平成10年度愛媛救友会総会・第6回愛媛救友会(松山大会)記録

2 デモンストレーション

   進行 日本赤十字社愛媛県支部 兵頭和夫


(1)演 題 「あっ!おじいちゃん だいじょうぶ」

   演 者     日本赤十字社愛媛県支部

皆様方の発表とこの発表は、大きく違う所が一つあります。皆様方の発表は、基本的に現場の実体験をもとにして発表をなされておりますが、私たち、赤十字救急法の発表は、実体験ではなく、現在赤十字として、一般の方々に「より安全で、より効果的な気道内の異物除去」として普及している方法を発表させていただきますので、この物語は、フィクションであります。

 本日の配役を紹介いたします。
  おじいさん(臼井)・・・・・・兵頭ヒデ吉(70才)
  お母さん(松下)・・・・・・・兵頭トシ子(45才)
  息子(山田)・・・・・・・・・兵頭ヨシキ(18才)
  救急センタ−(加地)・・・・・進行

 今日は、ヒデ吉の70才の誕生日。
 少し無理をしてステ−キパ−ティ−。

 突然おじいさんが胸を押さえて苦しみだす。おじいさんの周辺をお母さん、息子がオロオロと 取り乱した後、お母さんが救急センタ−へ電話連絡。

救急センター「はい、こちら赤十字にこにこ救急センタ−です」
お母さん  「今おじいちゃんが喉に物を詰めた様なんです。苦しがっているんです。」
救急センター「そりゃ大変だ。気の毒な事ですので何とかしてあげたいと思いますが、どんなんですか。」
お母さん  「喉を押さえて手を振っているんです。」
救急センター「あいさつをしているのではないのでしょうね。」
お母さん  「え!、あいさつではないんです。喉の所が苦しいみたいで声が出ないみたいです。」
救急センター「分かりました。いいお肉を食べたんだと思います。」
お母さん  「ええ、おいしいのを食べたんです。」

  ・・・もちろん、救急センタ−では、おじいさんが腐った肉を食べたわけでもなく、また、狂牛病の肉を食べたわけではないことは予測されますので、・・・

救急センター「こちらからドクターカーを派遣しますので、そちらのお名前を教えてください。」
  ・・・この間、息子はおじいさんの横でオロオロするばかり
お母さん  「私の名前でいいのですか。兵頭トシコです。」
救急センター「いいお名前です。患者さんのお名前は何といいますか。」
お母さん  「おじいちゃんは、ヒデ吉です。」
救急センター「たいした名前ではありません。お年は幾つでしょう。」
お母さん  「今日70になったばかりです。」
救急センター「おめでとうございます。」
お母さん  「ありがとうございます。でも早くお願いします。」
救急センター「分かりました。住所はどちらですか。」
お母さん  「松山市文京町1番です。」
救急センター「何か目標物はありますか。」
お母さん  「ヨッ君、何か目標になる物あったっけ。」
息子    「おっちぁん弁当がある。」
お母さん  「電停の向こう側に、おっちぁん弁当があります。」
救急センター「分かりました。もぎたてテレビで紹介されたところです。」
お母さん  「いま顔が赤くなってきました。」
救急センター「最後に電話番号を教えて下さい。」
お母さん 「234の5678です。」 救急センター「とてもいい番号です。すぐにドクターカーを派遣しますが、肉を喉に詰めているようですから、なるべく早く処置をしたいと思います。
       こちらの言うとおりに処置をしていただけますか。」
お母さん  「分かりました。ヨッ君向こうから何か言ってくれるからそのとおりにしてって。
       お願いします。」
救急センター「まず、おじいちぁんの片側の胸をしっかりと押さえて下さい。」
お母さん  「はい、やってみます。ヨッ君片側の胸を手で支えてって。」
  ・・・お母さんは息子に指示
救急センター「そしたらおじいちゃんの肩甲骨と肩甲骨の間を手の平の付け根あたりで4回ぐらい強く叩いて下さい。」
  ・・・お母さんは同じことを復唱
お母さん  「肩甲骨ってどこにあるんですか。」
救急センター「肩と肩の下の骨の辺りです。」
お母さん  「肩と肩の間ですか。」
救急センター「そのとおりです。」
お母さん  「ヨッ君手のひらで4回くらい叩いてって。おもいっきり叩くのよ、おもいっきり。」
息子    「1、2、3、4、だめみたいや。」
お母さん  「叩きましたけど、ウーと言っています。」
救急センター「何も出ませんか。」
お母さん  「ヨッ君、口の中を見て。」
息子    「何もない。」
お母さん  「何も出ていないみたいです。」
救急センター「よくどしいですね。それでは次の方法を行います。おじいちぁんの後にまわって下さい。」
お母さん  「今度は違う方法を教えてくれるって。後ろにまわって。」
救急センター「それでは、脇の下から握りこぶしをひとつ入れて下さい。」
お母さん  「脇の下から握りこぶしを。どの辺りに入れたらいいんですか。」
救急センター「良い質問です。お臍とみぞおちの中間辺りに入れて下さい。」
お母さん  「ヨッ君、お臍とみぞおちの中間辺りに握りこぶしを置いてって。
       はい、置きました。」
救急センター「もうひとつの手でその握りこぶしを握って下さい。」
お母さん  「ヨッ君、もう一方の手で握りこぶしを握るんですって。
       はい、握りました。」
救急センター「その姿勢で貴方の両肘をしっかりとおじいさんにつけて下さい。」
お母さん  「くっつけました。」
救急センター「それでは、しっかりと後ろに引っ張るように、引き絞る感じで何回か圧迫をして下さい。」
  ・・・息子はハイムリック法の変形を実施
おじいさん 「ア、ウッ ウッ」
お母さん  「何か出たみたいです。」
救急センター「おじいさんは話ができますか」
お母さん  「ちょっと待って下さい。おじいちぁん話せる。」
おじいさん 「ア− ア−苦しかった。」
お母さん  「ハイ、ものを言ってます」
救急センター「出た物をすぐに除けて下さい。おじいさんはまた食べるおそれがあります。 」
お母さん  「はい、除けました。ありがとうございました。」
救急センター「もう大丈夫だと思いますが、もうしばらくしたらドクターカーが到着します。念のため診てもらって下さい。」
お母さん  「お願いします。ありがとうございました。
       よかったねーおじいちぁん。死ぬかと思いましたよ。
       死んでもらってもよかったのに。」
おじいさん 「アーアー、苦しかった。」
息子    「おじいちぁんよかった、よかった。」
お母さん  「来年はもっと固いお肉にしましょうね。」

進行    以上で私たちの発表は終わりますが、この席をお借りしまして、社会通念上、 一般的に不適切と思われる言動が多々ありましたことを、深くおわびいたしまして終了させていただきます。


(2)演 題 「自動心肺蘇生器」

 東温消防本部
  隊長  束村公則   隊員 森 良貴
  機関員 和田 悟   家族 和田明弘

(家族)  散歩中、急に苦しがって倒れました。よろしくお願いします。
(隊長)  もしもし、もしもし、もしもし、呼びかけ反応なし。痛み刺激反応なし。
      意識レベル300
      口腔内異物確認、口腔内異物なし。
      気道確保
(隊員)  よし、1,2,3,4,5
      呼吸なし
(隊長)  脈なし、CPA、CPR開始
      機関員経鼻エアウエイ7ミリ準備
(機関員) 経鼻エアウエイ7ミリ準備よし
(隊長)  強制換気2回後挿入、心マ中断強制換気2回
      機関員酸素毎分10 L 投与
(機関員) 酸素10 Lよし
(隊長)  機関員3次救急病院手配
(機関員) よし
(隊長)  家族の方こちらへきてください。患者さんは、呼吸も脈もとまっている状態ですので、このまま処置をしながら運びます。また、病院まで搬送時間がかなりかかりますので、自動式の心肺蘇生器に換えたいと思いますがよろしいでしょうか。
(家族)  お願いします。
(機関員) 隊長、三次救急病院連絡済み
(隊長)  機関員、自動心肺蘇生器準備
(機関員) よし
      作動スイッチ停止位置よし、肺換気調節ノブ停止位置よし、胸部圧迫調節ノブ停止位置よし、酸素供給ホース接続よし、自動心肺蘇生器準備よし。
      家族の方、担架を患者さんの横まで一緒に動かして下さい。
      ストレッチャー準備よし。
(隊長)  患者移動する、心マ中断、強制換気2回 1,2,3
      機関員、自動心肺蘇生器位置調整
(機関員) 位置よし
(隊長)  患者降ろせ。
      右肺よし、左肺よし、心マ開始
      機関員自動換気準備、換気量800ml
(機関員) よし、そく止弁解放、圧力150、肺換気ホース接続よし、作動スイッチよし、 換気量800ml よし
      自動換気準備よし。
(隊長)  自動換気に切り換える(機関員からマスクを受け取り装着する)
      右肺よし、左肺よし
      機関員自動心マ準備
(機関員) よし、胸部圧迫ホース接続よし、左側ベルト固定よし、自動心マ準備よし。
(隊長)  自動心マに切り換える、圧迫深度4mm
(機関員) よし。(心マ5回後、隊員にピストンを渡す)
(隊員)  (心マ5回後機関員からピストンを受け取る。)
      右側ベルト固定よし。ベルトロックよし。圧迫深度4mm よし。
(隊長)  搬送ベルト固定
(隊員・機関員) ベルト固定よし。
(隊長)  搬送準備にかかれ
(隊員・機関員) 搬送準備よし。
(隊長)  機関員残圧確認
(機関員) 残圧100
(隊長)  搬送


(3)演題 「喘息発作時の呼吸補助」

   演 者    松山赤十字病院外科部長 中橋 恒
   実技協力   松山赤十字病院     久保 光

 皆さんこんにちは、今ご紹介をいただきました中橋と申します。デモンストレーションということで、最初の日赤の加地さんと東温消防署の方で、笑いあり、理を整然としたデモンストレーションで今日お話しをということで依頼を受けたときに、 こんな大きな会場で非常に熱心に沢山の方が来られていると思っていなかったもので、名演技の後で気後れ気味ですが、喘息発作という部分にかかわるところで専門的なお話しになってくるといろいろあると思います。

 救急という目で見たときに、喘息というのは最終的に呼吸困難ということになるのですが、そういった問題を救急隊の方がどういったポイントで、補助、援助をしていただくと救命につながるかというポイントの部分でお話しが出来ればと考えています。スライドがあればと思ったのですが、お手元にお配りしました「重症喘息発作時のプレホスピタルケア」副題としまして「胸郭外胸部圧迫法による呼吸補助法」という救急の現場でされている資料を作らせていただいたものですから、何かの参考にして頂だければありがたいと思っています。

 資料を参考にして頂くとありがたいのですが、喘息という病気は皆さんお聞きになってご存じだと思いますが。ここに書いてありますように喘息発作死。結局息が出来ない。窒息という状態で死に至ってしまいますが、統計的にみると死亡者の数は年間 6、000人位いらっしゃるそうです。昔に比べますと減っては来ているみたいですが結構な数です。いろいろお伺いしてみると、子宮がんで亡くなる方よりも多い数です。だから思った以上に死亡者は多いようです。ここに書いてありますように、35歳以下の若年者では増加傾向にあると。それで何とか助かるようにということで現場でやって頂きますが、あとで総括の講義をして頂きます県立中央病院の上田先生のご資料を事前に調べさせて頂いたのですが、県立中央病院に救命救急センターがあって、1982年から92年の1年間に39名の喘息死の患者さんがいらっしゃったそうです。年間割にしますと、年間で36名。全国数からいうとそうでもないのですが、救急の現場ですと結構な数だと思っています。それで先生のご資料になりますと、心肺停止状態で病院へ担ぎ込まれた方はなかなか救命できないのだそうです。

 呼吸なり心臓なりに生きているバイタルサインのある方で担ぎ込まれた方は、全員助かったという報告がありまして、現場から病院の二次的なところまで持って行く援助がきちんと出来れば、本来助かるべき患者さんが、充分でなかった為に亡くなるという問題があるそうです。

 そこで、ここに書いてありますように、院外喘息死の3大要因として患者側の要因で、重症化するまで受診せず我慢しています。それと、発症から急激に窒息に至る劇症型の発作、3つ目として救急救命士で日本のレベルも上がって来てはいるようですが、気道確保ということでいくと、気管内挿管をして気道確保をするところまでは至っていない。コンビチューブとかラリンゲアルマスクで気道確保しながらやっていく事で現在推移しているようですが、それも含めたきちんとした形で気道確保をしたCPRがなされるのであれば助かるのではなかろうかと思っています。

 それで、喘息がなんで起こるかというポイントになるのですが、肺に気管がありまして、 右と左の気管支に分かれて、最終的に23回くらい枝分かれをしていき、肺胞という小さな袋。1ミリの5分の1と言われるくらい小さな袋になります。ここで吸った空気の酸素を取り組んで炭酸ガスを吐き出す呼吸という大切な仕事をしています。普通の呼吸は息を吸うと、肺胞の近くの気管支が太くなります。そして肺胞が膨れてきます。息を吐くときは完全につぶれはしないのですが、一定の所まで小さくなって、気管支も若干細くなってきます。気管支は呼吸にあわせて吸気の時開いて、呼気の時細くなる。これが正常ですが、喘息の患者さんの場合は、抹消の細い気管支がれん縮という、アレルギー的な要素で起こってくるのですが、結果論としては気管支がもっと細くなってしまいます。えん圧とか伴うものですから、タンとか分泌物が溜まりやすくなります。息を吐くときは正常ほどは太くはないとしても、内腔がなんとか保てるところまで開くのですが、呼気で息を吐こうとすると、結局れん縮というけいれんみたいな格好で、正常の時より細くなっていますし、分泌物があると益々細くなるという問題が出て来ますが、息を吐こうとすると閉じてしまうんですね。そうすると、息を吐こうとしても充分な量が吐けないものだから、 空気が溜まった状態になります。吸おうとすると溜まっているものだから、だんだん吸えないんですね。結局この肺胞がどんどん膨らみっぱなしで、呼吸をしようとしても基本の息を吐くという部分に障害がくるというのが喘息の基本になります。

 喘息死は何故おこるかですが、急逝死の原因は喘息による低酸素血症、息が吐き辛いというのが喘息の病態になるのですが、吐き辛い分だけ溜まってきて吸えない。 ということで酸素が充分に肺の中に入りませんから、気道狭窄による換気障害が起こってきて低酸素血症になり、意識障害になり、まず呼吸が止まって、低酸素血症になって最終的に酸素欠乏で心臓が止まってしまう。

 救急搬送中の喘息死を防ぐためには、喘息は窒息が一番問題になってきますから、 なんとか呼吸を補助してあげる。で何処に補助のポイントを持ってくるかというと、 息が吐き辛いのが喘息発作の本体ですから、呼気をきちんと補助してあげると救命につながるというのが、喘息発作時における呼吸補助の基本的考えになります。後で具体的にデモンストレーションで出しますが、救急搬送中の喘息死を防ぐために、 窒息による低酸素血症の予防ということで、呼気の補助をしてやります。 胸の下から手を使いまして、胸郭外胸部圧迫法といいますが、呼気にあわせて、絞り込むように胸郭を圧迫してやりますと、溜まって吐き辛い空気が効率よく外に出て、吸う部分では開くものですから、自分で息を吸う分はスムーズに入ってきます。呼吸が円滑に行えるようになって、低酸素血症には陥りにくい。高炭酸ガス血症にも陥りにくい。ということで、救命につながるという事になります。

(実技)
 患者さんが喘息発作でしんどそうだから、救急車の要請があった時には、大体重症の時には寝てしまうということになります。軽い場合には重積発作の手前くらいでしんどそうにされる患者さんは、呼吸が苦しいという事になりますが、座った状態で呼吸をしています。無意識の状態ではありますが、口すぼめ呼吸といって、口笛を吹くように口をとがらせて息を吐く時に抵抗がつくようにする呼吸の方法があります。息を吐く時に口をすぼめて息を吐いてもらう。で、吐き辛いということが一番のポイントになるものだから、下部の胸郭(乳頭より下の外側)を呼気に合わせて圧迫する。呼気のはじめに軽く圧迫し、終末で絞り出す様に強く圧迫を加える。

 この時出来るだけ手を大きく広げて、下部胸郭全体を圧迫します。吐く時に少し圧を加えて、最初はやさしく両側から圧迫する様に持ってきて、息を吐き終わる段階で絞り込むように押して、出しにくい空気を強制的に外に出してやると、喘息発作時の呼吸補助としてのポイントになってきます。

 患者さんは、何らかの原因で急に発作が来ると思いますので、家族の方に今飲んでいる薬とか、気管支拡張剤の薬がありますので、発作時に使うようドクターの指示を受けていますので、もしそのような物があれば、吸入しながら先程の補助をしてあげればより効果があると思います。また体位としては、座位、前屈座位、仰臥位とかで、更に重症の場合はアンビュで酸素を送ってやって、呼吸補助をしてやれば非常に良いのではないかと思っています。

 最後になりますが、胸郭外胸部圧迫法の適応としては、すぐ開始すると良い。意識レベルの低下、会話不能、酸素飽和度が90%以下の時は、積極的にやっていただくと意味があると思います。もう少し軽くて息苦しいという方、椅子にも座れる中発作の人にもやっていただくと良いと思います。以上で終わります。

(松山市消防局 貞徳 正人)
 胸郭外胸部圧迫法は良く分かったのですが、傷病者によっては胸を押さえられるのを嫌がる人がいますが、その時に自分で出来る補助呼吸があれば。また、その他にも救急車の中で出来る新しい分野のスクージングとか、新しいものがあればご指導をお願いします。

(中橋 恒)
 きちんとした助言はできないと思いますが、患者さん本人にやって頂く場合は、状況がきちんと分かるようであれば、吸入をすこしして頂いて、先程の口すぼめ呼吸をやって頂いくとかの方法しかないと思います。それと、早く病院へ搬送して下さい。


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