歯科医師の指示による特定行為は認められるか

―救急救命法律講座(回答/厚生省健康政策局指導課)―

救急医療ジャーナル 第5巻第3号 p.52, 1997


目次
質問 回答 参考


質問

 救急救命士が電気的除細動などの特定3項目を行うに当たり、「医師の具体的な指示」が必要ですが、この指示は歯科医師から得た場合でも有効でしょうか。歯科治療の一連の経過のうちに生じた心停止(あるいは心室細動)の場合と、歯科治療とは直接関係のない発病や受傷による心停止、心室細動の現場に歯科医師が居合わせた場合の二つに分けて、こ教授いただければ幸いに存じます。

 また、仮に歯科医師の指示による処置が規定上合法でないとして、緊急避難的に歯科医師の指示で救急救命士がこれらの処置を施行することは、許されないでしょうか。

(愛媛大学医学部救急医学・越智元郎)


回答

 救急救命士は救急救命士法により、「医師」の指示の下に救急救命処置を行うことを業とする者とされています。したがって、救急救命士が「医師」の指示なしに救急救命処置を行うことはできません。わが国の法令上、「診療の補助」は看護婦等の独占業務とされていますが、救急救命士は、その独占業務の一部を解除し、「医師」の指示の下で、「診療の補助」として救急救命処置を行うことができ、とくに「医師」の具体的な指示を受けた場合には、半白動式除細動器を用いた除細動、乳酸加リンゲル液を用いた静脈路の確保のための輸液ならびに食道閉鎖式エアウェイまたはラリンゲアルマスクによる気道確保の3つの処置を行うことができるとされています。

 ご質間のありました歯科医師が行う歯科治療の一連の経過のうちに生じた心停止等の患者を医療機関に搬送する際に、救急救命士が除細動等の処置を行う場含でも、「医師」の指示が不可欠であり、これは歯科治療と直接関連のない場合と同様です。

 なお、緊急避難的な場合の取り扱いについては、救急救命士が独白に当該患者に対して除細動等の処置を行ったとしても、緊急避難として逮法性が阻却される場合も考えられるため、個別具体的なケースの状況に照らして判断されるべきものです。


〈参考〉

医師法第17条

第17条  医師でなければ、医業をなしてはならない。

歯科医師法第17条

第18条  歯科医師でなければ、歯科医業をなしてはならない。

保健婦助産婦看護婦法第5条、第31条第1項

第5条 この法律において、「看護婦」とは、厚生大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助をなすことを業とする女子をいう。

第31条  看護婦でなければ、第5条に規定する業をしてはならない。但し、医師法又は歯科医師法(昭和22年法律第202号)の規定に基いてなす場合は、この限りでない。

救急救命士法第2条第2項、第43条第1項、第44条

第二条

2  この法律で「救急救命士」とは、厚生大臣の免許を受けて、救急救命士の名称を用いて、医師の指示の下に、救急救命処置を行うことを業とする者をいう。

第43条  救急救命士は、保健婦助産婦看護婦法(昭和23年法律第202号)第31条第1項及び第32条の規定にかかわらず、診療の補助として救急救命処置を行うことを業とすることができる。

第44条  救急救命士は、医師の具体的な指示を受けなければ、厚生省令で定める救急救命処置を行ってはならない。

2 救急救命士は、救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのものであって厚生省令で定めるもの(以下この項及び第52条第3号において「救急用自動車等」という。)以外の場所においてその業務を行ってはならない。ただし、病院又は診療所への搬送のため重度傷病者を救急用自動車等に乗せるまでの間において救急救命処置を行うことが必要と認められる場合は、この限りでない。


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