毒劇物対策会議報告書(議長:古川貞二郎・内閣官房副長官)
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目 次
U.対策の現状
1.毒劇物の管理
2.流通食品における安全確保対策
3.事件・事故発生時における対応策
W.今後の具体的対策
1.毒劇物の管理体制の強化
2.流通食品における安全確保対策の推進
3.事件・事故発生時における対応策の強化
別添 一連の毒劇物事件発生後に追加的に採った措置
1.毒劇物の管理体制の強化
2.流通食品における安全確保対策
3.事件・事故発生時における対応策の強化
T.経緯
本年7月25日、和歌山で発生した毒物混入カレー事件に端を発し、以降、今日に至るまで毒劇物等を使用した犯罪が相次いで発生し、国民に多大な不安をつのらせ、社会に重大な脅威を与えてきた。
これらの毒劇物等を使用した犯罪については、未だその多くが解決していないところであり、今後の対策については警察当局の捜査結果を踏まえて検討しなければならない面もあるが、模倣犯の発生、国民不安の高まり等の状況を踏まえると、迅速な対応をとることが必要である。
このため、総理大臣の指示を受け、9月18日に毒劇物対策会議を設置し、以来、毒劇物管理体制の強化並びに事件・事故発生時における関係省庁間の情報伝達及び連携体制の強化等について鋭意検討を進め、また、実施できる措置は逐次実施してきたところであるが(別添参照)、この度、中期的な対応を含め具体的対策等について取りまとめたものである。
U.対策の現状 1.毒劇物の管理
毒劇物の管理については、毒物及び劇物取締法(昭和25年法律第303号。以下「毒劇法」という。)に基づき、日常流通している化学物質の中で、人体に対する作用の激しいものについて、国民の保健衛生上の観点から、その製造、輸入、販売等について必要な取締りを行っている。
具体的には、毒性の高いシアン化ナトリウム、ヒ素など91品目を毒物に指定し、毒物より毒性は低いが毒物と同様の規制を必要とする硫酸、メタノールなど347品目を劇物に指定している。また、これらの製造・輸入業者については厚生大臣又は都道府県知事の登録を、販売業者については都道府県知事の登録を受けなければならないこととするとともに、業務上取扱者のうち、無機シアン化合物を用いて電気メッキ又は金属熱処理を行う事業者及び液体状の毒劇物の大量運送業者は都道府県知事へ届け出なければならないこととしており、平成9年度末現在、全国で約3,600の製造・輸入業者及び約95,000の販売業者が登録を受け、約3,400の業務上取扱者が届け出ている。
これらの事業者に対しては、毒劇物の盗難、飛散、漏えい等を防止する措置、「毒物」又は「劇物」の表示、取扱責任者の設置、盗難等に際しての警察等への報告、販売・譲渡記録の保管等を義務づけており、特に販売業者に対しては、譲渡時に譲受人から氏名、職業、住所等を記した文書の提出を受けるよう義務付けるとともに、農家、学校、研究機関等の業務上取扱者についても同様の義務を課しているところである。
さらに、このような事業者における管理状況については、全国約3,000人の毒物劇物監視員が毎年6〜7万件程度の立入検査を行って実態を把握するとともに、必要な指導等を実施しているところである。
なお、和歌山県で毒物混入カレー事件が発生したことから、本年7月28日に、毒劇物製造、輸入、販売業者における毒劇物管理状況の点検及び譲渡時における使用目的の聴取、身元確認の徹底について都道府県に対し改めて指示したところである。また、アジ化ナトリウムが混入される事件が発生したことから、アジ化ナトリウムを毒劇物に指定することとし、10月22日には、アジ化ナトリウムが毒劇物に指定されるまでの間も毒劇物と同様の管理を行うよう、国立の教育・研究・医療機関に指示するとともに、民間事業者における適切な保管管理の徹底について都道府県に対し指示したところである。
毒劇法は、物質の持つ毒性に着目し、関係する事業者に対し総合的な規制を課するという、他の先進諸国には認められない我が国特有の制度であり、以上のような措置を講ずることにより、毒劇物危害の防止に努めてきた。
なお、従前は毒劇物の農薬が多く用いられていたが、国の助成等により低毒性農薬の開発や極めて毒性の低い生物系農薬の開発・実用化が進展し、農薬全体に占める毒劇物農薬の比率は生産額ベースで約25%にまで減少しており、犯罪を除いて一般国民が毒劇物危害に遭う可能性は抑制されつつある。
2.流通食品における安全確保対策
流通食品の安全確保に関する対策については、厚生省においては、和歌山県で発生した毒物混入カレー事件などの一連の食品への毒劇物混入による食中毒の発生に鑑み、食品の安全確保の徹底を指示するとともに、食品販売店における食品表示のチェックの際、包装の異常の有無等についての監視の強化等を実施しているところである。
なお、食品衛生法(昭和22年法律第233号)第19条の18により厚生大臣及び都道府県知事は、食品営業施設における食品等の製造等の過程において有毒又は有害な物質が当該食品等に混入することを防止するための措置を既に講じてきたところである。
また、農林水産省においては、従来から、関係団体に対する食品の安全確保についての注意喚起と周知徹底を行うとともに、食糧事務所を通じ小売店や自動販売機等の巡回点検を行っているところである。
今回、食品への毒物混入事件等が各地で発生していることに鑑み、流通食品への毒物混入等による危害の発生の未然防止、流通食品の安全確保の一層の推進を図るため、 @食品の安全確保と管理の徹底等に万全を期するべく、食品製造業、流通業及び外食産業関係の団体並びに都道府県及び地方農政局等に対する通知、
A食品小売店における管理状況を把握・点検するための緊急巡回点検の実施についての地方農政局及び食糧事務所に対する通知、
B政府広報(広報誌、提供番組)による消費者への注意喚起
を行ってきたところである。
警察庁においても、コンビニ・スーパー等陳列販売店及び不特定多数のものが自由に利用できる飲食物の提供者等飲料水の販売、保管・管理上からみて必要と認められる職域団体、店舗等との連携を密にして、
@店内等における自主警戒の強化
A販売物品の適正な保管と管理
B不審物、不審者の早期発見と警察への速報
等の防犯指導の強化を図るとともに、各都道府県警察を通じて地域住民に対する注意喚起及び自動販売機に対する防犯パトロールの強化を行っているところである。
3.事件・事故発生時における対応策
毒劇物による事件・事故発生時においては、その被害者に対し、迅速かつ的確な医療を提供するため、消防による被害者の救命救急センターなどの医療機関への搬送、医療機関による治療等が行われるとともに、食品衛生法に基づく保健所における調査、地方衛生研究所等における原因物質の検索等が行われるほか、警察において犯罪に係る捜査活動が実施されているところである。
V.対策の基本的考え方
毒劇物の管理については、毒劇法等に基づき、以上のような各種の措置を講じてきたところであるが、今日の一連の事件の発生を踏まえ、今後の施策の強化を検討した。ただし、犯罪を意図する者が氏名や使用目的を偽って毒劇物を入手する場合や、窃盗により入手する場合など、毒劇法による規制の強化等を図っても防ぎ得ない場合が生じ得ること、また、社会経済上有用な毒劇物の流通が過度に規制され、国民生活に支障を生じることのないよう配慮することが必要であることに留意しつつ、製造、輸入、販売業者等における管理体制の強化や販売を通じた危害の防止等のための実効性のある施策について、関係省庁が連携し総合的に推進することにより、毒劇物犯罪の未然防止に資することができるものと考えられる。
流通食品における安全確保対策については、食品衛生法等に基づき、各種の措置を講じてきたところであるが、一連の食品への毒劇物混入による食中毒事件の多発に鑑み、新たに11月を食品の安全確保にかかる推進月間に設定し、都道府県等において食品衛生に関する監視・指導の役割を担う食品衛生監視員による特別指導や、食品の生産流通の改善等に関する調査・点検の役割を担う食糧事務所職員による緊急巡回点検、関係業界に対する指導の徹底及び消費者に対する広報の実施等を柱とする安全確保対策を積極的に推進することにより、食品の安全確保の徹底を図る必要がある。
なお、自動販売機については、常時、人による管理が困難な形態もあることから、設置者による自主管理を徹底するとともに巡回点検等を実施するほか、消費者に対し不審な食品を飲食しないようにするための情報提供、注意喚起が必要である。
さらに、毒劇物による事件・事故発生時においては、初動期において関係各機関が迅速かつ的確な対応を必要とすることから、平時より、国及び地方公共団体において、事件・事故発生時における警察、保健所、消防機関等関係各機関の応急対応等に係る機能強化を図る必要があるとともに、関係機関相互の有機的な連携体制を確立する必要がある。
また、医療機関、原因物質の分析機関における迅速な対応を可能とするため、中毒物質に係る情報提供体制の強化等を図る必要がある。
W.今後の具体的対策
以上の基本的考え方を踏まえ、今後、関係省庁は、一連の事件を背景として既に講じた措置を含め以下の諸施策について、一体となって総合的に推進することとする。
1.毒劇物の管理体制の強化
(1)管理体制の強化
ア 事業者の取組の強化
○毒劇法に基づく規制内容及び毒劇物の管理方法を解説する業種共通的な「事業者用毒劇物盗難等防止マニュアル」を関係省庁の協力により作成し、全毒劇物製造、輸入、販売業者、関係業界団体等に配布、周知徹底する。
○国及び都道府県の各段階において、毒劇物製造、輸入、販売業者及び業務上取扱者関係団体を通じリーフレット類を作成・配布するなどの方法により、個別業種に応じた具体的な管理強化のための啓発活動を推進する。また、毒劇物を取り扱うことが業態として標準的であるかどうかにつき関係団体を通じる等の方法により把握した上で、都道府県知事への届出を要しない業務上取扱者に対し、個別業種に応じた啓発活動を推進する。その際、啓発に当たっては、対象を団体会員に限定せず、アウトサイダーに対する啓発も行う。また、毒劇物たる化学薬品を販売する業者については、全国的な団体がないことから、啓発及び指導の徹底を図る観点から、その組織化を促進する。
○労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)に基づき、事業場における化学物質の適切な管理の徹底について、都道府県労働基準局長あて指示し、関係事業者団体等が有害化学物質の適切な管理を行うよう指導する。
○事業者による化学物質の適切な管理を促進するため、特定の化学物質の供給者がその有害性情報等を確実に事業者に提供する仕組みの構築、事業者が行う化学物質の適切な管理のための指針の公表、これらの施策についての支援・指導を行う。
○特に、国立の教育・研究・医療機関に対し、担当者会議の場等を通じ、毒劇物の管理強化の徹底を図る。また、各機関において講じた措置について報告を求め、本年度中に所要の改善を図る。
○アジ化ナトリウムを毒劇物に指定し、厳重な保管管理を義務づけるとともに、指定されるまでの間も、毒劇物に準じて適切に保管管理されるよう、10月22日発出の厚生省の通知に基づく指導を徹底する。
イ 盗難等防止措置の徹底
○毒劇法第11条に基づく盗難等防止措置の具体的内容として、貯蔵設備の位置、材質、施錠などの共通的な最低限の措置及び在庫量確認方法、鍵の管理方法などの標準的措置を定め、措置の徹底を図る。
ウ 関係機関の連携による監視・指導の徹底
○都道府県衛生部局及び農政部局、都道府県警察、消防機関、労働基準局並びに地方運輸局等による事業所への立入等によって、必要な登録・届出を行わずに毒劇物を取り扱い、又は毒劇物の不適切な取扱いが行われているおそれがあることを把握した場合には相互に関係機関へ通報することにより監視・指導の徹底を図る。
エ 毒劇物監視の強化
○効率的・効果的な監視業務を行うため、地方自治体の実情を踏まえ、本年末を目途に毒物劇物監視要領等を見直すとともに、違反発見時における処分等の判断基準を提示し、監視を強化する。
○国及び都道府県がそれぞれ保有する毒物劇物営業者登録台帳を統合し毒劇物製造、輸入、販売業者を一元的に管理することを可能にする毒物劇物営業者登録等システムは現在国及び19都道府県で稼働しているところであるが、その全都道府県の早期導入を促進することにより、製造、輸入、販売業者の管理を強化する。
○毒劇物の物性・応急措置方法に係るデータベースを開発し、都道府県、保健所及び消防署に配置することにより、個々の毒劇物に応じた適切な危害防止体制の整備を指導する。
○毒劇物監視の強化を図るため、毒劇事務の一部(販売業者の登録事務)について都道府県から保健所設置市等(以下「政令市等」という)へ移管し、政令市等に毒物劇物監視員を配置するとともに、そのための政令市等に対する技術的支援を行う。
○災害時において毒劇物の流出が発生していないかどうか等の迅速な把握や、流出等が確認された場合の水道事業者等への通報体制の強化を図るとともに、水道事業者等における水道水等の水質汚染事故を想定した危機管理要領等の整備など必要な対応を図るよう各都道府県等を指導する。
オ 要届出業務上取扱者の拡充
○一連の事件の捜査結果及び毒劇物を取り扱うことが業態として標準的であるかどうかの調査結果を踏まえ、現行では都道府県知事への届出を要しない業務上取扱者のうち、毒劇物の取扱状況を行政側で把握することが必要な業態について検討し、都道府県知事への届出が必要な業務上取扱者に追加指定する。
(2)販売を通じた危害の防止
○販売業者による毒劇物販売に際し、使用目的の聴取及び交付相手の身元の確認に関する厚生省の通知を徹底することにより、犯罪目的のための毒劇物入手を防止する。
○製造・輸入業者は容器・包装に貼付・添付されるラベル、チラシ、MSDS(化学物質安全性データシート)等に毒劇物を購入・使用する全ての者が行うべき保管管理や廃棄上の留意事項を記し、販売業者から使用者に伝達するよう指導する。
○家庭用劇物以外の毒劇物について、一般消費者は購入しないよう広報し、販売業者に対しても一般消費者への販売の自粛を要請する。
(3)その他
○一連の事件の捜査結果を踏まえ、毒劇物の指定範囲を拡大する。特に、アジ化ナトリウムについては、法令の整備を待たずとも適切に管理されるよう、10月22日発出の厚生省の通知に基づく指導を徹底する。(再掲)
○毒性の低い農薬の開発、使用の一層の推進等により、毒劇物農薬を減少させるとともに、農業用品目販売業者の取り扱うことのできる毒劇物の範囲を適正なものに見直す。
○郵便物に毒劇物が含まれているおそれがある場合の郵便局における取扱マニュアルを整備し、郵便利用者及び職員への危害の防止を図る。また、毒劇物は郵便法(昭和22年法律第165号)第14条に基づき一般に郵便物として差し出すことができないことについて、利用者に対する周知の強化を図る。
○過去の毒劇物事件において使用された物質に関する情報、入手経路に関する情報等を警察庁、法務省、厚生省及び関係附属機関(国立医薬品食品衛生研究所等)で共有し、毒劇物の監視に活用する。
2.流通食品における安全確保対策の推進
流通食品における安全確保対策の推進として、11月を食品安全確保推進月間に設定し、次の施策を実施しているところである。
(1)個別指導の強化
○食品販売業について、毒劇物混入防止に関するチェック項目を印刷したはがきを郵送し、営業者の適切な自主管理を推進する。また併せて、食品安全確保推進月間における、食品衛生監視員による食品販売店を中心とした重点指導の実施の際に使用する特別指導実施要領を作成し、食品への毒物混入が考えられる形態の小売店等に対し、食品衛生監視員が同様の事項を現場指導する。
○食品小売店における管理状況を把握・点検するための地方農政局及び食糧事務所職員による緊急巡回点検を実施する。
○なお、食品衛生監視員による特別指導と食糧事務所職員の巡回点検においては、実施客体の重複に留意するべく、都道府県等と食糧事務所における情報交換等の連携を図りながら、指導・点検を推進することとする。
○食品等の販売業者については、監視体制の強化を図るとともに、巡回点検による商品管理の徹底についての指導及び注意喚起等を行う。
○自動販売機についても、容器包装の状態、賞味期限、ロットの定期的な確認並びに監視・点検の励行による自主管理を徹底する。
(2)広報の実施
○消費者に対し、推進月間の周知及び食品の安全確保において消費者自らが注意すべき点についての情報を提供し、その徹底を呼びかける目的で政府広報(広報誌、提供番組)を実施する。
○自動販売機についても、利用する際は取出し口に不審な商品がないかなど十分に注意し、もし不審な物を見つけた時は、決して口にせず販売機管理者又は警察に届けるよう、消費者に対する注意喚起を行う。
(3)業界団体に対する指導
○製造業界、流通業界、小売業界及び外食産業界の各団体に対し、推進月間の周知及び食品の安全性確保に関する傘下各営業者に対する指導を依頼する。
3.事件・事故発生時における対応策の強化
(1)警察庁(科学警察研究所を含む)、厚生省、消防庁、試験研究機関(国立医薬品食品衛生研究所、国立感染症研究所等)による国レベルの連絡会議を設置し、連携の強化を図るとともに、警察、消防、衛生部門、医療機関等の有する毒劇物に関する事例を相互に整理し、使用された毒劇物の特性、被害者の症状、応急措置法その他の必要な情報の共有化を図ることにより今後の対策に資する。
(2)いついかなる時に事件・事故が発生しようとも、迅速かつ的確な対応がとれるよう、国(関係各省庁)と都道府県(関係部局)間における休日等の連絡体制を確立する。
(3)地域レベルでの体制整備
○地域における緊急時の連絡体制を確立することを目的として、関係部局間の連絡・協力体制の確保、保健所、警察、消防、医療機関、研究機関等との連携、都道府県、政令市等及び市町村の間の連携等について指導・支援する。
○重大な中毒事故等に対し、的確に対応できるよう全国8カ所の高度救命救急センターの機能強化を図る。
○全国142カ所の救命救急センターを救急医療に関する地域の中心機関として位置づけ、救急医療に関する地域の指導的な役割を担うものとする。
○救命救急センターに対して、備蓄すべき中毒治療薬リスト及び中毒治療マニュアルを提示するなど、必要な中毒治療薬の確保を積極的に支援するとともに、備蓄情報を地域の医療機関に周知させ、また、全国の備蓄状況を厚生省が把握する。
○科学捜査研究所、地方衛生研究所、救命救急センターに高性能の検査・鑑定機器を整備するとともに、十分な検査・鑑定要員を配置するなどして人的・物的両面から検査機能強化を図る。
○科学捜査研究所と地方衛生研究所等で、検査、鑑定技術に関する情報交換や、事案発生時における検査、鑑定結果の情報提供を行うなど、情報の共有、分担、連携体制の強化を図る。
○国立公衆衛生院において地方自治体職員の危機管理研修を実施し、地域における危機管理体制の整備促進を図る。
○消防隊員に対する毒劇物に関する症状別基礎知識について周知徹底を図る(再掲)。
○簡易検査キットを全保健所へ配布する等、初期対応における検査機能の強化を図る。
○国立大学においては、地域医療への貢献の観点から、その有する人的及び物的資源を効率的に活用し、検査機能の強化及び治療薬の備蓄の促進を図る。
(4)(財)日本中毒情報センターの機能強化
○臨床症状や異常検査結果、薬毒物や生体試料の色調などから、中毒の起因物質の特定に際し役立つ情報を提供できる症状別データベースを構築し、機能強化を図る。
○多方面にわたる中毒関連分野の専門家を起因物質別に登録することにより、情報の共有化を図り、より現場に即した詳細な情報提供を行えるようにする。
○中毒事故発生時に、より詳細な情報が必要な場合、(財)日本中毒情報センターが高度救命救急センターの臨床医等の中毒専門家と連絡を取り、適切な専門家を医療機関に対して紹介することにより医療機関からの臨床相談に対応する体制を確立する。
○新たな情報伝達メディアとしてインターネットを利用し、それを介した情報提供体制を確立することにより、機能強化を図る。
(5)科学警察研究所の機能強化
○極めて特殊な毒物が用いられた場合、物質の含有量を厳密に調べる必要がある場合、あるいは鑑定試料がごく微量である場合など科学捜査研究所では十分な鑑定が困難な場合でも対応できるよう、高性能鑑定機器の整備等による科学警察研究所の鑑定機能の高度化を図る。
(6)医薬品の開発等
○救急医療上必要性の高い治療薬について、希少疾病用医薬品指定制度等に基づく希少疾病用医薬品としての指定を迅速に行うことなどにより、研究開発の促進を図るとともに、外国臨床試験成績の活用等により承認審査を迅速に行うほか、緊急時において外国で承認された治療薬の使用以外に適当な方法がない場合には、薬事法に基づく承認前の特例許可を与えることを含め必要な対応を行う。
X.フォローアップ
本報告の内容の実施状況について、平成11年3月までに報告を求め、関係省庁の取組を促すこととする。
別添
一連の毒劇物事件発生後に追加的に採った措置
9月18日 毒劇物対策会議を設置
1.毒劇物の管理体制の強化
7月28日 毒物劇物営業者における毒劇物管理状況の点検及び譲渡時における使用目的の聴取、身元確認の徹底について都道府県に対し指示
7月31日 国立の教育機関に対し、毒劇物の管理強化を指示
8月14日 農薬の保管管理の徹底の指導を都道府県に対し指示
9月17日 毒劇物に該当する危険物の保管管理徹底の指導を都道府県に対し指示
9月22日 郵便物に毒劇物が含まれているおそれがある場合の郵便局における取扱を指示
10月22日 アジ化ナトリウムが毒劇物に指定されるまでの間も毒劇物と同様の管理を行うよう、国立の教育・研究・医療機関に指示するとともに、民間事業者における適切な保管管理の徹底について都道府県に対し指示
10月22日 国立の教育機関に対し、毒劇物の管理強化及び各機関に置いて講じた措置についての報告を指示
10月30日 事業場における化学物質の管理等の徹底を図るよう、都道府県労働基準局等に対し指示
11月17日 国立の教育機関からの講じた措置についての報告を踏まえ、あらためて毒劇物の管理強化を指示するとともに、いまだ十分な対応が行われていない機関に対し、すみやかに対応を終えて報告するよう指示
2.流通食品における安全確保対策
7月29日 食中毒の調査に当たっての留意点について、都道府県、政令市等に対し「食中毒発生予防について」を通知
9月 3日 都道府県、政令市等に対し「毒物劇物混入等に対する食品の安全確保について」を通知
9月 3日 毒物等混入事件の再発防止対策の強化として、店舗等に対する防犯指導の強化を各都道府県警察本部に対し指示
9月 4日 関係団体、都道府県及び地方農政局等に対し「食品への毒物混入事件等の発生防止の徹底について」を通知
9月11日 地方農政局、食糧事務所及び関係団体に対し「流通食品への毒物等の混入防止について」を通知
9月21日 政府広報(広報誌)による消費者への注意喚起
9月26日 政府広報(提供番組)による消費者への注意喚起
10月30日 本年11月を「食品安全確保推進月間」とし、食品小売業者に対し、流通食品の安全確保のための指導を実施するとともに、流通食品における安全確保対策の推進について、都道府県、政令市等に対し通知
10月30日 本年11月を「食品安全確保推進月間」とし、地方農政局及び食糧事務所に対し食品小売店への緊急巡回点検の実施に関する通知及び関係団体に対し推進月間の周知
11月14日 政府広報(提供番組)による消費者への注意喚起
11月19日 「厚生」(広報誌)による消費者への注意喚起
3.事件・事故発生時における対応策の強化
8月10日 中毒事件発生時における警察機関と医療機関との連携を各都道府県警察本部に対し指示
9月 7日 地域における緊急時連絡体制等危機管理対応マニュアルの整備、関係部局連絡会議等の設置について体制整備を依頼
9月 7日 科学捜査研究所と地方衛生研究所間等で、検査、鑑定技術に関する情報交換や、事案発生時における検査、鑑定結果の情報提供を行うなど、情報の共有、分担、連携体制の強化を依頼
9月17日 中毒症状を呈した傷病者の救急搬送に当たっては毒劇物混入の可能性も念頭に置いて、救急現場の状況についての医療機関等に対する情報提供等の対処を都道府県に対し指示
11月 9日 健康危機管理における保健所及び地方衛生研究所の位置づけの明確化並びに機能強化について検討するため、公衆衛生審議会総合部会を開催