越智の欧州旅行記(WADEM印象記)


 愛媛大学医学部救急医学の越智元郎です。1997年9月末に世界災害救急医学会(WADEM)出席のため、ドイツを訪れ、救急・災害医療、通信など、色々な面で視野を拡げることができました。以下に現地から救急医療メーリングリスト(eml)にお送りしたメールを収載し、私の経験をご紹介したいと思います。現地での写真も追ってご紹介する予定です。

 また、救急医療メーリングリストのメンバーやそれ以外の皆様で、今回の学会の印象記をお寄せいただければ大変有り難いと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。(なお本文中、学会でのご講演者につきましてはお名前を出させていただきましたので、ご了承下さい。)


目 次


 第1部 越智の欧州旅行記(WADEM印象記)

   970923. 欧州からの接続(eml 076)
   970923. 仏アルザス地方の救急1(eml 086)
   970925. 仏アルザス地方の救急2(eml 106)
   970925. WADEM印象記1(eml 107)
   970927. WADEM印象記2(eml 117)
   970927. WADEM印象記3(eml 118)
   970929. WADEM印象記4(eml 123)
   970929. WADEM印象記5(eml 122)

 第2部 特別寄稿

  971005. WADEM報告(川崎医大 奥村先生)

 第3部 わが国からの WADEM 発表(講演記録ならびに抄録集)


Date: Tue, 23 Sep 1997 00:46:22 +0900
Subject: [eml:00076] 欧州からの接続1

 おち@愛媛です。通信の話題です。  日本時間で9月22日(月)5時頃、フランスのストラスブールのホテル に到着しました。世界災害救急医学会 WADEM 開会前の、非公式の視察ツ アーに途中参加するためです。    インターネットへの接続はいくつかの試行錯誤の後、可能となりました。 1.パソコンの電源差込が合わない。私がドイツ用と考えて持っていった 差込の変換プラグはホテルの差込に合わず、焦りました。洗面室にシェー バー用の差込が、形態の違うものが2種類あり、そのうち1つが私の用意 したもので使えました。ツアーの参加者によると、前日止まったチューリ ッヒのホテルにも複数の形態の電源差込があったとのことでした。 2.ホテルの自室から、00081-で家に電話がつながりました。回線の種類 はどうかな? と思いながら、トーン信号の設定で愛媛大学にPPP接続 したらうまくゆきました。電話器の底面に差し込まれている電話線(先端 はモジュール型)を抜き、メスメスの接続を介して、モデムカードにつな いだものです。受け取ったメールは56通でした。  今から外出ですので、視察の印象記はまた後ほど。


Date: Tue, 23 Sep 1997 11:53:30 +0900 Subject: [eml:00086] 仏アルザス地方の救急

 おち@愛媛です。文中、聞き間違い、語学の未熟などによる誤りを含んで いるかも知れませんので、ご承知おき下さい。  世界災害救急医学会(WADEM)、開会前日の早朝です。本日はストラスブール の外傷センターを訪問します。昨日はこの地域の特徴を、様々な角度から勉 強することができました。当地はフランスの東端にあり、ナチス勃興後にド イツに割譲されるという、厳しい運命にさらされました。当地でもプレホス ピタルケアのシステムとしてはフランス特有の SAMU がありますが、同時に 外傷センターというドイツ式の救急医療施設が設けられています。そのこと も、独仏の狭間にあったアルザス地方の特徴を反映しているようです。  ストラスブールの中心には(パリの同名の寺院とは別の)ノートルダム寺 院のカテドラルがあります。7,8世紀前に建てられた同寺院の壁は、まばゆ いばかりの大ステンドグラスで彩られています。また宇宙の運行をそのまま 模写した、精巧な飾り時計があります。市内の中心はライン川の支流からの 水を引いた運河がめぐらされ、私共も観光ボートで1時間以上の船旅を楽し みました。運河からは、古くからの美しい建物群や建設中の EU の超近代施 設が眺望できました。午後は白ワインを中心とした、有名なワイン街道と呼 ばれる地方を訪ねました。広大なぶどう畑には数種類のぶどうが実り、酒蔵 には10月からの取り入れを控え、天井まで届く空の大樽の準備ができていま した。  表題とは違い、観光の方向に話が進みました。ここまでの私の収穫は、何 人かの emlメンバーとの交流を深め、さらに今後ぜひ参加していただきたい 災害救急医療の専門家の方々のご面識をいただいたことです。今回撮った写 真は、帰国後 webに収載して、皆様にも楽しんでいただく予定です。 それでは、皆様また。


Date: Thu, 25 Sep 1997 18:34:39 +0900 Subject: [eml:00106] FW: 越智さんからのメール その1 サポーターの田中です 越智さんからメールを転送します。 以下 −−−−−−−−−−−  おち@愛媛です。以下のメールは日本時間で24日12時ころに書いたもので す。下記の学会会場の端末から ftpで、 http://hypnos.m.ehime-u.ac.jp/ml/97/ochi924.txt でアクセスできるよう ファイルを送信しました。文字化けの心配があり、サポーターの田中さんの ご助力をいただき、 eml へ送信していただきます。田中さん有難うございま した。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 題名:仏アルザス地方の救急2(長文)                          ●写真のペ−ジへ    おち@愛媛です。文中、聞き間違い、語学の未熟などによる誤りを含んで いるかも知れませんので、ご承知おき下さい。  昨日はストラスブールの外傷センターを訪問しました。初めに所長の Dr. Taglang氏から、フランスの救急医療システムを含め、同センターについて 詳しい説明がありました。 ・アルザスは仏独の狭間で、何度となく所属国が変わった。ちなみに所長の 祖父ではプロシャからはじまって5回国籍が変わった。アルザスに接するド イツの西部地方とは密接な関係がある。同センターは1950年代に結ばれたド イツの健康保険組織との協定により、ドイツの救急患者を自国の他地域の救 急患者と分け隔てなく受け入れている。 ・ドイツには十数施設の外傷センターがあるが、フランスはこの施設ただひ とつだけ。ドイツの外傷医が外傷治療を専門とした一般外科医であるのに対 し、フランスの外傷医は外傷治療を専門とした整形外科医という位置づけ。 必要に応じて開頭手術などを行うこともあり、一方脳神経外科、形成外科な どのバックアップを受けることができる。同センターにおいては、外傷外科 グループの責任者が治療法の選択やその流れについて、最終責任を負う形と なっている。 ・同センターを中心に外傷外科医の国際的な団結をはかることを提唱し、AIOD という組織をつくっている。http://www.aiod.asso.fr 参照。Taglang所長と も電子メールで連絡が取れる。 ・同センターへの患者受け入れは SAMU という国家的な救急医療システムの 指示による。私的医療機関も SAMU に組み込まれている。法律で、どのよう な医療施設も SAMU の指示に従うべきことが決められており、きわめて統制 が取れている。同センター外来にも、 SAMU からの電話を受ける専任のオペ レーターが常時勤務。 ・SAMU の地方組織は全国で80位ある。一般市民からの傷病者発生の通報は 12時間勤務の通信担当"医師"が受け、電話で聴取した病状から判断して、必 要なレベルの救急医療グループを派遣。最重症の患者では医師、パラメディ ック、看護婦などを含むグループを派遣。同センターに収容される外傷患者 でも、気管内挿管、輸液などの抗ショック治療、胸腔チュ−ブ挿入をはじめ とする初期の外傷治療は、プレホスピタルレベルですべて施行されている。 SAMU で働く医師の大部分は、大学の麻酔学教室から派遣された麻酔科医。 ・市民から SAMU への通報(ダイアル15)は常に、警察と消防の通信担当者 によって同時に聴き取られ、かれらの判断で警察、消防隊も同時に派遣され る。 ・ヘリコプターは1機が約80km x 80km の地域をカバーするのを目安に配備。 救急ヘリの数は全国で 100機以上。同センター正面の庭にもヘリポートがあ るが、その着陸指定エリアが狭いのに驚く。災害時などに備え、ヘリポート のみならず乗員、資機材などの降下エリアも市内の各所に指定されている。 ・SAMU 組織に要する費用は市民1人あたり約10フラン(200円位)。費用効 果費の面でも成功しているという。 ・公務員としての消防の人員は全国で9000人くらい。加えて全国で約20万人 のボランティアの消防組織があり、活発に活動。 ・脳死患者からの臓器摘出は法律で許可。脳死判定には3回?の脳波フラッ トによる。同センター(250床)の提供患者数は年6、7人。外傷外科医から提 供を依頼することはない。家族から提供の申し出があればICU担当医(麻 酔科医)の差配で摘出の流れとなる。 ・脳死患者で心臓死を待たずに人工呼吸器をはずすことが法律で許されてい る。同センターでは家族の受容の程度により臨機応変に決めており、心臓死 まで待つこともある。救急患者収容ベットが足りない時は家族に説明し、脳 死段階で人工呼吸器をはずすことも。  フランスの外傷センターについてはまだお伝えしたいことがありますが、 今回はここまでにさせていただきます。長文失礼しました。


Date: Thu, 25 Sep 1997 18:35:24 +0900 Subject: [eml:00107] FW: 越智さんからのメール その2 −−−−−−−−−−−− 題名:WADEM印象記1 日時 9月25日午前5時(日本時間12時)  おち@愛媛です。世界災害救急医学会(WADEM)の印象記です。文中、語学の 未熟などによる誤りを含んでいましたらご容赦下さい。  昨日はドイツのマインツ市において、WADEM第10回大会が開会された。マイ ンツはフランクフルトの南西にある人口18万人くらいで、活版印刷を発明し たグーテンベルグの生地。20年前、心肺蘇生法の父と呼ばれるピッツバーグ 大学、Peter Safarやマインツ大学の故 R Frey教授らによって Club of Mainz として開催された会が、同じマインツの地で記念大会を迎えた。  初日である昨日は、まず6つのワークショップが同時進行でスタート。私 は How can reasearch be done in disaster? というワークショップに参加。 WADEMの機関誌である Prehospital and Disaster Medicineの責任者である Birnbaum とWADEM事務局の Pretto が講演と司会。2人とも早口で聞き取れ にくかった。B氏は災害医学はある意味で social medicine であり、再現性 のある研究や統計処理には困難な面もあるが、double blind prospective study というような理想的な研究方法にこだわらずに、研究手法を工夫し有 用な結果を導き出せ、といった趣旨。  P氏はトルコ地震、北海道南西沖地震などの自身の研究の経験を紹介しな がら、災害医学の研究方法を体系的に説明。被災者からの被災情報聴取のス テップは被災者の感情の解放(debriefing)にもなる、被災国の研究者と共 同研究グループを組織するのが成功の鍵と。私も勇気を出して2点質問(し どろもどろでした)。P氏が研究の資料として上げた situation reportsや 被災政府(や自治体)の発表資料は、情報が十分に公開されていないことが 多いのでは? 被災政府などの調査研究と国外からの研究グループの調査が 競合することがあるのではないか?  夕方からの開会レセプションで印象に残ったのは、名誉会長であるSafarに よる故 Frey教授の追悼講演。旧友に対する友情と敬意が随所に感じられる。 また災害医学の重要な1分野である war medicine(戦陣医学)を piece medicineとして展開して行ってほしいと、今も世界中で続いている紛争(人 的災害の最たるもの)に対する懸念を表明。Safarの人道的視野にあらためて 感動。最後にWADEMの最近の動きや今後の展望についてまとめた中で、「ochi, Japanらによるwebや e-mail systemの導入」と私の活動についても触れてい ただき、感激。同じくWADEMのいくつかの task forceへの貢献者として、eml メンバーであるKさん、Wさんのお名前も上がった。  最後の懇親会ではOさん、Sさんをはじめ日本からの参加者( eml メンバーも多数)とも懇談。またハワイの Burcle氏(以前 eml でも取り上 げられた災害医学のテキスト「大災害と救急医療」の著者)をなど、災害医 学の世界の big namesにもご挨拶をする機会を得た。 以上、長文にて失礼いたしました。それでは皆様、また。


Date: Sat, 27 Sep 1997 18:18:38 +0900 Subject: [eml:00117] 越智さんから手紙その3 −−−−−−−−以下−−−−−−− 題名:WADEM印象記2 日時 9月27日午前3時(日本時間10時)  学会第2日、翌日の発表を控え、落ち着かない。学会会場は Mainz 大学のホールや講義室を用いており、大きな会場を用いる日本の国際 会議とは大分違ったおもむき。スライドの受け渡しの方法や会場につ いての説明も少なく、とまどうことが多い。全体に "節約学会" と言 える。経済事情の悪いドイツの国情を反映? ただ大学は北大もびっ くりという広大な敷地にあり、驚く。    朝、Mainz大学のホームページ担当者に会い、彼らの WADEM97 の ホームページのミラーを私共のサーバー(愛媛大Pittsburgh大)に 置き、永久的に保存することについて了承を得る。  会場には会員が使用できるネットワーク端末(DOS/V 機)が3台置 かれている。英語のメール授受で済む人はネットスケープなどのメー ラーで、自分宛のメールを自国のサーバーから取り出している様子。 私は telnet で愛媛大学のサーバーに入り、田中盛重さん宛にメール (ローマ字)とテキストファイル(日本語)を送る。ラップトップと ネットワーク・カードがあれば、普段と変わらぬ環境でメールの送受 信ができたのにと悔やむ。  午前中の preliminary session の一つ、Types and events of disasters: what has changed over the last 20 years を聴く。概 して総花的。これらは個人的に注文したオーデイオテープ 24 本にも 納められる予定で、希望者には個人的にお貸しできる。この中で大阪 市立総合医療センター 鵜飼先生の講演(題:Environmental Disaster)は非常によくまとめられており、聴衆の反応も1番であっ  た。  それでは皆様、また。


Date: Sat, 27 Sep 1997 18:19:42 +0900 Subject: [eml:00118] 越智さんからの手紙その4 −−−−−転載−−−−−−− 題名:WADEM印象記3 日時 9月27日午前4時(日本時間11時)  おち@愛媛です。世界災害救急医学会の3日目の印象記です。  いよいよ発表日。日本から多数の scientific paper の発表があるが、ほとん ど本日11時から同時進行で組まれている。愛媛大からの2つの発表もこの時間。 scientific paper の抄録は当日配布された機関誌「Prehospital and Disaster Medicine (PDM)」vol.12, No.3 suppl に収録されている。各国への送付は後日か?  まず白川教授の Information disorder in hospitals during Tokyo sarin attack on 1995 を代理で発表。化学災害直後の情報伝達のあり方について、地下 鉄サリン事件の実態の報告と問題提起。同じセッションのドイツからの報告 (Paschen HR, et. Al, PDM s25)が一つの解答となろう。  これによると化学災害時のハンブルグ市 EMS の体制は、化学災害が疑われる情 報が入れば(化学災害用の特別仕様でない)通常の高規格救急車に、あらかじめ用 意された化学災害用機器セットを積み込み出動。このセットを用いて現場で mass spectrometry, gaschromatography を行い、コンピュ−タに入れたデータベ ースを用い毒物を同定。また研究室にいる technical adviser が電話などで指示、 助言。医療機関への情報提供は、現場 → ems →救急医療機関 のかたち。  私が1995年に視察に行ったPittsburgh市 EMSでは、化学災害専用の救急車を 1台用意しており、専任のパラメディック2人が乗って出動する体制。データ検索 のためのコンピュ−タや(コンピュ−タ)通信の機器も搭載。ただし現場で薬物分 析を行うかどうかは聞き漏らした(そのような事が可能と、思ってもみなかった)。  同じセッションで、 eml メンバーである川崎医科大 奥村さんのThe Tokyo subway sarin attack from the disaster control view point (PDM s24)、同じく 千里救命救急センター 塩野さんの Blood purification therapy for crush syndrome: an analysis of 50 cases caused by the Great Hanshin Earthquake (PDM s26)の2つのご発表も。この2つのご演題と私の An introduction to the Global Health Disaster Network (PDM s27)の発表の様子については稿を改めてご 紹介したいと思います。 長文失礼しました。それでは皆様、また。


Date: Mon, 29 Sep 1997 02:16:08 +0900 Subject: [eml:00123] WADEM印象記4  おち@愛媛です。世界災害救急医学会の3日目 (9/26)の続きです。  川崎医科大 奥村さんの演題。ずば抜けて多数のサリン患者(600人以上) を収容した聖路加国際病院の経験から様々な問題点を指摘。救急救命士に限 られた処置しか許されておらず、またその施行に医師の指示を要することは、 災害時のプレホスピタルケアを施行するには重い足かせ。聖路加のみならず 多くの医療施設で患者収容時の毒物除去(decontamination)の場所、手段 が準備されていない。サリン被爆から医療機関へ収容するまでの時間につい てもフロアから質問(演者の答えは30分以上)、特に重篤な患者が搬送され ずに地下鉄出口などで長く救急車の到着を待った例があったことなどは、当 時の災害に備える態勢が不備であったことを思い起こさせる(今は改善され たでしょうか?)。出席者の強い関心を引いた演題。  千里救命救急センター 塩野さんは大阪の第3次救急医療施設で血液浄化 法を用いて治療をされた挫滅症候群50例についてまとめた。まず症例数の多 さが圧倒的。creatine kinase (CK)のピーク値が腎不全への移行と関連。 腎不全なし(平均 28,000 IU)<非乏尿性腎不全で透析(平均 87,000 IU) <乏尿性腎不全(平均 144,000 IU)。座長(ポーランドの集中治療医)も 大変興味を持ったようでした。  私の演題はThe Global Health Disaster Network(GHDNet)の紹介。1足 先に日本集団災害研究会誌(vol.2, 1997)に掲載されたのでご参照下さい。 その他のセッションでしかも通信関連の話題は一つだけなのに、私の演題を 目当てに聞きに来て下さった方がおられ感激。WHO, PAHOのメンバーがお1人 ずつと、モスクワの外傷センターの情報通信部門の責任者。最終日のシンポ ジウム、Alarm and communication - data transfer でも感じたが、災害情 報通信ネットワークを模索している人が少数だが確かに居られる。今後すこ しずつ(地球的な拡がりで)手がつながってゆくのではないかと思う。  私が参加した一般演題のセッションの印象は、データが豊富で論議も活発、 むしろシンポジウムなどよりも中身が濃いと思いました。しかし大学の講義 室での発表、マイクなし、明るくてスライドも見えにくい、1会場の聴衆15,6 人と、何となく「場末・・」という感じもしました。国際学会での発表のよ い肝試しになったことは事実です。奥村さん、塩野さん、ご苦労様でした。 他の部屋の様子は如何でしたでしょう?


Date: Mon, 29 Sep 1997 02:15:06 +0900 Subject: [eml:00122] WADEM印象記5  おち@愛媛です。ドイツ時間 9/28, 午前7時。このメールを書いたあと、 ホテルを出て日本への帰路に立ちます(マインツ→ミュンヘン→関空)。  世界災害救急医学会4日目 (最終日、9/27)の話題です。  シンポジウム Alarm and communication - data に参加。やはり発災後の 情報収集や被災地からの発信、指令の伝達法などの問題が取り上げられた。 コンピュ−タ通信を高く評価する人がいる一方、患者情報の security の問 題、コンピュ−タ操作への慣れなどの問題が上げられた。日本医科大 山本 教授は厚生省 - NTTデータ通信 - 国立病院災害医療センターを中心とし た、日本の国家的な災害情報システムの構想について説明。予算の問題など で、この計画が必ずしも順調に進んでいないことも示唆された。  驚いたことに France および Sweden からの演者が、それぞれ Pittsburgh 大学疫学グループの The Global Health Network(GHNet)について触れた。 私は GHNetの災害部門を担当して、GHDNetを提唱していることを説明。しか し現時点では始まったばかりで、国際的なネットワークには成長していない と断らざるを得なかった。一方、WADEMは世界の災害医療担当者のネットワ ークの受け皿になるのにふさわしい場であり、WADEMへのインターネット導 入を提唱している私は、その意味でも頑張らないといけないと思った。  WADEM第11回大会は1999年5月に大阪で開催される(会長 千里救命救急セ ンター 大田先生)。それに先立ち、1998年には札幌でアジア地区の災害救 急医学会も予定されており、日本の災害救急医学の専門の皆様には大変忙し い2年間なりそうです。 それでは皆様、また。
Subject: [eml:00202] WADEM報告(長文) 川崎医大の奥村です。 WADEMに関して遅ればせながら、ご報告したいと思 います。帰途、ロンドンで仕事が入っており、遅れて しまいました。学会中、越智先生をはじめ、日本から 参加された皆様方には色々とお世話になりました。 有難うございました。 学会会場は、ヨハネス=グーテンベルグ大学キャンパス。 これがまた、学究的な雰囲気に満ちていて、ホテルを 会場とした学会とは趣を異にしており、実にすがすが しい学会でした。何かと、不案内な気もしましたが、 日頃、案内の洪水に囲まれている日本人ならでは の感想かもしれません。Chief Emergency Physician Course というのが、行われており、事前にはっきりとした募集 がなかったものの、なぜだか既に定員に達しており、 参加できなくて残念でした。Chief Emergency Physician Course では、野外のトリアージ訓練や、ルフトハンザ の緊急避難訓練など、おもしろそうなプログラムが 満載だったのですが、、、 最も印象的だったのが、呼吸管理のlectureでした。 テロ多発地帯として有名な、battle zoneである北アイル ランド、ベルファストの医師、McCoy 先生御考案の McCoy 喉頭鏡の、考案者自らによる発表は最高でした。 以前、私も使用した経験があるのですが、旧来の Macintish 喉頭鏡との比較を臨床データを踏まえて 発表されてました。 長所として、 1.手技がより簡単。 2.高い挿管成功率。 3.少ない力で挿管できる 4.頚椎を動かすことが少ない。 5.vital(血圧、脈拍)にも影響を及ぼしにくい。 6.挿管時、血中のカテコラミンも上げにくい。 と、全く、よくできた器具です。 もはや、中公文庫の「麻酔と蘇生」という、本で 明らかにされ、マスコミでも報道されているので、 公然となっていることなのですが、かの力道山が 亡くなったのは、手術時、挿管困難例であったこと が原因のひとつであったといわれています。こうした 器具が世に広まり、以前であれば救えなかった患者 さんが、無事に救命できることは、素晴しいことだと 思います。 それでも、問題が無い訳ではありません。まず、 価格が高額であること。まあ、これは、今後より 大量に生産されれば、解決される問題ではあります。 次には、研修の初期から、McCoy 喉頭鏡に慣れすぎて いると、現在、世の中にでまわっている喉頭鏡の大部分 を占めるMacintish 喉頭鏡で挿管できなくなってしまう のでは、ということです。その他にも問題があるよう でしたら、特に麻酔科の先生方にMcCoy 喉頭鏡の 使用経験のご感想をお寄せください。 いづれにしましても、医者として、自分の考案した、 よりよい器具が世間に認知され、より多い患者さん の役に立てるというのは、ひとつの夢でもあります。 また、同じセッションで、ラリンゲアルマスクに そのまま挿入して、挿管できる器具も別の演者が 発表していましたが、これも有用だと思います。 現在のところ、救命救急士の気道確保は、ラリンゲ アルマスクか、コンビチューブか、ということに なりますが、こんなところから、気管内挿管への道 が開けるかもしれません。 化学災害に関しても、野外における Decontamination の専用車も展示してあり、なにかと、 勉強になりました。 以上、皆様のご意見をお待ちしております。

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