普通救命講習会マニュアル |
1998年 5月作成
北海道北見地区消防組合北見消防署
救急救命士 成田慎也
1.応急手当の重要性 2.観察 3.気道確保 4.人工呼吸 5.心臓マッサージ 6.心肺蘇生法 1)成人(10歳以上)に対する 心肺蘇生法 2)小児(1歳以上)に対する心肺蘇生法 3)乳児(1歳未満)に対する心肺蘇生法 7.お願い 8.CPR法のまとめ |
このホームページを読んでいる皆さんの自宅や職 場で誰かが「倒れた」として、すぐに「119通報 」します、皆さんの所に「救急隊」が到着するまで どの位の時間を要すると思いますか?
「119通報」から救急隊到着まで、全国平均で約 5分です。
確認しますが、「倒れてから」の時間からではあり ません、119を受けてからですので間違えないよ うにお願いします。
通報からではなく、覚知からですので、入電から覚 知までの時間の短縮は通報する皆さんの努力によっ て短縮できます。
ここで通報内容の例をまとめてみますと、
1.救急か火災かの別、2.住所(目標物)、3. 倒れた人の性別年齢、4.病歴やかかりつけの病院 等のような内容ですので、電話口にこれらのことを 書いたメモをおいてあれば、無駄に時間を費やしま せん。
そして、救急車が近くまで来ましたら「道案内」等 倒れた人の所まで”案内”をして下さい。
発見から「救急隊」が到着するまでの時間短縮は皆 さん方にかかっています。
「救急隊」が到着するまで、5~6分位時間が要 すると言うことが、理解していただけたという事で 、この5~6分の間に「心肺停止」した人は「どの ような状態になるのか?」ということを説明します 。 (ドリンカーの救命曲線の話)
呼吸停止から4分後に”適切”な心肺蘇生法を実 施しても、「蘇生のチャンス」は、50%、これが 5分になると25%まで低下し、10分のなると、 「ゼロ」に近い数字になり限りなく死に近づいて行 く事が分かると思います。
そばにいた「人」のことを救急隊は、バイ・スタ ンダー(By-stander)と呼んでいます。
そこで、そばにいた「人」が、これから説明する” 適切”な「心肺蘇生法」を実施する事が出来たなら 、この「救命曲線」の蘇生のチャンス(蘇生率)は 、確実に向上します。
この心肺蘇生法は、人工呼吸と心臓マッサージを 交互に行い、呼吸と循環の回復を図る手法です、個 々の動作を区切り説明して行きますが、このマニア ルは講習会々場で講習を受けているとイメージして 読んで下さい。
傷病者の呼吸、脈拍を観ることは、重要なこと なのですが、これと同時に「大出血の有無」も 観て下さい。
人間は、体重の約8%が血液で、その内1/3が、 失われると生命の危険があると 言われています 。
例えば、体重が50Kgの人は、約4リットルが血液で 、その内1/3の約1.3リットルが、失われると生命の 危険があると言われています。
2)意識の確認
<ポイント>傷病者が今、どのような状態になって いるかを観ることの難しさ。
今、この傷病者が、どんな状態なのかを”観る ”のが観察です。
ただ、酔っぱらって寝ているだけかも知れませ んし、本当に”具合”が悪いかも知れません。
そこで、どんな状態なのかを”観る”と言う「 観察」をこれから説明していきます。-動 作-
傷病者の頭側に位置し、救助者の手のひらを( 頭側の腕で肘を床に付いて)傷病 者の額に当て、 片方の手(足側の手)で肩を軽くたたきながら「も しもーし」または、傷病者の名前を呼びながら、 「まぶた」を見ます。
-説 明-
「まぶたを見る」と言う理由は、”痛み刺激” に対してすぐに反応すると言われています。
この時、呼びかけや痛み刺激に対しても、何の 反応がなければ「意識がない」と判断します。
意識がないと、「舌の付け根」が空気の通り道 を塞ぎ、窒息で亡くなります。
(頭部の模型を用いて、舌根沈下による気道閉 塞を説明)
3)助けを呼ぶ
手を上げ、大きな声で人を呼び、119番通報をしてもらう。
4)口の中を調べる(指交叉法)
「足側の手の親指」を傷病者の「上顎の歯」に 当て、人差し指を「下顎の歯」に当て手首をね じり”がま口を開ける要領で”口を開ける。(指 交差法)
次に、口の中に異物がないかを調べ、ある場合 には静かに頭を手前(救助者側)に傾け、頭側 の手の「人差し指」にハンカチ等を巻き付け「”の ”の字」を書く様に異物をかき出す。
(指式法)
ここで注意する事は、異物を奥に押し込まない こと。
次に頭を元に戻し、異物がないかを再確認する 。
なぜ「口の中を調べるか?」という事なのです が、空気の通り道である気管に異物が詰まると 、「肺」にまで空気が届かなくなるからです。(窒 息)
-異物とは-
食べ物、吐物、血液など (液体の場合は口の 中をよくふき取る)
総入れ歯を外すと「頬」が”へこみ”、次に行 う「人工呼吸法」が困難になりますので「総入 れ歯」は、そのままにし「差し歯」などの小さいも のは、気管に入り込む危険がありますので取り 外して下さい。
-動 作-
頭側の手を額に当て(意識の確認と同じ姿勢) 、片方の手の「人差し」指と「中指」の長さを そろえて「下顎の骨」の部分(顎先)に当て、これ を持ち上げ、空気の通り道を作る。
-説 明-
皆さん、自分の下顎の柔らかい所を親指で押し てみて下さい、呼吸しづらくなったと思います 。
お分かりのように、指で下顎の柔らかい所を” 押さない”それと大事なのは、頸のケガが疑わ れる時には、下顎のみを引き上げる。
(「上顎の歯」より「下顎の歯」が前に出る姿 勢、下顎挙上)
「頸のケガを疑われる時とはどのような時か? 」と言うと、高所からの転落や交通事故等です 。
「下顎のみを引き上げる」理由ですが、「首の 骨」には”呼吸運動”をつかさどる神経がある ため、この部分が骨折等によって切断されますと、 「意識」があっても「呼吸」が出来ない状態に なってしまいます、ですからこの様なときは、首を 曲げないで、下顎のみを引き上げることが大切 です。
-動 作-
気道を確保した姿勢で、頬を傷病者の「口・鼻 」に近づけ、胸腹部を見て上下の動きを見る。 (呼吸運動の確認)
次に、5秒間数え、呼吸の有無を調べる。
呼吸音も聞こえず、吐く息も感じられず、胸腹 部の上下運動がなければ、「呼吸がない」と判 断する。
-説 明-
頬は、できるだけ傷病者の「口・鼻」に近づけ ること、すなわち、頭側の手の「肘を床に置く 姿勢」で傷病者の”顔”に近づけないと”吐息”が 感じられません。
大切なのは、”目で見て”、”頬で感じて”、 ”耳で音を聞く”と言うことです。
次に呼吸があれば、空気の通り道を作るの姿勢 を維持し5秒間数えます。
なぜ「5秒間数えるのか?」と、疑問に思うか も知れませんので少し説明します。
成人では、1分間に約12~20回の呼吸をし ていますので、1分間に約12回とすると、5 秒間の間に1度も呼吸がなければ、呼吸停止と判断 します。
2)人工呼吸の開始
-動 作-
頭側の手の「ひら」を額に当てながら鼻をつま み、片方の手は、先ほどの気道確保の要領で顎 先を持ち上げ、口は大きくを開け、傷病者の口を覆 い息を静かに1回吹き込む。
-説 明-
1回目の吹き込みの時に、抵抗感(気道閉塞) がなければ、続けて傷病者の胸が膨らむ程度 、1.5~2秒かけて吹き込み続けて、2回目の息を吹 き込む。
この、吹き込みですが「大きな口」でやらない と、吹き込みの「息が」漏れてしまいます。
3)1回目の吹き込みの時に、抵抗感(気道閉塞) がある場合
先ほど口の中を調べ異物が確認されないのに、 吹き込みの時に抵抗感があれば肺に通じるまで の「気管」になにか異物があるものと考えます。
この時の対処方法は、成人や小児によって異な りますので心肺蘇生法の欄で説明します。
-動 作-
足側の手の人差し指と中指を「喉仏」に当てる 、次に横にずらし(外側)頸のわき のくぼみの部 分に当てる、この部分が頸動脈で脈拍の確認出来る 場所です。
そして、5秒間数えて脈拍がなければ心臓マッ サージへ移ります。
-説 明-
「なぜ、頸動脈で脈拍を5秒間確認するのか? 」と言うことですが。脈拍を確認出 来る部位(場 所)で一番心臓に近く、血圧が40mmHgでも触れる と言われています ので、頸動脈で「脈」が触れな ければ、心臓が停止していると判断します。
(ほかに大腿動脈で60mmHg、橈骨動脈で8 0mmHgで触れると言われている)
-注意点-
2)心臓マッサージ
-動 作-
まず、「心臓がどこにあるか?」とういことで すが、自分の拳を心臓に見立て胸に当て見て下さい、心臓の位置はだいたい胸の真ん中と考えて下さい。
そこで、傷病者の心臓の位置をさぐり、そこを 両手(成人の場合)で圧迫するわけです。
<位置の確認>
人工呼吸の位置から半歩ほど、「足側」に移動 し、足側の手の「人差し指」を肋骨いわゆる、 ”あばら骨”ですね。ここの先端を、下(足側)か らなぞり「みぞおち」(くぼみ)のところまで 来たら、次に「人差し指」の位置に「中指」を移動 します。
(胸骨に沿って指の移動)ですから、「人差し 指」は指1本分、上に(頭側)移動した事にな ります。
次に、「人差し指」の横に頭側の「手の付け根 」を添えます(手根部)。
位置が決まったら「足側」の手をその上に重ね ます。
以上が、心臓マッサージの「押す」位置です。
<姿 勢>
「つま先立ち」から膝を床に付き、両膝の間隔 は”肩幅”とし、傷病者の体に膝が付くまで近 づく。
腕の姿勢は、傷病者に対して”垂直に圧迫し、 肘を曲げない”と言うことで、剣道の竹刀を「 絞る」様にします。
<回数と圧迫の"力"加減>
回数は、1分間に80~100回のリズムで1 5回
圧迫の"力"加減は、3.5から5 cm沈む程度。( いずれも成人の場合)
(例えば女性は、人差し指から薬指の3本で約 5 cm)
最悪の場合、この心肺蘇生法は1人で行う事に なりますので「1人法」を説明したいと思いま す。
観察の結果、呼吸も脈拍もなければ、人工呼吸 と心臓マッサージを先ほど説明した通りに繰り 返し実施します。
成人に対する心肺蘇生法は、今まで説明してき た人工呼吸と心臓マッサージを繰り返し実施し ます。
この方法は、体力が入りますので女性では難しい と思います。
□ハイムリック法の説明 (女性向き)
1.傷病者のへそと、みぞおちのすぐ上の骨(剣状 突起)の間で、腹の真ん中に救助者の手掌基部 を置く。
2.もう一方の手をその上に重ね、上方向に腹を圧 迫する。
3.これを5回繰り返す。
但し、みぞおちのすぐ上の骨(剣状突起)は折れ やすい骨なので、押さないで下さい。
■背部叩打法の説明
2)小児(1歳以上)に対する心肺蘇生法
空気の通り道を作るのは、成人と同じ方法で行います。(気道確保)
人工呼吸の呼気吹き込みの量ですが、小児の体 格にもよりますので「胸が軽く膨らむ程度」と 、考えて下さい。
小児の異物除去は、指交叉法と背部叩打法(頭 が下がるようにして抱き抱えて実施)として下 さい。
ハイムリック法やハイムリック変法は、内蔵損 傷の恐れがありますので実施しないで下さい。
心臓マッサージの圧迫位置の確認方法は、成人 と同様で胸骨下部の凹み部から、2~3 Cm頭側 の位置を最小限とし、胸骨の下半分を圧迫する。
圧迫の仕方は片手(足側の手)で"力"加減は 、2.5~3.5Cm沈む程度。
心臓マッサージ5回、人工呼吸1回の繰り返し 実施し、1分間に80~100回のリズムで5回とす る。(CPRのまとめを参照)
乳幼児を床に寝かせ頭側の手の人差し指をあご 先に当て、持ち上げての気道確保(あご先挙上 法)
母親が乳幼児の鼻と口を同時に覆うのは難しい ので母親の口と乳幼児の鼻を覆い、息を吹き込 む事を説明します。
ここで顎先を上げていますので、口まで完全に 覆えなくとも、口からの漏れは少ないと思いま す。
心臓マッサージの圧迫位置ですが、赤ちゃんの 左右の乳頭を結ぶ線と、胸骨の交わる位置に足 側の手で「人差し指」「中指」「薬指」を胸骨上に 置き、位置が決まりましたら、「人差し指」を はずし指2本(中指と薬指)で1.5~2.5Cm押し下げ 、押す速さは1分間に約120回となります。 (CPRのまとめを参照)
脈拍の観察要領で成人や小児では、頸動脈を確 認しましたが乳幼児は首が太く短いため、上腕 動脈か大腿動脈で確認します。
-異物除去-
乳児は、異物による気道閉塞が多いので異物除 去方法を説明します。
口を開けて異物が見えれば、「2.観察の項、 4)口の中を調べる(指交叉法)」の方法で異物 を除去する。
口の中に異物がなく、心肺停止状態であれば人 工呼吸を軽く1回吹き込みます。息を吹き込み でも胸が上がらない場合は、もう一度空気の通り道 を確実に作りさらに、人工呼吸を実施します。 それでも上がらない場合は異物があると考え、次 の異物除去を行います。
実施者(母親)は、腕を足の方から入れ「腹ば い」に抱き、「手のひら」で顎を軽く支え、空 気の通り道を作る姿勢にする。
次に、乳幼児の頭を前方に下げて片方の手で背 中(肩甲骨と肩甲骨の間)を軽く4~5回、叩 きます。(乳児に対する背部叩打法)ひっくり返し て、胸部圧迫法 5回までを続けて行い、その後口 の中の確認し、異物がなければ人工呼吸1回、吹 き込み胸が上昇しなければ、再度人工呼吸1回、それ でも効果なければ、背部叩打法4~5回叩き、 胸部圧迫法(仰向けにして心臓マッサージの位置を 4~5回押す)を実施し、異物が出るまでこれ を繰り返す。
奥に入ってた異物が口から見える状態になれば 取り除き、見えなければもう一度空気の通り道 を確実に作り、さらに人工呼吸を実施し、それでも 上がらない場合は、前に説明した乳児に対する 背部叩打法で5回叩く。
-説 明-
人形(レサシ・ベビイ)は、鼻の「穴」は、途 中でふさがっていますので、口と鼻を同時に覆 、呼気を吹き込むことは出来ません。
実際の乳幼児に口と鼻を同時に覆うのは、大変 難しいので「鼻」を重点的に覆う事をイメージ して下さい。
人工呼吸の空気の吹き込む「量」は、胸が軽く膨 らむ程度です。
乳幼児も小児と同じ5対1の繰り返しです。
-注意点-
-お母さんへ、次の事柄を十分に認識して下さい。 -
2)転がり落ちそうなところに赤ちゃんを放置しない 。(机、テーブル等)
3)年齢に応じたおもちゃを。重いもの、小さなもの は乳児には危険である。
4)家具のそば、水のそばは危険です。目を離さない ように。
5)特に、浴槽や洗濯機の水を抜く等の配慮が必要。
6)安全な環境保持、注意深い観察が大切です。
7)赤ちゃんが「今どこにいるか」、「何をしている か」を常に知っておく。
8)「触るな」、「食べるな」、「ダメ」というよう な言葉を早めに教える。
9)赤ちゃんを抱き、車の助手席に乗らない。(赤ち ゃんがエァーバック替わり)
この手法は、特に高齢の方は肋骨を骨折する事が ありますが、骨折は後から医師に診てもらい治すこ とが出来ますが、呼吸や脈拍がない傷病者に何もし ないでいますと亡くなります。
救急隊が来るまでの「空白の5分間」に何ら応急 手当を行う事例は、まだまだ少ないのが現状です。
どうか皆さん「尊い命」を救うために、「心肺蘇 生法」を覚えていただき、後で後悔しない様に”愛 する人”に対して、勇気をもって「心肺蘇生法」を 実施して頂きたいと思います。
最寄りの消防署等で「心肺蘇生法」を実施してい ますので、電話などで相談し是非、講習を受けられ て下さい。
バイ・スタンダー(By-stander)CPRが増えるこ とを願い、また「尊い命」を守るため、このマニア ルが少しでもお役になれば幸いです。
円山先生のホームぺージに画像入りで、詳しく述
べられていますので参考にして下さい。
<http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/~enzan/call.html>
市立秋田総合病院の円山啓司先生
北海道遠軽地区広域組合消防署の
救急救命士 山本 正さん
救急救命士 中村 清治さん
救急救命士 加藤 真予(マサヨ)さん
北海道北見地区消防組合消防署の救急隊員 福 田 慎也さん
このマニアルの作成に協力していただきました事を 、この場でお礼を申し上げます。
このマニアルで、感想やご意見がありましたら下記 までメール下さい。
E-mail<jh8jhp@seagreen.ocn.ne.jp>
成 人 (10歳以上) | 小 児 (1~10歳) | 乳 児 (1歳未満) | |
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マッサージの回数 | 80~100/分 | 100~120/分 | |
心マ:呼吸 | 1人法 15:2 2人法 5:1 | 1人法と2人法 共に 5:1 | |
心マの深さ | 3.5~5.0 cm | 2.5 ~3.5 cm | 1.5 ~2.5 cm |
心マの部位 | 胸骨の下半分 | 乳頭線より一横指下(足側) | |
心マの手法 | 両手 | 片手 | 指2本 |
脈の触知 | 頚動脈 | 上腕動脈又は大腿動脈 | |
脈(+)呼(-) 人工呼吸のみ | 5秒:1 (10~12/分) | 4秒:1 (15/分) | 3秒:1 (20/分) |