Date: Mon, 29 Sep 1997 02:16:08 +0900
Subject: [eml:00123] WADEM印象記4
おち@愛媛です。世界災害救急医学会の3日目 (9/26)の続きです。
川崎医科大 奥村さんの演題。ずば抜けて多数のサリン患者(600人以上)
を収容した聖路加国際病院の経験から様々な問題点を指摘。救急救命士に限
られた処置しか許されておらず、またその施行に医師の指示を要することは、
災害時のプレホスピタルケアを施行するには重い足かせ。聖路加のみならず
多くの医療施設で患者収容時の毒物除去(decontamination)の場所、手段
が準備されていない。サリン被爆から医療機関へ収容するまでの時間につい
てもフロアから質問(演者の答えは30分以上)、特に重篤な患者が搬送され
ずに地下鉄出口などで長く救急車の到着を待った例があったことなどは、当
時の災害に備える態勢が不備であったことを思い起こさせる(今は改善され
たでしょうか?)。出席者の強い関心を引いた演題。
千里救命救急センター 塩野さんは大阪の第3次救急医療施設で血液浄化
法を用いて治療をされた挫滅症候群50例についてまとめた。まず症例数の多
さが圧倒的。creatine kinase (CK)のピーク値が腎不全への移行と関連。
腎不全なし(平均 28,000 IU)<非乏尿性腎不全で透析(平均 87,000 IU)
<乏尿性腎不全(平均 144,000 IU)。座長(ポーランドの集中治療医)も
大変興味を持ったようでした。
私の演題はThe Global Health Disaster Network(GHDNet)の紹介。1足
先に日本集団災害研究会誌(vol.2, 1997)に掲載されたのでご参照下さい。
その他のセッションでしかも通信関連の話題は一つだけなのに、私の演題を
目当てに聞きに来て下さった方がおられ感激。WHO, PAHOのメンバーがお1人
ずつと、モスクワの外傷センターの情報通信部門の責任者。最終日のシンポ
ジウム、Alarm and communication - data transfer でも感じたが、災害情
報通信ネットワークを模索している人が少数だが確かに居られる。今後すこ
しずつ(地球的な拡がりで)手がつながってゆくのではないかと思う。
私が参加した一般演題のセッションの印象は、データが豊富で論議も活発、
むしろシンポジウムなどよりも中身が濃いと思いました。しかし大学の講義
室での発表、マイクなし、明るくてスライドも見えにくい、1会場の聴衆15,6
人と、何となく「場末・・」という感じもしました。国際学会での発表のよ
い肝試しになったことは事実です。奥村さん、塩野さん、ご苦労様でした。
他の部屋の様子は如何でしたでしょう?
Date: Mon, 29 Sep 1997 02:15:06 +0900
Subject: [eml:00122] WADEM印象記5
おち@愛媛です。ドイツ時間 9/28, 午前7時。このメールを書いたあと、
ホテルを出て日本への帰路に立ちます(マインツ→ミュンヘン→関空)。
世界災害救急医学会4日目 (最終日、9/27)の話題です。
シンポジウム Alarm and communication - data に参加。やはり発災後の
情報収集や被災地からの発信、指令の伝達法などの問題が取り上げられた。
コンピュ−タ通信を高く評価する人がいる一方、患者情報の security の問
題、コンピュ−タ操作への慣れなどの問題が上げられた。日本医科大 山本
教授は厚生省 - NTTデータ通信 - 国立病院災害医療センターを中心とし
た、日本の国家的な災害情報システムの構想について説明。予算の問題など
で、この計画が必ずしも順調に進んでいないことも示唆された。
驚いたことに France および Sweden からの演者が、それぞれ Pittsburgh
大学疫学グループの The Global Health Network(GHNet)について触れた。
私は GHNetの災害部門を担当して、GHDNetを提唱していることを説明。しか
し現時点では始まったばかりで、国際的なネットワークには成長していない
と断らざるを得なかった。一方、WADEMは世界の災害医療担当者のネットワ
ークの受け皿になるのにふさわしい場であり、WADEMへのインターネット導
入を提唱している私は、その意味でも頑張らないといけないと思った。
WADEM第11回大会は1999年5月に大阪で開催される(会長 千里救命救急セ
ンター 大田先生)。それに先立ち、1998年には札幌でアジア地区の災害救
急医学会も予定されており、日本の災害救急医学の専門の皆様には大変忙し
い2年間なりそうです。
それでは皆様、また。
Subject: [eml:00202] WADEM報告(長文)
川崎医大の奥村です。
WADEMに関して遅ればせながら、ご報告したいと思
います。帰途、ロンドンで仕事が入っており、遅れて
しまいました。学会中、越智先生をはじめ、日本から
参加された皆様方には色々とお世話になりました。
有難うございました。
学会会場は、ヨハネス=グーテンベルグ大学キャンパス。
これがまた、学究的な雰囲気に満ちていて、ホテルを
会場とした学会とは趣を異にしており、実にすがすが
しい学会でした。何かと、不案内な気もしましたが、
日頃、案内の洪水に囲まれている日本人ならでは
の感想かもしれません。Chief Emergency Physician Course
というのが、行われており、事前にはっきりとした募集
がなかったものの、なぜだか既に定員に達しており、
参加できなくて残念でした。Chief Emergency Physician
Course では、野外のトリアージ訓練や、ルフトハンザ
の緊急避難訓練など、おもしろそうなプログラムが
満載だったのですが、、、
最も印象的だったのが、呼吸管理のlectureでした。
テロ多発地帯として有名な、battle zoneである北アイル
ランド、ベルファストの医師、McCoy 先生御考案の
McCoy 喉頭鏡の、考案者自らによる発表は最高でした。
以前、私も使用した経験があるのですが、旧来の
Macintish 喉頭鏡との比較を臨床データを踏まえて
発表されてました。
長所として、
1.手技がより簡単。
2.高い挿管成功率。
3.少ない力で挿管できる
4.頚椎を動かすことが少ない。
5.vital(血圧、脈拍)にも影響を及ぼしにくい。
6.挿管時、血中のカテコラミンも上げにくい。
と、全く、よくできた器具です。
もはや、中公文庫の「麻酔と蘇生」という、本で
明らかにされ、マスコミでも報道されているので、
公然となっていることなのですが、かの力道山が
亡くなったのは、手術時、挿管困難例であったこと
が原因のひとつであったといわれています。こうした
器具が世に広まり、以前であれば救えなかった患者
さんが、無事に救命できることは、素晴しいことだと
思います。
それでも、問題が無い訳ではありません。まず、
価格が高額であること。まあ、これは、今後より
大量に生産されれば、解決される問題ではあります。
次には、研修の初期から、McCoy 喉頭鏡に慣れすぎて
いると、現在、世の中にでまわっている喉頭鏡の大部分
を占めるMacintish 喉頭鏡で挿管できなくなってしまう
のでは、ということです。その他にも問題があるよう
でしたら、特に麻酔科の先生方にMcCoy 喉頭鏡の
使用経験のご感想をお寄せください。
いづれにしましても、医者として、自分の考案した、
よりよい器具が世間に認知され、より多い患者さん
の役に立てるというのは、ひとつの夢でもあります。
また、同じセッションで、ラリンゲアルマスクに
そのまま挿入して、挿管できる器具も別の演者が
発表していましたが、これも有用だと思います。
現在のところ、救命救急士の気道確保は、ラリンゲ
アルマスクか、コンビチューブか、ということに
なりますが、こんなところから、気管内挿管への道
が開けるかもしれません。
化学災害に関しても、野外における
Decontamination の専用車も展示してあり、なにかと、
勉強になりました。
以上、皆様のご意見をお待ちしております。