第5回 愛媛救友会(八幡浜大会)

講演記録1


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平成10年3月

愛媛救友会会長 竹村武士

「第5回愛媛救友会(八幡浜大会)」の報告について

 時下、皆様におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。

 さて、第5回愛媛救友会(八幡浜大会)が、平成9年11月15日(土)午後1時から八幡浜市えびす町「出雲殿」において、132名の参加を得ておこなわれましたので記録を送付します。

1.ご指導いただいた顧問の先生

南予救命救急センター    センター長   木下研一
市立宇和島病院       麻酔科科長   新田賢治
愛媛大学医学部       救急医学助教授 越智元郎

  来賓

八幡浜地区施設事務組合   消 防 長   菊地萬年
市立八幡浜総合病院     病 院 長   濱本 研
八幡浜医師会        救急担当理事  中島俊明
東宇和消防本部       消 防 長   亀田和弘
北摂救急救命士会              萬 東
広島救急救命士会              橋本敏輝
   〃                  江戸修一
   〃                  吉川孝次

2.開 会

(午後1時)

○会長あいさつ(竹 村 武 士)

 皆さん今日は、本日は、顧問の先生におかれましては遠くからご出席下さいましてありがとうございました。また、ご来賓として八幡浜の菊地消防長様をはじめ多数の方にご臨席をたまわり誠にありがとうございます。

 今回はメインテーマとしまして、プレホスピタル・ケアを指導するにあたりまして、チェーンオブサバイバルという言葉を使います。救命の四つの輪のひとつ目の輪、迅速な一次救命処置をメインテーマにしまして、一般市民に対するCPR指導をまず一点の自由演題として取り上げております。続いて各消防署、学校における救急処置、そして今年度から新しく会員になられました愛媛県防災航空隊「えひめ21」の活動紹介の発表があります。記念講演としまして、市立宇和島病院新田先生に「CPRについて」ご講演をいただきます。17時からの親睦会では今年5月に日本救急医学会中四国地方会が山口県の小郡で行われ、愛媛救友会から2題発表したときのビデオを上映いたしますので見ていただきたいと思います。

 本日は、八幡浜大会を開催するにあたり、八幡浜消防署の兵藤様はじめ職員の皆様には大変お世話になりました。この場をお借りしましてお礼申し上げます。

 今後、愛媛救友会が皆様とともに発展していきますように、ご協力、ご支援をよろしくお願いいたします。

 最後になりましたが、皆様のご健康をご祈念いたしまして会長としてのあいさつといたします。

○顧問の先生あいさつ(顧問 木下研一)

 皆さん今日は、本日は八幡浜市で救友会の皆様のご活躍をお聞かせ頂きますが、最後までお付き合いをよろしくお願いいたします。

 あいさつは会長さんが十分されましたので、私はあいさつとしてはこれで終わらせて頂いて、救急に関した話題を2・3スライドを作って来ましたので、こういう話題もあるのかなあという意味で見て頂けたらと思います。

 この頃、学会とかインターネットとか、もちろんこの救友会でもそうですが、救急先端医療が熱心に討議されております。その内容といいますと、最後にでてきます新田先生のCPRとか、越智先生のインターネットを通じて災害時の情報網の整備とか、これからの問題として白川先生がヘリコプターの話とか推進されていますが、私が持って来たのは一寸その趣旨からはずれますが、私の所のセンターの事情です。現実というものを見て頂きたい。

 急患全体は、救命救急センターが開設されてから年々増えて今では2倍になっています。その増えた分は何かと言いますと、一次救急の人が来ているという事になります。で、この事が体制上相当な負担になっているのですから、もっと地方へ行ったらこういう体制作りというのは大変だと思いますが、地方は人もまばらですし医療施設もまばらですが、こういう問題もあるということを心にとどめておいて下さい。

 南予の救急医療は、私の知っている範囲では一次救急から三次救急ありますが、24時間動いているのは三次で、一次と二次は日にちや時間の制限があったりして、空白の時間は全部三次に流れて来ます。そして先程のような数字が出て来ます。

 救急車に関していいますと、4年間ですが軽症のひとも多く乗っています。それは病気を心配して要請する人もたくさんありますが、診療をしてくれる所を探して救急車をお願いすることもあるかと思います。

スライドはこれくらいにして、当地は二次医療圏の中心地でありまして、地方に住む者としてはこの辺の問題もあるのではないかと思います。救友会の話題とは一寸はずれましたが、一応我々が気を付ける問題として、あいさつの変わりにデーターを皆さんに見て頂きました。これであいさつに変えさせていただきます。

○来賓あいさつ(八幡浜地区施設事務組合消防長 菊地萬年)

 八幡浜地区消防長の菊地でございます。本日は平成10年度愛媛救友会を当八幡浜市で開催をいたしましたところ会員の皆様にはご多忙のところ、この様に多数の参加を頂きました事、開催地といたしまして、厚くお礼を申し上げますと共に、歓迎をいたします。

 また、顧問の先生方、医療機関の方々におかれましては、平素から救急救命に関しまして、格別のご指導とご支援を賜りまして心からお礼を申し上げます。

 本会も回を重ね、会員間の連絡や情報交換、事例研究等々、その内容も充実して大変有意義なものとなってまいりました。私共も大変心強く思っているところであります。

 しかし、現下の救急業務は、高齢化の進展や疾病構造の変化等により、その応急処置も複雑化、高度化を要求されることとなりました。また住民の消防、特に救急救命に寄せる期待も大きくなってまいりました。皆様は、これに応じるべく、日々高度な知識、技術の研鑽されていることに対し感謝と敬意を表したいと思います。

 この様な状況の中で、我々消防機関といたしましては、救急業務の充実、高度化に向けて高規格救急自動車の増強、救命士の養成、隊員の教育機関への派遣、救急資機材の整備、医療機関との連携の強化、住民に対する啓発活動等々計画的に実施し、救急業務の高度化に対応してまいらなければならないと考えております。また、救命率の向上に向けて愛媛県で運用しております消防防災ヘリコプターの活躍にも、期待をいたしているところであります。

 終わりになりましたが、愛媛救友会の益々のご発展とご参会の皆様のご健康、ご多幸を祈念申し上げ、簡単でございますが挨拶といたします。本日は、どうも有り難うございました。


3.自由演題

   座長 大洲地区消防本部 芝田 隆

(座長)

 今日、愛媛県下の各消防本部においても、救急救命士制度の導入により、プレホスピタル・ケアの充実が図られ、救急業務の高度化が進められており、徐々にではありますが救命率も向上しているところです。

 しかしながら、平成8年度の全国における住民が救急事故に遭遇した場合の応急処置率を見ますと、心肺停止傷病者72,542人に対して10,954人で全体の15.1%しか処置が施されていないのが現状であり、欧米に比べてもまだまだ社会復帰率が低い数字であることは否めず、CPAに対するバイスタンダーが行う一次救命処置、すなわちCPRが重要な要素となることは、周知のことであります。

 これらの状況を踏まえ、本日は日ごろ住民に対する応急手当の普及啓発活動に携わっております消防機関および日本赤十字社救急法指導員によります市民指導について展示していただきます。

 消防機関の応急手当の普及については、平成5年に「応急手当の普及啓発活動の推進に関する実施要綱」が国において制定され、3時間の普通救命講習、8時間の上級救命講習並びに普及員の養成として応急手当普及員講習が各消防機関で行われています。なお、両機関の心肺蘇生法の手順の資料がありますので参考にして下さい。

心肺蘇生法の手順

消 防日 赤
要 領行 動行 動要 領
立って指さし呼称患者発見



大出血なし
人が倒れています。
 周囲の状況の確認
 「周囲の状況よし」
傷病者の観察
 「大出血・変形なし」
立って指さし呼称


近づきながら確認
患者の右側にひざまづく

頭部の手(右手)を額に置き、足側の手(左手)で向こう側の肩を叩く。

◎意識の確認
「もしもし(小)、もしもし(中)、もしもし〜大丈夫ですか(大)」
3回の声かけをする。
◎意識の確認
「大丈夫ですか(小)、大丈夫ですか(中)、大丈夫ですか(大)」
3回の声かけをする。
肩口に両膝をついて頭側の手を床について足側の手で手前の肩を軽く叩きながら、耳元で声をかける

手足の動きもみる
(3回の声かけ後)
 意識なし
「誰か救急車を呼んで」

 手を振る。

 意識なし
協力者を得る
「人が倒れています。
誰か協力して下さい。」
手を上げ大きな声で行う。
指交差法◎口腔内確認
 口腔内異物なし
  
頭部後屈顎先挙上
(姿勢:肘をあげ中指を示指に揃える)
□気道確保□気道確保頭部後屈顎先挙上
(顎先に中指と人差し指を当て、脇を締め引き上げる)
約5秒(声を出して数える)◎呼吸の確認
「1、2、3、4、5」
 呼吸なし
◎呼吸の確認
「1、2、3、4、5」
 呼吸なし
気道確保をしたまま、目・耳・頬でしっかり確認(5〜10秒)
1.5〜2.0秒
頬で呼気を感じる。
顔を足側へ向ける。
□人工呼吸開始(1回)
 気道閉塞なし。
□人工呼吸(1回)
□人工呼吸開始(最初の2回)
抵抗があれば、異物除去をする。
1.5〜2.0秒かけ、ゆっくり2回連続、呼気吹き込み。呼気を感じる
 ◎脈拍の確認
「1、2、3、4、5」
 脈拍なし
◎脈拍の確認
「1、2、3、4、5」
 脈拍なし
頸動脈で確認(5〜10秒)
圧迫点の確認は毎回実施(示指と中指を肋骨下縁に沿って移動、中指が切痕に達したら示指のすぐ上又は1横指上)□心マッサ−ジ開始□心マッサ−ジ開始圧迫点の確認は毎回実施(傷病者の足側の手の中指と人差し指で、肋骨縁に沿って人差し指を胸骨上におく。人差し指に接して他方の手の手掌基部を胸骨上におく)。15回を 9〜11秒のリズム。
約5秒1分後、脈拍の確認(心マ4サイクル後人工呼吸を2回して脈拍の確認)1分(4セット)後、脈拍の確認5秒程度
  蘇生法を中止してよい条件まで継続 

◎ → 観察、□ → 手当

(1)応急手当の市民指導

    八幡浜地区消防署 長壁常司
             泉 和智

長壁  早速ですが、八幡浜地区消防が行っております3時間の普通救命講習、若干アレンジはしていますがはじめます。

 傷病者を発見したら、傷病者の状態と大出血の有無を確認しながら患者に近づきます。

 「患者発見。周囲の状況よし。大出血なし。」
長壁 そして、右側の肩側へ座ってやることを強調しています。

 次に、左手を額に当て、肘を地面に付ける。右手を左肩におき、傷病者の右耳近くに自分の口を近づけ、目線は瞼をみてやる。この状態で、「もしもし・もしもし・もしもし」と3回、だんだん声を大きくしながら声をかけると同時に軽く肩をたたいてやる。その時に目の動き、手足の動きを見て下さい。名前が分かれば名前で呼んでやって下さい。この時、目を動かさない、何の反応も示さないとき意識障害があると判断して、「誰か救急車を呼んで」と誰かに応援を求めます。ここまで展示を行います。

 「もしもし・もしもし・もしもし。意識なし。誰か救急車を呼んで。」
長壁 ここでの注意点は低い姿勢で行う。肘を地面に付け手は必ず額に置く。ここを強調して 指導しています。次に意識障害の傷病者は気道確保の応急手当を実施します。ここで気道とは、鼻や口から吸った空気が肺まで通る道のことをいい、気道確保とはその気道が閉ざされないようにしてやる処置を気道確保といいます。一つは口の中にある異物を取り除いて気道を通してやる方法。もう一つは意識障害が起こると舌の根本が緩んで落ち込み、狭くしてしまうのを防いでやる方法。この二つの応急手当をいいます。手技としては左手はそのまま、右手の親指を傷病者の上の歯、人差し指を下の歯にあて、手首をひねるようにして口を開けてやる。そして口の中をよく観察します。異物があれば顔を横に向けて口の中にある異物を取り除いてやります。異物がなければ右手の人差し指と中指であご先の骨の部分にあて、あご先を持ち上げるようにしながら、額を静かに後方に押し下げる。そして頭を後ろに反らせてやります。それでは、「救急車を呼んで」の後の展示を行います。
 「口腔内確認。口腔内異物なし。気道確保。」
長壁 この時の注意点としては、肘を上にあげてやる、あご先に当ててやる。決して柔らかい所にあてない、と指導しています。また、異物をかき出すときは、奥に押し込まない様にと強調して指導しています。この気道確保の姿勢で、次に呼吸の観察を行います。呼吸の観察は顔を足側の方に向け、自分のほほと耳を傷病者の口と鼻もとに近づけて、ほほで吐き出す息、耳で吐き出す音、目で胸と腹の動きを感じ5秒数えながら観察します。
 「呼吸の観察。1・2・3・4・5」
長壁 胸・腹も動かず、ほほに息を感じなければ呼吸は止まっていると判断し、ただちに口対口の人工呼吸を開始します。額を押さえていた親指と人差し指で傷病者の鼻をつまみます。次に、自分の口で傷病者の口を完全に覆い、静かに息を吹き込みます。吹き込み終わったら口を離し、傷病者の胸と腹の方向に向け、その動きを見ながら自然に出てくる息をほほで感じとり、気道が完全に確保されているかどうかを確認します。そしてもう一度静かに吹き込みます。
 「人工呼吸開始。気道閉塞なし。」
長壁 ここでの注意時点は、吹き込む量は胸が軽くあがる程度。早さは1.5秒〜2秒かけてゆっくりと吹き込む。この二点を強調して指導しています。感染防止のため、ガーゼ、ハンカチ等があれば傷病者の口にあてて、その上から行うよう指導しています。その後は脈があれば5秒に1回のリズムで人工呼吸を行います。最後に脈拍の観察です。脈拍は頸動脈で観察します。のどぼとけに右手の人差し指と中指をあて、この高さで手前へずらしてやる。柔らかいへっこんだ所が頸動脈です。頸動脈で5秒数を数えながら脈の観察を行います。
 「脈拍の確認。1・2・3・4・5。脈拍なし。」
長壁 脈がなければ心臓が止まっていると判断し、心臓が停止していればいくら人工呼吸を行っても血液が循環しませんのでせっかくの処置も効果がありません。この様なときは人工呼 吸と併用して心臓を人工的に圧迫する心臓マッサージを行って血液を心臓から押し出し循 環してやらなければなりません。ここで心臓マッサージを行うためには心臓の位置を知ら なければなりません。心臓の位置ですが、胸の中央にある胸骨という骨の真下にあります。 心臓を圧迫する部位は、右手の人差し指と中指を傷病者の肋骨の縁にあててやります。そ の指をその縁に沿って中央に移動させると、人差し指がくぼんだ部分にあたります。さら に移動させ中指がくぼんだ部分に達するまで指を移動させると、人差し指は胸骨の上に置 かれた状態となります。人差し指の置かれた胸骨の頭側の部分が圧迫部分となります。圧 迫部分に左手の付け根を胸骨と平行になるように置きます。さらにもう一方の手を重ねて 両手の指を上方に反らせます。この時手首が堅く、指が肋骨に接している場合は、指を絡 み合わせ上になった指で上方に反らせるようにします。自分の肩が傷病者の胸骨の真上に なるようにしてピンと伸ばします。膝は適当に開いてつま先だてておきます。この姿勢が 心臓マッサージの姿勢です。正しい姿勢ができたら、上半身の体重を利用して垂直に圧迫 し、胸を3.5〜5 圧し下げます。次に圧迫した力をゆるめます。これを15回、1分間に 80〜100回のリズムでリズミカルに圧迫しゆるめます。以上が心臓マッサージです。
 「脈拍なし。心臓マッサージ開始。1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・11・12・13・14・15」
長壁 心臓マッサージの注意点としては、圧迫するとき肘を曲げない。斜めから押さない。圧迫 するときとゆるめるときは同じリズムで行う。ということを指導しています。その後は人 工呼吸2回、心臓マッサージ15回のサイクルで実施し、4サイクル実施後一度脈拍の確認 をします。脈拍がなければ心臓マッサージを再開し、心肺蘇生法を行うという展示で説明 しています。 それでは、一連の流れについて再度展示を行います。
 患者発見から心臓マッサージ15回まで展示する。
長壁 心臓マッサージの目線は傷病者の顔を見ています。心臓を圧迫する部位はその都度確認し て圧迫部を探します。人工呼吸を一度吹き込んだ後は必ず胸の吐き出す息を感じとってや ります。4サイクル実施し、この後一度脈拍の観察を行います。 この様な流れで、本来ならば一つ一つ気道確保、人工呼吸、心臓マッサージを教えます。 あと普通救命のときは、パネル、スライド等を使って説明します。以上で当消防本部が行っ ています3時間の普通救命講習の心肺蘇生法についての流れを終わります。

(2)応急手当の市民指導(赤十字救急法指導員)

    瀬戸町三机小学校 山口宜子
    大洲東中学校   森本由美

山口 本日は赤十字を代表してこの場に立っていますが、決して上手だからという訳ではありま せん。たぶん、一番頼りないと思う私に、勉強がたりん!と白羽の矢が立ったみたいで、 断り続けていたはずが、今日なぜかここに立っています。とても場違いなところにいるよ うな気がしてなりません。
 日頃は、小学生を相手にしているので、こんなに大勢の大人の人を前にしゃ べるのは初め てですので、今、この場にたってとても緊張しています。勉強不足で十分なことができな いと思いますが、広い心で見ていただければありがたいです。
 それでは、これから赤十字救急法をはじめさせていただきます。まず、最初に赤十字救急 法の講習内容について簡単にお話ししていと思います。講習には、一般への普及を目的と した、講習時間5時間の一般講習と、18時間の救急員養成講習があります。講習後テスト を実施し、合格者には、認定書を交付しています。一般講習には講習時間をもっと短かく した、短期講習も実施しています。この講習は多くの人が気軽に参加しやすいように、蘇 生法、止血法、包帯法など、それぞれの希望やニーズに合わせて、2・3時間の短期講習 を実施しています。
 今回は、その中の心肺蘇生法を中心とした短期講習の内容で、皆さんを受講者としてひと つひとつの手順を説明していきたいと思います。
 それでは はじめさせていただきますご協力下さい。
山口 さて、みなさんは倒れている人を見つけたらどうしますか?と問いかけると、講習会では、 「びっくりしてみているだけ?」「救急車を呼ぶ」「声をかける」という答えが返ってき ます。
 そこで、まず、倒れている人を見たら傷病者を自分自身が確認するために足下に立ってそ の人を指さし声にして確認します。
森本 「人が倒れています。」
山口 次に周囲の状況を確認します。
 周囲の状況というのは、そのときの様子や、場所、原因、証拠物、など後で役に立つこ とが多いので十分に観察します。特に二次災害が起こる危険性がないか、自分自身の安全 と共に広く囲りを指さしながら確認します。
森本 「周囲の状況よし。」
山口 次に大出血や変形などがないか近づきながら確認します。もし、大出血があれば直ちに処 置します。
森本 「大出血・変形なし。」
山口 次に意識の確認をします。
 皆さんは意識があるかどうかどうやって確かめますか?
 声をかけたり叩いてみたりしますよね。皆さんもそう思っていると思います。では、やってみます。
 足下から、傷病者近づきながら肩口に両膝をついて位置します。そのときに人工呼吸や心マッサージに移らなければならないかもしれない、ということを頭に置いて位置してください。
 頭側の手を床についてもう一方の手で手前の肩を軽く叩き、だんだん大きな声で耳元に近 づきながら
森本 「大丈夫ですか? 大丈夫ですか? 大丈夫ですか?」
山口 このように声をかけていきます。
 もし、倒れている人の名前がわかるようだったら名前を呼んであげるのが一番良いと思い ます。
 呼びかけながら傷病者の顔や手など全身をよく観察します。意識があったら顔をゆがめた り手を動かそうとすると思いますので、十分な観察が大切です。
森本 「意識なし。」
山口 意識がないときには、「人が倒れています誰か協力して下さい。」とか「救急車を呼んで 下さい。」等ととにかく大きな声で大きく手を上げて協力者を得ます。一人だけでしよう とするととても大変です。連絡や通報、資材の確保、蘇生法の応援のために、誰か協力者 を得ることが大切です。そのためにも大きな声で行います。
森本「人が倒れています誰か協力して下さい。」
山口 意識がない場合は、すぐに気道を確保します。
 意識がないと、このように舌の根元がのどの奥へ落ち込んで空気の通り道をふさいで、呼吸ができなくなります。そこで、このように あごを上へ引き上げてあげるだけで、このように空気の通り道を作ってあげることです。これが気道確保です。では、やってみます ので見て下さい。
 まず、頭側の手をひたいに当てて、もう一方の手の人差し指と中指をそろえて、下あごの 先にあて、脇を締めて上へ引き上げるようにして気道を確保します。
 そして、呼吸の確認を行います。
 気道を確保したまま目・耳・頬で5〜10秒かけてしっかりと確認します。
森本 「呼吸の確認 1・2・3・4・5 呼吸なし。」
 「人工呼吸開始。」
山口  呼吸がないときには、すぐに人工呼吸を行います。
 風船を膨らますときのように2回大きくゆっくり800〜1200 、だいたい胸が軽くふくら む位を、1.5〜2秒かけてゆっくり吹き込みます。
吹き込みができなかったときは、異物が詰まっていることが考えられるので異物の除去を 行います。
山口 親指を口の中へ入れした顎を引き上げる方法と、親指と人差し指を上と下の歯にかけこの ように交差させて、もう一方の人差し指でかき出しもう一度呼吸の確認をします。
森本 「呼吸の確認 1・2・3・4・5 呼吸なし。」
 「人工呼吸開始。」
山口その後、脈拍の確認をします。
 あごに当てていた手を3本揃え、のどぼとけに当て、手前に引くようにして、5〜10秒か けてしっかり脈拍の確認をします。
森本 「脈拍の確認 1・2・3・4・5 脈拍なし。」
山口 脈がない場合は、心マッサージを実施します。
 (図を使って圧点の説明をする。)
 まず圧迫点の確認の仕方を、図を使って説明します。
 傷病者の足側にある手の中指と人差し指を、肋骨の縁に沿って、肋骨のまじわる真ん中 まで持ってきて、そこに中指を当て、そのまま人差し指をそろえます。その人差し指に沿っ てもう一方の手のひらをこのように置き、 圧迫点を確認します。
 ではやってみますので見ていて下さい。傷病者の足側にある手の中指と人差し指を、肋骨 の縁に沿って、肋骨のまじわる真ん中まで持ってきて、そこに中指を当て、そのまま人差 し指をそろえます。その人差し指に沿ってもう一方の手のひらをこのように置き、その上 にもう一方の手のひらを重ねます。
 両肘を伸ばしたまま、このような三角形を作るようにして垂直に3〜5センチの深さで15回を9〜11秒のリズムで押します。(早さを口で言っていってみる)
 心マッサージ15回実施後、人工呼吸を2回と繰り返していきますが、心マッ サージのたび に圧点の確認をして下さい。
森本 「心マッサージ開始 1・2・3・4・・・」
山口 人工呼吸2回、心マッサージ15回を1セットとして、4セット実施後にもう一度脈拍の確 認をします。4セットするとだいたい1分くらいになります。
 脈拍と呼吸が回復するまで実施するように指導しますが練習の場合は、3分30秒間実施し ます。
 では、一通り通してやってみますのでご覧下さい。
 (森本実施・・・1分後の確認まで)
山口 なにもしないで見ているよりは何かすることが大切だと思います。「何かして大変なことになったらどうしよう」と思わず、勇気を持ってまず行動してみることでたくさんの命が助かるかもしれません。どうしようという不安が、この講習会を通して、やれるかな? やってみようかな?という前向きな気持ちになったでしょうか?これからも機会をとらえて何回も繰り返し、蘇生法を学ぶことで、自分の自信になり、いざというときに、何かできるようになる人が増えてくれることを信じてこの講習会を終わらせていただきます。
 最後に今回参加できなかった愛媛赤十字本部の方がぜひ伝えておいてくれとの伝言をお伝 えします。
 赤十字救急法の一番の目的は、広く救急法を普及することです。普及するということは、 「知る」ということではなく、「できる」ということだと考えています。蘇生法の流れを 「知る」ことも大切ですが、観察ができる、呼吸の確認ができる、だけでも十分だと思い ます。その人達が次の講習会を受けることで、人工呼吸ができる等ひとつひとつのことが 「できる」ようになり、それが日常の中に生かせることが大切だと思い指導しています。
 以上、まだまだ不十分で勉強不足ですが私自身も一つ一つ「できる」ことを増やせて行け るようこれからも勉強していきたいと思っております。今後もいろいろご指導下さい。
 これで、赤十字の講習を終わらせていただきます。ありがとうございました。

(今治地区消防 菅野 悟)
 日赤の方は、傷病者の右に立つとかの位置の指定はなかったのですが、指導の時にどちら側でもよいという事でしょうか。

(日赤指導員 山口宜子)
 日赤ではどちらに立つとかは言っておりません。自分がやりやすい位置が一番になりますので。とにかくやる。という事が第一と考えて位置は言っておりません。

(今治地区消防署 菅野 悟)
 消防の方にお聞きしますが、なぜ右に位置するのかお教えください。

(八幡浜地区消防 長壁常司)
 一つは右利きという事。あと3時間の普通救命講習という事で、どちら側でもかまわないが、形を作った指導方法をしていますので、あえて右側という固定した指導方法をとっています。

(上浮穴消防署 織川真二)
 効果測定は何分実施していますか。私の所は3分30秒行い、けっこう時間がかかります。県下の消防本部の効果測定の時間を聞いてください。

(八幡浜地区消防署 長壁常司)
 1分半くらいです。

(松山市消防局 貞徳正人)
 効果測定はしておりません。3時間の講習修了者すべてに修了証をお渡ししています。

(新居浜消防本部 村上浩信)
 効果測定についてはその対象者を見て行うかどうか決めています。それに拘らず何回も練習に来ていただく事が大切ですので、出来なかった方については再度機会を見て講習に来ていただくように指導しています。

(顧問 越智元郎)
 本日は、長い時間説明される内の一部だと思いますが、大事な点はいつも仰向けではないと思いますので、上向きにするときの脛髄の保護が大切だと思いますのでよく強調していただけたらと思います。もう一点、意識がない状態で救急隊に連絡は非常に重要なことだと思います。はっきりと一般の方に教えていただけたらと思います。

(大洲地区消防 山本伸一)
 消防と日赤の大きな違いは、消防は口腔内確認がありやることが一つ多くなりますが、この点について双方の違いを簡単でよろしいのですが、今後指導していくための参考にご指導願います。

(座長 芝田 隆)
 消防として、また日赤として指導されている方がおられますのでアドバイス的にお願いします。

(松山市消防局 貞徳正人)
 口腔内の確認ですが、一番大事なのは早く着手するということで、デンマークあたりではCABですね。日本ではABCでやっている。現実的に家族に心疾患がある、あきらかに心停止。ABCなんかいらないですね。最初に心マッサージをして良いと思います。ですからそういうことを踏まえて、口腔内確認、ABCを順序どおりすればよいのでしょうが、消防が行っている方法も日本救急医学会が作っています。そのメンバーの中には赤十字の佐藤という方も入っています。同じ内容であれば一般住民が受け取れやすいのでしょうが、現実的にはそうなっていないのが現状です。我々も消防でいけば消防の指導を、赤十字からいけば赤十字の指導をしています。目的は一緒です。ですからその状況に応じて我々は指導しています。赤十字社愛媛県支部の方も同じ考えです。統一するのであれば口腔内確認をしたら良いのではないか。ただ現実的にはABCのうちCを先に行っても良いのではないかと思っています。

(顧問 越智元郎)
 申し上げて変わるのであればこちらにしたらと、申し上げるのですが、ピラミッド型の方針がありますので現状で良いのではないかと思います。

(座長 芝田 隆)
 時間も参りましたので結びとしまして、応急手当の普及啓発につきましては、それぞれの機関が様々な方法で日夜普及に努力していただいております。成人人口の20%が応急手当を習得すれば救命率も更に向上するといわれています。皆様の地道な活動によって、多くの方が社会復帰できるよう祈念するとともに、各指導員の皆様の今後のご努力をお願いいたします。


4.事例研究

    座 長  西条市消防本部 豊田朱簿
    助言者  愛媛大学医学部
          救急医学助教授 越智元郎 先生

(1)演 題 「救急現場における観察と体位管理の重要性について」

    演 者  八幡浜地区消防署 摂津信幸

 「救急現場における観察と体位管理の重要性について」と自分でもびっくりするような演題をつけて参りました。これは今回の救友会のためにつけた演題で、内容はといいますと現在私が勤務しています消防署の同じ隊の警防隊員18名を対象に消防、救急活動などにおいて反省したことや、これからの課題等を検討して今後の活動に役立てて行こうという趣旨の研修会を実施しています。その研修会にと作成した資料です。ですから私の失敗や反省点ばかりを述べており、今日このように医師、 看護婦の方々、救急救命士の方が沢山おられる中で、いまさらこの様なことをと思われると思います。この事例は私が救急分隊長として行った活動をありのままに紹介しています。恥ずかしい内容ですが発表させていただきます。

(OHPにて説明)

 発生場所は八幡浜市内で、平成9年1月28日(火)15時43分に119番で覚知。状況は路上で倒れている傷病者を付近住民が発見し救急要請して来ました。救急車到着時の状況は、路上に仰臥位で倒れており付近住民に介抱されていました。患者は普段から心臓病の既往症があることから、自分の住所、氏名、電話番号、既往症、掛かり付けの病院、医師名を記載したメモ用紙に舌下錠を張り付けたものを身につけており、現着時においても患者を介抱していた付近住民からそのメモ用紙を渡され舌下錠を舌下した旨の情報を得ました。

 ただちに観察に移りましたが、基本的には観察、適切な処置、救急車への収容ですが、今回意識の確認、主訴の聴取をした後、高規格救急車内のプロパック(心電図とか血圧、動脈血酸素飽和度、脈拍、体温等を計る患者監視装置)で観察しようと思い、先にストレッチャーに収容し観察をはじめました。

77歳男性
意識レベル・・・・・JCS 0
顔 貌・・・・・蒼白
呼 吸・・・・・測定せず
脈 拍・・・・・橈骨動脈で触知不能(プロパックで一時的に40回/分を表示)
血 圧・・・・・プロパックでは測定不能
SPO2 ・・・・・76%
出血、失禁、嘔吐・・なし
胸 痛・・・・・あり

 以上の観察から、ショック状態と判断し、ショック体位(毛布を重ねて両足下腿部の下に敷く)と、酸素吸入5L/分、さらに総頸動脈で脈拍を観察するが、救急車走行中のためか測定できませんでした。呼びかけには応じていましので、声をかけながら病院まで搬送しました。また、機関員に対し緊急性が高いと判断し、受け入れ病院までなるべく急ぐように指示を与えました。

 病院到着時の状態ですが、

意識レベル・・・・・JCS 3
顔   貌・・・・・蒼白
皮   膚・・・・・冷汗
脈   拍・・・・・は橈骨動脈で触知不能
血   圧・・・・・収縮血圧が70
吐 き 気・・・・・あり
ル ー ト・・・・・(−)

 その後ストレッチャーから診察台に移し変えた後に嘔吐があり、同時に脈拍総頸動脈触知不能、心肺停止となりました。ただちに医師による二次救命処置が行われました。救急隊はその時点で次の業務が入っていたため帰署しました。二次救命処置につきましては後日電話で問い合わせ、最終的に除細動を5回行ってECGモニターにおいて正常洞調律、病棟に移ったという情報を得ています。時間経過は下記のとおりです。

覚 知 時 刻 ───────── 15時43分
現場到着時間・観察開始 ────── 15時46分
車内収容・現場出発 ─────── 15時50分
病院手配済み ────────── 15時52分
病 院 到 着 ────────── 15時58分
診 察 開 始 ────────── 16時00分
心肺停止・二次救命処置開始 ───── 16時01分

  一週間後の調査を行いましたが、心拍再開、呼吸回復で入院されているとの事でした。傷病名は心不全ということです。

 私自身の反省点は、まず第一に現場到着時の患者の観察についてですが、意識レベル、顔貌、主訴の観察を実施した後、顔貌蒼白であるが意識もしっかりしており既往症、掛かり付け等の情報もあったことから、その他のバイタルサインについては救急車内に患者を収容後観察しました。観察結果からショック状態であり、非常に危険な状態だと分かりました。まずこのことについて、観察を車内のプロパックに頼っている。観察に時間が掛かり過ぎである。基本的なことですが呼吸の観察をしていません。

 次に心電図モニターの装着についてですが、胸痛および既往歴もありましたから、観察項目としても必要であり、また時間的にも装着できました。

 ショック体位についてですが、ショックイコールショック体位が適していると私なりに思っていましたが、日本救急医療研究・試験財団準機関誌発行のの「救急医療ジャーナル」において下記の記事が記載されていました。


ショックによる体位

 循環血液量減少性ショックでは、座位によって脳血液量が減少することになり、 背臥位が脳血液量を減少させない体位となる。しかし心原性ショックの場合、座位と背臥位では、前者は下半身が心臓より下方に位置することになり、下半身からの静脈還流量が減少する。一方後者は、下半身と心臓が同一平面上に位置することで静脈還流量が増加する。

 左心室不全において起座呼吸がみられるのは、それが心臓への静脈還流量が減少させ、呼吸困難を軽減するための体位であるからである。このような傷病者を背臥位にすると、下肢からの静脈還流量増加により、呼吸困難をさらに増悪する結果となる。しかし、ショック状態では脳血液量が減少しているため、脳血液量の減少を最小限にとどめ、静脈還流量増加を予防する体位として、ファーラー位と呼ばれる半座位が勧められている。

 私の場合、今回の事例でショック体位(足側高位)で搬送しましたが、原則的には患者の楽な体位が基本ですが、半座位が適当な体位であったと反省しています。今後の救急活動において参考にしていきたいと思います。

 最後になりますが、観察の重要性を改めて認識させられる事例でありました。また、自分自身の勉強不足を改めて痛感しました。現在私は救急分隊長として出場することもありますし、救急救命士が分隊長で私が隊員という立場で出場することもあります。それぞれの事例で反省することも多く、また救急救命士から指導を受けることもあり、研修会を実施することによって大変良い勉強ができています。以上で発表を終わらせていただきます。

(2)演 題 「119番口頭指導によるCPRの有効事例」

    演 者    松山市消防局中央消防署 向井忠雄

 私はこの様なところで報告するのは初めてですので、非常に緊張しております。お聞き苦しい点が多々あると思いますがご容赦のほどよろしくお願いします。

 本事例は,通報段階でCPA状態であると判断し,通信指令課員が通報者に対しCPRを指導し,バイスタンダ−CPRを施した結果,社会復帰した事例に遭遇したので報告します。

 事故概要は、平成9年8月29日20時34分覚知事案で,松山市○○町の住宅において, 生後2ヵ月の男児が,居間に敷いてあったタオルケット上で,腹臥位で寝ていたところ,呼吸停止となり,その後,CPA状態となっていたもの。

 出動状況は20時35分「2ヵ月男児CPA」との通報により高規格出動しました。出動途上通信指令課より「CPRを指導した」との情報を受ける。又、救急車内から自動車電話を使用し,当日当番であったA病院(二次医療機関)に高規格出動している旨及び収容依頼等について連絡しておきました。

 現場到着時の傷病者の状況は、現着時男児は,居間のタオルケット上で,仰臥位で寝かされていました。また、父親によるCPRは中断されていました。

 観察結果は下記のとおりです。

意識レベル: JCS−10        顔貌   : 無表情
呼吸   : 浅く36回/分       皮膚色  : 正常
脈拍   : 66回/分         けいれん : (−)
瞳孔   : R=L4         発熱   : (−)
     : 上方偏視(+)       鼻出血  : 左少量
対抗反射 : 鈍い           SpO2  : 71%

 家族からの状況聴取では、男児は現場居間で腹臥位で寝ていた。父親はそのすぐ横で寝ていた。母親が風呂から出てきて,男児の様子がおかしいのに気付き,抱いてみると,顔面・頸部が蒼白となり,ぐったりしていたとのこと。けいれんは起こっていなかった様子。既往症なし。その後父親は,男児に対し人工呼吸を開始した。また,母親の119番通報時に指導された心マッサ−ジを父親に伝えCPRを数回実施すると,男児は泣き出したとのことです。以上のことを家族から聴取しました。また、この時の通信指令課員の指導内容は、父親のより人工呼吸は実施中であると聴取したため、心マッサージをさせるために、「左右の乳頭との真ん中で乳頭を結んだ線より少し下を指3本で押して下さい」と口頭指導しました。(父親は応急手当講習受講なし)

 以上の観察結果から現場判断として、低酸素欠症であるためリザ−バ−バック付高濃度酸素マスクを使用しての酸素投与の実施、毛布で体温の保持を行う、 状態変化を把握するとともに観察の継続と資器材の準備、男児の病態およびA病院の受け入れ体制が確立されていることから、搬送病院はA病院(二次医療機関)とする。以上4点を判断し実施しました。

 搬送中の病態変化は以下のとおりです。

 現場到着時病院到着時
意識レベルJCS 10JCS 10
脈拍数66回/分101回/分
呼吸36回/分34回/分
Spo271 %88%

 時間経過は以下のとおりです。

事故発生
バイスタンダー
 人工呼吸のみ実施
  
バイスタンダー
 CPR実施
20:34119番通報、電話指導
20:35出動
20:37A病院に事前連絡
 20:46現場到着、観察実施
 20:48救急車内収容、処置実施
 20:49搬送開始
 20:55A病院到着

 初診時の診断として、重症の意識障害と診断され、その後の追跡調査では、原因は不明であるが、SIDSの不全型、と診断されていました。また9月7日に退院とのことです。

 結語としまして、 早い段階(通報段階)でバイスタンダ−に対し,応急手当を実施するよう指導することの必要性が感じられた。 バイスタンダ−による応急手当の有効性が感じられた。

 最後にご助言の先生方にアドバイスをいただきたいのですが、この事例で鼻出血を確認しましたが、鼻出血はどのような関係が考えられるのか。また、乳幼児突然死症候群(SIDS)について何かお聞かせいただきたいのですが、ご指導のほどよろしくお願いいたします。

(3)演 題 「学校における救急処置活動の展開」

    演 者  八幡浜市愛宕中学校養護教諭 谷本明美

 私は、八幡浜市の愛宕山の高台に位置する全校生徒270名の中学校で養護教諭として勤務しております。救友会の会員はほとんどが学校関係者以外の方ですので、まず初めに、簡単に保健室と養護教諭の職務についてお話ししたいと思います。

 みなさん、保健室や養護教諭というとどんなイメ−ジをお持ちでしょうか? 「保健室はケガや病気の手当てをする所」「養護教諭はその手当てをする人」というのが一般的なイメ−ジではないでしょうか。しかし、今の保健室というのは昔に比べてずいぶん変化し、養護教諭も不登校やいじめ問題などメンタルヘルス的な部分にかかわるウエイトが随分大きくなってきました。

(OHP1)

 保健室は、健康診断・健康相談・救急処置を行う目的で各学校に設置されています。本校でもだいたい1日に30人程度の生徒が様々な用事でやってきます。この写真は、本校の保健室です。ここは、救急処置コ−ナ−で、必要な医薬品や器材を準備しています。救急処置に関係ある掲示物なども掲示して、処置を行なうと同時に必要に応じて生徒たちに保健指導を行ないます。また、ここでは、目に見えるキズや訴えだけについて処置をするのではないということ、これも保健室の特徴です。内科的な訴えで来ていても実は心因性のものであったとか、度々理由をつけて保健室へ来る生徒に様々な背景が隠されていることも多く、私たちは、救急処置の知識や技術はもちろんのこと、目には見えない子どもの心の中の不安や想いを感じとる感性を磨くことが大切です。私が保健室で生徒とかかわるとき、目の前の生徒がそれぞれの家庭の中でかけがえのない存在であること、手当てを求めて来た生徒に対する一つ一つの対応がその生徒との今後の人間関係に大きくかかわっていくことを肝に銘じ、的確な処置と対応をしていかなくてはならないと考えています。目の前にいる生徒は養護教諭にとって大勢の中の一人であっても、その生徒にとってはその時の養護教諭の対応が全てであることを常に念唐に置いておきたいたいものです。

(OHP2)

 休養コ−ナ−には、ベットを二つ置き、回復の見込みがある生徒を1〜2時間程度休養させるスペ−スとしています。(OHP )保健室は体の問題だけでなく心の問題も持ちこまれてきます。このスペ−スは相談コ−ナ−として、昨年度、保健室の奥を改装したものです。家庭的な雰囲気の中で生徒が落ち着けるよう、また、学校には登校してくるものの教室へ行けないという保健室登校の生徒もここで過ごしています。

 このように、私たちは様々な保健室の機能を果たせるよう自校の実態に応じた学校保健活動を推進するとともに、健康診断や予防接種などの保健行事をこなし生徒、 または職員の体の健康、心の健康のどちらにも対応できる保健室経営を実践しています。

 そして、養護教諭は子どもたちのニ−ズに合わせて、看護婦、カウンセラ−、教師、または、学校のおかあさん、といった役柄を時と場合によって使い分け、しかし、そのいずれにも徹することができないというのが現状です。私たち自身も自分は何を極めていけば良いのかわからなくなってきたという悩みを持っています。

 さて、このように様々な役割を持つ養護教諭ですが、生徒はもちろん、保護者や一般教師などから最も望まれていることは、「的確な救急処置ができること」のようです。この役目を果たしてこそ、養護教諭として信頼されていくのだと考えています。

それでは、この学校救急処置活動についてお話していきたいと思います。

(OHP3)

 学校での救急処置の原則は、 保健室における救急処置は、医療機関へ送るまでの応急的な処置である、また、軽い傷病の手当てを行なうところでもある、したっがって継続的な処置は行なわない  学校においては内服薬は与えない、薬品の管理は養護教諭が行なう  保健室での休養は、健康が回復する見込みのある場合に限る、となっています。本校でもこの原則に従い、年度当初の職員会において、保健室利用について確認し、生徒、または家庭にもこのことを伝えるようにしています。

(OHP4)

 学校で事故が発生した場合や生徒がケガをした場合には、このような救急体制に基づいて対応していきます。養護教諭が出張等で学校にいない場合の対応が問題になってきますが、その場合は養護教諭にかわってどの教師が動くか養護教諭不在の場合の救急体制も考え、基本的な手当てについての職員研修も行なっています。

(OHP5)

 このカ−ドは生徒の緊急な場合に備えての救急カ−ドです。血液型や保険証の控え、主治医の他、学校から搬送する場合に希望する病院名を保護者に記入していただき、クラス別に保管しています。特に学校から病院へ搬送する場合、 事前にきちんと保護者の確認をとっておかないと後でトラブルとなる可能性もあるので、要注意です。

 続いて、学校ではどのようなケガが多いのか、昨年度の本校での災害状況を報告いたします。

(OHP6)

 このグラフは、昨年度、学校健康センタ−の災害給付の対象となった件数の内訳です。昨年度、学校でケガをし、病院にかかった生徒は1年間で36人です。

 一番多いのは骨折で11件、続いて挫創傷の8件、そして捻挫や裂傷が続いています。最近の子どもたちには骨折が多いと言われていますが、本校でも月に1件程度の骨折があったということになります。中学校では、このように骨折や捻挫が多いことから、本校の保健室にはこの空気圧副子を準備しています。骨折等の疑いがある場合は、副木などで固定して病院へ搬送します。ダンボ−ルや板を使った副子も準備していますが、その固定に関しては知識や技術がないとなかなかうまくできないと思います。この空気圧副子は、比較的値段も安く、一般の職員や生徒でも簡単に使えるようです。

 今年度、9月に、本校で体育の時間に体操をしていて転び、手首がひどく変形した橈骨と尺骨の骨折がありました。あいにく、事故が発生した時に私は校内巡視をしていたため保健室には不在でした。近くにいた教師は私を探し、事故を報告、体育教師が空気圧副子と三角巾を持って現場へ急ぎ、固定を始めました。私が駆けつけた時には、本人が激しい痛みを訴えて顔面蒼白、冷汗をかいていました。今まであまり感じたことがなかったのですが、ケ−スによっては、患部にこの空気圧副子が直接あたって痛みが大きいのではないかと思いました。本人の様子を見ながら、空気の調整をし、最後に三角巾で患部側の腕をつって、病院へ運びました。わずかな車の振動でも本人が痛がるので、持ち合わせていたタオルをしばって、つった腕を体に固定し、車の振動による痛みを少なくできるようにしました。学校での骨折等の処置に使える簡単で適当な器材が他にありましたら、紹介していただきたいと思います。

 次に、私が養護教諭として救急処置を行なった体験をもう少し詳しくお話ししたいと思います。養護教諭になって、幸い、生命の危険に及ぶような事故に遭遇したことはありません。今まで一番心配が大きかった事故は、目の眼か内壁骨折です。この事例は中学校2年生男子生徒で、体育の時間のソフトボ−ルの試合中に生徒が投げたボ−ルが目に直接当たって起こったものでした。激しく痛がるのはもちろんのこと、生徒が大変暴れました。行なった救急処置は、患部の冷却と保護で、ただちに家庭連絡をし、病院へ運びました。病院へ搬送する途中も「先生、助けて、助けて」と車の中で暴れ、「もう少しで病院でみてもらえるよ。だいじょうぶだよ。」 と声をかけ、本人を抱きしめながら搬送しました。病院へ到着し、診察を待つ間には嘔吐を2回ほどしましたので、診察の待ち時間が長いことに対してとても不安でした。検査の結果は大事に至らず、幸い、何の後遺症もなく、約1ヵ月の入院で完治しましたが、大変心配した事例の一つです。

 私たちは、校内での生徒の事故や傷病に対し、常に冷静沈着に対応していくことが望まれますが、普段、学校内で生徒とかかわって観察していることが、判断を誤る場合の原因の一つになることもあります。例えば、家庭での愛情不足や教室での人間関係が希薄で居場所がない生徒などは、度々保健室へやってきます。そのような生徒は一般的に、「頭が痛い」「気持ちが悪い」などから始まって、「首が痛い」 「足がズキズキ痛い」など、ちょっとしたことでも大げさに訴えてくる傾向や養護教諭の気をひこうと様々な働きかけをしてくることが多いものです。そんな生徒の頻繁な訴えに「また・・・」などと思う気持ち、「大げさなことを言っているのでは?」という気持ちが最初に出てくることがあり、症状を診て対応を判断するときに迷うことがあります。ここは、私たちの処置判断の落とし穴だと思います。その恥ずかしい失敗談を一つ紹介します。

 A子という1年生の女子生徒がある日、転んで地面に下腿をぶつけ、痛みを訴えて来室してきたことがありました。A子は、さきほど話したような生徒で保健室に度々やってくる生徒です。一見、特に変化もなく、腫れや変形もほとんどなかったので本人が痛みを訴える下腿の部分を冷やして様子を見ていました。30分程度、保健室へ訪れた担任教師や他の教師と経過観察をしましたが、少し腫れてはきたものの本人も歩けると言うので、打撲であろうと判断、授業にもどしました。しかし、放課後が近づいた頃、やっぱり気になったので、念のために本人を呼び戻し、もう一度診たところ、痛みを訴えていた部分の上の方に腫れが見られ、これは打撲ではないと判断、固定をして病院へ連れて行くことにしました。家庭に連絡して、そのことを伝えましたが、本人の患部を見た母親の方も「ちょっと転んだ程度で心配ない。この子は大げさな子で、周囲がさわぐと余計に大げさに言うのです。先生の心配しすぎ。ただの打撲で何ともなっていないと思います。」と言われ、病院へ受診するのも気がすすまない様子でした。「念のためにみてもらいましょう。何もなかっ たら、安心ですから。今の子どもは、すぐに骨をいためる場合もありますので。」と母親を説得して病院へ連れて行ったところやはり骨にヒビが入っていました。本人も母親も驚いていましたが、私自身は大変深く反省させられました。

 「すぐに病院へ連れていってあげたら良かったのに。痛い思いをさせてごめんね。 」とA子に謝った私にA子が返してくれた言葉は、こんなやさしい言葉でした。

 「谷本先生がだいじょうぶと言ってくれたからだいじょうぶだと思った。だいじょ うぶだと思っていたから、あまり痛くなかった。私がいつも保健室で嘘や大げさなことを言っていたから私が悪いんだよ。みんな、また大げさだと思っても仕方ない。 」

 このケ−スは、私にいろいろなことを教えてくれました。生徒は、養護教諭である私に絶大なる信頼を持ってくれていること、だからこそ養護教諭の「だいじょうぶ。」という言葉は生徒にとって本当に大きいんだということを感じ、自分の未熟さに胸が痛みました。幸い、このケ−スは重症に至らず、生命にも影響しませんでしたが、迅速で的確な判断が必要な救急処置において失敗は許されないこと、最初の判断や処置を誤ることで取り返しがつかない事態になる危険性を考えると、責任の大きさで身が引き締まる思いです。

 私は、現在、中学校に勤めていますので、救急処置の場面も市内の養護教諭仲間の間では多いと思います。運動会練習の時期には1日に3回同じ病院へ生徒を搬送し、内2件は骨折で、「また、お宅ですか!」と言われたこともあります。小規模の小学校では、学校内で病院へ行くような事故もなく、救急処置などまったく無縁な養護教諭もいます。私自身も現任校の前は百名程度の小学校に勤めていましたので、病院へ連れていくような事故にもほとんど遭遇しませんでした。その中で、自分の養護教諭としての救急処置の知識や技術がだんだん薄くなっていくような不安を持ち、自己研修のために日本赤十字社の救急法の指導員の講習を受けました。

 指導員としての活動は、あまりできていないという反省をもっていますが、自分のできることとして、本校の生徒に対して保健の授業等で救急処置や蘇生法を指導しています。

(OHP7)

 三年生の保健の授業において、蘇生法や傷病の手当ての単元があります。普通、養護教諭は授業は行いませんが、ティ−ムティ−チングで保健体育の教師とともに授業に参加しています。人工呼吸や心臓マッサ−ジも生徒は熱心に取り組んで、全員が三角巾を応用して手当てができるようにしています。

(OHP8)

 生徒が興味を持って学習できるよう、このようなチャレンジシ−トを作ると、楽しみながら実習できるようです。この実習や授業が、生涯を通じて健康で安全な生活を送る基礎となるよう、貴重な体験学習の場にしていきたいと考えています。そして自分の身の回りの事故や急病に対処できるような知識を身につけ、健康への興味・関心を持ってほしいと願っています。

 以上、簡単に学校救急処置活動についてお話いたしました。私たち養護教諭の職務は、時代の推移や子どもたちの健康問題の変遷に従って大きく変化してきましたが、救急処置に関する職務はこのような変化にかかわらず、養護教諭に期待される最も重要な職務として専門性の中核をなしていると考えています。今後も、救急処置について最新の情報や知識を学ぶ機会となるこの救友会や日赤の講習会等に参加していく他、日常の実例を通して経験を重ね、専門職として研鑽していきたいと思います。そして、養護教諭にしかできない保健室での愛情をエッセンスとして、心をこめた手当てをしていきたいと思っています。どうもありがとうございました。

(座長 豊 田 朱 簿)
 演題1から質疑がございましたらお願いします。

(大洲地区消防 泉 清 一)
 八幡浜さんは救急隊の反省会等をされていますが、どれくらいの割合でされていますか。

(八幡浜地区消防署  摂 津 信 幸)
 反省会は特異な事例がありましたらその都度救急隊3名で行ったり、研修会については2カ月に1回程度実施しています。

(大洲地区消防  芝 田  隆)
 119番の口頭指導ですが、松山消防さんは既に実施しているのかお聞きします。

(松山市消防局  向 井 忠 雄)
 松山消防は実施しておりません。口頭指導等のマニュアルは作っていません。通信員の知識等でたまには指導しています。

(助言者  越 智 元 郎)
 1題の方の体位ですが、例えば心疾患とか呼吸疾患には、上半身を起こす体位。頭を下げて足を上げるのは出血性ショックとかで、逆の方法になりました。この方は意識がありますので、頸動脈が触れるか触れないかで治療が別れるということはありません。呼吸を確認して頸動脈が触れなければCPRになりますが、意識がはじめからありますので、橈骨動脈が触れないからショック状態はいいのですが、次をいえば上腕動脈とか大腿動脈とかで触れるか。よほどの事がなければ頸動脈は触れます。

 次に松山消防さんの口頭指導ですが、通信の方もプロとはいえ的確な指導ができるとは限りませんが、前にある本を開けるとマニュアルがあればいいですね。大変なお仕事だと思います。それと、このお子さんはすぐ簡単にもどりましたので心臓が止まっていなかったのだと思います。学校における救急処置活動は興味深く聞かせていただきました。先生の学校の職員の方は何%くらいの方がCPRができますか。

(愛宕中学校  谷 本 明 美)
 保健体育の教師が3名います。その先生は講習を受けておられますので出来ます。本校職員が23名いますので3名の先生と私の4名ですから6分の1くらいですか。一応全職員は簡単な蘇生法は受けています。

(助言者 越 智 元 郎)
先生が赤十字などで講習を受けて帰られて、先生方に教えてあげたらいいですね。


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