地域の救急医療システムについて
救急医療システムには救急医療に関する情報の伝達、傷病者の搬送、そして救急診療という3つの柱があります。傷病者に適切な救急医療を行うためには、適切な医療機関へ患者さんを搬送する必要があります。そのためには消防本部などへ傷病者が発生したことを迅速に連絡する必要があり、また消防本部からは医療機関などへ患者さん収容の依頼をしたり、病状を報告して指示を受ける必要があります。
1)救急情報システム
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大都市などでは独立した救急情報システムが運営され、市民、消防署、警察、救急医療施設などの間の連絡を担当しています。しかし愛媛県をはじめ多くの地域では、消防署が市町村単位の救急医療情報の伝達を担当しています。
市民から消防署への連絡はいわゆる 119番通報によるもので、火災の通報と救急患者さんに関する通報を兼ねています。
【質問:どのような場合に救急車を呼ぶのですか?】 |
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限られた救急医療資源を有効に活用するためには、「タクシー替わり」と言われるような 119番通報は控える必要があります。一方、重篤な患者さんでは一刻も速く医療機関へ搬送する必要があります。消防本部に連絡をして救急搬送を依頼すべき状態には以下のようなものがあります。-
意識障害(呼びかけても応答がない状態)
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四肢の麻痺
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けいれん
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窒息
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呼吸困難
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骨折が疑われる時(頭、顔面、胸部、四肢や骨盤など)
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大出血
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強い胸部痛や腹痛
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下肢などの血行障害(紫色に変色したり、強い痛みを伴う場合)
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広範囲の熱傷、電撃症(感電)
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その他、周囲の人からみて重篤感がある場合
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【質問:119番通報をする時の注意点は?】 |
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慌てないで簡潔に問題点を伝えて下さい。
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まず、「火事です」あるいは「救急車の出動をお願いします」というふうに、火災か救急患者についての連絡かを伝える。
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患者さんの年齢(大体の年齢でよい)、性別、現在の1番の問題点
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住所や近所の目印になる建物などについて聞かれますのでお答え下さい。住所は通称名でなく、町名や番地など正確にお答え下さい(119番は1番近くにある消防署にかかるとは限りません。家の場所については、土地勘のない通信指令の人にもわかるように、具体的にご説明下さい)。
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この時点で救急車はすでに出動して、患者さんを収容するためにお宅へ向かっています。消防署の通信員からさらに細かい質問がある場合や、具体的な処置法などを実施するように指導される場合があります。落ち着いて指示に従って下さい
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健康保険証など、病院受診に必要なものを用意しておいて下さい。
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家族などの人数に余裕がある場合は、どなたかが自宅の前で救急車を待ち受けるようにして下さい。
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【質問:救急車で医療機関に搬送して貰う場合に、あらかじめ用意しておくべきものを教えて下さい】 |
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健康保険証
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受診希望の医療機関の診察券
(ただし搬送先が希望の医療機関になるとは限りません) -
手持ちの内服薬
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その他、身の回りのもの、保温のための毛布など。
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できれば、あらかじめ病歴や受診歴、かかりつけ医療機関、担当医名などを書いたメモを用意しておくとよい。
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準備に手間取って出発が遅れるようではいけません。
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2)救急搬送システム
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救急隊員は患者さんのもとに到着すると、急いで全身状態を確認し、ご家族からも事情を聴取します。救急処置が必要な場合はご家族に手短かに説明をした後、処置を開始します。身体の向きを変えたり、心臓マッサ−ジなど、ご家族の協力をお願いする場合もあります。心肺停止の患者さんで、器具を用いた気道確保や電気的除細動が必要な場合は、救急救命士が医師と連絡を取り、これらの処置を実施した後に患者さんを搬送します。
【質問:搬送先の医療機関はどのようにして決まるのですか?】 |
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- 病院群輪番制(後述)をとっている地域ではその日の当番の救急病院が決まっていますが、地域によっては救急当番の医療施設が決まっていない所もあります。消防本部からその病状に対応可能な診療科のある病院に通報をして、重症患者さんで手がふさがってないかどうかなどを確認し、収容可能な場合はその病院に搬送します。
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患者さんのかかりつけの病院がある場合は、当番病院ではなくかかりつけの医療施設に連絡をして、収容可能であればそちらに搬送することもあります。
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救急車で最初に搬送された病院から、より高次の救急医療機関に転送されることもあります。その場合は担当医師どうしが連絡を取り合って、搬送先が決まります。
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3)救急医療施設
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救急医療施設はその役割によって以下の3種類に分類されています。
■初期救急医療施設
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松山市などの休日・夜間急患センターや、在宅当番医制といって開業医師による時間外救急診療のシステムがあります。これらは入院治療が必要でない軽症の救急患者さんに対応するものです。
■第二次救急医療施設
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入院治療や手術などに対応できる救急医療施設で、県知事から救急告示病院の認可を受けています。そして、これらの病院を複数組み合わせて、救急車で運ばれる患者さんを受け入れることができる体制を組んでいます。これを病院群輪番制と言います。
■第三次救急医療施設
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心筋梗塞や脳出血、多発外傷などの重篤な患者さんに24時間体制で対応
します。大手術や集中治療室での治療も可能です。愛媛県では3つの救命救急センター(県立中央病院救命救急センター、東予および南予救命救急センター)や大学病院がこれに該当します。これらの医療施設は原則として、第二次救急医療施設からの紹介によって患者さんを収容します。
【質問:救急患者さんが「たらい回し」されて対応が遅れた、というような報道がありましたが・・】 |
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どの救急医療施設でも限りのある人員をフル回転して、地域の救急医療体制のために努力をしています。また救急患者さんを収容するための病床確保には大変苦労をしています。たまたま重症患者さんが重なって発生した時など、収容できる救急医療施設を見つけるのに非常に手間取ることがあります。市民の皆様には、救急医療を実施するための資源(搬送手段、人員、施設など)には限りがあるということを念頭におき、できるだけ効率的に救急医療が実施できるようご協力下さい。搬送先などが患者さんや家族に不便というような場合でも、救急隊員や病院スタッフの判断にご協力をいただきたいと思います。
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中 毒
はじめに
お年寄りは視力障害や判断力の低下のために思わぬ中毒事故を来たすことがあります。お世話をするご家族も中毒について知っておいていただきたいと思います。大阪市とつくば市にある中毒情報センターではホームページを発信しており、高齢者の中毒事故についても資料を提供しています。
高齢者のいる家庭で注意すること
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●高齢者中毒の特徴
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加齢により視力や判断力が低下し、不注意による薬物の取り違えなどがおこりやすくなります。また痴呆のような病的な状態のために事故がおこりやすくなる場合があります。後者の場合は家族が十全に注意をする必要があります。
●決まった場所に保管する
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薬は救急箱や引き出しなどの決まった場所に保管しましょう。
●容器を移しかえない
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薬や殺虫剤を飲食物の容器に移しかえないようにしましょう。
●ラベルをはがさない
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瓶の形だけでは内容がわからないものが少なくありません。商品のラベルははがさないようにしましょう。
●薬は家族が飲ませる
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高齢者がたくさんの薬を服用しないといけないことが少なくありません。家族が1回分を包装から取り出して与えるようにしましよう。
中毒事故が起きたら
1、原因物質の確認-
まず何を飲んだか、中毒の原因物質を確認します。自殺目的の場合は本人が言う物質名が本当であるとは限りません。残っている量から飲んだ量を判断することも重要です。
2、応急処置
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■飲み込んだとき
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1.水や牛乳を飲ませる
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牛乳には胃壁を保護し、毒物の働きを弱める作用があります。
ただし、防虫剤や石油製品などの中毒では、水や牛乳を飲むと毒物の吸収量が増加しますので、禁忌です。
2.喉の奥を刺激して吐かせる
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以下のような状況では吐かせると有害です。
・意識がないとき,痙攣をおこしているとき
(吐いた物がのどにつまる)
・強酸や強アルカリを含む薬品
(吐いた時に食道の粘膜をいためます)
・石油製品
(気管へ吸い込み、重い肺炎をおこすことがあります)
■ガスを吸入したとき
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きれいな空気の場所へ移動させ、安静にさせる。
■目に入ったとき
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流水でよく洗う。
■皮膚に付いたとき
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毒物の付いた着衣はすぐに脱がせ、石鹸を使つて皮膚を充分に水で洗う。
■意識がないとき
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吐いた物がのどにつまらないように、横向きの姿勢(昏睡体位)をとらせる。下あごを前に出し、上側のひじとひざを曲げてからだを支える。
3、医療機関へ受診する
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必ず飲んだもの(容器や説明書)を手に持って、間い合わせあるいは受診します。受診先では以下のことを伝えます。
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患者さんの年齢・体重
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原因物質の正確な名称
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摂取量・摂取経路・摂取後経過時間
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容器に残つている量はどれくらいか?
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中毒発生状況(事故か、自殺か)
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現在の症状
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嘔吐の有無
4、(財)日本中毒情報センターへの連絡方法
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○大阪中毒110番: 電話 0990-50-2499
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(ダイアルQ2制:24時間、365日。通話料のほかに情報料、3分300円がかかります。)
○つくば中毒110番:電話 0298-52-9899
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(同じくダイアルQ2制で情報料も同額ですが、17時〜9時までと12/31〜1/3は対応しておりません)
窒 息
はじめに
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高齢者は食べ物を噛み砕く力や、嚥下の調節、意識レベルの低下などのために食物などを気管に誤嚥して、窒息をおこすことがあります。
誤嚥時の症状
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1、むせ
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気管に食物などが入りかけると、連続的な咳反射が誘発されます。
2、喘鳴(ぜいめい)
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異物が気管支より末梢に吸い込まれると、咳反射とともに、吸気時および呼気時に肺の雑音が起こります。呼気時だけでなく吸気時にも雑音が聞こえる所が、気管支喘息との鑑別点になります。
3、窒息
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異物が気管の入り口(声門)や気管(左右の気管支に分かれるまでの部分)をふさぐと、空気の流れがさえぎられます。患者さんは激しい呼吸運動をするにもかかわらず、空気が肺に流入しないことになります。患者さんはしばしば、無意識のうちに両手で自分の頚をしめるようなジェスチャーをしたり、親指で自分の喉を突き刺すような仕草をすることがあります。これは気管に異物が詰まってほとんど呼吸ができなくなったことを示す重要なサインです。
4、意識消失と心肺停止
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呼吸ができない状態が続くと、患者さんは口唇や手足の爪の色が紫色(チアノーゼ)となり、意識を失い倒れ込みます。自発呼吸は微弱となりやがて停止、頸動脈の脈拍も触れなくなります。
誤嚥および窒息時の対応
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1、むせ
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誤嚥した食物などを咳とともに自分で喀出できるように、背中や胸を軽く叩く。
2、喘鳴(ぜいめい)や咳反射が持続
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目を離さずに状態を監視する。患者さんの背部を叩く。異物が出せないようであれば、迷わず 119番通報をする。
3、窒息
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食事中に窒息を起こした場合に、上を向いて大きく口を開かせると、つかえた食物が見えることがある。介助者はこれを迅速に除去する。なお患者さんの口の中に指を入れる場合は、ハンカチかタオルを指に巻き、異物を拭い出す。
ハイムリック法
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ハイムリック法(横隔膜下上腹部圧迫法)は横隔膜を外から突き上げることにより、胸腔内圧を急速に上昇させ、人工的な咳を作り出し異物を喀出させる方法。
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患者さんが立位か座位の場合は、患者さんの背後に立ち、片手を患者さんの上腹部に押しつける。もう一方の手で拳をつかみ、両方の手で患者さんの上腹部を後
上方へ素早く引き上げる。
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患者さんの意識がなくなり倒れてしまった時は、仰向けになるよう身体の向きを変えます。患者さんの大腿部をまたいでひざまづき、片手の手掌の根部を患者さんのへそのやや上方に当て、もう片方の手を重ねる。自分の腹部を患者さんの腹部へ突き出すようにして、両手を患者さんの上腹部へ向かって素早く押し上げる。
4、意識消失、心肺停止
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患者さんの口を開け異物があれば手指で掻き出す。
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あごの先端を持ち上げるようにして空気の通り道を作る(気道確保)。この状態で患者さんの自発呼吸がなければ、人工呼吸を行う(呼気吹き込み式)。
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異物のために人工呼吸ができない場合は、最大5回までハイムリック法を試みる。口を開け手指で異物を掻き出す。人工呼吸を試みる。自発呼吸が再開し、異物による窒息が解除されるまで、これらの処置を繰り返す。
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頸動脈の脈が触れない時(心停止)は胸骨圧迫式の心マッサ−ジも同時に実施する。
■救急・災害医療ホームページ/ 全国救急医療関係者のペ−ジ
救急医療メモ