大阪大学医学部実習学生 谷口裕紀(4-45)、藤田雅史(4-62)
古濱正彦(4-65)
大阪大学医学部法医学教室 若杉長英、黒木尚長
1、はじめに 2、対象と方法 |
B)入浴死の死亡場所・死亡状況
C)入浴死例の死因と剖検の有無について(表3)
非剖検症例462例における検屍医師ごとの死因について,頻度の多い溺水,急性心不全,虚血性心疾患,脳出血,高血圧性心疾患について調べた.死因は,状況から客観的に詳細に判断されたというよりは,検屍医師の好みで決定されているといえる.入浴死例の死因の判断は検屍医師により大きく異なることがわかった.溺水や急性心不全という死因は警察医に多い傾向がみられた.
D)死体検案書からの死因と解剖の有無について(表4)
E)既往症について
F)てんかん,アルコ−ルおよび,50歳未満の死亡例,浴槽外死亡例について
てんかん既往死亡者は,全部で19例あり,そのうち,50歳未満が74%を占めた.冬季で15例(78.9%)を占めた.死因については,変死記録および死体検案書からも死因をてんかんとするものは剖検後診断の1例だけであった.
アルコ−ル摂取後死亡者が54例みられたが,そのほとんどが日本酒で1合以上の飲酒であった.40歳台8例,50歳台10例,60歳台18例,70歳台8例,80歳台8例で,男性が43例(82.7%)を占めた.冬季で28例みられ,51.9%を占めたが,春季も15例(27.8%)と多くみられた.既往歴は,肝疾患が15名,高血圧,糖尿病が各 4名,アルコ−ル関連疾患が 6名で,アルコ−ル多飲と関係していると思われる疾患が多く,いわゆる酒飲みがアルコ−ル多飲後に溺没したのではないかと考えられた.
浴槽外死亡例21例について調べたが,14.3%に既往歴がなく,既往歴のあるものでは,高血圧が44.4%,心疾患が27.8%でみられ,全体と比べ,循環器疾患に既往症を持つ者が多かった.死因は,溺死が見られなかった以外には,全体と差はなかった.
G)50歳未満の入浴死例についてわれわれが判断した死因について
これらの知見をふまえ判断すると,死因がてんかんとされたものが14例と多く,次に急性アルコ−ル中毒が9例と続いた.
溺死の4例のうち,3例はいずれも夏に浴槽付近で遊んでいた1歳間近の幼児の浴槽内死亡で,もう1例は重度身体障害者の入浴中の溺没であった.既往歴にない2例のうち1例は剖検していないため心疾患としか推定できなかったが,もう1例は覚醒剤中毒による脳出血であった.本例が剖検による唯一の脳出血死亡であった.
50歳未満の入浴死が32例みられたが,詳細に調べると,その原因がてんかん,アルコ−ル,幼児などの事故で大半を説明できた.入浴中にてんかん発作が生じると,そのまま意識を失い,まわりに気づかれることなくそのまま浴槽に溺没したと考えた.また,アルコ−ル多飲後では,浴槽内で寝てしまい,溺没した可能性が高いと考えた.
また,死因については,剖検されることなく死因が決定されると検屍医師の好みの死因によることが多く,死因に根拠が少ないことがわかった.したがって,剖検により死因を決定されることが望まれる.ちなみに自験例では,浴槽内死亡例について,全例について行政解剖を行っているが,1例の急性アルコ−ル中毒,1例の風呂で寝る癖のある老女の睡眠による不慮の溺没を除いては,すべてが病死であり,死因は虚血性心疾患が大半を占めた. 表1 入浴死数の月別分布
表2 入浴死数の年齢分布
表3 変死記録からみた死因と解剖の有無の関係について
表4 検屍医師ごとの非剖検症例の死因(検案数 8以上)
表5 死体検案書からの死因と解剖の有無の関係について
表6 既往症の種類と年齢・アルコール摂取の有無との関係について
表7 50歳未満の入浴死例についてわれわれが判断した死因と年齢分布
4) 考察
付表
月 入浴死数 (%) 1 91 16.8 2 77 14.2 3 69 12.7 4 36 6.6 5 33 6.1 6 18 3.3 7 20 3.7 8 14 2.6 9 5 0.9 10 48 8.9 11 49 9.0 12 82 15.1 総計 542 100.0
年齢層 男 女 計 0-9歳 3 2 5 10-19歳 2 1 3 20-29歳 4 2 6 30-39歳 0 1 1 40-49歳 11 6 17 50-59歳 26 16 42 60-69歳 46 33 77 70-79歳 77 104 181 80-89歳 79 101 180 90-99歳 13 15 28 不詳 0 0 0 合計 261 281 542
地域 大阪市内 大阪市 総計 剖検率(%) (剖検) あり なし あり なし 急性心不全 4 23 0 148 175 2.3 溺 死 24 35 1 106 166 15.1 虚血性心疾患 21 25 1 62 109 20.2 心筋梗塞 17 0 1 0 18 100.0 脳出血 1 11 0 0 12 8.3 高血圧性心疾患 0 7 0 1 8 0.0 脳梗塞 0 4 0 3 7 0.0 心筋梗塞 2 1 0 3 6 33.3 腎不全 0 2 0 2 4 0.0 肝 癌 0 1 0 2 3 0.0 その他 7 5 1 6 19 42.1 総 計 76 116 4 346 542 14.8
地域 大阪市内 大阪市 総計 剖検率(%) (剖検) あり なし あり なし 虚血性心疾患 29 51 0 0 80 36.3 高血圧性心疾患 1 20 0 0 21 4.8 溺水による窒息 6 11 2 0 19 42.1 心筋梗塞 17 0 1 0 18 100.0 脳出血 1 11 0 0 12 8.3 脳梗塞 2 7 0 0 9 22.2 肝硬変 2 1 0 0 3 66.7 急性心不全 1 2 0 0 3 33.3 肝 癌 1 2 0 0 3 33.3 くも膜下出血 2 0 0 0 2 100.0 急性アルコ−ル中毒 2 0 0 0 2 100.0 腎不全 0 2 0 0 2 0.0 糖尿病性心疾患 0 2 0 0 2 0.0 動脈硬化性心疾患 1 0 0 0 1 100.0 その他 11 7 1 0 19 63.2 総 計 76 116 4 0 196 40.8
全 体 50歳未満 アルコ−
ルあり浴槽外
死亡人数 (%) 人数 (%) 人数 (%) 人数 (%) 高血圧 125 29.1 3 12.0 4 11.8 8 44.4 脳血管障害 83 19.3 1 4.0 5 14.7 4 22.2 肝疾患 61 14.2 5 20.0 15 44.1 2 11.1 糖尿病 49 11.4 1 4.0 4 11.8 3 16.7 心疾患 45 10.5 0 0.0 1 2.9 5 27.8 手足の麻痺 43 10.0 0 0.0 2 5.9 0 0.0 虚血性心疾患 36 8.4 1 4.0 1 2.9 0 0.0 整形外科疾患 32 7.5 0 0.0 2 5.9 1 5.6 癌 31 7.2 0 0.0 0 0.0 3 16.7 消化器疾患 30 7.0 0 0.0 4 11.8 1 5.6 神経疾患 20 4.7 0 0.0 1 2.9 0 0.0 精神疾患 19 4.4 5 20.0 3 8.8 1 5.6 腎疾患 19 4.4 0 0.0 2 5.9 1 5.6 てんかん 19 4.4 14 56.0 0 0.0 1 5.6 痴 呆 18 4.2 0 0.0 0 0.0 2 11.1 慢性呼吸器疾患 16 3.7 0 0.0 1 2.9 0 0.0 その他 134 31.1 4 16.0 15 44.1 3 16.7 合 計 780 1.82 34 1.36 60 1.76 35 1.94
全 体 溺 死 アルコ−
ル中毒てんかん 心疾患 覚醒剤
中毒
男 女 計 男 女 男 女 男 女 男 女 男 女
0-9歳 3 2 5 1 2 0 0 2 0 0 0 0 0 10-19歳 2 1 3 0 0 0 0 2 1 0 0 0 0 20-29歳 4 2 6 1 0 0 0 2 2 1 0 0 0 30-39歳 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 40-49歳 11 6 17 0 0 6 3 3 2 1 1 1 0 合 計 20 12 32 2 2 6 3 9 5 2 2 1 0