家庭用品中毒及び農薬中毒1(7月12日 13:50-14:30 司会:柴田浩)


23  リチウム電池を犬食道に留置した場合の食道の組織学的変化
 
                       筑波大学附属病院救急部 山下衛

最近,カメラ,電卓などの小型電池としてリチウム電池が使用される場合が多くなっ
てきている。リチウム電池は人工胃液や人工腸液内では,通電性が良いことか報告さ
れている。今回、リチウム電池(CR2032)を犬の食道に留置し,組織学的に検
討したので報告する。方法:雑大5頭を使甲し食道内にリチウム電池を留置し,1,
2,3、4,5時間目に電池と接触している食道を取り出し、組織学的に検討した。
結果:l時間後の食道粘膜上皮は消失し,粘膜有層から粘膜下組織の結合織ならぴに
内外筋層にいたるまで凝固壊死となった。2ー4時問留置の場合で同様に変化してい
るか,壊死領域は,拡大する傾向にあった。考察:強い壊死が,アルカリポタン電池
に比べて早期に起こっている。高電圧の場合,イオン伝導がより良くなるものと思わ
れる。


166 電話間い合わせからみた特具的経路による摂取事故について                      財団法人日本中毒情報センター 三好亮 【目的と方法】大阪中毒110番が1991年4月以降の5年問で受信した特異的経 路による摂取事故を対象に発生状況を調査した。【結果】総受信件数151件のうち 医療機関によるものが60.3%、一般市民からは39.7%であった。起因物質に 関しては医療機関からは医療用医薬品(43.01%)によるものが、一般市民から は家庭用品(17.8%)と医療用医薬品(16.61%)によるものが多かった。特 異的経路では医療機間と一般市民で差かみられた。医療機関からは静脈内投与が約半 数を占め、なかでも経腸成分栄養剤のケースが注目された。一般市民からは鼻腔内並 ぴに坐剤の膣内への投与ミスが目立った。受信時有症率については医療機関では約5 0%であり、一般市民では約30%と比較的少なかった。【まとめ】特具的経路によ る摂取事故では単純ミスと思われるものが多く、医薬品では投与ルートの確認の徹底 が望まれた。


24  パラコ一ト毒性におけるアポトーシスの関与                   関西医科大学高度救命救急センター 山上和寿 パラコートは活性酸素増産剤として働 き、生体に強い酸化ストレスを与える。酸化 ストレスは脂質週酸化、SH基の酸化、 DNA障害等にて細胞障害を引き起こすと考えら れている。今回我々はパラコート毒 性の機序としてDNA障害に引き続くアポトーシス の関与を検討した。人胎児肺細胞 株にパラコート(l‐20mM)曝露を行ったところ、 4時問後から濃度依存性に細 胞数の減少(WST‐1assay)を認めた。曝露8時間後では 、1mMで59。 、10mMで409。、20mMで629。の死細胞を認めた。また同時期にELI SAcelldeathdetectionkit,agarosegel電気泳動 法にてDNA断片化の出現を確認した。 PI‐BrdU2重染色法にて細胞回転を検 討したところ、パラコート曝露後3時間よりすで にS期細胞の減少を認めGl‐S期 ブロックの発生が示唆された。以上よりパラコート 酸化ストレスによるDNA障害が p53依存性のアポトーシスを引き起こしていると推察 された。


25  急激な溶血性貧血を伴ったメトヘモグロビン血症の一例                      福島県立医科大学麻酔科学教室 白石克則 症例は34歳 男性。自宅で意識朦朧の状態を家人に発見され、近医で胃洗浄施行後当 院へ搬送。来院時、意識レベル2〜3(JCS)、全身の皮膚は青銅色調で、MetHb51.6%、H b 18.0g/dl。入院後、メチレンブルーの投与によりMetHbは低下し、第2病日に意識清 明となったが、精神科医の診察により精神分裂病と診断。第4病日に12.3g/dlであっ たHbが第6病日に5.5g/dlとなり、溶血性貧血と診断され輸血を要した。中毒の原因物 質は不明であったが、血漿中のメトヘムアルブミンは確認試験法で陰性であり塩素酸 塩は否定された。第14病日になりようやく原因物質がアリニン系除草剤のクサノンA( R)と判明した。(考察)溶血性貧血を伴うメトヘモグロビン血症の原因物質に塩素酸 塩がある。塩素酸塩ではメトヘムアルブミンが生成されるため、これの確認試験法は 、メトヘモグロビン血症の原因物質が不明の場合アニリン系と塩素酸塩との鑑別の補 助になると考えられた。


26  グリホサート液剤(ラウンドアップ)中毒の剖検例                      茨城県立中央病院麻酔科 岡田美奈子 グリホサート液剤であるラウンドアップの大量服毒例(来院時グリホサート血中濃 度16 50mg/l)を経験し、剖検する機会を得た。症例は46才男性。白殺目的でラウ ンドアップを服毒(推定400ml)。6時間後に搬送された。胃洗浄急速輸液等に、 血 液透析・血液吸着を施行した。肺動脈カテーテルによる循環管理を行ったが末梢血 管抵抗の著明な低下を認めた。人院4時間後より、麻痺性イレウス、低酸素血症、循 環不全が急激に進行し、服毒後10時間で死亡した。死後8時間で病理解剖を行った結 果、著明な肺出血及びうっ血、全消化管にはびらんが著明で、特に小腸に壊死見られ た。特筆すべきは、腎組織において近位尿細管の傷害が著明であった。ラウンドアッ プ中毒は界面活性剤の毒性が主体とは言われているが、このような所見の報告はない 。虚血による変化を考慮しても、近位尿細管に特異的に中毒物質が作用した可能性が ある。


27  早期に血液透析・血液吸着を行ったラウンドアップR中毒の2例                  総合病院土浦協同病院麻酔科・ICU科 佐藤浩三 ラウンドアッブRGのLD50はラットで5400mg/kg(体重50kgの ヒトで約230ml ているが、100mlの服用でも死亡例が出ている。急性ラウンドアップ中毒として輸液 管理と対症療法以外に特異的なものはない。今回、大量に服用したにも関らず、早期 に血液透析・血液吸着を校施行し、救命し得た2例を経験したので報告する。 症例1、24歳、男性。ラウンドアップGを約250ml服用し約30分後に搬入された。 胃洗浄施行後、吸着剤と下剤を投与した。血液透析‐血液吸着を 約9時間施行。  症例2、52歳、女性。ラウンドアッブGを約400ml服用し約3時問後洗浄施行後、 吸着剤と下剤を投与した。血液当透析・血液吸着を約12時施行した。血中グリホサー ト濃度はそれぞれ、1000mg/lから0.5mg/lと820mg/lから3.1mg/lま で低下した。 早期の血液透析・血液吸着が救命に有効であったと考えられる。


28  有機リン剤を服用したCPA蘇生後患者に認められた末梢神経障害のl例                    大阪府立千里救命救急センター 西倉哲司 患者は白殺目的に有機リン剤を服用後、溢頚を図り心肺停止状態、偶発的低体温にて 発見され、当センター救急搬送となる。心肺(脳)蘇生施行する。意識清明となるも 、有機リン剤が原因と考えられる末梢神経障害を下肢を中心に認めた。文献学的考察 を加え症例を報告する。


第18回日本中毒学会総会・抄録集(目次)
第18回日本中毒学会総会・会告