血液浄化法について


 本資料は愛媛大学医学部麻酔・蘇生学教室 T先生よりご提供いただきました(1997年9月)。

目 次

持続的血液濾過透析(CHDF)
血漿交換(PE)
血液吸着(HA)と血漿吸着(PA)


持続的血液濾過透析
CHDF(Continuous hemodiafiltration)

1.原理と目的

 血液透析は,半透膜を介しての拡散と限外濾過の原理により成立ち,主に小分子量の物質の除去に優れている。一方,血液濾過は膜を介した限外濾過の際に水とともに血漿中に含まれるその膜の有するcut off point以内の分子量物質を除去するもので,主に中〜大分子量の物質の除去に優れている。血液濾過透析は両者の長所をうまく組みあわせて小〜中〜大分子量の物質を満遍なく除去しようとする方法である。

2.フィルタ

 原則的には,CHFで用いるものと同種類で,膜面積は0.3〜0.6m2あればよいが,透析を重視すればdiffusionによる物質交換を期待して,膜面積を1.2m2程度にする場合がある。

 素材は,PAN(polyacrylonitrile)膜,PMMA(polymethyl-methacrylate)膜,PS(polysulfone)膜などがあるが,どれが最も優れているかは結論はでていない。当科ではPAN膜(旭メディカル製,パンフロー06)を使用している。

3.抗凝固剤

 以前はヘパリンを使用していたが,出血傾向の人には用いることができなかった。 現在は,メシル酸ナファモスタット(フサン)や低分子ヘパリンをもちいることで出血傾向のある患者でも施行可能となった。血中半減期はヘパリンおよび低分子ヘパリンが数時間,フサンが8分といわれている。ヘパリンおよび低分子ヘパリンは,プロタミンで中和可能である。ヘパリンはATVと結合し,抗トロンビン(Ua)作用と抗活性化第]因子(]a)作用を表すため出血を促進するが,低分子ヘパリンには抗トロンビン(Ua)作用がないため出血は促進しない。フサンも大量に投与すると出血を促進する。現在至適投   与量は検討中であるが,0.3mg/kg/hrがいいという報告あり。この量で,フィルタは約24時間もつ。当科では0.4〜0.6mg/kg/hrで使用しているがこの量ではフィルタは36〜48時間もつ。

4.透析液

 透析液中の微細異物や細菌産物がフィルタのporeを通過して血中に入る可能性があるので,必ず無菌でなければならない。また,bufferをいれないとアシドーシスになる。Bufferとしてはbicarbonateがベストである。acetateあるいはlactateを用いている施設もある。Lactateは肝で代謝されるため,肝不全患者では用いることができない。Acetateの代謝は全身の臓器で行なわれ,最大300mmol/hrの代謝速度があり,lactateの2倍以上の代謝速度である。当科では,bicarbonate製剤を用いている。

5.Blood access

 ダブルルーメンカテーテル(クイントンR)を内頚静脈,鎖骨下静脈,大腿静脈などから挿入する。

6.回路の設定

   血液ポンプ…60 ml/min,濾過ポンプ…0.70 L/hr,
   補液ポンプ…0.35 L/hr,透析ポンプ…0.30 L/hr

     これで0.05L/hrの除水ができる。

参考文献

・血液浄化法−最近の進歩−.ICUとCCU 13:189,1989
・血液浄化法.ICUとCCU 14:795,1990
・持続的血液濾過透析.集中治療 5:549,1993
・ 持続的血液濾過透析.日本臨床 49:315,1991


血漿交換
PE(Plasma exchange)

1.原理と目的

 血液を血球成分と血漿成分に分離し,患者血漿を廃棄し,健常人の血漿(多くはFFP)ないしは血漿製剤を補充することにより,治療効果をあげようとする方法で,他の血液浄化法に比し,大きな分子量の物質まで除去可能である。したがって,蛋白に結合している物質やエンドトキシン,免疫複合体等の病因物質の除去も可能であるが,同時にアルブミンや凝固因子等も廃棄される。

2.フィルタ

 膜型血漿分離器は,膜面積0.2〜0.8m2,膜孔径0.2〜0.6μmで,分子量15万〜20万dalton以下の物質は透過する。

 素材は,PE(polyethylene),PMMA(polymethylmethacrylate),PS(polysulfone)などがある。当科ではPE膜を用いたプラズマフローOP−05(旭メディカル社製)を使用している。

3.抗凝固剤

 以前はヘパリンを使用していたが,出血傾向の人には用いることがでなかった。現在は,メシル酸ナファモスタット(フサン)や低分子ヘパリンをもちいることで出血傾向のある患者でも施行可能となった。血中半減期はヘパリンおよび低分子ヘパリンが数時間,フサンが8分といわれている。ヘパリンおよび低分子ヘパリンは,プロタミンで中和可能である。ヘパリンはATVと結合し,抗トロンビン(Ua)作用と抗活性化第]因子(]a)作用を表すため出血を促進するが,低分子ヘパリンには抗トロンビン(Ua)作用がないため出血は促進しない。フサンも大量に投与すると出血を促進する。現在至適投与量は   検討中であるが,血漿分離の際にフサンも一緒に除去されるため,血液透析施行時よりも多めの量が必要で,0.5〜1.0mg/kg/hr必要である。

4.Blood access

 ダブルルーメンカテーテル(クイントン氈jを内頚静脈,鎖骨下静脈,大腿静脈などから挿入する。

5.回路

 血液ポンプ,血漿廃棄用ポンプ,血漿補充用ポンプ,血漿分離フィルター,動静脈回路があればよい。

   設定  血液ポンプ…100 ml/min
       血漿廃棄用ポンプ…1.5 L/hr
       血漿補充用ポンプ…1.5 L/hr

   血漿補充はFFPを用いる。FFPは溶解後3時間以内に使用する。
   1回の血漿交換に40単位(3200ml)使用する。したがって,1回の血
   漿交換に要する時間は約2時間である。

6.PEの適応

 他の血液浄化法では除去不可能な分子量の大きな蛋白結合性物質やEndotoxin,免疫複合体等の比較的分子量の大きな物質の除去を目的としているので,急性肝不全,急性膵炎,Septic shock,自己免疫疾患などが適応となる。

7.PEの問題点

 FFPによる感染,FFP中の高濃度のNaやcitrateによる高Na血症やmetabolic alkalosis,高価な治療費(1回30万円)

8.CPE(continuous PE)+CHDF


血液吸着(hemoadsorption,HA)と血漿吸着(plasma adsorption,PA)

1.目的

 吸着療法(adsorption)は,吸着の原理を応用して体内,血中に存在する種々の病因物質を除去する方法で,その病因物質が吸着剤で吸着可能で,かつその物質を取り除くことで病気が改善する可能性がある疾患に対して施行する。

2.吸着療法の種類と原理

a.血液吸着(hemoadsorption,HA)

 現在,血液吸着で最も広く使われている吸着剤は活性炭である。活性炭の表面は発達した多孔性構造で,非常に大きな表面積(約1000m2/g)をもち,その表面にはカルボキシル基や水酸基等の活性点が存在し,様々な物質を吸着する。活性炭の分子量に対する吸着特性は,分子量 100以上10000以下の物質の吸着率が高く,透析では除去しにくい尿毒   素や蛋白結合性の高い薬物の除去に優れている。この活性炭をカラムに充填し,血液と接触させることで血液内の病因物質を除去する方法が血液吸着である。血液が活性炭に直接接触すると,赤血球が破壊されたり,白血球が刺激されて各種mediatorを放出したり,凝固系が亢進して血液凝固をおこすため,活性炭の表面をコーティングしているが,このコーティング剤の材質,厚みによって吸着性能が大きく左右される。

b.血漿吸着(plasma adsorption,PA)

 吸着の原理はHAと同じだが,血漿分離器を用いて血漿のみを吸着カラムに潅流させるので,赤血球の破壊,白血球の刺激,血液凝固などが少ない。

2.吸着剤

 HAとしては,活性炭の表面をヒドロキシメタクリレートでコーティングしたもの(DHP−1,クラレ)を薬物中毒に使用し,ポリスチレンとポリプロピレンの合成線維にポリミキシンBを固定した吸着剤(トレミキシン,東レ)をエンドトキシン血症に用いる。

 PAとしては,ノンコーティングの活性炭(プラソーバN-350,旭メディカル)を肝性昏睡に,トリプトファンをポリビニルアルコールゲルに固定したもの(イムソーバIM-TR350,旭メディカル)を重症筋無力症の治療などに使用している。他にも,免疫複合体を吸着する

 カラムは色々市販されている。

3.抗凝固剤

 活性炭は,メシル酸ナファモスタット(フサン)や低分子ヘパリンを吸着してしまうので,ヘパリンを用いる。イオン交換樹脂はヘパリンを吸着してしまうので,フサンを用いる。ヘパリンは1000〜2000単位/hr,フサンは40〜60mg/hrの速度で使用する。

4.Blood access

 ダブルルーメンカテーテル(クイントンR)を内頚静脈,鎖骨下静脈,大腿静脈などから挿入する。

5.回路

 HAでは血液ポンプ,動静脈回路,吸着カラムがあればよいが,PAでは,血液ポンプ,動静脈回路,吸着カラムに血漿分離ポンプ,血漿分離フィルターがいる。

   設定  血液ポンプ…100〜200 ml/min
       血漿分離ポンプ…30〜40 ml/min


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