、誠に有り難うございました。 親睦会 演題1「愛媛県下における特定行為の指示体制について」
     松山市消防局  村上和昭 氏

  • 演題2「山岳における単独救急活動」
         東温消防署   佐伯敏則 氏

  • 演題3「愛媛県消防防災航空隊を経験して」
         伊予消防署   楠本員三 氏

  • 演題4「乳幼児口対鼻人工呼吸法」
         東温消防署   束村公則氏

     (2)特別講演(14時30分〜15時00分)

     (3)事例研究「水難事故の救急救助」(15時10分〜16時30分)

     (4)総括講演(16時30分〜17時10分)

     (5)閉 会(17時10分〜17時20分)


    親睦会(17時40分〜19時40分)

      松山市三番町4丁目 「シャトーテル松山 屋上テラスガーデン(雨天時室内)」
         会費 4,000円  電話 089−946−2111


      ■愛媛救友会ホームページへ□第8回愛媛救友会へ