平成10年度愛媛救友会総会・第6回愛媛救友会(松山大会)記録


1.自由演題

   座 長  伊予消防本部  生駒  隆
   助言者  愛媛県立救命救急センター
          副センター長 赤松 明 先生


(1)演 題 「感電事故によりCPAに陥った症例」

   演 者    上浮穴消防本部  奥元 隆昭

 感電事故により心肺停止に陥った傷病者に対して、半自動式除細動器による除細動及びラリンゲアルマスクによる気道確保の特定行為を実施した事例において、傷病者観察及び救命処置の内容について反省する点も多く、本症例では救命し得えなかったが、今後の救命活動に教訓となる事例であったので報告する。

 <事故概要>

 電力線配線工事のため、配電作業員4名が電柱に上って高圧本線からの電線の取り出しとトランスの移動作業を行っていた。

 傷病者はトランスに入っている電線の取り出し中に感電し、安全索にぶら下がる状態で激しく痙攣を起こし、他の3名が作業用バスケット車にて路上まで救出した際には、すでに心肺停止状態であった。

 <時間経過と活動内容>

 9時06分に『感電事故が発生したので、救急車をお願いします。』との通報により出動し、5分後の現場到着であった。

 現場手前の救急車内から、国道上でCPRを実施している状況が確認できた。

 顔面紅潮・呼吸停止・頸動脈での脈拍不触知を観察し、バッグマスク人工呼吸による心肺蘇生法をバイスタンダーから引き継ぎ、隊員へ傷病者監視モニタの装着を指示した。

 9時15分心室細動波形を確認したため、その場から携帯電話により医師との連絡を取り、特定行為の実施指示を受けたのち9時18分1回目の除細動を200Jで実施したところ、モニタ上に50回/分の心室固有調律様波形を認めた。また、ラリンゲアルマスクを挿入し換気効果を高めた。

 9時23分担架上にセッティングした自動式心臓マッサージ器に収容した直後、再度心室細動波形を認めたため、2回目の除細動を300Jで実施したところ、モニタ上心静止となった。

 9時28分に現場を出発し心肺蘇生法を実施しながら、9時33分に病院到着となり10時15分感電による致死的不整脈による死亡診断となった。

 <現場状況>

 現場は、国道33号線の側にある電柱上の事故であり、事故当時は救急車停止位置に作業用バスケット車が止められており、警備員2名による片側交互通行規制が行われていた。

 現場到着時には、この国道上で他の作業員らによりCPRが実施されていた。(作業員1名は救命講習受講者)

 <心電図波形>

 1が携帯電話により医師の指示を受けた後の、半自動式除細動器による解析結果であり、現場作業主任に、病院に急ぐ前にこの場での処置が重要である旨を説明し同意を得て、1回目の除細動を実施した時の心電図波形がこの2である。

 除細動の数秒後に 3の心電図波形が出現し、この時点でラリンゲアルマスクの挿入を行った。傷病者をストレッチャー上に収容した直後に、4のような心室細動が再度出現したため、すぐに2回目の除細動を実施した時の心電図波形が5になる。

 救急車搬送中での観察及び病院内ともに 6の様な心電図波形を呈していた。

 <傷病者の受傷状況>

 傷病者が着用していた牛革製手袋には直径1 位の穴が開いており、皮手袋の下にしていた軍手には穴が開くと同時に穴の周囲が一部炭化していた。手袋を外した左手掌部には灰白色の円形または不定形の電流斑6個が認められ、革皮様化した電流斑の中央はやや陥没しており、現場の作業状況からも同傷が電気の流入部位と考えられる。

 傷病者の木綿製作業ズボンの左膝部には3箇所の穴が開いており、穴の周囲が炭化していた。左膝部には表皮剥脱した3個の傷があり一部が灰白色に革皮様化していることから、 同所が電気の流出部と考えられる。

 <問題点>

 まず覚知段階での感電事故は把握できていたが、傷病者の状態がつかめず、もし最悪のケースが考えられていれば現着時スムースな資器材活用が行えたのではないか。

 2つ目として、バッグマスクによる人工呼吸を開始したが、酸素投与は自動式心臓マッサージ器へ傷病者を移動した後まで行われておらず、もっと早期に高濃度酸素投与を実施するべきであった。

 3つ目として、現着時にモニタリングを指示したが、監視モニタを装着してしまい、結果的に心室細動波形を監視モニタで確認してから、あらためて半自動式除細動器のパットを装着するといった時間的ロスが大きくなった。

 4つ目として、現場において心室細動を認めたその場から携帯電話により医師の指示を仰いだが、医師へ傷病者の状態を的確に伝送し具体的指示を受け特定行為を行うためには、 早期に傷病者を車内収容しなければならなかった。

 5つ目として、医師から除細動の指示を受けた後、現場作業主任へ傷病者の状態と処置の内容を説明し同意を得たが、緊迫した状況下でどれだけの説明ができ、一般の方がどの程度理解できていたかを考えると非常に難しいものであった。

 6つ目として、1回目除細動実施後の心電図モニタ上の波形を同調律であると判断し、急いで気道確保処置に移行してしまい、重要である除細動実施後の効果確認をモニタに頼ってしまいバイタルチェックを怠ってしまった。

 最後に、高度化に伴う救急資器材の多様化に合わせた資器材の活用訓練を実施しているところではあるが、未だ隊員の中でも習熟度には個人差があること、また特定行為実施時にあっても同じ事が言え、何を必要としているかといった隊員間のコミュニケーションも不十分であると考える。

 <結語>

 本症例においても、活動時は傷病者に対し救急隊として最善の処置を行っているつもりであったが、先に述べた7項目の問題点を振り返ってみてもまだまだ未熟な救急隊であることを痛感しているところである。

 一つ一つの問題解決に共通して言えることは自己研鑽に他ならないが、それ以前に心肺蘇生法ではないが救急隊員個々の救急に対する『意識の確認』がまず重要ではないかと考える。具体的には、これまでの搬送主体であった救急経験を現在の救急医療の中でどれだけ生かせているだろうか、また救急医療の一部を担う救急業務に新規参入したのであって、 これまでの延長線ではないことを肝に銘じ、初心に帰って活動しているかどうかの再確認が必要と考える。

 あわせて本症例での傷病者は、隊員の知り合いであったこともあり動揺も大きく、また救急本来の目的は傷病者の救命にあるが、その家族を含めた重い責務を課せられていることを身を持って感じられた症例でもあった。

 これらのことを踏まえて、今後も傷病者側に立ち救急隊員である自分を見つめながら救命活動に取り組んでいきたい。

 最後に、本日ご出席の先生方に電撃による生体への影響等アドバイス頂ければと思いますので宜しくお願い致します。

(助言者 赤松 明)

 興味深く拝見させて頂きました。相対的に評価して非常によくやられていると思います。 ただ、電撃は労災事故のひとつですが、電気というのは特殊性がありまして、ひとつは電圧の高さと感電死というのは必ずしもパラレルには相関しません。 5,000Vでも火傷をした程度という人もいますし60Vでも亡くなったという人もいます。

 めずらしい事例ですがラジオのイヤホンを耳に当てていて電気スタンドをいじくり、漏電して亡くなったという事例もあります。報告では電圧が50V以上あれば死んでもおかしくないと言うことで50V以上には注意が必要だろうというのがひとつ、それから電流についても1/100Aで死ぬ場合もありますし1Aでもどうもないという場合もあるわけですね。

 もうひとつおもしろいと言えば語弊があるのですが、高圧の電気でも触るのを覚悟していた場合には以外と助かるのですね。しかしながら不意なら低電圧電気にでも危ない、いわゆる身構えることにより死から免れるということが多々あるそうです。

 感電死についての病態ですがどうして死に至るかと言うと、ひとつは中枢の呼吸麻痺、それから心臓のVf(心室細動)によるもの。どちらが優先するかというと分かっていません。と言いますのは事例的には心音が止まってもその後に呼吸をしたり声を上げたりするとかする人がいるそうです。 やってはいけないのですが、以前は動物実験で猿に電流を通じて感電事故を起こした例があります。それを紐解いてみますとVfを起こして25〜30秒くらいしてから正規の収縮に戻るんです。そのため救命には人工呼吸をかなりしつこくやる必要があると言われています。助かった事例では心肺停止から3時間くらい人工呼吸をしたのがあるそうです。

 僕は循環器が専門ですのでVfに興味がいってしまったのですが、Vfがどうして起こるかと言うことですが、一般的には受攻期での過大な刺激やカリウム(電解質の一種です)の異常で起こるとされます。

 電解質については皆さんなじみが薄いと思いますが、カリウムは体内では細胞外より細胞内にたくさん分布しています。少し話はそれますが他に筋肉の収縮にかかわるものとしてカルシュウムがあります。たとえば皆さんの好きなすき焼きを食べるときに肉の周りに白滝や糸こんにゃくを置きますと肉が硬くなるんです。それは白滝にあるカルシュウムが肉を硬くするからです。これは余談ですが良い肉を使うときは白滝をそばに置かないようにすることが大事だと思います。

 さて、この事例は心室細動を起こしている。先程見せていただいた心電図は洞調律ではないですね。あれはAVジャンクショナルリズムといいましてサイナス、いわゆる洞結節よりもう少し下の中枢における調律です。ハートレートが50くらいですね、切迫しているときにはなかなか脈がどのくらい打っているのか分からないのですが心電図上で判断するとではペーパースピードが25mm/secで流れていますので1mm が0.04秒になっています。1マスが0.2秒ですね、それで計算すると心拍がきちんと出ると思います。

 この症例で少し残念だったと思うのは演者も先程言いました様に、サイナスと見てもいいのですがAVジャンクショナルリズムが出たときに脈が触れるかどうか確認すれば良かったかなと思います。と言いますのは普通は心電図がきちんと出ていれば機械的収縮があるんですね。でも医学的にはElectromechanical Dissociation(EMD)といって電気的収縮はあるが機械的収縮はない病態が存在しますので脈拍の確認が大切なのです。つまりああいう風にVfになってDCをかけた後、脈拍を一応確認する、その後は人工呼吸を一生懸命やる。と言うことではないかと思います。しかしながら、あれだけの短時間でかなり切迫した状態でそこにいる第三者にDCの説明、医療行為の説明もしてと言うことができていますので非常に立派におやりになったと思います。結果的には残念な事ですが、次にあった時にはまず助かるのではないかと思います。


(2)演 題 「特定行為を実施し、社会復帰した心疾患事例」

     演 者    松山市消防局 貞徳正人

1 はじめに

 松山市消防局では、救急救命士等の活動及び応急手当普及啓発活動の推進等により、救命率の向上に努めているところであるが、高規格救急車を運用開始した2ヵ月後に特定行為を実施し、社会復帰した事例を経験したので紹介する。

2 活動概要

(1)事故概要

 平成5年12月25日23時30分ごろ、自宅において、狭心症既往の48才男性が、胸痛を訴え、歩いて救急車に乗ってきたが、搬送途中に意識消失、心停止を来たしたものである。

(2)現場到着までの概要

 『48才男性、心臓発作』の出場指令に基づき、モニター着装の準備を行う。

(3)現場到着時及び搬送中の状況

 〇中年男性が玄関から胸を押さえながら歩いて来て、「妻が後から来る」と言いながら、救急車に自分から乗り、ストレッチャー上に横になった。

 〇事情聴取(狭心症でN病院かかりつけ、ニトロ6錠を舌下し胸痛はほとんどおさまっている)と同時にモニター着装しプロパックにて心電図、血圧、SpO2の観察と記録を実施した。

 意識清明、呼吸 16回/分、脈拍 89回/分、血圧 104/63mmHg、SpO2 100%

 〇容態変化:搬送開始し、救急当番病院へ、心電図結果をFAX送信中、容態悪化、一時消失していた胸痛が増強し、突然嘔吐、意識消失、チアノーゼを呈し、心電図上Vf、 呼吸は徐呼吸8 回/分となったものである。

(4)状況判断

嘔吐に対する異物除去及び吸引。
胸部叩打法及びCPRの実施。
特定行為に対しては、除細動の実施。
師への指示要請については、モニターの記録紙を搬送予定医療機関へFAX送信し、自動車電話にて、特定行為の実施の指示を得ること。
同乗した妻へ、特定行為の実施について説明を行うこと。
搬送先医療機関は、救命救急センターとし、指示要請医師へ連絡依頼すること。

(5)救急救命処置内容

気道確保
嘔吐物を清拭及び吸引器で除去した後、経鼻エアウェイ(7mm)を挿入する。
CPR(車両停止)

〇胸部叩打法を実施したが効果なし、CPRに移行した。
〇呼吸管理は、徐呼吸8回/分(一時呼吸停止)のため、デマンド・バルブにて補助呼吸を実施する。
〇CPR実施中に除細動処置を2回実施後、洞調律となり、総頸動脈で徐脈40回/分 から頻脈130回/分、呼吸15回/分 になったためCPRを中止し、酸素吸入に切り替える。

除細動処置:除細動器で、心電図モニターを実施したところ、プロパックと同じ心室細動の波形が確認されたため200Jを2回実施する。

静脈路確保:左橈側皮静脈を20ゲージ留置針で穿刺、40ml/hで滴下する。

(6)医師の具体的指示要請と救命士報告

 Vf情報をFAX送信し、自動車電話にて患者情報を説明した後、医師へ除細動処置プロトコール及び静脈路確保プロトコールの指示要請を行い、同指示を得るとともに、救命救急センター搬送の指示を得たので連絡を依頼する。

(7)その他の処置

 車内収容時にプロパックによるモニターを着装し、病院到着までの間、心電図、血圧計及び酸素飽和度の継続的モニターを行い、呼吸・循環動態の把握を行う。

(8)搬送先医療機関

 一時、心肺機能停止状態に陥った傷病者であることから救命救急センターへ搬送

3 時間経過

   23:34  覚 知
    35  出 動
    38 現場到着

男性が、玄関から胸を押さえながら歩行にて救急車に乗り、ストレッチャー上に仰臥位になる。
モニター着装
SpO2 ・血圧の測定
既往症等聴取 N病院 狭心症(疑)
ニトロ6錠舌下
N病院収容不能、当番病院へ行くよう電話内容を聴取

    41  搬送開始 OO病院へ収容可否の連絡をする。
            胸痛一時消失
    44 胸痛が増強する。
    45  OO病院収容可能の無線指示
    46  OO病院へ患者情報をFAX送信。
      容態悪化、嘔吐、心室細動
      意識レベル300、徐呼吸
      チアノーゼ
      車両停止 口腔内清拭及び吸引・経鼻エアウェイ7mm
      電極確認・心音聴取・胸部叩打法・心マッサージ
       補助呼吸
    49 OO病院へFAX(Vf)送信  〇 家族(妻)への説明実施
    50  自動車電話にて特定行為指示要請 *除細動準備
    51  *除細動準備完了
    52  一時的呼吸停止(約30秒)
    54 特定行為の指示を得る。(OO病院OO医師)
      除細動200 J 1回目 洞調律波形出現(脈拍触知不可)
    57  除細動200 J 2回目 洞調律波形出現
       意識 JCS300
       呼吸 8回/分〜15回/分
       脈拍 総頸動脈にて40回/分 →130回/分
          SpO2  計測不能
    58 救命センター連絡済みの確認・
      OO病院から救命センターに連絡が入ったか通信指令課を通じて確認要請。
    59 呼吸管理 デマンドによる酸素吸入に切り替え。
   24:01  通信指令課より、救命センターに連絡済みの情報確認。
    02  静脈路確保  20G 40 /h SpO2 99%
    03  搬送開始
    06  救命センター到着
    07  医師引き継ぎ

4 救命救急センターでの経過

(1)搬入時の所見

意識 JCS200
呼吸 15回/分
脈拍 120回/分
血圧 102/70mmHg
SpO2  100%
体動  (+)

(2)院内処置及び経過

ICUへ
12/26
 7:00 意識レベル 20  Nsと目が合う。経鼻挿管
12:00 生化学検査 GOT604、CPK 6476
          GPT  113、CKMB 904、LDH 1297
12/27
 12:00  抜管 心エコー
12/29
 9:00  意識レベル 1―1〜2  言葉のやり取りができる。
 ICU症候群か、低酸素脳症か?
1/1  第7病日 12:00  HCUへ
1/2  第8病日  12:00  センター4階へ(一般病棟)
1/21  第27病日 軽快退院

(3)確定診断名

前壁AMI

5 まとめ

  1. 救急車内で心肺停止した心疾患者を搬送した。
  2. 消防機関と医療機関のスムーズな連携が救命に結びついた。
  3. 心停止は、いつ起きるか解らないため、観察の重要性を感じた。
  4. 救急業務を円滑にするため、日常の訓練の重要性を感じた。
  5. 観察に基づく救急救命処置の効果に感動した。

 今回の事例は、高規格救急車運用開始し、2ヵ月後に遭遇したCPA事例で、 スムーズな医療機関との連携が完全社会復帰に結びついたもので、今後の救急活動を行う上において大いに士気を高める事例となった。松山消防にとって幸先のよいスタートがきれたものと思う。

(助言者 赤 松 明)

 実はこの患者さんはうちの病院に来まして、うまく助かって良かったと思っています。お話しに有りました様に、亡くなるよりはこの様に助かるのが望ましいですが。一般論から申しますと心筋梗塞は、救急を要する内科的な疾患の代表例です。他の疾患でもそうですが、全て時間との闘いなわけですね。急性の心筋梗塞の本体は冠動脈の閉塞です。血栓もしくはスパズムです。そういうものに対する閉塞が原因で抹消の部分、ちょうど心臓の場合は終末動脈になっていますので、終末動脈と言いますのは、他に栄養する部分が無い。 1本の血管だけで栄養されているのですぐには死なない。ですが、段々病態が強くなるわけですね。特に48歳で私と同じ年代で身につまされるのですが、一般の人は心筋梗塞という病名は恐れるのですが、あまりにも起こった時と結果のギャップがあるので助かった場合は良いのですが、亡くなった場合に非常に不信感を抱くんですね。救命士の人は直接現場に居合わせて、初期の治療を行うわけですのでそのギャップの返りに非常に苦しむ事になると思います。こういった事例をうまく助けたという事は、今後大きな力になろうかと思います。 この人の場合、たぶん2回目の発作があった時に起こったのは不整脈ではないかと思います。ある程度血流れが途絶しますと、特に後で脳の障害とか出る場合があるのですが、この人は今は元気にされていると思います。月並みな言葉ですが良くやられましたね。という事で良かった思います。


(3)演 題 「防災ヘリによる救急搬送事例」

  演 者     南宇和消防本部 平田  弘

 私どもの、南宇和消防署は、愛媛県最南端の地域の為、遠隔地の医療機関たとえば、県立中央病院、愛大付属病院等に救急車搬送するときは、時間及び身体的苦痛を伴います。

 そこで、今回は愛媛県防災ヘリによる搬送により、受入れ病院収容までの時間 短縮、および患者の苦痛の軽減を図ったものです。

 ちなみに、南宇和消防署では昭和53年12月〜平成10年2月までの間にヘリにより搬送した事例があります。

    全部で     7例
       米軍   1例
       県警   2例
       自衛隊  2例
       防災ヘリ 2例
  7例の内、4例は潜水病の患者(呉国立病院 1例、香川労災病院3例)
       1例は小児疾患 (広島市)
       2例は心疾患  (松山市)
 なお救急車にて潜水病の患者を、香川労災病院まで搬送した例が9例あります。
今回ご報告の例は、防災ヘリによる搬送を県立病院南宇和病院より依頼があり、ヘリポートまで救急車で搬送、その後、防災ヘリ、重信川河川敷より東温消防の救急車にて受入れ病院まで搬送したものです。

以下概要
第1例
 平成9年4月25日(金)
  患者   39歳、男性
  症状   心筋梗塞
  防災ヘリ依頼内容

 右冠状動脈、左冠状動脈の両方が梗塞を起こしており、改善するためにはPTCAあるいはA−Cバイパス手術のどちらかをする必要がある。なお受入れ病院は松山市にある為、 時間短縮、患者の苦痛の軽減を図るために、防災ヘリを使用したい。

  受入れ病院   国立療養所愛媛病院
  ヘリ到着時間     09時50分  南宇和病院近くの河川敷
   〃 収容       09時57分
  同乗者     内科Dr 1名、家族1名

第2例
  平成9年7月18日(金)
  患者 70歳、男性
  症状 腹部大動脈瘤
  防災ヘリ依頼内容

 腹部大動脈瘤が、急速に増大し破裂の危険性がある。改善の為には緊急OPを行う必要がある。以下1例の要請と同じ

  受入れ病院 愛媛大学付属病院第2外科
  ヘリ到着時間 09時45分
   〃 収容時間 09時50分
  同乗者 外科Dr 1名、家族 1名
  防災航空ヘリが出場可能な場合にかかる時間
   1.要請から20分で出場OK
   2.松山〜御荘  30〜40分
     a.天気OK 山回り 30分
     b.悪天候,海岸回り 40分
   3.現場〜病院付近ヘリポ−ト
     a.御荘〜松山    30〜40分
     b.御荘〜丸亀    60〜70分
   4.要請から病院まで合計で
     * 天気OKの場合  御荘〜松山 1時間20分
                御荘〜丸亀 1時間50分
     * 悪天候の場合   御荘〜松山 1時間40分
                御荘〜丸亀 2時間10分
   5.救急車で搬送した場合
                御荘〜愛大 2時間30分
                御荘〜丸亀 4時間30分

 いずれも、片道の走行所要時間であり、帰りは普通走行の為、結局、御荘〜愛大の場合、 往復で6〜7時間、御荘〜丸亀の場合、往復で10〜12時間かかってしまいます。

 今回、ご報告の2例は、受入れ病院にてOPが行なわれ、現在2名とも、症状回復、社会復帰しているとお聞きしました。防災ヘリによる搬送、東温消防のご協力により、このような、喜ばしい結果に終わり、これからも、防災ヘリに頼らなければならない、愛媛県最南端の消防本部としては、心強い気持ちでいます。これからも、各関係機関のご協力の程をよろしくお願いします。

(座長)
ヘリ搬送によって、搬送時間が大幅に短縮されたとの事ですが、救急車からヘリに引き継ぎ時に注意することとか、問題があったとか、何か有りませんでしたか。

(演者)
ヘリの搭乗員も消防職員で 課程修了者の方もおられます。症状を言えば分かってくれます。その点は大丈夫です。

(助言者)
 先程も述べましたように、救急活動というのはまさに時間との闘いでありますので、へき地の場合は時間短縮に多大な労力を費やすことになります。そういう意味では航空機、ヘリコプターを使うのは大きな力になると思いますし、演者の発表の事例でも良い効果が出たと思います。ただ、別の側面から見ますと、ヘリコプター、航空機なりを常時維持しておかなければならない。車の運転は誰でも出来ますが、ヘリコプターとなると限られてくる。それから機材の保持管理の経済的な面が有りますので、行政とうまくタイアップしてやらないと、本当に必要な時にやれない。

 もうひとつは、悪天候の時にどうなるか。それと、これもめったに無いのですが、 同時に多発した時どうなるのか。等いろいろ問題点はあろうかと思います。現場の人の力だけでは解決出来ない事も有りますので、行政とかに働きかけてやる必要があるのではないかと思いました。ありがとうございました。


(4)演 題 「夫婦同時発症の脳梗塞と疑われたCO中毒事例」

  演 者  上浮穴消防本部 本田浩二

 本症例は、高齢者夫婦が同時発症した循環系脳疾患の傷病者と考えられたが、院内処置の結果CO中毒が強く疑われた事例である。

1、通報内容

 通報者は傷病者の近所に住む住民で、夕方5時になっても洗濯物が干されたままであることに不審を抱き尋ねてみて事故を発見したもので、通報内容は「ご主人がトイレで倒れ意識がありません、奥さんも何か様子が変です。」との内容であり、本署高規格救急車と美川分駐所救急車の2台が同時出動している。

2、現場到着時の状況

 ご主人は、近所の住民により茶の間に移動されており仰臥位の状態であり。また、奥さんは茶の間のコタツに座位の状態であった。

3、観察結果

  現場到着時の観察(男性)
   顔 貌・・・・・無表情
   意 識・・・・・痛み刺激で開眼せず(3桁100)
   呼 吸・・・・・16回 / 分
   脈 拍・・・・・80回 / 分
   血 圧・・・・・130 / 80 Hg(フィンガー)
   四 肢・・・・・全くの脱力状態(四肢麻痺と感じる)
   その他・・・・・失禁あり
   住民情報・・・・心肥大の既往歴あり

  現場到着時の観察(女性)
   顔 貌・・・・・無表情
   意 識・・・・・開眼しているが反応無し・放心状態(2桁30)
   呼 吸・・・・・16回 / 分
   脈 拍・・・・・100回/ 分
   血 圧・・・・・143 / 93 Hg(フィンガー)
   その他・・・・・失禁あり・嘔吐あり
   住民情報・・・・高血圧の既往歴あり

4、救急活動

 両名とも意識レベルは悪いものの、呼吸・循環については、とりあえず問題なく、 意識レベルの低下は循環系脳疾患によるものではないかと判断した。

 約13分遅れて現場到着した本署救急隊に観察結果を伝え、より重症と判断された男性をスクープストレッチャーに収容し、高規格救急車に収容した。

 その後、女性をスクープストレッチャーに収容し、美川救急隊の救急車に収容した。

 なお、現場は道路から約300m小道を登ったところにある小さな集落で、住民は高齢者ばかりであり、搬送協力は得られたが、酸素投与を実施しながらの搬送は困難で、未実施である。

救急車内収容後、酸素5L/分投与し、搬送する。

搬送中に男性は、開眼するなど意識レベルの改善がみられた。

5、時間経過

            美川救急隊         本署救急隊
   覚  知      17:25            −
   現場到着      17:57            18:10
   車内収容      18:42 (32分)       18:37(45分)
   病院到着      19:23 (77分)       19:17(72分)
                (118分)          (112分)

6、医師コメント

 後日行った病院との症例研究において、次のようなコメントをいただいた。

とのコメントでした。また、同時発症の意識障害であれば、まず中毒を疑う必要があるのではとのアドバイスをいただいた。

7、考 察

 意識障害の原因が循環系脳疾患と判断し,CO中毒について疑えなかった原因について検討した。自動車の排ガスを使った自損以外のCO中毒について経験がなかった。

 高齢者がトイレで倒れ意識がないとの情報で、脳疾患を想像し先入観を持ってしまっ た。

 CO中毒特有の皮膚の鮮紅色を呈していなかった。

 この様な原因と反省するが、COの発生源と考えられる石油ストーブは、現場到着時消えており、また、住居環境から今イチ釈然としないが、石油ストーブの石油残量が残り少ない場合や芯をごく小さく絞って使用した場合にCOの発生が多くなるのか検討していきたい。

8、結 語

 本症例を経験して、意識障害イコール脳疾患との思い込みは危険であり、原因不明の,特に複数の傷病者の嘔吐・痙攣・意識障害が認められる場合には、中毒を念頭において対処していきたい。

(助言者)
 非常に特異的な例で興味深いのですが、これは2人であったというのが味噌でして、例えば4人とか5人とかもっと多人数になっていれば当然中毒とかを先に疑うと思うんですね。脳梗塞が同時発症するという確立は、僕もよく知らないのですが、 夫婦で同時発症するかというのは、かなり低いと思いますね。

 有毒ガスについては、オウムのサリンでよく知られていますが、この事例にありますように、一酸化炭素もしくは二酸化炭素というのは自然界に既に存在するものですね。それで中毒を起こす。それで、二酸化炭素であれば5%の濃度で呼吸困難が出てくる。8%になると窒息すると言われています。それに対して二酸化炭素の場合はもっと濃度が低くて0.05%くらいで呼吸困難がではじめて0.1とか0.2とかなると死んでしまう、というようにかなり毒性が高い。本体はヘモグロビンに引っ付いて、ヘモグロビンの酸化をブロックしてしまう。昔は一番多かったのは炭火ですね。今でも都市ガスとかプロパンガスには5〜10%くらいCOが含まれていると言われています。昔は炭火の事故が多かったですね。特にこの事例の場合には、特別しめきった部屋ではなかったように思います。しかしながら、それでも起こっていたということは、ひとつはCOの分子量にある程度影響を受けるのかと思います。と言いますのは、空気は酸素と窒素が1対4の割合でありますので、平均分子量はだいたい29ぐらいだと思います。

 COは皆さんご存じのように、Cは原子量が12ですので12と16を足して28ですね。 だから空気とほとんどおなじくらいですね。必ずしもCO2 のように下の方にたまっ てということではなさそうですね。昔の事例では、炭火を起こそうとしてフーフー息を吹きかけて火を起こしている間に、一酸化炭素中毒になったという報告があるそうです。一酸化炭素中毒を一番印象づけているのは、三池の炭じんの爆発事故だろうと思います。あの時には、COの濃度が4%あったそうです。その時亡くなった人は確かに気の毒なのですが、もっと悲惨なのは、その後遺症にあるわけですね。

 一酸化炭素中毒の後遺症は二つに分かれまして、インターバルフォームというのと、 ノーインターバルフォームというのが言われています。インターバルフォームというのは、 この事例にあるようにある日数経つとよくなるんですね。よくなって2・3週間はそのままいくんです。しかしながらその後から徐々に症状が出始めて精神状態とか、痴ほうとかが出ると言われています。この事例も何週間かして帰った、社会復帰されたという事ですが、もう一度近況を聞いてみたらどうでしょうか。ノーインターバルフォームの方は、死の一歩手前のところで起こっておりますので、精神錯乱とかがあるんですね。後遺症が出るとかどうとかの予後判定に、ひとつはこん睡、もうひとつはタンパク尿、それから糖尿が強陽性で出る。治療しても4〜5時間は意識が覚せいしないのは予後が悪いという風に言われています。

 昔のように炭火を使うのは余りはないと思いますね。正直なところ僕は石油ストーブがCOの強力な発生源になるというのは分からないのですが、ひとつ考えてみますと、しゃく熱した炭に水を通して水蒸気を出します。そうするとその時の部屋の一酸化炭素濃度が5〜10%に上がる場合もあるそうです。ということで石油ストーブの芯に水がかかっていたとか、といことで不完全燃焼する。水がその状態になっ ていた場合には起こり得てもおかしくない。もうひとつは、一酸化炭素の比重が空気の比重とほとんど同じであったということがあるので、完全に締め切った部屋でなくても起こり得たということではないまと思います。非常によく検討されて事後の処置もよく勉強されていますし、いい発表だと思います。ありがとうございました。


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