【意見欄】

用語「患者監視装置」はやめませんか?


 関連ページ:

  1. 「患者監視装置」という用語について(日本集中治療医学会雑誌 6: 147, 1999)

  2. プライム・ロー:医療と法(藤田康幸さん)
    「患者監視装置」という言葉の不当性
    日本医療機器関係団体協議会からの回答


 患者さんの呼吸・循環機能や体温、中枢神経機能などをモニタ−する装置の 総称として「患者監視装置」という名称が使われることがあります。最近、私 たちの「救急医療メーリングリスト(eml)」で、 以下のような指摘がありました。

 「患者監視装置」という用語には、人格を持っているはずの患者さんをトータルに監視するという響きがあるのではないか。」

 私たちが監視しているのは患者さんの生体機能で あり、患者さんの患者の姿や行動など(人格に関係した部分)を持続的に監視 するというようなことはしておりません。しかし確かに「患者監視装置」という用語には、患者さんの人格を含めて"監視"しているという響きがあり、 今後はより適切な用語に置き換えてゆく必要があるのではないかと考えられます。

 救急隊員による患者さんの搬送、そして医療機関における治療など、様々な場面 で各種のモニター機器が使用されます。これらの機器の名称としては、その機 能に応じて以下のような用語を使用してはいかがでしょうか?

呼吸心拍監視装置、カルジオスコープ
新生児心拍・呼吸監視装置
分娩監視装置、ポリグラフ、(単に)モニタ−
生体情報監視装置、バイタルサイン監視装置

 一方、消防署、病院などにおける機器購入、物品管理などにおいては、メー カーが付けた「患者監視装置zc-234(例)」といった機器の名称についても、 できるだけ「監視装置zc-234(例)」と "患者"を除いて記載し、呼称として も定着させることを提案したいと思います。

 救急医療関係者、医療従事者の皆様、医療機器メーカーの皆様には、ご検討 をいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

 1997年7月27日

救急医療メーリングリスト(eml)・有志
連絡先:愛媛大学救急医学 越智元郎
gochi@m.ehime-u.ac.jp


【救急医療メーリングリスト(eml)における関連記事の紹介】

1

Date: Thu, 24 Jul 1997 16:25:52 +0900
Subject: [eml:03901] 患者監視装置

 おち@愛媛です。

 患者監視装置についてFTさん、FSさんのコメントを興味深く読ませてい
ただきました。私もこれまで何回となく「患者監視装置」と口にして来ました。
それゆえ、・・さんの「常用されている」というお言葉には賛同しますが、今
後も使い続けるか? という観点からは、問題があるように感じました。

 私どもがある用語を使わざるを得ない状況を考えてみますと、モニタリング
に関しては以下のような状況が考えられます。

1)保険請求(レセプト作成)

  厚生省保険局医療課ほかによる「以下点数表の解釈」では「患者監視(装
 置)」は出てきません。呼吸心拍監視(装置)、新生児心拍・呼吸監視装置、
 カルジオスコープ、分娩監視装置などの用語で表現されています。すなわち
 「患者監視装置」は医療行政の方から導入、強制された用語ではありません。

2)研究、学会活動、教育、資格審査などの場面で頻用されているか?

  今、私が「救急医学」「日本救急医学会雑誌」「プレホスピタルケア」
 「エマージェンシー・ナーシング」などの雑誌のタイトル集で検索してみた
 範囲では「患者監視装置」という語は見つかりませんでした。それでは、モ
 ニタリング機器の使用法などを説明した総説などではどう表現されているか?

 「救急医学」Vol.19, No.10, 1995(最新医療機器・特集号)ではずばり「生
 体情報監視装置」として章を構えています(p.1402-9)。皮肉なことにこの
 総説の付図や掲載写真には「K救命救急センター患者監視装置構成図」、「多
 人数用集中患者監視装置」という題名が付けられています。私はこれを見て、
 「患者監視装置」がメーカー側から医療の現場に導入された用語という印象を
 持ちます。

3)メーカー側で商品や機器の名称として付けられた名前は医療側では使用せ
ざるを得なくなる。

  医療機関の側での予算申請手続き、機器購入の手続き、物品管理などにお
 いて、物品や機器を厳密に特定するために、メーカー側がその機器に付けた
 名称や規格、製品番号は、それが適切なものであろうとなかろうと、符号と
 してそのまま使用せざるを得ません。・・患者監視装置という機種やシステ
 ム名がちまたにあふれているのは藤咲さんが仰っておられる通りです。

      ☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 さてわれわれはどうすればよいか? 何ができるか?

〇「患者監視装置」という名称がバイタルサインの監視という実状を反映して
 おらず、患者の姿や行動など(人格に関係した部分)を持続的に監視すると
 いう印象を持たせるのだとすれば、この用語の使用はやめた方がよいと思い
 ます。

〇われわれ自身が「患者監視装置」という用語の使用をやめ、「呼吸循環監視
 装置」「バイタルサイン監視装置」などと言い換えることは誰に気兼ねをす
 る必要もありません。

〇メーカーサイドの特定の機器を表す符号である「患者監視装置」については、
 この用語が必ずしも適切でないことをわれわれから訴えては如何でしょう?
 あるいは藤咲さんのような、直接メーカー内部の方々と連絡を取れる方に納
 得していただければ、軌道修正も早期に可能となるかも知れません。

皆様のご意見をお聞かせ下さい。それでは、また。 


2 Date: Thu, 31 Jul 1997 14:19:29 +0900 Subject: [eml:03987] 転送・[mcmq 3801] RE:用語「患者監視装置」はやめませんか?  SO先生、愛媛大学の越智です。"用語「患者監視装置」はやめませんか?" へのコメント有難うございました。  私もこれまで何回となく「患者監視装置」と口にして来ましたが、これは 臨床現場でというより、下に書きましたように予算申請や機器管理などの場 面での使用が多かったように思います。これらの機器の正式名称が「患者監 視装置」となっておりますと、テレビドラマのテロップで「患者監視装置」 と表示される場合もあるかも知れませんし、病院の事務官なども医療現場で 患者さんの(生体情報だけでなく、人格の部分を含めて)監視をしているか のような誤解を持つかも知れません。  さて、私どもがある用語を使わざるを得ない状況を考えてみますと、モニ タリングに関しては以下のような状況が考えられます。 1)保険請求(レセプト作成)   厚生省保険局医療課ほかによる「医科点数表の解釈」では「患者監視(装  置)」は出てきません。呼吸心拍監視(装置)などの用語で表現されていま  す。すなわち「患者監視装置」は医療行政の方から導入、強制された用語で  はありません。 2)研究、学会活動、教育、資格審査などの場面で頻用されているか? ・「救急医学」などの雑誌のタイトル集で検索してみた範囲では「患者監視装  置」という語は見つかりませんでした。モニタリング機器の使用法などを説  明した総説をみると、例えば「救急医学」Vol.19, No.10, 1995(最新医療  機器・特集号)では、「生体情報監視装置」として章を構えています。皮肉  なことにこの総説の付図や掲載写真には「Kセンター患者監視装置構成図」、  「多人数用集中患者監視装置」という題名が付けられています。私はこれを  見て、「患者監視装置」がメーカー側から医療の現場に導入された用語とい  う印象を持ちました。 ・臨床工学士指定講習会テキスト(厚生省健康政策局医事課、財団法人医療機  器センター・監修)では、直接「患者監視装置」という言葉は使われていな  いように思います。これらのモニター類の総称としては「医用監視装置」、  「生体計測装置」というような用語を用いているようです。ただし、文章中  に以下のような表現もされています。                              --を利用したパルスオキシメータが開発され、簡便さから患者監視などに広  く使用されるようになってきた。                  ̄ ̄ ̄ ̄ ・メーカーのカタログなどはまだつぶさに調べていないのですが、某社の「--  社--年のあゆみ」の製品年表をみますと、以下の分類で表を作っています。   生体計測装置(脳波・筋電図・心電図関連)   生体計測装置(脳波・筋電図・心電図関連除く)   患者監視装置  → 具体例   治療・機能補助装置   基礎医学用その他  患者監視装置の欄の具体的な機種名をみますと、1964年から以下のような機  器が挙げられています(一部抜粋)。   分娩監視装置、ベットサイドモニタ、自動血圧・心拍・体温監視装置   重症患者監視装置、ICU・CCU用監視装置   ハートモニタ、電算機化重症患者監視治療システム、   重症患者監視診断補助システム、医用テレメータ、胎児心拍監視装置   インピーダンス式換気量モニタ、テレメータ式患者監視装置   新生児モニタ、ペースメーカクリニックシステム、観血式血圧テレメータ   大脳機能監視装置、重症患者情報処理システム、カラードレンドスコープ   クリニカルモニタリングシステム、カラーメモリースコープ   医用テレメータ、集中受信患者監視装置、CO2モニタ、セントラルモニタ   経皮酸素分圧モニタ、非観血血圧モニタ、呼吸モニタ、手術用モニタ   パルスオキシメータ    すなわちこのの会社では上記の機器の総称として「患者監視装置」を用いて  います。 ・ eml メンバーからの情報ではJISや通産省の統計には「患者監視装置」と  いう項目があるそうです。   3)メーカー側で商品や機器の名称として付けられた名前は、医療側ではいや おうなく使用せざるを得なくなります。  医療機関の側での予算申請手続き、機器購入の手続き、物品管理などにお いて、物品や機器を厳密に特定する必要があり、メーカー側がその機器に付け た名称や規格、製品番号は、それが適切なものかどうかは別として、符号とし てそのまま使用せざるを得ません。      ☆     ☆     ☆     ☆     ☆  医療の現場では「(単に)モニター」というような簡単な用語で済まされて いる名称が、機器管理やメーリングリストでの意見交換など、文書としてきち んとした記録や意見交換をする場合には「患者監視装置」として出て参ります。 それは法令などで定められているためではなく、恐らくはメーカー側のネーミ ングに起因しているものと思います。「この名称をやめませんか?」と提案し た場合にいちばん抵抗感を持たれる(何で悪いの?)のも、メーカーの方たち だと思います。私は「患者監視装置」が感じの悪いネーミング(または訳語) であり、現行の他の名称やほかにぴったり来るものがあれば新しい名称に置き 換えてゆくのがよいのではないかと、メーカーの方々そしてユーザーである医 療従事者に提案してみたいと考えます。

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