翻訳・村山良雄(国立明石病院外科)
災害はどこでもいつでも発生する可能性があり、(発生すると)多数の問題を引き起 こす。道路、橋、通信手段、水道、電気や他のサービスが途絶するかも知れない。病 院も損害を受けて患者を避難させる必要があるかも知れない。負傷者は探し出し、救 出されなければならない。大きな災害の後では災害のために治療が遅れるならば、通 常の外傷や疾患であっても生命を脅かすようになる。医療職員も被災者になってしま う事もあり、負傷しなくても何日も被災者を治療していると疲れてしまう事もある。 飲み水の不足、昆虫に曝される事、冷却の不足、混雑した避難所等の問題により人々 の間で病気が増加する。
一般的に米国のような近代社会では災害に対応する十分な資源(器材、人員等)や専 門知識を持っている。しかし、それらを有効に使うにはそれらの資源を組織化し、調 整しなければならない。1979年、カーター大統領は連邦政府機関中から重要な緊急事 態対応部局を、新しく創設した連邦緊急事態管理庁(以下FEMAと言う)に統合し 、それは独立した官庁で大統領に直接報告する。FEMAの使命は(災害に対する) 準備、(被災からの)回復、(緊急事態への)対応、被害の軽減計画を通してあらゆ る危険から生命や財産の損失を軽減し、社会基盤(インフラストラクチャー:道路、 鉄道、通信、港湾、発電所等)が危険な状態にならないように防ぐ事である。 それらを以下にあげると
今日、FEMAはワシントンの本部、国中の地方や他の事務所、バージニアの連邦救 援センター、メリーランドの国家非常訓練センター等に2600名の常勤職員を有してい る。FEMAはまた災害後に救援に動員出来る4000名近い待機災害救援要員が居る。 1996年2月クリントン大統領は Mr. James Lee WittをFEMA長官に任命し、組織化 させた。
FEMAの1年の予算は8億ドルで、これには活動費用として3.3億ドル、災害救援に3.7 億ドル. 非常食料や避難所の予算にl億ドルが含まれている。明らかにこれは広範囲 の計画を含み、ここでFEMAの全ての活動について述べきれない。代りに次のよう な範囲を注目する。
しかし、最も重要なことにはたぶんFEMAは他の連邦官庁、アメリカの赤十字、国 と地方の緊急事態管理官庁、個人(private sector)、ボランティアグループ、他の 組織と協調してこれらの業務を行う。
連邦対応計画(THE FEDERAL RESPONSE PLAN)
多くの緊急事態は連邦政府の介入無しに、地方や州レベルで効果的に処理出来る。他 の場合には各連邦省庁が独自の権限で対応するかも知れない。広範囲の損害や生命の 喪失等のいくつかの緊急事態では、すべての連邦省庁がそれらの活動を調整し、災害 情報を統合し、州や地方政府、緊急対応要員、被災者に救援を提供出来るようにFE MAは基本計画を提供する。
この調整のための全体の骨組みは、 FEMA とアメリカの赤十字と少なくとも24の 連 邦政府省庁によって共同で作成された Federal Response Plan(連邦対応計画: FRP )である。 FRP はEmergency Support Functions(連邦支援機能: ESF )と呼ばれ た12 の主な範疇の各種の連邦による支援の機能的アプローチを使う。
各々の ESF は担当官庁により対処されるが、1つ以上の関連した官庁によってその 作業が支援される。例えば ESF #8 ( 健康と医療サービス )のための担当官庁は 、米国保健社会福祉省である。支援官庁は退役軍人省、米国赤十字、FEMAといくつか の他の連邦官庁が含まれる。ESF #8 では大きな災害後の公衆衛生と医療需要に適合 させるためにこれらの官庁が合同して活動し、連邦により調整された支援を州や地方 の資源を補填するため提供される。
FRPは今年改訂されており、1998年の早い時期に改訂版が出版される予定である。
緊急対応班(Emergency Response Team)
連邦の官庁間の調整が必要とされるほど深刻な災害では、 FEMA は 緊急対応班(Emer gency Response Team)と 緊急支援班(Emergency Support Team)を活動させる。被災 地での連邦の対応は連邦調整官(Federal Coordinating Officer)と被災地に展開す る緊急対応班により調整管理される。そこでは緊急対応班は連邦調整官の指揮のもの に連邦の支援を管理し、行政、物資補給、災害対応と回復努力の支援作業を提供する。
災害の大きさによって 緊急対応班(Emergency Response Team)はどこでも数十人か ら数百人によって構成され、被災地に数週間から数カ月留まるだろう。もっとも差し 迫った必要性によりERTの仕事は被災者の住宅、ガレキの除去、電力回復、緊急輸送 等の作業が含まれる。大統領により宣言された災害の大多数では ERTは連邦の被害 を受けた地域からの要員で構成される。しかし、ノースリッジ地震、ハリケーン”フ ラン”等のような大きな災害では国家緊急対応班(ERT-N)が対応する。ERT-Nはこの 目的のために連邦対応要員を常設の名簿にのせている。各約100人の3つのERT-Nは連 邦緊急事態管理庁により災害に対応するため月替わりで当直の名前を決めて呼び出し に応じている(on call)。
緊急支援班(Emergency Support Team)
緊急対応班(ERT)同様に緊急支援班(EST)は大きな災害に対する国の対応を調整管理 する。ERTは被災地に展開するがESTはワシントンの連邦緊急事態管理庁の緊急情報・ 調整センターから被災地への資源と人員の展開を調整するため作業する。ESTは災害 に関する情報を集め、分析し、中心的な要点を提供し、これによりFEMAの政策レベル の役人、他官庁、米国赤十字、大統領(ホワイトハウス)が正確で信頼のおける情報 に基づき災害対応の決定が出来る。
一旦、すべてが活動すると、ESTは1日24時間対応する。ERT-N同様にESTも3つあ り、その1つが月毎に呼び出しに応じる(on call)。
迅速な評価能力(Rapid Assessment Capability)
被災者の必要としているものに関する信頼のおける新しい情報は災害に有効に対応す る上で重要である。破局的災害直後や場合によってはハリケーン等で事前の警告があ れば、迅速な評価要素は緊急に何が必要か導き出される。この評価により連邦政府が 緊急対応活動を支援する緊急に必要な資源を決定し、資源を割り当て、地方や州政府 が何を必要としているか予想出来る。
時間が肝要である。大きな災害後最初の数時間以内にこの評価を行う事は生命を脅か す状態や切迫した危険に対する連邦の効果的対応に必要である。迅速な評価が出来る 能力はERTの要素の1つである。
この迅速な評価は経験、技術、知識があり、生命を救い、人々の疾病を予防し、さら なる財産の損失を軽減出来る能力のある官庁の複数の人々により行われる。迅速な評 価は次のような括弧で示された官庁から提供された専門家を含む。
もし災害に先だって展開されなければ、大規模災害の直後に出来るだけ早く迅速な評 価を行われ、12時間以内に計画された場所に到着して活動する事が期待される。か れらは行動の最初の72時間は自給出来る。これらは事前に梱包t・準備された生命 維持キット、通信支援キット、班の乗り物等を使用する事により遂行される。ハリケ ーン ”ルイス”、”マリリン”、”バーサ”、”フラン”で迅速評価が行われた。
市街捜索・救出対応システム The Urban Search and Rescue Response System(ESF-9)
地震のような大きな災害で深刻な問題は人々が壊れた建物に閉じ込められる事である 。経験から、それらの人々を探しだして救出するには特殊な訓練と装備が必要である。
1989年のカリフォルニアのローマプリエタ地震、南カロライナ州のハリケーン”ユー ゴ”以後、議会はFEMAに災害の余波で閉じ込められた被災者を素早く探し出して救出 出来るような緊急専門家の全国ネットワークを作るように依頼した。特に市街地では 救助者は壊れた建物や不安定な残骸から人々を探して救出しなければならず、捜索・ 救出の努力は特殊な技術、装備、訓練と協調が必要である。
FEMAは州、地方、個人の緊急管理者、消防職員、救出専門家とこの目的のために密接 に作業を行った。結果として国立市街捜索救出対応システム(National Urban Search & Rescue Response System)が出来た。
国立市街捜索救助対応システムは合衆国中の18州に存在する27の国立市街捜索救 助対応機動隊(US&R task forces)を軸に構成される。これらの機動隊は捜索救助活動 に経験があり訓練された地方の消防局や緊急サービスからのスタッフにより基本的に 構成される。FEMAは計画指針、調整援助、準備評価や特殊装備の資金を提供する。典 型的な国立市街捜索救助対応機動隊は62人で構成される。各機動隊は機動隊指導者により管理され4つの機能別班を持つ。
もし出動するように通告されると市街捜索救助機動隊は6時間以内に集合、準備し、 出発出来る。各機動隊は十分な食料、装備を携帯して12時間交代で”golden time"と 言われる最大72時間連続して活動出来る(on call)。その間で閉じ込められた被災 者は負傷を切り抜けて生き残る最大のチャンスに恵まれる。1995年のオクラホマの爆 弾事件では市街捜索救助員は12時間以内に現場に到着した。
機動隊の他、国立市街捜索救助対応システムには”市街捜索救助 事件支援班(Incide nt Support Team)”、”市街捜索救助 計画要員(Program staff)”と言う2つの対 応資産を持っている。市街捜索救助事件対応班は兵站(物資補給)と状況評価で機動 隊を支援するため出動する。市街捜索救助計画要員はFEMAを本部として計画管理サー ビスを提供する。国立市街捜索救助システムは連邦対応計画のESF(緊急支援機能) #9としてFEMAが管理する。
多数の危険性に関する州や地方に対する指針(MULTIIHAZARD GUIDANCE TO STATES AND COMMUNITIES)
連邦の災害対応は重要であるが、それ単独では働かない。もし、災害が発生すると人 々はその地方の選出された指導者(知事や市長等)が迅速に行動する事を期待する。 被災地外から救援が来るまで警察、消防、医療や他の地方の資源は可能な限りうまく 対応する事が期待される。
州と地方の災害対応の備えを改善するため1996年FEMAはどのようにすれば州や地方が 複数の危険性に対する作業計画(multihazard emergency ooerations plans:EOP's) を改善出来るか示す”全ての危険性・緊急事態作業計画の指針(Guide for All-Hazar d Emergency Operations Planning”と言う書籍を出版した。緊急事態作業計画(EOP )では、特定の地域で、誰が、いつ、どのような資源で、災害の前、中、直後にどの ような権限で対応するか記載されている。FEMAの指針は単なるサンプルとしてのEOP ではなく、アイデアとアドバイスを含んだ道具箱である。各地域のEOPは既に持って いるか手にはいる資源を使用して地域自身が危険から身を守るか考慮されなければな らない。この指針のコピーはFEMAから無料で入手出来る。
FEMAは又、”緊急事態管理における標準的な業務の概略(Compendium of Exemplary P ractices in Emergency Management”を出版した。最初の出版は1996年12月で全米国 を通して緊急事態の管理で遂行される標準的な業務を1頁毎に記載したものを集めた ものである。標準的な業務はある地域のみで有効な業務、計画、立案、技術や方法で あり、他の地域にそのままでは当てはまらない。この概略は組織間の調整、ボランテ ィア計画、資源共有や他の革新的な活動等の公共や個人の積極的な活動を含む。もし 要求されるなら読者が更にこの業務・活動を知る事が出来るために各個人や官庁の名 前を名簿にしている。
この概略は緊急事態管理団体から配布され、FEMAのインターネット上のホームページ からも入手出来る。最新版は1997年3月に出版された。
訓練と教育(TRAINING AND EDUCATION)
州や地方の対応要員(responder)や役人(officials)への指導は重要であるが、しかし 、彼等も訓練を必要としている。高度に訓練された人々は、効果的な緊急事態の管理 にとって不可欠である。この必要性や非常事態に対する訓練や教育のために大学が理 想的な環境であるとの認識から FEMA は1979 年、聖ヨセフ大学を国立非常事態訓練 センター(NETC)とするために購入した。
NETC は、ワシントンから120km北にあるメリーランド州の Emmitsburg にある。 それは275ヘクタールの木で覆われた校庭を持ち、研究等の場を提供する。宿泊施設 では少なくとも 400名の 参加者を宿泊させることができ、教室にもなる。ほかに NE TC は 250席の 講義室と 500席の 講堂がある。教育用の設備は、大きな教室、講演 場所、緊急対応と回復のためのシュミレーション作業場所、休憩室、教育資源センタ ーを持ち、多くの過程の指示を統合するためのコンピュータ研究室もある。施設構内 では国立消防学校と緊急事態管理研究所の2つのFEMA組織が訓練を担当する。
NFA:National Fire Academy(国立消防学校)は、火事や関連した緊急事態をより効 果的に処理するために消防、緊急事態サービスや関連した専門家を訓練する。学校内 のプログラムでは中間や上層部の消防官、消防サービス指導者、技術専門家や関連し た専門家の代表を対象としている。このNFAの訓練教程には放火被害軽減:arson miti gation、危険物への対応、緊急時医療サービスの管理や防火等のトピックを含んでいる。
EMI:Emergency Management Institute(緊急事態管理研究所)では連邦、州政府役人 、ボランティア組織、個人と FEMA スタッフに緊急事態の管理を教育する。このEMI の教程には、自然の危険(地震、ハリケーン、洪水)のようなトピックと訓練立案、 評価と統合化された非常時管理を網羅する。NFA とEMIの間で 年l0,000 の生徒がNET C の訓練を受ける。更にNFAとEMIは連邦官庁、州・地方官庁と共同で全米で何千人も の構外(出張)訓練を行う。
新しい提案 NEW INITIATIVES
FEMAの(災害対応の)鍵となる活動は少しだけである。FEMAは又、洪水水没地図:flo odplain mappingの作成、洪水保険:flood insuranceの準備、危険性の軽減のための 基金、情報や災害後、被災者が無料で政府の援助のために電話で(被災者として)登 録出来る業務等の多くの活動を持つ。更にはFEMAは災害による死亡者と負傷者数を減 少させるために新しい提案がある。
テロに対する対応Response to Terrorism
野外訓練教程では、法務省と共同してFEMA のNFA(国立消防学校)によって進歩させ られている。現在、これらの教程には、”テロ活動への緊急対応”の印刷物(プリン ト)やインターネットを利用した自宅研修過程と2日間の教程による”テロ活動への 緊急対応ー基本概念”がある。80000部以上の教科書が既に全米の消防、警察、 緊急事態管理サービスに送付され、(テロ活動への対応)”基本概念”の2日間の教 程を教える400人以上の教官が訓練されている。
国立官庁プログラム(NAP)は、FEMAで テロ調整組織(Terrorism Coordinating Uni t )の下で 評価されてFEMA長官に報告される。この組織(Unit)はテロリズムとそ の影響を管理する上で FEMA の役割をよりはっきりとさせるために、現行の FEMA が 率先(curreny FEMA initiatives)する余地を評価している。
(災害)対応要員の安全、健康とストレス管理(Responder Safety,Health, and Stre ss Management)
災害での安全と健康維持のプログラムでは連邦によって出動させられた人員の安全と 健康を確保するために連邦によって宣言された災害では幹部職員を配置する。 これらのサービスには、建物の(安全性)検査、事故調査、(対応要員の)愁訴調査 、従業員の安全と健康維持訓練、それらと同様の活動を含む。1998 年にFEMA は 改 訂されたFRPに職業(緊急事態対応)上の安全と健康支援の付録を追加しようと計画 している。
FEMA のストレス管理プログラムでも、連邦により宣言された災害では 幹部メンバー を配置する。ストレス管理幹部職員はストレスを回避したり軽減させるため、管理者 や作業者に例えばストレス縮小セミナーを開くことによって助言を与える。ストレス 管理は、精神衛生上のカウンセリングであるというより労働者の健康と生産性(能力 )を、何が必要かを評価、相談、教育と 手を差し伸べ、指示する事により増強する ように計画されたプログラムである。このプログラムは米国公衆衛生局の援助により 行われる。
災害における子供達にとって必要な事(Children's Needs in Disaster)