阪神・淡路大震災において、被災地に位置した大学病院として何を行い、なにを行い得なかったのかを検証した。いつ何時また襲ってくるやも知れぬ地震に対して備えることは重要である。また、大学病院の平時とは別の意味での特異性も明らかになった。
震災当日の新入院患者数は113名と最高であった。
震災当日と翌日に搬送されたDOA患者は31例にのぼり、いずれも胸部以上の圧迫外傷に起因するものであった。
1月23日までの7日間の、患者は疾病が576名、外傷が497名であったが、入院患者では外傷が131名(68.59%)で疾病が60名(31.41%)であった。 外傷患者中なんらかの筋挫滅が疑われた症例が少なくとも70例あり、このうちCreatinin>2.0mg/dl、CPK>1,000IU/lであった例は、32例にのぼった。受傷部位は下半身が大部分をしめた。輸液療法を中心とした保存的治療と全身管理を全例に施行するとともに、重症例には血液濾過透析を施行した。
他方、疾病患者576名の中では感染症が187名と全体の1/3を占め、その大部分は呼吸器感染症であった。また、投薬処方のみを希望する患者は、1週間に130名あった。
次に、処置に関して述べる。災害時には患者の入院先がその病棟の専門科と一致することは不可能であったため、いずれの専門家の医師も必要最低限のプライマリーケアに精通すべきことを再認識するべきである。また、今回多数発生した挫滅症候群の病態の認識と、血液濾過装置、回路や透析液などを余裕をもって備える必要性を痛感した。 患者の転院転送に関しては、これらをスムーズに行うためには、転送先や手段の確保のアレンジは被災地の各医療機関がおのおの行うのではなく、被災地外の基幹病院や第三者に委ねられるようなシステム確立が望まれる。
我々の病院は震災地に位置したにも拘わらず、救急病院として機能し得たと考えられる。これは建物の被害が比較的軽微であったことと、何といっても医師を中心としたマンパワーが動員可能であったからであり、これこそ大災害時に武器となり得る大学病院の特長であると考えられる。ただし、この特長を生かした、より早期からの避難所周辺での医療活動や、被災地外の病院とのスムーズな連携をとるためのハブ的な役割を基幹病院として担える余地があったと考えられた。
1995年1月23日より2月28日まで阪神淡路大震災における医療ボランテイア活動に参加した。麻酔科が主体の福島県救急医療懇話会が中心となり、神戸市灘区の摩耶小学校(Fig.)に診療所を開設し、医師14名、看護婦16名でのべ1400人の診療を行った。地震発生から6日が経過しており、緊急処置を必要とする患者はなく、ほとんどが発熱、咳漱、頭痛、咽頭痛などの感冒様症状であった。ついで軽微な外傷が多かった。以下胃腸障害、高血圧・心疾患、四肢・肩・腰の痛み、不眠・不安などの順であった(Table 1,2)。一時的な輸液で回復しない患者や高齢で長期管理が必要な患者に対して、ドクターカーによる搬送を行った。また、避難生活が長期になり、精神的不安を訴える人や寝たきり状態になる老人に対して、巡回する精神科医・心理療法士、保健婦とコンタクトをとり、施設へ送るなどの方針を協議した。
毎日の診療状況は診療日報として保健所に届ける他に、医療ボランテイアの統括を行っていたNGO本部に電話で報告した。NGO本部ではこれらの情報とコーデイネーターが行政側と協議した内容などをまとめ、FAXで各避難所に転送したが、これは他の施設での状況を知ったり今後の計画を作成するのに役立った。
医薬品は初めNGO本部のある西宮市中央体育館より持参した物で、売薬が中心であったが、その後は全国からの救援医薬品で一般診療に必要な物はほとんど入手可能であった。
地元医療機関の診療再開が増え、避難所での受診患者数も減少した2月中旬より、NGO本部、保健所、医師会との協議の上、徐々に平常の診療体制に移行し、状況を見ながら2月末で撤退し、地元の医療機関に引き継いだ。
今回の医療活動で気づいた問題点は、災害時における通信網の確立、災害医療コーデイネーターの育成、ヘリコプターを含めた搬送体制の確立である。最後に、災害時の医療活動は長期に継続する必要があり、個人より団体が中心となって活動するほうがよいと思われた。また、麻酔科医はすべての外科系の科と結びつきがあるばかりでなく、内科系からも患者の相談を受ける機会が多く、急性期のトリアージのみならず慢性期の患者の診療に適した立場にある。今後災害領域において麻酔科医が活躍する場も多いのではないかと思われる。
1) ライフラインの確保
2) 医療ガス供給設備
3) 手術室,ICU,CCU
W.調査結果救急活動に参加して
管 桂一ほか、臨床麻酔 19: 956-60, 1995(担当:坂本)阪神・淡路大震災と集中治療:
増田貞満、ICUとCCU 19: 505-10, 1995(担当:藤岡)
設備の損壊状況と対応策I.調査目的
II.調査対象
III.調査期間
IV.調査結果(別表参照)
V.まとめ及び考察
医療ガス供給設備 |
手術部・ ICU |
電気供給装置 |
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可搬式容器 (ボンベ) |
吸引ポンプ |
配管部 |
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震度 4 |
・転倒 →二次災害 機械的損傷 火災の助長
・設置型では 転倒なし
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・ナッシュ式 →給水管の破管 断水による停止 水漏れによる 作動不良 |
・銅管使用部は 損傷なし
・鋼管同士の接続部分で破損あり |
・ほとんど支障なく 治療継続 |
・ほとんど支障なし |
震度 5 |
損傷 ・天井に固定された 器具は無傷 ・棚に載せてあった モニターが落下寸前 |
・水冷式の自家発電 →作動しない場合も多い 非常電源は 10分程度しか作動せず |
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震度 7 |
・基本的には震度 4・5と同じ
・地盤沈下による配管の曲がりなどはあり |
損傷 ・天井に固定された 器具は無傷 ・棚に載せてあった モニターが落下 |
1.災害対策委員会
2.病院防災マニュアル
3.防火訓練
2.特に盛り込むべき事項
以下の項目はどの災害でも必要頻度が高いため、病院防災マニュアル掲載が必要である。
3.救護班の派遣の際考慮すべき事項
大事故災害:第3章 対応の概略
小栗顕二・監訳、大事故災害の医療支援、東京、へるす出版、1998年、p.18-25
(担当:山本)病院防災マニュアル作成ガイドライン
看護展望 20: 1194-6, 1995(担当:富樫)#はじめに
#病院防災の意義とその実施
#病院防災マニュアル作成の際の留意すべき事項
備蓄等の方策:例えば簡易ベッドや担架、医薬品などから食料品まで
アイソトープ等の病院の所有する危険物に対する方策
支援協力病院の確保:例えば大学付属病院、系列病院など
搬送依頼先及び搬送手段の確保:連絡方法、ヘリポ−ト等をどうするか
緊急時の職員の確保
病院内外の情報収集及び自病院情報の発信:携帯・パソコン通信等の利用
二次災害の予防:ガス栓、危険物の確認
マンパワ−の確保:近隣の医療従事者の応援体制がどうなっているか
救護班編成の検討:集合場所や医薬品の確保、交通手段について
自己完結型援助の準備:医療機器から飲料水まで準備可能かどうか
救護所でのカルテ様式の作成#防災訓練の実際